Anniversary

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Anniversary 2nd Season -bittersweet-

『彼女がサンタになる聖夜 -Happy Days!-』[2]

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「てか、テメエら一体どこのキャバクラの呼び込みだよ、っつの……!」
 そう碓氷サンがボヤくのも道理。
 このまま羽扇子もってジュリアナのお立ち台ででも踊れそうですねアナタ? というバブリーな時代を彷彿とさせる素晴らしくボディコンな真っ白ファー付きサンタ衣装に真っ赤なロングコートを羽織って、足元はめっちゃくちゃ高くて細いヒールの黒いロングブーツ、しかもアンバランスにも頭には真っ赤なサンタ帽子まで乗っけてる、そんな操ちゃんの姿は……ぶっちゃけ、通行人の視線を集めまくりである。
 おまけに、トナカイの着ぐるみを着てる方――こっちは操ちゃんのダンナさんやって後から知ったんやけど――は、『HAPPY CHRISTMAS!』やら何やらデカデカと書かれた立て看板まで、肩に担いでたりするもんやから。
 うん、二人とも店の宣伝なんやろ? そうなんやろ? とは思うものの……しかし、どう頑張って良心的に見ても、とてもじゃないが水商売以外の店の宣伝とは、思えんわなマジで……。
「そもそも、なんでテメエらまでバイトしてやがんだよ! しかも、そんな格好までしくさってからに!」
「あーら、随分なオコトバねえ? 孝行娘にしてみたら、実家の危機は我が家の危機なのよーんっ!」
「なにが『孝行娘』だ、それのドコが! テメエの“孝行”は親泣かせだっつーの! ――つか島崎! オマエも仕事はどうしたよ仕事は! …よもや、コレの為にワザワザ休み取ったワケじゃあ、ねーだろうなあ!?」
「いやいやいや、それが残念ながら、運悪く今日は非番でさー……」
「ちょっとソレ、『運く』の間違いでしょ!? いーじゃないの、使えるモノは何だって使うのよ! たとえ“の手”だろーと、販促活動に頭数はあるに越したことは無いでしょうが!」
「アホかテメエ! これは誰がどー見ても鹿だろーが鹿!」
「おほほほほ何を言うのかしらオバカサンねっ! こんなブッサイクなモン、馬で充分よ馬で! 茶色い馬っ!」
「オマエはどこぞの権力者かっつーの!! 平民の分際で、鹿はキッチリ鹿と言えド阿呆っ!!」
「あはははは、どうでもいいけど二人とも、ヒトのこと指差して『馬』だの『鹿』だ言うのは、やめてくんないかなああっっ?」
「「――じゃあ『馬鹿』で?」」
「……言うとは思ったけど、いーかげん怒るよ本気で?」


 ――てか、そもそも“トナカイ”は“馬”でも“鹿”でも無いってことを……誰か突っ込んであげよーよコノヒトらーに……。


「ひょっとして、そっちのトナカイの着ぐるみも……実は操ちゃんの手作りとか……?」
「んなハズないじゃないの! なんでこんなブッサイクなモン、私が作らなきゃいけないワケー? 可愛いオンナノコが着てくれるんだったら、まだ頑張りようもあるけどさー?」
「ああ、そうデスカ……」
 てか、仮にもダンナが入ってる着ぐるみに向かって、そんな愛の無いコメントもどうかと思いますが……?
「そもそも、こんなブッサイクな着ぐるみより、だんぜん可愛いサンタでしょう作るならっっ!! ――てワケで、今回は可愛いオンナノコ二人もgetできちゃったことだし、久々に頑張っちゃった♪ ありがとう三樹本くんっ! アナタのおかげよーんっっ!」
 そう拳を握り締めて操ちゃんが力説した…かと思えば、次の瞬間には、おもむろにぎゅーと再び抱き付かれて。
 もはや目のやり場がどうこう考える気力も無く、脱力して、オレは呟く。


「…ほなアレは、やっぱりアナタの『仕業』やったんデスね操ちゃん?」



   *



 世の男の願望として……可愛いサンタのオネーチャンがニッコリ笑いかけてくれながら『メリークリスマス♪』ってケーキを差し出してくれる、なんてのは……、
 めっちゃくちゃストレートで妄想どストライクやと思うわマジで。


 ――そんな“妄想”が、こんな近く、よりにもよって自分の目の前で展開されてるとは……全くもって想定外や。


「…あっ、センパーーーイっっ♪」


 近寄ってくるオレを見つけニッコリ手を振ってきた桃花を眺め、ニッコリ手を振り返しつつ、コッソリ小さくタメ息を吐く。
 店の前のクリスマスツリーの横。
 そこに広げた机の後ろ、桃花と実果子ちゃんと、二人が並んで立っている。
 机の上に積み重なっていた…であろうクリスマスケーキの箱は、今や山になってた形跡すら無い。
 まあ…時間も時間やしな。もはや、そろそろ閉店になろうという時間でもあることだし。
 それでも、まだ通りに人気がなくなるには早すぎる時間。
 ――つまり絶対、それだけの理由じゃないだろう、この品薄加減は。


 ぶっちゃけ、それも全て操ちゃんの『徹夜作業』の賜物の成果。――なんやろうな多分……。


 あっちでチラシ配ってる操ちゃんのセクシーサンタ姿&着ぐるみトナカイも、通行人の衆目を集めまくりだったけど。
 こちらもこちらで、負けず劣らずの注目度、なのである。


 というのも、オレの目の前にニコニコと立つ、桃花と実果子ちゃん。二人とも、赤い帽子に赤い服、というサンタ姿であり。
 しかも、そこはそれ、あの“可愛いオンナノコ至上主義”な操ちゃんの作った衣装であるために、そこらへんのバラエティショップなんかで売ってる世間一般の“サンタガール”な衣装とは、全く違ったテイストのサンタであり。
 なおかつ、二人ともモトが並み以上に“可愛いオンナノコ”なモンだから、それがめっちゃくちゃ似合いまくっている。


 ――こんなオンナノコらーに『良いクリスマスを♪』って言ってもらえるためならば……買うよな男ならケーキくらい一つや二つ。


「予備校お疲れ様っ! クリスマスなのに、わざわざ勉強しに行かせちゃって本当にゴメンね先輩」
 そう、しおらしく小首を傾げてオレを見上げた桃花は。――白いフワフワで縁取りされた裾がふわりとしたフレアースカートの、めちゃくちゃミニ丈の真っ赤なワンピースを着ていて。その上に、やはり白いフワフワに縁取られた真っ赤なケープ…っていうのか? 袖のない、短いマントのようなものを、肩から羽織っており。胸元には、飾りにしたリボンの白いポンポンが、動きに合わせて軽快に揺れていて。まさに、桃花の見た目の幼さだとか愛らしさだとかを、ふんだんに強調しているというもの。
「ここまで迷わずに来られました? わりと道が入り組んでるから、迎えに行った方がいいかなって、いま桃花と話してたところだったんですよ」
 ちゃんと着いて良かった、お疲れ様でした、と、ほんわり笑う実果子ちゃんは。――赤いタートルネックのセーターの上に、わりと身体にピッタリとした、前の合わせ部分に白いフワフワが縁取りされてる真っ赤なジャケットを着こんでいて。下は、お尻の下スレスレ丈の真っ赤なホットパンツ、やっぱり白のフワフワの縁取り付き。長身で足がスラッと長い彼女には、それがめっちゃくちゃ強調されてて、とてもよく似合っている。


 ――操ちゃん……アンタ、養護教諭やってていいんかホンマに……?


 さすが、本人自ら『カンペキでしょ!』と豪語するだけあって、マジでカンペキな仕上がりっぷりである。二人とも。――だからアンタの進んできた道、絶対どっか間違って曲がってきてるやろ操ちゃん……?
 やっぱり“カレシ”としての欲目なんかがビミョーにある所為かもしれないけれど……それにしたって充分、ぶっちゃけ二人とも、そこらへんのアイドルなんかより、ずっと可愛い。――てか、可愛すぎる。このサンタ姿は。
 だからこそ、オレとしては…きっと碓氷サンも同様やと思うけど、フクザツな気分なこと極まりない。
 自分のカノジョが普段以上に可愛くなってくれるんは、とても大歓迎! なんやけどな……そんな姿を目の当たりにできることは、すごい嬉しかったりもするんやけど……それが、他の男の目にも晒されるとなると、どうにもいただけない。
 だって考えてもみーって、よりにもよって自分のカノジョが男の“妄想ストライク”なんやでー?
 ――後から聞いたところによると……実際、『写真撮らせてください』なんていう申し出も、何度かあったそうである。なんてこったい。
 カノジョにはいつだった可愛くいて欲しい、でも、こんなに可愛い姿を誰の目にも触れさせたくない、可愛くなるのは自分の前でだけであって欲しい、…なんて思うのは、きっと男の“エゴ”でしかないんだろうけど。
 でも仕方ない、男なんて、所詮そんなイキモノや。


「君らの方こそ、この寒い中、一日立ちっぱなしでお疲れやん。長いこと大変やな。まだ終わらへんの?」
「あ、うん……もうお客さんも少ないし、そろそろココ撤収しようかって言ってたんだけど……」
「でも桃花は、もともと“三樹本先輩が迎えに来るまで”ってことになってたでしょ」
 オレの問いに躊躇いがちに応えかけた桃花のセリフを、ニコニコと、そう実果子ちゃんが遮った。
「せっかく先輩が来てくれたのに待たせちゃうのも何だしね、このまま上がっちゃっていいわよ? あとは私一人で大丈夫だから」
「でも、後片付け……」
「それは私もやらないから、気にしないで。ここの撤収は、伯父さんとかバイトくんの男手に任せちゃうわ」
 その茶目っ気タップリの実果子ちゃんの返答で。
 ようやく桃花の表情に、ほわりとした笑みが浮かんだ。
「じゃあ…ホントにもう大丈夫?」
「うん、大丈夫よ。今日は一日ありがとう桃花」
 それを聞くなり桃花が、満面笑顔になって、クルリとオレを振り返る。
「じゃあ先輩っ! すぐ戻ってくるから、ちょっと待ってて!」
「ハイハイ、ごゆっくり~」
 そして弾むように店の中へと駆け込んでゆく桃花の後ろ姿を見送りながら。
 コッソリと、実果子ちゃんの耳元に、オレは囁く。


 ――アッチに碓氷サン、迎えにきてるで?


 途端、頬を真っ赤に染めた彼女の嬉しそうな笑顔を見て……そうは見えなくとも、ちゃんと二人は“恋人同士”なんやなーやっぱり、と……改めてオレは、そう、シミジミと思った。
 碓氷サンも、な。――口じゃ、あんな何だかんだ素っ気ないこと言うてても、キッチリ大事にしてるんやんか。実果子ちゃんのこと。


「ミカ、アンタもそろそろ上がりなさい。恭平きょうへいも来たことだし、一緒に出るわよ」


 桃花が席を外したのを見計らったように、そーっと現れた操ちゃんが、オレの背後から、実果子ちゃんにそんな言葉を投げて。
「とりあえずココは私が見てるから、誰か代わり、呼んで来てくれる?」
 その言葉を受けて「うん、わかった」と、彼女も嬉しそうに弾んだ足取りで店の中へと駆け込んでゆく。


 つまり……表向き、碓氷サンが迎えに来たのは操ちゃんご夫婦、ってことになってるんだってさ。
 さっき操ちゃんが教えてくれた。――『恭平が私らのこと迎えにくる分には、別に不自然じゃないでしょ?』って。
 そういうワケで今夜は、タテマエとして、操ちゃんちで開く“昔の仲間を集めたホームパーティー”に実果子ちゃんも一緒に連れて行く、ってことに、なっているらしい。
『ウチもこういう商売してるから、毎年この時季は忙しくて、家族でのクリスマスパーティーなんて出来ないでしょう? ウチの親も、叔母さんも、ミカにくらいは好きなように楽しいクリスマスを過ごして欲しいって、内心で思ってるのよ。毎年毎年、手伝わせてばっかりじゃ可哀想だしね。そんなだから、私がこうやってミカ連れまわしても、なーんにも文句、言われないってワケ!』
 そして操ちゃんは、立てた人差し指を唇に当ててウインクすると、『お互い、楽しいクリスマスを過ごしましょうね!』と、にっこり笑った。


 ――本人は力の限り否定するやろうけれど……この操ちゃんが味方に付いているってこと自体が、碓氷サンの“幸運”ってヤツだよなー。


「…じゃあ、コレは私からのクリスマスプレゼント。アナタと桃花ちゃんに。後で一緒に食べてね。メリークリスマスっ♪」


 操ちゃんから差し出された、今しがたまで売り物だった小さなクリスマスケーキの箱。
 受け取った俺の手の中で、掛かったリボンに添えられていた小さな金色のベルが、チリンと小さく、音を立てた。



   *



「あっ、ねえねえ、見て見て先輩っ! ホラ、雪だよ雪! 雪が降ってる!」


 駅へと歩く道すがら。
 オレの腕を取りながら歩いていた桃花が、ふいに上を見上げてそれを叫ぶ。
 つられて暗い夜の空を見上げれば、その言葉通り。
 ちらちらと舞い落ちてくる、白い粉雪。


「ホンマや……どうりで寒いと思ったら……」
「ホワイトクリスマスだね、先輩!」
「積もれば、な」
「積もるかなあ? 積もって欲しいなあっ!」


 関東地方では珍しい十二月の雪。…だから、きっとこの粉雪が積もるまで降ることは無いだろうけれど。
 こんなにも両手を空に広げて無邪気にはしゃぐ桃花のために、どうか積もって欲しいと、――そう願った。


 ――“クリスマスの奇跡”というものが、もし本当に起きてくれるのであるならば。


「あのね、先輩……」
「うん? なんや桃花、改まって?」
「今日ね、私ね……バイトが終わったら、ミカコと一緒に島崎センセイのウチへ遊びに行くことになってるの。クリスマスパーティするから、って。そのまま泊めてもらってきます、って」
「え……?」
「だから……今夜は、先輩の部屋に泊まっていってもいい……?」


 その瞬間。――『お互い、楽しいクリスマスを過ごしましょうね!』とニッコリ笑った操ちゃんの笑顔が、脳裏をかすめた。


「なんや……あれ、そういう意味やったん……」
「え? なに……」
「なんでもない、ただの独り言や」
 そして、おもむろに桃花の肩を引き寄せて、その唇にキスを落とす。


「今夜は一晩中……一緒に雪が積もるのを眺めてようか?」


 この雪が積もりますように。――オレの想いが、この胸の内に日々募っていくみたいに。
“クリスマスの奇跡”に……消えることのない雪を願おう。
 彼女の心の中に、あたたかな消えることのない“雪”を降り積もらせてくれることを―――。


「つまり今年の“クリスマスプレゼント”は、あの、ものごっつセクシーなサンタからもろてしまった、ってことに、なるんやろか……?」
 あの鼻血でも噴きそーなくらい妄想どストライクな桃花の可愛いサンタ姿に、二人分のクリスマスケーキ、それに加えて、彼女と一緒に過ごせる夜、なんてモノまでも。――操ちゃんグッジョブ!! いきな計らい、アリガトさんっっ!!
「うーん、仮にも“受験生”の分際で、こんなにシアワセ過ぎてええんやろかオレ……」
「だから、さっきからなに言ってるの先輩……?」
「いや、これも独り言やから気にせんと。――そや、今夜のこと、後から操ちゃんにキッチリお礼しとかんとな」
「そうだね……じゃあ、後から一緒にクリスマスプレゼント選びに行こうよ! ちょっと渡すのは遅くなっちゃうけど」
「そうしよか」
 でも、サンタにプレゼントをあげるってのも、なんだかヘンな話やな。
 ま、“幸運の女神サマ”へのお供えモノ、ってことにでもしておけばモンダイ無いか。


 別にオレはクリスチャンではないけれど。――今夜だけは、たぶん特別。
 きっと誰の上にも、幸せの粉雪が舞い落ちる。
 …こういう日くらい、たまには柄でもなくセンチメンタルになってみたって、バチは当たらんやろ?


 この聖なる夜に、たくさんの“奇跡”と“幸せ”が、どうか降り積もりますように―――。




【終】





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 ――私は、先輩にも…そして神様の前でも、嘘を吐きました。
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