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Anniversary 1st Season
『桃の花に寄せて…。』[3]
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そう言って先輩が私を連れてきてくれたのは。
今度は地元の、私のウチの近くだった。
とはいえ、ウチから駅へ行く方面とは反対方向だし、ちょっと前まで通ってた中学校とも方向が違うから、私は来たことが無かったんだけど。
――そこは神社だった。
先輩が毎朝通学する途中、「近道するんで通り抜けてる」場所、なんだそうだ。
「ここ見つけてから、どうしても桃花に見せたかったんや」
そして神社の裏手…その最も端の一角で自転車を停めた先輩の後ろから、顔を覗かせた私の視界に飛び込んできたもの。
それは小さな、お稲荷様のお社と。
その両脇に立つ、――匂うほどに鮮やかな濃い桃色の花を、広げた枝が見えない…どころか枝垂れるくらい一杯に咲かせた、見事なまでの対なる双樹。
「これ……桃の花……?」
静かな…それでいて陽当たりの良い、そんな場所で。
あまりにも小さな私の呟きは、思いのほかシンとした空気に良く響き、そして光の中で、融けて消えた。
「そう、桃の花。――桃花の花や」
応えてくれた先輩の声が、何故か遠くの方から聞こえたような……そんな感じがした。
「私の…花……?」
まるでその小さな社全体を照らし出すように、周囲の木々の隙間から、傾きかけた陽光が降り注いでいる。
桃の樹の見事さと相まって、その光景があまりにも幻想的で……涙が出るくらい、まるで在り得ないほどの美しさをもって、私の瞳に焼き付いた。
本当に感動したら言葉なんて何の意味も無くなる、ということを……ただ絶句していただけの自分に気付いて初めて、私はそれを理解する。
自分が今どこに立っているのか、それさえも判らなくなるくらいの感動。
私、ここに居ていいのかな……? ――そう思ってしまうくらい、ここは神聖な場所でしか、無く、て……。
言葉を出せないかわりに……私の頬を、涙が伝った。
「どうしよう……すっごい、嬉しいっ……!!」
思わず、隣に立つ先輩の胸に飛び込んでしまう。
「私、こんな素敵な“入学祝い”のプレゼント、もらっちゃってもいいのかなあっ……?」
「桃花だから、もらって欲しいんやで?」
優しく抱きしめて返してくれた先輩の、囁くようなその言葉は。――優しく…どこまでも優しく、包み込むような温かさをもって私の耳に届いてくれる。
「桃花の名前の花だから……だから桃花に一番に見せたいって、そう思ったんやからな」
全身で感じる先輩のぬくもりと、降ってくる低い声が、すっごく心地よくて。
「…じゃあ私、名前負けしちゃってるね」
目を閉じた私は、フフッと軽く笑いながら、そんな返答を返した。
「こんな綺麗な花が似合うくらい、綺麗なオンナノコになれたらいいのにな……」
そしたら先輩に『イジメ』られなくって済むのに。
冗談混じりなそのセリフに、先輩は「根にもってんなー…」と小さく呟き、苦笑した。
「――だから私、頑張るね」
そんな彼を見上げて、私は告げる。
「せっかく先輩がくれたプレゼントだもん、ムダにしないよ。こんな綺麗な花が似合うオンナノコになれるように、私、もっと頑張るから。…だからもう少しだけ、待っててくれる?」
先輩は何も言わず、返事の代わりに一つ、優しくて甘いキスをくれた。
(――言葉なんて無くても……充分、伝わったよ)
何だかんだ言っても、先輩が私のことを大切に想ってくれている気持ち。
私の『大好き』も、ちゃあんと伝わってくれてるよね……?
*
きっと私はこれから先ずっと、桃の花を見るたびに、あなたを想う。――今日のこの花を思い出して。
先輩も……桃の花影の向こうに、私を思い出してくれますか?
たとえ何があろうとも絶対に忘れることなんて出来ない……私たち二人だけにしかわからない、それは大切な“約束”の花、だから……。
――桃の花に寄せて……想いを届けてくれますか……?
*
「でも、いいなあ先輩……桃とか桜とか、あーんな綺麗なお花で“お花見”しながら学校に行けるんだもん……」
ウラヤマシイなあ…と、そこで私はタメ息一つ。
先輩の自転車で自宅まで送ってきてもらってから。
別れ際に、今さっきまで見てきた花が名残惜しくて、つい私はそんなことをボヤいてしまった。
「私なんて、これから毎朝、満員電車に押しつぶされる日々が待っているっていうのに……」
一応、先輩が自転車通学してるって聞いた時から、一緒に登下校したいもん、『私も自転車で行くー!』って言ってみたりもしたんだけど。――だって先輩いわく、『ヘタに電車で行くより近い』っていうことだし。『田圃ばっかで車も少ないし事故る心配ナシ』とも言ってたし。…なら、運動音痴な上に自転車に不慣れな私でも大丈夫かな? なーんて考えてみたり。
なのに、私の運チっぷりをよく知る先輩はじめ両親にまで、猛反対を喰らってしまったのだ。
(なんで皆して、示し合わせたように『田圃に突っ込んでいくのがオチ!』って、同じこと言うかなー……)
それを否定できない自分が、この上なく哀しいこと限り無いんだけど……。
そんなワケで、だから結局、電車通学せざるを得なくなってしまったのだよねー。
「私も、あんな綺麗なお花を見ながらガッコ行きたいなー……」
欲を言うなら、“先輩と一緒に”が、付いたら尚よろしいんだけど。
「じゃあ、行ったらええやんか。花見しながら」
「はい……?」
そんなアッサリきっぱりした返答で、思わず目を剥いて私は先輩を見上げてしまう。――真っ先に私の自転車通学に反対してくれちゃった人間がナニを言うかな今サラ……!!
でも先輩は、そんな私の様子などドコ吹く風、「桃花に早起きする気があるんならな」と、ニッコリ笑顔で続けて下さる。
「花が咲いてる間だけ……毎朝一緒に“花見”するか?」
(――えっ……?)
「そ…それって……」
呟くように洩らしたまま…でもそれ以上の言葉を続けられず、目を剥いたままで絶句して硬直する、そんな私に向かって。
「じゃあ、明日の朝七時半に、あの桃の木のトコで」
降ってくる、そんな当たり前のような…それでいてどこまでも優しい、先輩の言葉。
(それって……一緒に学校行ってもいいってコト……?)
しかも、今日みたいに、自転車の後ろに私を乗せていってくれるの……?
そのことに気付いた途端、…まだ絶句状態だったとはいえ、私の表情がみるみるパアッと明るくなっていくのが、自分でも判った。
そんな有頂天まっしぐらな私の額を指で軽く弾きながら、そこで釘を刺すような、先輩のオコトバ。
「ただし、明日が晴れだったら、の話やからな? もし雨が降ってたら、桃花は大人しく電車でガッコ行くこと!」
雨の日の自転車二人乗りは危ないからな。…そう、しかつめらしい表情で尤もらしく注意なんかされちゃっても、ものっすごい勢いでテンション上がりまくり真っ最中の私にとっては、そんなことくらいじゃおさまらない。
「大丈夫ッ!! 私ってば超強力な“晴れ女”なんだからッ!! 絶対、明日は晴れるんだから!! 明日も明後日もその次も……この先ずーっといい天気だよっ!!」
満面笑顔で断言してみせた私は、多分、ホントに嬉しそうな表情をしてたんだと思う。
「…まるで遠足前の小学生やな」
苦笑混じりにそう言うと先輩は、「じゃ、また明日な」と、私の頭をくしゃっと撫でつつ、そのまま勢い良く自転車を発進させてしまった。――去り際に、かすめるようなキスだけを一つ、私の唇に残して。
「――よぉーしッ……!!」
先輩の姿が角を曲がって見えなくなるまで、その場から見送ると。
勢い込んでそう呟いてから、私はそのまま足取りも軽く、家の中に駆け込んだ。
「張り切って作るゾ、“てるてる坊主”ーッッ!!」
とりあえず向こう一週間分くらいは気合入れて作ってやるわよ! 明日が“晴れ”になる要素は、ほんの少しでも多い方がいいものっ♪
ぶっちゃけ、あんな自信満々に言っちゃったけど私ってば、そこまで超強力な“晴れ女”なんかじゃないんだもん実は。
先輩の分と私の分、心を込めて二人分ちゃんと作ってあげるから。
「だから私の代わりに頑張ってよね、“てるてる坊主”っ!!」
短い花の命が咲き誇っている間は……どうかお願い“てるてる坊主”。
出来る限り毎日、先輩と一緒に居させてね。
――この“お花見日和”が、ずぅーっと続いてくれますように……。
*
そして私が、“てるてる坊主”のために時間を費やし過ぎたあまり、カンジンなスカート丈を直し忘れたのは、――言うまでも無い。
【終】
→→→ about next story →→→
高校に入って早や1ヶ月、先輩と同じ部に入部していた桃花だったが…。
テーマは5月「ゴールデンウィーク」
『星に願いを…。~Anniversary3』
→→→→→→→→→→→→→→
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