異世界ブンドド ~夢とロマンに生きる王女~

あてだよ

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進境編

第37話 専用ハンガー

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 ルインが馬車の小窓から外の様子を伺っていると、しばらくしてセレイナママンが困り顔で戻ってきた。

「だめね……。初代様のゴーレムを回収できたのは良いけど、民の興奮状態が収まりそうもないわ」

「やはりですか……」

 と、ルインも予想が当たってしまったという風に困り顔を浮かべる。

 東門の外に居た人達は、遠目ながらでも、初代様のゴーレムを見る事が敵ったけど。
 まだ街中に居る人達、その大半が見れなかった事が問題だった。

 それらの人々が、若干、暴動に近い雰囲気を発しているとの事だ。

 一旦、馬車の中へと戻ってきたパパン達も「これはマズイな……」と、苦虫を噛んだかの様な表情で言葉を漏らす。

 まぁ……そりゃ、そうよね。

 見れなかった人達からすれば、不満が爆発してもおかしくはない。

 私だって、本物の憧れのロボット達が、どこかに現れたとなれば、仕事も何もかもをほっぽり出して見に行ったはずだし。
 それが、国や役人の都合で、直前に見れなくなったとしたらブーイングを上げている事だろう。

「父上、このままでは暴動に繋がりかねません。一旦、この場を収めるためにも、後日改めて初代様のゴーレムを披露する場を設けると布告したらどうでしょう?」

「……うむ。それしか無いか」

 外の様子を見ながら最後に戻ってきたリカルド兄さんが、馬車に乗り込みながらそう進言すると、パパン達もそれに頷いた。

「ベディ殿、初代様のゴーレムを、また出す事は可能か?」

「出すだけなら問題は無いが、魔力の供給がなければ長時間は難しいな」

「魔力の供給? それは、動かさずともか?」

 パパンは疑問を口にしたけど、私にはその理由がなんとなく分かった。

「あー……もしかして、維持に必要な魔力量と、収納をしておく魔力量とでは、収納しておく方が楽なの?」

「そうだ。あれは常に魔力的な強化を施していないと、外に出しているだけでも自壊が進んでしまう。それを防ぐ目的もあって収納魔法に入れておく必要がある」

 やはりか。

 私の作ったルークスの様な特殊な物を除けば、普通のゴーレムは結構な魔力を食いつぶす代物だ。
 生成と動かす時だけでなく、その形状や状態の維持にも魔力を必要とする。

 なんせ、初代様のゴーレムは、あの巨体だ。
 その維持だけでも、かなりの魔力を食うのだろう。

 だけど、収納魔法の魔力消費量は、確保する空間や物の大きさで増えるけど、入れておく物の重さや質量では上下しない。
 収納魔法の中でなら、巨体にかかる重力とかの影響も無くせて、自重による損傷も防げるという訳だ。

 おそらく初代様とベディは、一番魔力を消費する生成段階と、持続的に魔力を消費する維持の分を節約するのに収納魔法を活用していたのだ。
 それと、生成にかかる時間と移動コストもかな?

 さすが魔法。
 物理の原理に色々と反してそうな事を簡単にやってのけるわね。

「ううむ……となると、何処かで披露する場を設けるにしても、我ら王族か、近衛の誰かを使わねばならぬか」

「披露する期間にもよりますが、今は遷都の準備も進めねばなりませんし、簡単には決められませんね……」

 ベディの返答を聞いたパパンとルインも困り顔だ。

「父上、父上。その問題はなんとかできると思います」

「まことか? ティアル?」

 私が発したその言葉に、一同の目が集中し、ボリスパパンは前のめりに聞いてきた。

「うん。初代様のゴーレムって、私が作ろうとしてるゴーレムと似た部分があるから、たぶん」

「似た部分? そういえば、ティアルが特殊なゴーレムを作ったという報告は聞いたが、どの様な物なのだ?」

「搭乗型のゴーレムなんだけど。似てるって部分はそこじゃなくて、ゴーレムに装甲……鎧を着せているってとこなの」

「ゴーレムに鎧……? たしかに、初代様のゴーレムは、石材や土ではなく、金属の外殻で覆われてはいたが……」

「初代様が私みたいな魔法を使えたんじゃなければ、あの鎧部分は手作りなのよ。そうでしょ? ベディ?」

「その通りだ。あれの外装は、当時生き残ったドワーフ達の手によって作られた物だ」

 へー
 ドワーフさん達が、あの装甲を作ったのか。

 どんな方法で作ったのかも気になる所だけど、今は置いておこう。

 ともかく、私は初代様のゴーレムを見た時、その全身の至る所に、修繕後の様な物があるのも見つけていた。
 製造や、あの修繕作業が人の手による物だったのなら、私の予想するアレも何処かにあるはずだ。

「という事は、製造とかメンテ……修理とかの時に使う、ゴーレムに負担を掛けないようにするための、専用の台座みたいな物があったんじゃない?」

「ああ。形状的には、あれを座らせておく巨大な椅子の形状をした台座があった」

 ビンゴ!
 
 やっぱり、専用ハンガーみたいな物があった!

「巨大な椅子……? もしかして。アイン領の巨人の玉座でしょうか?」

 私の隣に居たルインが、ベディの答えを聞いて、そんな事を呟く。

「知ってるの? ルイン?」

「はい。我が国の東の領地、アイン領の中央都市の広場に、昔からあったとされる巨大な椅子形のモニュメントがあります」

「ああ! あれか! 僕も東の領地を回った時に見たよ」

 ルインの言葉を聞いて、実際に見たらしいリカルド兄さんも声を上げる。

 現物があるなら話は早いわね。

 おあつらえ向きに、飾るのに適した、椅子の形をしているみたいだし。
 それに座らせて披露すれば、見栄えも良くなるかもしれない。

 アイン領という場所が何処かは知らないけど、それが使えれば一番楽だ。

「それって、こっちに持って来て使えそう?」

「アイン領の玉座をですか? 運搬は……、ベディさんの収納魔法に頼れば可能かもしれませんが――」

「運んできたとしても、あの玉座に初代様のゴーレムを座らせて飾るのは難しかろう。私も何度か見た事があるが、形は保っていても、錆びなどの腐食もひどく、使用に耐えられるとは思えん」

 それなりに有名な物らしく、パパンも知っていたようだ。
 だけど、難しい顔で、使えそうにないと頭を振った。

「そうなんだ……」

 ダメか。
 さすがに、数百年も前の物を当てにするのは、やはり無理があったかぁ……

「じゃあ……新しく作るしかないか」

「作る? あのサイズの鉄の椅子をか? そうか――ティアルの魔法なら可能なのだな!?」

 と、パパンはハッとした様子を見せる。

「数日は掛かると思うけど、たぶん。ベディ、当時のその台座の形状を、さっきの光の魔法の要領で見せてくれる?」

「わかった」

 ベディにそう頼むと、皆が囲むテーブルの上に、ワイヤーフレーム状の椅子みたいな物が浮かぶ様に映し出された。

 形状的には、たしかに椅子だ。
 四脚の頑丈そうな形をしていて、丈夫そうな背もたれや、ひじ掛け等もある。

 普通の椅子と違う点を挙げるとすれば、各所にキャットウォークの様な作業用の足場や梯子があり、背もたれの両端にはクレーンらしき物が設置されている所だろうか。

「なるほど……これに、初代様のゴーレム、アイゼンクーゲルも座らせてみて」

 そう追加注文もすると、ベディは初代様のゴーレムも光魔法で描き出し、椅子に座る様に重ね合わせた。

 幸い、初代様のゴーレムの現物は見たし。
 あれから逆算すれば、大まかなサイズもなんとなくは分かる。

「うーん……この大きさとなると、作るのに……」

「どうなのだ、ティアル? 作れそうなのか?」

「たぶん、大丈夫そう、かな? 急いで四日、余裕をもって六日は欲しいかも」

 そんなに複雑な形状でも無いし、作るだけなら問題は無いと思う。
 
 問題になりそうなのは、私の魔力量と、耐久性のテストを行えるかどうかだ。

「そうか……では、一週間後。城の敷地か、王都内の何処かで披露するという段取りで布告を行うとしよう」

 こうして、改めて一週間後に、初代様のゴーレムを王都民に向けて披露する事と決まったのだった。
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