異世界ブンドド ~夢とロマンに生きる王女~

あてだよ

文字の大きさ
14 / 38
胎動編

第14話 フェアンベディーグング

しおりを挟む
 宝物庫からの帰りの道中、私は、とある異変を感じた。

 最初は気のせいかと思っていたけど、マイルームに到着した辺りで、それが確信へと変わる。

「姫様? 顔色が優れない様ですが、いかがなさいましたか?」

「う、うん。ちょっと歩き疲れただけだから大丈夫」

 と言ったものの、ぶっちゃけ、緊急事態である。

 冷汗が止まらない。

「左様でございますか。では午後は、ゆっくりとなさってください」

「うん、そうする。あ、その剣とか鎧は、あのテーブルのとこにお願い」

「かしこまりました」

 とりあえず、落ち着いて、ピスケスの双剣と飛翔の鎧を運ぶのを手伝ってもらった人達に、部屋の中に運び入れてもらう。

「皆、ありがとう。あ、ルインも少し外に出ててくれる? 一人で、魔法の練習もしたいから」

「一人で、でございますか? ……あぁ、なるほど。かしこまりました。では、他の者達もにも部屋には入らない様、申し付けておきます」

「うん、おねがい」

「では、失礼いたします」

 そう言うと、ようやくルインも部屋から出て行ってくれた。

 これで、やっと一人になれた――って

 うおーーーい!!

 ちょっと!
 この首飾り、魔力を食いすぎよ!

 こっそり吸魔の首飾を持ち帰って来たのはいいけど。
 そいつが、異次元収納の魔力をモリモリと喰らっている真っ最中なのだ。

 私は、速やかに部屋から誰も居なくなった事を確認し、急ぎ吸魔の首飾を取り出して、パーンッ!とベッド上に放り投げた。

「ふぅ、これで一安心……いや――まって? こいつ、私のコレクションも食ってない……?」

 金属生成の魔法を使って作ったコレクション類は、人の目に触れさせる訳にはいかなかったので、全部異次元収納の中に保管していた。

 私の収納魔法は、神様にもらった物でもなく、独自に作った物なので、中に物が入っているだけで常時魔力を消費する。

 そして、中に物を入れれば入れるほど、その魔力消費量も増えていく。

 そして、そして……あの首飾りを放り出してみたら、その消費量が3割ほど減っていたのだ。

 そして、そして、そして……恐る恐る、異次元収納に手を突っ込み、コレクション達を取り出し、確認してみると――

「あばッ、あばばばばばば――」

 ――全身の装甲を純金で仕上げたハンドレットタイプの手足がもげて消え失せ、装甲もボロボロにッ!?
 中にワイヤーを通して、実際に刀身がバラバラに分かれるギミックを再現したゴリアンの蛇腹剣が!?
 海外の高名デザイナーがデザインした特徴的な隊長機のゴールドリキシーと量産機のシルバーリキシーもせっかく作ったのに!?
 後で塗料が手に入ったら肩を赤く塗ろうと考えてた咽る棺桶が見るも無残な姿に――

「――ばばばばばばば……」

 どれも、石材パーツは崩れてボロボロになり、金属パーツに関しては、溶けかけのチョコレートの様にぐにゃぐにゃな状態になっていた。

 手塩に掛けて作り上げたコレクションの全てが、まるで最終回の激戦を終え、半壊状態で役目を終えた時の様な有様――……


 ……――どれくらい放心していたのだろう?

 床に倒れ伏し、虚空を眺めていると、不意にベッドの方から「すまない」という声が聞こえた気がした。

 むくりと起き上がり、ベッドの方を見てみると、さっき放り投げた、あの首飾りがあるだけで誰も居ない。

 幻聴……かな?

「私には感情が無いので気持ちを籠める事は出来ないが、一応は謝罪しておこう。だが、君の収納魔法の魔力と、そこに収納されていた魔法生成物のおかげで、思考領域の復旧ができた。感謝する」

 幻聴では無かったらしい。

 どうやら、このクソ首飾りが喋っている様だ。

「スマナイ? カンシャ? あんた、これ作るのに、どれだけ苦労したと思って――」

「待ちたまえ。とりあえず、その手に生成したハンマーを下ろしてくれないか? 私としても意図してやった事では無いのだ」

「は? それが、あんたをぶち壊さない理由になると?」

「説明をさせてもらうと、今まで私の思考領域が停止していた影響で、機能と待機魔法の維持に使う魔力の吸収先を選択できなかったのだ。君が独自の異空間魔法に私を保管した事も大きな原因の一つであり、今回の事は事故の様な物であると私は推測している」

「ほうほう……言い残したい事は、それだけね?」

「ふむ……たしかに、謝罪と感謝では切り抜けられない状況であるのは察した。では、こうしよう。私を再起動してくれたお礼と謝罪として、君の手助けをしよう。金銭などではないが、労働で慰謝料を払おうではないか」

「労働って、首飾りのあなたが? どうやって?」

「私はこう見えても神器だ。神から与えられた機能は、使用者の魔法の制御と行使を助けるという物だ」

「神器? てことは、あなた、あの神様製の道具なの?」

「ふむ……? その通りだが、その反応は珍しいな? なるほど。君は使徒か、または転生者か」

 おっとぉ……? 

 この首飾り、いきなり私の正体を当てに来たぞ……

 ……やはり、ここで破壊しておくべきか?

「使徒? 転生者? なにそれ? オイシイノ?」

「まて。ハンマーを再び持ち上げるのはやめてくれ。隠したい理由も分かるので心配しなくても良い。他人に話す様なことはしない。私も元は、使徒として遣わされた者に与えられた神器だ。転生や転移者としての機微には詳しいので安心してほしい」

 前の持ち主が使徒?

 という事は、初代国王様、あの大きな人って呼ばれてた人は使徒だったのね。

「そう……正確には私は使徒では無いけど。ちなみに、なんで分かったのよ?」

「第一に、その容姿から察する年齢と言動の質が不釣り合いだ。第二に、私が神器と聞いても、さしたる驚きもしていない事。第三に、神に対する――」

「あー、もういい、わかったわ」

「そう簡単に、他者に露呈する事は無いとは思うが、厄介事を招きたくないのであれば、神に関する物や存在への態度、日常の立ち振る舞いには気を付けた方が良いだろう」

 こいつ、めっちゃ説教臭い……

 あ、でも、なんか、この感じ――

 ロボットに組み込まれた特殊なAIみたいで、悪くはないわね!

「それで、あなた、具体的には何が出来るのよ?」

「魔力を与えてくれれば、君の代わりに魔法を使う事が出来る。多少、魔力効率は落ちるが」

「代わりにって、例えば?」

「供給される魔力さえ途絶えなければ、君の意識が無い状態でも自動で防御魔法などを発動し、君が魔法の行使中でも私が別の魔法を同時に発動する事も容易だ。得意としない属性の魔法行使も任せてくれて構わない。その場合は逆に、君が使うよりも魔法効率が若干上がるはずだ」

「ふーん……たしかに便利そうではあるわね。わかったわ! 今後、私の手助けをするって言うなら、今回の事は大目に見ることにするわ」

「それは助かった。これからは君のサポートに尽力すると誓おう」

「そう。せいぜい、こき使ってあげるから覚悟しなさい」

 まだ若干――いや、かなり怒りが収まらないけど、形ある物はいつか壊れるとも言うし、また作り直せば良いか。

 壊れたロボットの姿も、それはそれで味があるし。

 それより、こいつが変な不良品だったとか、妙なバグがあるとかじゃないといいけど。
 
「まあ、今回の事は、あんたを作ったメーカー側の責任も大きいし、製造元の神様にクレームを入れに行かなきゃよね。それには神殿を探さないと……そういえば、あなた、正式名称とか名前はあるの?」

「好きな様に読んでくれても構わないが……そうだな、フェアンベディーグングとでも呼んでくれ」

「長いし呼びにく……んー、じゃあ、ベディって呼ぶことにするわ。私はティアルよ。よろしくねベディ」

「よろしくティアル」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ハイエルフの幼女に転生しました。

レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...