《戦》いの《鳥》と《少女》たちは二つの世界を舞う

たくみ

文字の大きさ
157 / 202

143. 王の想い

しおりを挟む
 遺言状を書いたのはアスレア王その人だった。 その真実が分かった時、更なるもう一つの真実が解き明かされる…。

 「この遺言状には不可解な点があります!!」

 全てが終わった、遺言にならぞい新な王を擁立して国を再統一する。 この場に居た皆がそう思った時、この言葉が発せられ待ったをかけた。

 『不可解な点?』

 その問いに言葉の主は静かに頷く、一体何が不可解なのか…周囲の視線は檀上の少女に向けられている。 ただ一人を除いて。

 (宰相の人…どうして俯いているのだろう)

 
 「この遺言状には王の役割…王権について述べられているのです」

 後継者の他に王権について記されているのが不可解な点だと言う。 しかし、その意見こそが不可解だと皆言わんばかりだ。

 「それが不可解?」

 「遺言状に書いてあるのはおかしい…のか?」
 
 「別に問題無いだろうに」

 「いえ、書き記す必要は無いと思うわ」

 
 「王権は法律によって定められています。 何故わざわざここに書いてあるのでしょう?」

  
 「ああ、そうか」

 「そう考えると意味無いよなぁ…」
 
 本来、後継者の名前のみを記しておけば事足りた筈なのだ。 しかし、何故それをしなかったのか…王権について書かれている事は確かに無駄に見える。
 
 
 『フム…まあ、違和感があるのは否めない。 だがそれは、遺言の正統性とはまた別の話のように思いますな』
 
 
 「何でわざわざ書いたのだろう?」

 「確かに疑問ではあるが、理由が分からぬ以上逸れ止まりではあるな…」

 「大して気にするような事でもないんじゃない?」

 
 議員の意見は概ねこのような感じだがそれも最もだ。 皆が訝しんでいる最中、やがて少女は続きを語りだす。 

 「それだけではありません…ここには、としての記述が一切無いのです!」

 (祭王、確かヒナさんが言ってたな…王様は神に祈りを捧げると)

 
 「祭王?」

 「そう言えばそういうのもあったな…」

 「何で? 無いと不味いの⁇ …分からん」
 
 国王のもう一つの役割について述べられていないと言う意見に対して、議員の反応はこれまた微妙な感じだ。 ザワザワしだすのはこれで何回目だろうかと思った時、より強い口調で理由が述べられる。

 「アスレア王はかつて、どのように国を治めるかを私に語ってくれました」

 (世良さん…)
 
 「国を良く治めるには政治の手腕が問われます、彼は戦いの合間を縫って政治の勉強を行っていました」

 
 「そりゃ、国を治めるにはなぁ」

 「しっ! 静かにして」

 
 「しかし、政治だけではありません。 祭王としての役割も重要視していたのです」

 「……」
 
 後に賢王の再来と呼ばれる青年の考えはこうだ。

 長きに渡る帝国との戦いを終えた後、自らを王として国の再建が始まるだろう。 最初は困難が多く苦労が絶えないだろうが、直に復興に沸き立つようになる。
 殆どの国民が新しい秩序の元、新しい暮らしを始めるようになるのだが、果たしてそれを全ての民が望んでいるのか…それらは容易に受け入れられるものなのだろうか。
 
 否、急激な変化を望まない保守的な思想の者も一定数以上いるだろう。 それに、帝国の圧政に苦しみ、すさんでしまった心を癒すのは容易では無い。
 
 「いかに優れた政治のシステムも、豊かそうに見える暮らしも本当の意味で人の心を救う事は出来ません。 そこで彼は、信仰によって人々の荒んだ心に癒しを与えようとしたのです」

 「信仰かぁ」

 「そう言う事だったのね」
 
 「うーん、だがそれは…」

 
 アスレア王は先帝の時代に禁止されていた国教を復活させ、祭王として神事を行うだけでなく各地の収穫祭にも顔を出し、信仰により良き心を保つようにと説いて回った。
 多忙な身でありながらもこれらは晩年まで続けられたのだから、王が如何に重要に思っていたかが伺える。 そしてこのような事実を知った今、皆の心境にも変化が表れ始めた。

 「そうなると何で遺言には無いんだろうな…」

 「うっかり忘れたとか」

 「キミは一体今まで何を聞いとったんだね…」

 「いやいや、待ってくれ…これは一大事だぞ」
 
 
 「まだ疑問は絶えません。 王亡き後、国を継いだ新な王は祭王としての活動を大幅に縮小しています」

 (そうなんだ…独自に調べていたのかな? それにしてもあの宰相の人、ずっと俯いて具合でも悪いんだろうか)

 「新に国を建てた王もまた、そちらの活動は殆ど無かった…二人の王は父王が重要視していた事を知らなかった筈はありません」

 『確かに…二国の歴代の王が民衆の前で、信仰について語る事はありませんでしたな』

 
 「…敢えて言わせて頂きます。 遺言がどうあれ、二人の王は父王の意思を継いでいるとは言い難く、とても後継者と呼べるものではありません!」

 「!!」

 「なっ、何と」

 「そこまで言うか…」

 
 「世良さん、大丈夫かな?」

 「大丈夫よ、少なくとも首を落されるような事にはならないでしょう」

 場内のざわつきはこれまでに無い以上に大きいものだが、議長は止める事無く周囲を観察している。 止めるべきタイミングを見計らっているというよりは、わざとこうして議員たちの呟きから意見を拾っているように見える。

 「議長、発言を許可願います」

 「エンダ王…許可します」

 「祭事の執り行いが疎かになってしまったのは、後継者問題のごたごたや引継ぎも無く王の執務をこなさねばならなかった、エンキ王が忙殺された為に止む無く休止した事によるもの…」

 (そうなんだ)

 「そうこうしているうちに国は二分され、内戦に突入していった為にそれどころでは無くなってしまい今に至る。 これが祭事が行われなくなった理由なのです」

 この発言にも場内はざわつくのだが、これが祭事を執り行わなくなった理由だと言うのだろうか、それに対しての反論があるか議員の視線は檀上の少女に注がれる。

 「…そんなものは言い訳に過ぎません、そもそも自分の代で絶やしてしまっている時点で王失格と言わざる負えないでしょう」

 「……」

 「今ここにいる二つの国の王と王子は、民と共に実りを…収穫の喜びを分かち合った事が一度でもあるのでしょうか?」

 「それは…」

 「アトル様…」

 「天災によって苦難に喘ぐ民があるなら、その身に寄り添い決して負けぬよう折れぬように励ますのもまた王の努めなのです」

 『フム…』

 
 「今一度言います! それが出来ぬ者に…ラウ王国の王たる資格など御座いません!!」

 
 この国には王足り得る者は存在しない、この言葉に場内は凍りつき完全に言葉を失っている。 しかし、そうなると一体どうすればよいのだろうか、このまま何も決めずに終わってしまっては和平は一時的なものになってしまいかねないのだが、それはこの場に居合わせた者全ての本位とする所では無い。
 
 「ねえひいばあ、このままじゃ…」

 「遺言」

 「え?」

 「祭王に関する遺言が、もしかしたら…」


 
 「議長、発言を許可願います」

 「……発言を許可します」

 静寂を破った主に、静まり返った議員たちの視線は真王国の宰相に注がれているのだが、当然このタイミングで何を語ろうとしているのか気になって仕方ないのだろう。

 「これから話すのは我が一族の…私の犯した罪についてです」

 「罪?」

 「何だ、何を言っている?」

 「いきなりだな…話が全然見えないんだが」

 ざわつきを取り戻した議員も二国の代表も聖獣も、私たちもその告白に聞き入るのだがその内容とはーー

 「彼女の指摘の通り、祭王に関する記述が無いのは当たり前です。 それは…我々が代々厳重に封印してきたからなのです」

 「なっ、何と!!」

 「そんな!」

 「遺言状は二枚存在したのか!」

 余りにも、余りにも衝撃的な告白…皆が激しく動揺する中、宰相は手元から筒状の物体を取り出す。

 「どうかこれを…」

 筒の中身を取り出すと、それは先ほどの遺言状と同じような用紙でありそれは世良さんへと渡された。 そこには文字が書かれているのだろうが、議長と共に確認を行うのだが…。

 『何と…』

 「アスレア…」

 やがて確認は終わり、その内容が告げられる。

 「ここには祭王としての役割と権限が記述されています…それともう一つ」

 「もう一つ?」

 「祭王には先の息子アテンを据える、と」 

 
 「!!」

 「それは一体!?」

 「つまり、王が二人になる?」

 「王と祭王は別々?」

 「どういう事が詳しく知りたいわ」

 先の息子、とは先に生まれたのであちらで言う長男に当たるのだが、所謂側室との間の子供の事だ。 彼が祭王に指名され、王妃との子である次の息子が王に指名された。 
 要するに、二人の王でもって国を治めよとの事なのだろうが、果たして祭王の持つ権限とは…。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

処理中です...