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迷宮主誕生

全ては報酬次第

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歴史のあるミュラ魔導商店街の中でも、特に古い建物が並ぶ通りを紋次郎は歩いていた。本日は、ダンジョンの報酬を作製する為の宝石と金属を購入しに、デナトスとリンス、そして珍しくメタラギの三人と買い物へやってきていた。まずは宝石を買いにと宝石店を訪れようとしていた。

「う~ん、どうしようかしら。まずはキノピの店でいいかな」
「キノピさんの店なの?」
「そう、古い知り合いよ。あまり高級な宝石は取り扱ってないけど、たまに掘り出し物を置いているし、そこそこ安くしてくれるのよ」

キノピの店は路地に隠れるように建っている小さい小屋のような店だった。俺たち四人が入るとすでに窮屈になるくらいの広さで、店内にはガラスのカウンターがあり、そこの中にいくつもの宝石が置かれていた。
「いらっしゃいデナトス、久しぶりだね、今日は宝石を探しに来たのかい、珍しいものも入荷してるから見ていってくれよ、これなんかどうだい、いいものだろう?、買うかい? それともこっちはどうだい? あ~黄色い宝石は嫌いなんだっけ? じゃーこっちなんかいいんじゃないかい、まー色々僕が言うと迷っちゃうよね、じゃー少しゆっくり考えるといいよ」
店内に入ってすぐに、すごい勢いでマシンガンのごとく話してきた、50センチほどの、小人のような小さなおじさん。この人がキノピさん。後で聞いたのだが、レプラコーンって種族で、話好きの陽気な人種だそうだ。

「キノピ。特に安くていいものを探してるの、掘り出し物はないかしら」
「あるよあるよ。とっておきがあるんだ。これはいいものだよ。ちょっと待ってね、これはね、デナトスだから見せるんだよ、本当にいいものだから特別なんだ、常連さんしか見せないんだ、ほら、これだよこれ、まー見てくれよ、本当にいいものなんだ、どうだ、すごいだろう? 買うかい?」
本当によくしゃべる。でも見せてくれた掘り出し物は確かにいいものらしく、デナトスは真剣にそれを見ていた。

「これはトルマリンね、しかもピンク・・すごいわ、良質の魔力を感じる」
「すごいものなの?」
俺はよくわからないので、隣にいたリンスに小声で聞いた。
「トルマリンは通称、雷石とも呼ばれる雷撃系の魔力を多く含む宝石です、しかもピンクはその中でも強い力を持つ色なんですが、産出量が少なく、希少な宝石なんです」
そうなんだ・・でもそんな希少なら高そうだな・・
「それでこれはおいくらかしら?」
「そうだね。デナトスだからな、安くしたんだけど、僕も商売だからね、ギリギリ元は取らないとやっていけないんだ、その辺はわかってくれると思うけど、それで値段を決めたんだ、だから悪く思わないでほしいんだよ。それでも他より安いんだよ。それは間違いないんだ、調べてもらってもいいよ」
で、いくらなんだ、と、突っ込みたくなったのだが辛抱強く最後まで話を聞いた。すると最後の最後に値段を言ってくれた。
「10万ゴルドだよ」
「買ったわ!」

よほど安いらしく、デナトスは即決で決めた。他の宝石も見せてもらい、ファイヤーアゲートと呼ばれる宝石の二級品を3つと、三級品のオパールを5つ購入した。店を後にする時、ピノキにこれまた長いお礼を言われたのだが、あまりにも長すぎてその途中で店を出てしまった。
「もう一軒回りたいの、いいかしら?」
「全然構わないよ、次はどんなお店だい?」
「ラフルジュールってお店よ」
それを聞いても俺はピンとこないのだが、リンスが強く反応する。
「デナトス、ラフルジュールって高級店じゃない。この後、メタラギの金属も買わないといけないから、もうそんなに予算ないわよ」
「そうじゃぞ。宝石だけでは良い魔法装備は作れんぞ。わしの金属も忘れるなよ」
「わかってるわよ。ちゃんとその辺は考えてるわ」

そこは確かに高級店というだけあって、見るからに高い店のオーラがヒシヒシと出ていた。扉の前に立つと、自動で開く魔法の扉をくぐって店内へと入っていく。入店するとすぐにエルフの女店員が近づいてきた。
「いらっしゃいませ。接客を担当しております、ミラフと申します。本日はどのような商品をお探しでしょうか」
「あっ、シュラザいる?」
「シュラザと申しますと当店の店主でございますね、失礼ですがお客様はどちら様でしょうか」
「デナトスが来たって言ってもらえばわかるわ」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
ミラフという店員が裏に消えてしばらくすると、美しい金髪のエルフの女性が足早に出てきた。
「デナトス! 何の用よ。ここには来るなって言ってるでしょう」
「知り合い?」
「私の姉よ」
「姉? え? でもデナトスはダークエルフで彼女は普通のエルフに見えるけど・・・」
「違うわよ。シュラザはダークエルフよ」
「デナトス!」
「黒い肌が嫌いで、魔法で肌の色を変えてるのよ」
「いい加減にしなさいよあなた! 用が無いならサッサと帰りなさいよ」
「宝石の研磨破片が欲しいの。格安で売って頂戴」
後で詳細を聞いたのだが、ここの店では、エンチャント用の宝石とは別に装飾用の宝石も取り扱っていた。装飾用の宝石は見た目が重視されるので、宝石を大きくカットして使用する、その時に宝石の破片が大量に出るのだ。デナトスはそれを格安で売ってもらおうとしている。
「どうして格安で譲らないといけないのよ。欲しいなら正規の値段で買いなさい」
「世界の星々の煌きより、あなたの瞳の光は、私の心を捕まえて離さない・・むぐぅ・・」
顔を真っ赤にしたシュラザは、デナトスの口を手で押さえつけて喋れなくする。
「あんたどうしてそれを知ってるのよ・・・」
「ふっ・・そりゃ~姉妹ですもの・・もっと色々知ってるわよ」
「ぐっ・・・」
シュラザの美しい顔が何やら険しく歪む。
「可愛い妹に、安く譲ってくれる?」
「どこが可愛いのよ・・この悪魔が・・・」


「信じられません・・一級ダイヤモンドの破片が1キロ20万で買えるなんて・・・」
リンスは素直に驚いている。聞くところによると相場の百分の一の値段らしい。
「ま・・ハタから見ていると、ほとんど脅迫だけどな。ところで世界の星々のって一文はなんだったんだ?」
「あれは昔、シュラザがまだ、うら若き乙女だった頃に書いた日記の一文よ」
「あ・・なるほど・・」
そんな秘密の日記の一文を暴露されてはたまったもんじゃないだろう。お姉さんも可哀想に・・


「これじゃこれ、こいつを探しておったんじゃ」
メタラギが手に持ち喜んでいるのは、リンダル銀という魔法金属で、強度は鋼を上回り、皮のように軽い上級金属である。しかし加工が難しく、熟練の鍛冶屋でなければ簡単な装備も作ることができない癖のある素材で、その性能にしては比較的安価であった。この金属をメタラギは20キロも購入した。
「リンダル銀が20キロで50万なら悪くはないでしょう。どうします、他にも購入しますか?」
リンスの問いに、メタラギは少し迷い気味に答えた。
「そうじゃのー、もう一つ欲しい金属があるんじゃが・・ここにはないのぉ~」
「ちなみになんという金属ですか?」
「エイデルタイトじゃ」
「それはまたレアな金属ですね・・」
エイデルタイト・・通称気まぐれ金属。同じ職人が同じように使っても決して結果が同じにはならない不確定要素が強い素材。ごく稀にすごい結果を生むこともあるが、ゴミ装備を生成してしまうこともよくある。ギャンブル性が強いことで、まっとうな職人は嫌う素材の一つでもある。
「もしかしたら私の知ってる店にあるかもしれません。ちょっと行ってみますか?」
リンスの提案に、メタラギは嬉しそうに了承する。

リンスが連れてきた店は街のはずれにあった。二本の大きな樹が二つ並ぶ小高い丘にひっそりと建っていた。商店というよりは、山小屋といった感じの雰囲気である。

店内には、あらゆる物が無造作に置かれていた。これは商店というより・・軽いゴミ屋敷といった感じがだろうか・・
「バルキス! どこに埋まってるの?」
リンスがそう呼びかけると、部屋の隅にあったゴミのような塊がゆっくり動き出した。
「なんじゃ・・どこの誰じゃ」
「リンスよ。ちょっと探し物があってきたの、エイデルタイトって金属なんだけどあるかしら」
「おっ・・おっ・・あるぞ」
バルキスはモソモソと別のゴミの塊のところに行ってそこを掘り出した。そして何かを見つけたのか、それを持って近づいてきた。
「これじゃろう」
それは青白い塊であった、メタラギは手に持ち、嬉しそうに答える。
「これじゃ~~これが欲しかったんじゃ」
「それおいくら?」
興奮して喜んでいるメタラギに変わってリンスが値段を聞く。
「まー5万じゃの」
「それではこれで」
そう言ってリンスはお金を支払った。バルキスはニタニタしながらそれを懐にしまう。
「これでまた酒が飲めるわい。そうだリンス、お前確か三つ目の鬼を探しておったの?」
それを聞いたリンスの表情が今まで見たことないような恐いものに激変した。
「何か知ってるの?」
「いやのぉ、このあいだここにきた男の腕に、そんなエンブレムを見つけてのぉ」
「どんな男だった?」
「片眼のヒューマンじゃった。見たことない奴じゃったから、この辺の者ではないじゃろう」
「何か言ってなかった! 何を探しに来たの?」
「ブフの結晶石を探しておったぞ、まー無口な男だったからのぉ、それ以外は何も喋っとらんわい」
「そう・・ありがとう」
リンスは悲しそうな複雑な表情をしていた。三つ目の鬼が何かはわからないけど、彼女にとって、とても重要なことなんだろう。
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