《戦》いの《鳥》と《少女》たちは二つの世界を舞う

たくみ

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145. 天地鳴動(前編)

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 かつて、この世界にはラウと呼ばれる広大な領土を持つ王国があった。 賢王の元に治められた王国は栄華を誇っていたがある時、突如現れた異形の存在である「厄災」の出現により滅んでしまう。
 王国の滅亡より五百年の歳月が流れた時、一人の少年が神託により人々を圧政で苦しめる帝国を打倒し王国を再建する為に旅立った。

 成長した少年はやがて反乱軍を率いて帝国と戦い、遂には帝国を倒して蘇った王国の王となった。 賢王の再来と謳われたその治世によって国は繁栄したが、やがて国王が亡くなると二人の王子は玉座を巡り争うようになってしまう。

 最終的に国は二分され長き時を争った、そして…。


 「賢王の遺志の元に再び国は統一される、か…」

 
 「…綺麗ね」

 「うん、ここで夕日を見るのは久しぶりだよね?」

 「ええ、懐かしいわ…」

 「私がここに来た時は城も無く、辺り一面湿湿地帯だったのよね」

 「どうですか? アスレアさんの造った都は」
 
 「素敵ね、ずっと見ていられるわ……本当に良かった」

 「?良かった」

 「アスレアは変わってなんかいなかった、私に言った事は嘘では無かったのよ…でもね」

 「人の世はままにならない、それはあちらもこちらも同じだわ」


 
 議会も無事に終了し、何だかんだでこんな時間になってしまったのだが中庭に戻り、夕日に染まって行くスレアの都を眺めていれば、悠久の年月を感じる事が出来る。
 
 石創りの街並みには碁盤の目のように用水路が張り巡らされており、ゆっくりと往来している舟を見ているといつか自分も乗ってみたいとは思うのだが、それは全てが終わった後になるだろう。

 (人の世の争いは終わった、後は…)

 --厄災ーー

 この世界だけでは無い、二つの世界を侵食する存在を滅さなければ本当の安寧は訪れない。
 
 (本当に私がいれば厄災は倒せるのだろうか…分からない、だけどやるしかないんだ)


 「…皆様、これからどうするのですか?」

 「キア? どうするか、ね」

 
 「管理者に相談してこれからどうするか決めるわ」

 「ネ…ヒナ、貴女はこれからも私たちと戦ってくれるのかしら?」

 「リーネ様…」

 「理音で良いわ」

 「はい…」

 「ふ~ん…キアとノーマって仲が悪そうだけど、大丈夫?」

 「ちょっ! 世良さん、そんなハッキリ」

 「…自身は無いな」

 「それはこっちのセリフなのです」
 
 「ええ~、二人共ケンカしないでよ」

 綺麗な夕日を眺めて心の洗濯と行きたかった所なのだが、中々上手く行かないものだ。 二人を鎮めようと近づけば、地面には夕日によって伸びた影が六つ見える…私たち翼の戦士も争う事無く、ようやく対厄災戦に集中出来る時が来たのだ。

 (ようやくだよね、ここまで長かった)

 「…ねえ、この際だからリーダーを決めましょう?」

 「へっ? リーダー」

 突然の世良さんからの提案、リーダーというからには皆の指揮を取るのだろうが、確かにバラバラに戦っていてはこれから先戦い抜くのは厳しいだろう、敵も進化し続けている。

 「じゃあ、世良さんが…」

 「あ、私パスね。 そういう器では無いし」

 「いやいや、じゃあこれまでの実績は何なんですか…」

 「ま、それに私彼女に嫌われているみたいだし…?」

 「理解が早くて助かるな、確かに貴女に指示されるのはまっぴらごめんだ」

 「ええ…」

 そうだった、ノーマはキアのみならず世良さんの事も快く思っていなかったのだった。 その理由は何となく分かるのだが、それにしてもこちらの人はサバサバしていると思う。 
 いや、彼女の生来の性格なのかもしれないが。

 「じゃあ、序列で言えばひいばあかな?」

 「私もお断りよ、老害なんて言われるのは目に見えているわ」

 「意外と根に持ってる…」

 「当たり前でしょ? 結構傷ついたのよこれでも」

 「すんませんでした…」
 
 皆を率いるのに相応しいと思っていた二人が辞退したとなると、残りはこの三人…いや、恐らくだが多分こういうのを進んでやるようには見えないので、この話はお流れでは無いだろうか。

 「私がリーダーに推薦したいのは…羽音、貴女よ」

 「ええっ! 私!?」

 「そうね、私も賛成よ」

 「いやいや、ちょっと待ってよ。 私がリーダーで皆納得するの?」

 「私もそういうのはメンドクサイので、お願いするのです」

 「いや、言い方…」

 「私も異論は無い。 そもそも仲間になったつもりは無いし、彼女に頼まれたから共に戦っているだけに過ぎない」

 「まあそれでいいんじゃない? 私もお手て繋いで仲良しこよしっていうのは性に合わないし」

 「ああもう、世良さんまで…」

 「私も貴女が相応しいと思う、厄災を倒す象徴なのだから」

 「宿命の子……本当に私でいいんですか?」

 「むしろ貴女でなければいけないんじゃないかしら、それで納得する人もいるんだし」

 「分かりました、やってみます…」

 私がリーダーとなって皆を指揮して戦う事が、果たして本当に出来るだろうか。 だが、もう決まったのだから腹をくくらなければならないだろう、皆の命を預かるという途方もないプレッシャーもあるが…。
 
 「これで決まりね、大丈夫よサポートするから」

 「はい、お願いします」

 

 『おや? 管理者が呼んでいるね』

 「え? そうなの」 

 「今後の方針について、だそうよ」

 「そっか、じゃあ行きましょう」



 『皆揃っているな』

 「はい…これからどうするんですか?」

 『取り敢えずは急ぎここを離れようと思う』

 「離れる? 何処へ?」

 『ここより東の地にあるオードの荒れ地が良いだろう、最終決戦に相応しい場所だ』

 「最終決戦…!?」

 「オードか…あそこなら思い切り戦えるわね」

 管理者曰く、厄災は敗北に敗北を重ね最も避けるべき事態であった、宿命の子の覚醒を妨げる事が出来なかった。 そして、天翔ける舟の復活…これまでのパワーバランスは完全に崩れてしまったのだから、これまでのような散逸した襲撃では無く総力戦で来るだろうというのが管理者の見解だ。

 「最後の戦い…これで本当に終わるの?」

 「終わるの、では無くて終わらせなくてはな」

 「そうなのです、その為に私たちはここまで来たのですから…」

 因みにオードの地は、何時だか見た活火山が噴煙を上げているような場所なので、草木一本生えていない不毛の地なのだそうだ。 他の生物が巻き込まれる事も無いのだから、世良さんの言う通り遠慮無く戦う事が出来る。

 「さっ、そうと決まれば先ずは腹ごしらえね!」

 「世良さん、ノリが軽いな…」

 「こういう時は切り替えが大事よ、かつての最期の戦いもそうだったし」

 「そういうもんですかねぇ…」

 
 決戦の地に旅立つ前の食事を取る為に舟を降りれば、夕日が地平線へと沈む寸前であり空には一番星が輝いている。 
 私たちはこの戦いに勝利して、明日も夕日を見られるのだろうか…そんな事を考えてしまった。



 「居住スペースかぁ…」

 「こういう所もあるのね」

 食事を終えて舟に戻れば直ぐに出立となるのだが、何せ急な話なので皆に簡単に挨拶をして向かわねばならなかった。 
 しかも、最後の戦いになるだろうと告げると、大至急軍を派遣すると王が言ってくれたのだが、場所が遠く離れたオードの地になると分かると直ぐに諦めてくれたのだが…。

 (新たな問題がもう一つ…)

 何と、私たちがそろそろ発つというタイミングで、正王国王危篤の知らせが入った。 急ぎ戻るとした王子たちだったが、ひいばあが気転を利かせて管理者に相談した所、特別に舟で送ってあげる事が出来たのだ。
 真王国から正王国までは勿論それなりな距離がある、だが天翔ける舟の名は伊達では無い。

 (ホントもう、一瞬だった…)

 乗っていると飛び立った時の浮遊感みたいなものは感じたのだが、それでも体感的には「うん? 今動いた?」といった風で、何時着くのだろうかと思っていたら管理者から『到着した』と一言…。

 (それで踵を返してオードに向かって、もう到着したんだよね…)

 本当に凄いとしか言えないのだが、到着したらしたで直ぐに居住スペースに行くように管理者に促され、ロボットの後をついて一面真っ白な通路を通ると、やがては行き止まりに到達する。

 「行き止まりだけど、これって…」

 程なくして壁は消えるので、あの契約の間と刻印の間はこれと同じ技術で創られたのであろうと察せられる。

 「…なんだろう、部屋?」

 二十畳ほどの広さがありそうだが、中央に大理石のような机と椅子のようなものが置いてあるだけなので、何とも殺風景だが遥か昔、ここで暮らしていた者もが確かにいたのだ。 
 そしてその人たちは何処へ行ってしまったのだろう、などという事を考えていると、この部屋の壁にまた空間が出現する。
 
 「ロボットが入るように言っているみたい」

 壁に空いた空間を覗けばどうという事も無く、また部屋が現れるのだがこれは察するに寝室というかプライベートルームと言うヤツでは無いだろうか。
 ここにも一人掛けの椅子と机が置いてあるが、何と言っても目を引くのはこの長方形の物体だ。
 
 「これってもしかして…ベット?」

 だとしたらとんでもない話で、このようなまな板のような場所で安眠などとても得られたものでは無いと思ってしまう。

 「ん? …横になれっていうの」

 ロボットはしきりに寝ろと言っているように見えるので、仕方無く横になってみるのだが何だか刻印を刻んだ時を思い出してしまう。

 「ん…? わっ、浮いてる!?」

 私は今、寝返りをしてもベットに肩がぶつからない程度に浮いており、まるで手品で浮いている人のように見えるのでは無いだろうか。
 
 「これなら快眠、かなぁ」

 寝不足だけは避けたい所だ、もしかしたら明日にも戦いの火蓋が切って落とされる かもしれない、が。

 「これで本当に終わり…なの?」
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