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第14話 フェアンベディーグング

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 宝物庫からマイルームへ帰ってきた。

 帰って来たのは良いのだけれど……

「姫様? 顔色が優れない様ですが、いかがなさいましたか?」

「う、うん。ちょっと歩き疲れただけだから大丈夫」

 と言ったものの、ぶっちゃけ、緊急事態である。

 冷汗が止まらない。

「左様でございますか。では午後は、ゆっくりとなさってください」

「うん、そうする。あ、その剣とか鎧は、あのテーブルのとこにお願い」

「かしこまりました」

 とりあえず、落ち着いて、ピスケスの双剣と飛翔の鎧を運ぶのを手伝ってもらった人達に、部屋の中に運び入れてもらう。

「皆、ありがとう。あ、ルインも少し外に出ててくれる? 一人で、魔法の練習もしたいから」

「一人で、でございますか? ……あぁ、なるほど。かしこまりました。では、他の者達もにも部屋には入らない様、申し付けておきます」

「うん、おねがい」

「では、失礼いたします」

 そう言うと、ようやくルインも部屋から出て行ってくれた。

 これで、やっと一人になれた――って

 うおーーーい!!

 ちょっと! この首飾り、魔力を食いすぎよ!

 こっそり吸魔の首飾を持ち帰って来たのはいいけど、そいつが入れてある異次元収納の魔力をモリモリと喰らっている真っ最中なのだ。

 私は、速やかに部屋から誰も居なくなった事を確認し、急ぎ吸魔の首飾を取り出して、パーンッ!とベッド上に放り投げた。

「ふぅ、これで一安心……いや――まって? こいつ、私のコレクションも食ってない……?」

 金属生成の魔法を使って作ったコレクション類は、人の目に触れさせる訳にはいかなかったので、全部異次元収納に保管していた。

 私の異次元収納は、神様にもらった物でもなく、独自に作った物なので、中に物が入っているだけで常時魔力を消費する。

 そして、中に物を入れれば入れるほど、その魔力消費量も増えていく。

 そして、そして……あの首飾りを放り出してみたら、その消費量が3割ほど減っていたのだ。

 そして、そして、そして……恐る恐る、異次元収納に手を突っ込み、コレクション達を取り出し、確認してみると――

「あばッ、あばばば――」

 ――全身の装甲を純金で仕上げたハンドレットタイプの手足がもげて消え失せ、装甲もボロボロにッ!?
 中にワイヤーを通して、実際に刀身がバラバラに分かれるギミックを再現したゴリアンの蛇腹剣が!?
 海外の高名デザイナーがデザインした特徴的な隊長機のゴールドリキシーと量産機のシルバーリキシーもせっかく作ったのに!?
 後で塗料が手に入ったら肩を赤く塗ろうと考えてた咽る棺桶が見るも無残な姿に――

「――ばばばばばばば……」

 どれも、石材パーツは崩れてボロボロになり、金属パーツに関しては、溶けかけのチョコレートの様にぐにゃぐにゃな状態だ。

 手塩に掛けて作り上げたコレクションの全てが、まるで最終回の激戦を終え、半壊状態で役目を終えた時の様な有様――……


 ……――どれくらい放心していたのだろう?

 床に倒れ伏し、虚空を眺めていると、不意にベッドの方から「すまない」という声が聞こえた気がした。

 むくりと起き上がり、ベッドの方を見てみると、さっき放り投げた、あの首飾りがあるだけで誰も居ない。

 幻聴……かな?

「私には感情が無いので気持ちを籠める事は出来ないが、一応は謝罪しておこう。だが、君の収納魔法の魔力と、そこに収納されていた魔法生成物のおかげで、思考領域の復旧ができた。感謝する」

 幻聴では無かったらしい。

 どうやら、このクソ首飾りが喋っている様だ。

「スマナイ? カンシャ? あんた、これ作るのに、どれだけ苦労したと思って――」

「待ちたまえ。とりあえず、その手に生成したハンマーを下ろしてくれないか? 私としても意図してやった事では無いのだ」

「――は? それが、あんたをぶち壊さない理由になると?」

「説明をさせてもらうと、今まで私の思考領域が停止していた影響で、機能と待機魔法の維持に使う魔力の吸収先を選択できなかったのだ。君が独自の異空間魔法に私を保管した事も大きな原因の一つであり、今回の事は事故の様な物であると私は推測している」

「ほうほう……言い残したい事は、それだけね?」

「ふむ……たしかに、謝罪と感謝では切り抜けられない状況であるのは察した。では、こうしよう。私を再起動してくれたお礼と謝罪として、君の手助けをしよう。金銭などではないが、労働で慰謝料を払おうではないか」

「労働って、首飾りのあなたが? どうやって?」

「私はこう見えても神器だ。神から与えられた機能は、使用者の魔法の制御と行使を助けるという物だ」

「神器? てことは、あなた、あの神様製の道具なの?」

「ふむ……? その通りだが、その反応は珍しいな? なるほど。君は使徒か転生者か」

 おっとぉ……? 

 この首飾り、いきなり私の正体を当てに来たぞ……

 ……やはり、ここで破壊しておくべきか?

「使徒? 転生者? なにそれ? オイシイノ?」

「まて。ハンマーを再び持ち上げるのはやめてくれ。隠したい理由も分かるので心配しなくても良い。他人に話す様なことはしない。私も元は、使徒として遣わされた者に与えられた神器だ。転生や転移者としての機微には詳しいので安心してほしい」

 前の持ち主が使徒?

 という事は、初代国王様、あの大きな人って呼ばれてた人は使徒だったのね。

「そう……正確には私は使徒では無いけど。ちなみに、なんで分かったのよ?」

「第一に、その容姿から察する年齢と言動の質が不釣り合いだ。第二に、私が神器と聞いても、さしたる驚きもしていない事。第三に、神に対する――」

「あー、もういい、わかったわ」

「早々、他者に露呈する事は無いとは思うが、厄介事を招きたくないのであれば、神に関する物や存在への態度、日常の立ち振る舞いには気を付けた方が良いだろう」

 こいつ、めっちゃ説教臭い……

 あ、でも、なんか、この感じ――

 ロボットに組み込まれた特殊なAIみたいで、悪くはないわね!

「それで、あなた、具体的には何が出来るの?」

「魔力を与えてくれれば、君の代わりに魔法を使う事が出来る。多少、魔力効率は落ちるがね」

「代わりにって、例えば?」

「供給される魔力さえ途絶えなければ、君の意識が無い状態でも自動で防御魔法などを発動し、君が魔法の行使中でも私が別の魔法を同時に発動する事も容易だ。得意としない属性の魔法行使も任せてくれて構わない。その場合は逆に、君が使うよりも魔法効率が若干上がるはずだ」

「ふーん……たしかに便利そうではあるわね。わかったわ! 今後、私の手助けをするって言うなら、今回の事は大目に見ることにするわ」

「それは助かった。これからは君のサポートに尽力すると誓おう」

「そう。せいぜい、こき使ってあげるから覚悟しなさい」

 まだ若干――いや、かなり怒りが収まらないけど、形ある物はいつか壊れるとも言うし、また作り直せば良いか。

 壊れたロボットの姿も、それはそれで味があるし。

 それより、こいつが変な不良品だったとか、妙なバグがあるとかじゃないといいけど。
 
「まあ、今回の事は、あんたを作ったメーカー側の責任も大きいし、製造元の神様にクレームを入れに行かなきゃよね。それには神殿を探さないと……そういえば、あなた、正式名称とか名前はあるの?」

「好きな様に読んでくれても構わないが……そうだな、フェアンベディーグングとでも呼んでくれ」

「長いし呼びにくッ……んー、じゃあ、ベディって呼ぶことにするわ。私はティアルよ。よろしくねベディ」

「よろしくティアル」
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