135 / 202
125. 初陣
しおりを挟む
「ラウ城までどれ位かな?」
『この速度で飛べば、二十分後には到着する』
「二十分…そこまで遠くない? いや、でも結構スピードは出てるのか…」
夜も完全に明け、眼前に見えるのは青一色の空、眼下には遥か雲の隙間から赤茶けた荒野が広がっているのが確認出来る。 そう、今私は飛んでいる…刻印の儀を得て戦鳥との契約を終え、己の手に入れた翼で飛んでいるのだ。
「気持ちいいなぁ…これが、空を飛ぶって感覚なんだね」
『気に入って貰えて何よりだ』
大翼に乗せて貰い飛んだことはあるのだが、それとは明らかに違うこの感覚…速度も相まっての事であろうが、戦鳥を身にまとっているので体には何の負担も無いし、何より想像していた息苦しさも圧迫感も無い。
体にフィットして馴染んでいるのだが、採寸もしていないのに本当に不思議なものだと思ってしまう。 だが、それはともかく…。
「ただ飛んでるだけじゃね…ねえ、もう少し高度を下げてもいいかな?」
『構わないが、速度を落とす事になる。 飛んでいるのは我々だけでは無いからね』
「そっか…まあ少しくらいの間だったらいいかな…」
『では地上二百メートル程度の高さで飛ぶとしよう』
「ねえ、それってこちらの単位で換算しているの?」
『いや、キミの使い慣れている単位さ』
「そっか…今は無理でも、ゆくゆくはこちらの単位に慣れたいなぁ」
『そうなのかい?』
「うん…」
想いの翼との会話も問題無いとして、この頭の中に声が響いてくる感じがまた何とも言えない。 皆こうやって翼とやり取りをして戦いをこなしている、そしてそれは…。
(直に私も…)
そんな事を考えている内にも高度は徐々に下がり、速度も緩やかに減速して行く。 いつの間にか針葉樹の森へと景色が変わっているのだが、もしかしてここはかつて一夜を過ごしたあの宿のある森なのだろうか。
「ジェラさんや聖獣の皆、元気にしているのかな…私が翼を得た事を告げたいけれど…」
『いずれ、全てが終わった後に…』
「うん…」
高度も速度も十分に落とし切ったのだろう、あの速さに慣れてしまえば物足りなさを覚えてしまうが、こうやってゆっくり飛ぶのも悪くは無いと思う。
「ちょっとアクロバティックに飛んでみようかな?」
『色々と試してみた方がいい』
その言葉を受けて身を左に傾けるとくるりと左に回転する事が出来た。 右に傾ければまた回転して直る事が出来るのだが、続けて回転し錐もみ飛行を試みると…。
「…目が回る」
『余り無理をしないように…』
ゆっくりやったつもりだが、まだまだ加減は練習しないとダメなようだ。 他にも上空への旋回など思いつく限りの飛行方法を行っていると、周囲に変化がある。
『飛行体を多数確認…翼竜の群れがこちらに向かってくる』
「え! もしかして通り道だったかな? 急いでどかなきゃ…」
『いや、もう少し様子を見よう』
「ええ~」
『離脱する事はいつでも出来る』
確かにそれもそうかと思い直し様子を伺いながら飛んでいると、四方から飛んできた翼竜にたちまち囲まれてしまう。 余り気持ちの良い物では無かったが、翼竜たちは襲撃してくる訳でも無く寧ろ、一緒に飛んでくれているようなそんな感覚に陥ってしまうのだが…。
『我々を祝福してくれているようだね』
「え~、そっかな?」
私が翼を得る事はこの世界に生きる者の総意だと言われた。 だとするならばこれも納得は出来ると思った時、ひと際巨大な翼竜が私の下に滑り込んできた。
「わっ、大きい…そうだ」
ゆっくりと近づいてそっとその背に手を触れてみると、翼竜は嫌がるわけでも無く特に気にしない様子で飛び続ける。
「思ったよりも柔らかい…意外かも」
直に触っている訳でも無いのに、その感触が伝わって来るのも何とも不思議な感じだが、このように翼竜と戯れて飛んでいる時間にもやがて終わりの時が来てしまう。
「あれ? 皆離れて行く」
『森が終わる』
「ああ、そっか…ここでお別れだね」
いつの間にか眼前には荒野が広がっているので、棲息圏たる森に留まるのだろう。 楽しい時間だったとは言え、時間をロスしてしまったのだから、ここで取り返さなといけない。
「道草食っちゃったね、急ごうか!」
『了解!』
急激に高度と速度が上がるがそこまで慌てる事は無い、雲を突き抜けると更に速度を上げて一路ラウ城を目指す。
『見えて来たな…』
「うん…」
まだ距離があるのだが、モニターに映し出された城を拡大すると改めてその荘厳さに感心してしまう。 だが、見とれてばかりもいられない、速度を落として着地する必要があるのだから、いずれかの塔のバルコニーに降りるかを決めなければならないのだが、突如として警告音が鳴り響く。
「どうしたの?」
『飛行体がこちらに接近中、これは…』
「背中がうずくこの感じ…刻印を持つ者同士は共鳴し合うから…」
『私が初めて接触する同胞、となるのかな?』
「うん、何となく誰か分かる、これは…ノーマ。 城に戻って来たんだ、転移装置を利用して?」
『接触まで三十秒』
緊張が走るのだが、流石にいきなり攻撃はされないと思う…事実、視認出来るほど近づいても攻撃する素振りは無い、しかし雷砲を携えているのも確認出来るので、事と次第によっては一戦交える覚悟もしなければならないだろう。
ある程度接近すると向こうは静止するのでこちらも滞空する、距離としては三十メートルほどだろうか…。
『通信が入っているので繋げる』
「うん…」
「どうやら無事契約出来たようだな…しかし、急に飛び出して行くとは…」
「戻って来てたんだ…まだ力の調整が利かないの、ごめんなさい」
「まあいいさ、最初はそんなものだ。 しかし…これからどうする? てっきり戻って来ない物だと思っていたが」
「取り敢えずは、翼を得られた事を報告しに行って来る…でもね、私は…真王国に就くつもりは無いの」
「まあ、そうだろうな…ならば、敵だ」
ノーマは雷砲をこちらに突き付ける…味方で無ければ敵、そう思われても仕方が無いだろうが…。
「待って、正王国に就くつもりも無いわ…私は、人の争いには加わらない」
「中立だとでも言うのか? …そんな綺麗ごとが通じるものか!」
「私は……戦争を止める」
「戦争を止める? ハッ…どうやって止めると言うんだ! 答えろ!!」
雷は今にも放たれそうだ…が、話は止めない。
「この翼は想いの翼…私の願いを叶えてくれるこの翼で、戦争を止めてみせる」
「下らん! そんなもので今更止められるか!!」
「そう思われても仕方ないよね…でもいつか、知らしめる時が来ると思う」
「そんな時は来ない、いまここで…!」
「…また会いましょう、ノーマ」
「なっ! 速い!!」
『何と! あのような加速が可能なのか…』
先ほどまで滞空していたと思っていたが、立ちどころ姿が見えなくなるので後方を向くと、遠ざかって行く姿が確認出来る。 その姿はあっという間に見えなくなるのだが、大翼や不死鳥とも違うあの動きにはただ、目を見張るしかない。
『あれが我らの同胞の動き…想いの翼と言っていたが』
「驚異的な性能、侮れないな…」
『しかし、我らとは争わぬとも…』
「……」
戦わずして戦争を止めると言う、宿命の子の真意は果たしてどこにあるのだろうか…。
「あっ、あれ…誰かいる」
ひと際高く巨大な塔の頂上付近にあるバルコニーに多数の人が確認出来る、拡大してみれば詳細が分かるのだが、多数の兵がひしめき合っており、その中心にいる人物はこの国の王、聖獣、そしてもう一人の戦鳥の戦士だ。
「…あそこに降りよう」
『了解』
バルコニーの先端にゆっくりと降りると、久々の地面の感覚が装甲越しに伝わって来る…この感覚を嚙み締めている内も兵たちは警戒しているが、やがては海を割るように兵たちの間から現れる人物がある。
「無事に契約を済ませたようだね…おめでとう」
「ありがとうございます、国王陛下」
「よくぞ試練を乗り越えた…立派な姿だ」
「ムルタタさん…自分の姿はまだ分からないんですよね…」
「羽音…」
「ヒナさん…無事に契約出来ました、貴女のおかげです」
「……」
「さて、厄災を滅ぼす宿命の子がついに翼を得たのだが…その力、人の世の戦を終わらせる為に真王国に貸して貰えぬものだろうか…?」
「…残念ながらそれは出来ません、この力は厄災を滅ぼすものなれば、人の世に仇名す為のものでは無いのです」
「ならばどうすると?」
「私は、真王国にも正王国にも力を貸す事はしません。 私は…戦争を止めます、この想いの翼で」
「戦争を…止める」
「はい、そして真王国に敵対する事はありません…これを条件に私を解放して頂けませんか?」
「それを証明するものは?」
「ありません、信じて貰うより他は…」
「……分かった、そなたを解放しよう」
「ありがとうございます! 陛下…」
説得は無事終了した、思ったよりも理解して貰うのが早かったように思うのだが、あの場での私への敵対も無意味と言う事もあっての事だろう。 皆に礼を述べ、実態を持たぬ翼を展開し再び飛翔すると、遠くに蒼い翼を視認出来る。
「ノーマ…私は争わない、でも次に会うのは戦場になるかもしれない…」
そう思いつつ、一路正王国領のハスナを目指す。
「そろそろかな?」
『ああ、見えて来た』
荒野を抜けると、なだらかな高原が広がり所々で草を食む竜が点在している。 思ったよりも人の生活圏に近いようだが、見た感じでは草食の竜ばかりなのでここには肉食の竜はいないのかもしれない。
『ム…あれは?』
「どうしたの? …光? それに煙も!」
ここからでも光の矢が放たれ、あちこちで爆発が起き煙が立ち上っているのが確認出来る…間違い無くこれは都市が厄災の襲撃を受けているのだとして、世良さんやキア…それにひいばあも応戦しているのだろうか。
「早く行かなきゃ!」
『もちろんだ、だが私たちも戦いに参加する事になるが…覚悟はいいかな?』
「……ええ! その為の翼なのだから」
『分かった、戦闘空域に向かいつつ武装のチェックを行う』
「うん、お願い!」
ついにこの時がやってきた…これが私の初陣となるのだが果たして勝利出来るのか。 いや勝利せねばならない、私の戦いはまだ始ったばかりであり、まだこれからなのだから…。
『この速度で飛べば、二十分後には到着する』
「二十分…そこまで遠くない? いや、でも結構スピードは出てるのか…」
夜も完全に明け、眼前に見えるのは青一色の空、眼下には遥か雲の隙間から赤茶けた荒野が広がっているのが確認出来る。 そう、今私は飛んでいる…刻印の儀を得て戦鳥との契約を終え、己の手に入れた翼で飛んでいるのだ。
「気持ちいいなぁ…これが、空を飛ぶって感覚なんだね」
『気に入って貰えて何よりだ』
大翼に乗せて貰い飛んだことはあるのだが、それとは明らかに違うこの感覚…速度も相まっての事であろうが、戦鳥を身にまとっているので体には何の負担も無いし、何より想像していた息苦しさも圧迫感も無い。
体にフィットして馴染んでいるのだが、採寸もしていないのに本当に不思議なものだと思ってしまう。 だが、それはともかく…。
「ただ飛んでるだけじゃね…ねえ、もう少し高度を下げてもいいかな?」
『構わないが、速度を落とす事になる。 飛んでいるのは我々だけでは無いからね』
「そっか…まあ少しくらいの間だったらいいかな…」
『では地上二百メートル程度の高さで飛ぶとしよう』
「ねえ、それってこちらの単位で換算しているの?」
『いや、キミの使い慣れている単位さ』
「そっか…今は無理でも、ゆくゆくはこちらの単位に慣れたいなぁ」
『そうなのかい?』
「うん…」
想いの翼との会話も問題無いとして、この頭の中に声が響いてくる感じがまた何とも言えない。 皆こうやって翼とやり取りをして戦いをこなしている、そしてそれは…。
(直に私も…)
そんな事を考えている内にも高度は徐々に下がり、速度も緩やかに減速して行く。 いつの間にか針葉樹の森へと景色が変わっているのだが、もしかしてここはかつて一夜を過ごしたあの宿のある森なのだろうか。
「ジェラさんや聖獣の皆、元気にしているのかな…私が翼を得た事を告げたいけれど…」
『いずれ、全てが終わった後に…』
「うん…」
高度も速度も十分に落とし切ったのだろう、あの速さに慣れてしまえば物足りなさを覚えてしまうが、こうやってゆっくり飛ぶのも悪くは無いと思う。
「ちょっとアクロバティックに飛んでみようかな?」
『色々と試してみた方がいい』
その言葉を受けて身を左に傾けるとくるりと左に回転する事が出来た。 右に傾ければまた回転して直る事が出来るのだが、続けて回転し錐もみ飛行を試みると…。
「…目が回る」
『余り無理をしないように…』
ゆっくりやったつもりだが、まだまだ加減は練習しないとダメなようだ。 他にも上空への旋回など思いつく限りの飛行方法を行っていると、周囲に変化がある。
『飛行体を多数確認…翼竜の群れがこちらに向かってくる』
「え! もしかして通り道だったかな? 急いでどかなきゃ…」
『いや、もう少し様子を見よう』
「ええ~」
『離脱する事はいつでも出来る』
確かにそれもそうかと思い直し様子を伺いながら飛んでいると、四方から飛んできた翼竜にたちまち囲まれてしまう。 余り気持ちの良い物では無かったが、翼竜たちは襲撃してくる訳でも無く寧ろ、一緒に飛んでくれているようなそんな感覚に陥ってしまうのだが…。
『我々を祝福してくれているようだね』
「え~、そっかな?」
私が翼を得る事はこの世界に生きる者の総意だと言われた。 だとするならばこれも納得は出来ると思った時、ひと際巨大な翼竜が私の下に滑り込んできた。
「わっ、大きい…そうだ」
ゆっくりと近づいてそっとその背に手を触れてみると、翼竜は嫌がるわけでも無く特に気にしない様子で飛び続ける。
「思ったよりも柔らかい…意外かも」
直に触っている訳でも無いのに、その感触が伝わって来るのも何とも不思議な感じだが、このように翼竜と戯れて飛んでいる時間にもやがて終わりの時が来てしまう。
「あれ? 皆離れて行く」
『森が終わる』
「ああ、そっか…ここでお別れだね」
いつの間にか眼前には荒野が広がっているので、棲息圏たる森に留まるのだろう。 楽しい時間だったとは言え、時間をロスしてしまったのだから、ここで取り返さなといけない。
「道草食っちゃったね、急ごうか!」
『了解!』
急激に高度と速度が上がるがそこまで慌てる事は無い、雲を突き抜けると更に速度を上げて一路ラウ城を目指す。
『見えて来たな…』
「うん…」
まだ距離があるのだが、モニターに映し出された城を拡大すると改めてその荘厳さに感心してしまう。 だが、見とれてばかりもいられない、速度を落として着地する必要があるのだから、いずれかの塔のバルコニーに降りるかを決めなければならないのだが、突如として警告音が鳴り響く。
「どうしたの?」
『飛行体がこちらに接近中、これは…』
「背中がうずくこの感じ…刻印を持つ者同士は共鳴し合うから…」
『私が初めて接触する同胞、となるのかな?』
「うん、何となく誰か分かる、これは…ノーマ。 城に戻って来たんだ、転移装置を利用して?」
『接触まで三十秒』
緊張が走るのだが、流石にいきなり攻撃はされないと思う…事実、視認出来るほど近づいても攻撃する素振りは無い、しかし雷砲を携えているのも確認出来るので、事と次第によっては一戦交える覚悟もしなければならないだろう。
ある程度接近すると向こうは静止するのでこちらも滞空する、距離としては三十メートルほどだろうか…。
『通信が入っているので繋げる』
「うん…」
「どうやら無事契約出来たようだな…しかし、急に飛び出して行くとは…」
「戻って来てたんだ…まだ力の調整が利かないの、ごめんなさい」
「まあいいさ、最初はそんなものだ。 しかし…これからどうする? てっきり戻って来ない物だと思っていたが」
「取り敢えずは、翼を得られた事を報告しに行って来る…でもね、私は…真王国に就くつもりは無いの」
「まあ、そうだろうな…ならば、敵だ」
ノーマは雷砲をこちらに突き付ける…味方で無ければ敵、そう思われても仕方が無いだろうが…。
「待って、正王国に就くつもりも無いわ…私は、人の争いには加わらない」
「中立だとでも言うのか? …そんな綺麗ごとが通じるものか!」
「私は……戦争を止める」
「戦争を止める? ハッ…どうやって止めると言うんだ! 答えろ!!」
雷は今にも放たれそうだ…が、話は止めない。
「この翼は想いの翼…私の願いを叶えてくれるこの翼で、戦争を止めてみせる」
「下らん! そんなもので今更止められるか!!」
「そう思われても仕方ないよね…でもいつか、知らしめる時が来ると思う」
「そんな時は来ない、いまここで…!」
「…また会いましょう、ノーマ」
「なっ! 速い!!」
『何と! あのような加速が可能なのか…』
先ほどまで滞空していたと思っていたが、立ちどころ姿が見えなくなるので後方を向くと、遠ざかって行く姿が確認出来る。 その姿はあっという間に見えなくなるのだが、大翼や不死鳥とも違うあの動きにはただ、目を見張るしかない。
『あれが我らの同胞の動き…想いの翼と言っていたが』
「驚異的な性能、侮れないな…」
『しかし、我らとは争わぬとも…』
「……」
戦わずして戦争を止めると言う、宿命の子の真意は果たしてどこにあるのだろうか…。
「あっ、あれ…誰かいる」
ひと際高く巨大な塔の頂上付近にあるバルコニーに多数の人が確認出来る、拡大してみれば詳細が分かるのだが、多数の兵がひしめき合っており、その中心にいる人物はこの国の王、聖獣、そしてもう一人の戦鳥の戦士だ。
「…あそこに降りよう」
『了解』
バルコニーの先端にゆっくりと降りると、久々の地面の感覚が装甲越しに伝わって来る…この感覚を嚙み締めている内も兵たちは警戒しているが、やがては海を割るように兵たちの間から現れる人物がある。
「無事に契約を済ませたようだね…おめでとう」
「ありがとうございます、国王陛下」
「よくぞ試練を乗り越えた…立派な姿だ」
「ムルタタさん…自分の姿はまだ分からないんですよね…」
「羽音…」
「ヒナさん…無事に契約出来ました、貴女のおかげです」
「……」
「さて、厄災を滅ぼす宿命の子がついに翼を得たのだが…その力、人の世の戦を終わらせる為に真王国に貸して貰えぬものだろうか…?」
「…残念ながらそれは出来ません、この力は厄災を滅ぼすものなれば、人の世に仇名す為のものでは無いのです」
「ならばどうすると?」
「私は、真王国にも正王国にも力を貸す事はしません。 私は…戦争を止めます、この想いの翼で」
「戦争を…止める」
「はい、そして真王国に敵対する事はありません…これを条件に私を解放して頂けませんか?」
「それを証明するものは?」
「ありません、信じて貰うより他は…」
「……分かった、そなたを解放しよう」
「ありがとうございます! 陛下…」
説得は無事終了した、思ったよりも理解して貰うのが早かったように思うのだが、あの場での私への敵対も無意味と言う事もあっての事だろう。 皆に礼を述べ、実態を持たぬ翼を展開し再び飛翔すると、遠くに蒼い翼を視認出来る。
「ノーマ…私は争わない、でも次に会うのは戦場になるかもしれない…」
そう思いつつ、一路正王国領のハスナを目指す。
「そろそろかな?」
『ああ、見えて来た』
荒野を抜けると、なだらかな高原が広がり所々で草を食む竜が点在している。 思ったよりも人の生活圏に近いようだが、見た感じでは草食の竜ばかりなのでここには肉食の竜はいないのかもしれない。
『ム…あれは?』
「どうしたの? …光? それに煙も!」
ここからでも光の矢が放たれ、あちこちで爆発が起き煙が立ち上っているのが確認出来る…間違い無くこれは都市が厄災の襲撃を受けているのだとして、世良さんやキア…それにひいばあも応戦しているのだろうか。
「早く行かなきゃ!」
『もちろんだ、だが私たちも戦いに参加する事になるが…覚悟はいいかな?』
「……ええ! その為の翼なのだから」
『分かった、戦闘空域に向かいつつ武装のチェックを行う』
「うん、お願い!」
ついにこの時がやってきた…これが私の初陣となるのだが果たして勝利出来るのか。 いや勝利せねばならない、私の戦いはまだ始ったばかりであり、まだこれからなのだから…。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
17
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる