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ダンジョンウォー

迷宮主の死闘

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ヴァルバロッサは再び青いブレスを吐き出す。先読みでそれを予想していた紋次郎は簡単にそれを避ける。しかし、そのブレスが避けられるのは、ヴァルバロッサも予測していた。紋次郎が避けた場所へ、今までの動きでは想像できないくらいの速さで接近してくる。おそらくヴァルバロッサは本来の動きを見せていなかった。完全に油断した今、その力の片鱗を見せてきたのである。

一瞬で間合いを詰められた紋次郎はすぐにそこから離れようとしたが、ヴァルバロッサの爪が、紋次郎の肉を引き裂く方が早かった。肩から腹にかけて大きく切り裂かれる。大げさなほどの出血が空中を舞う。

紋次郎はうめき声をあげながら、逃げるようにヴァルバロッサと距離をとる。この傷はやばい・・傷口から血が止まらない・・ものすごい勢いで赤い液体が流れ落ちていく。このままでは出血多量で死んでしまう・・まあ、その前にあの悪魔の餌食になりそうだけど・・・そんな絶望的な状況の中、頭にニャン太の言葉が響いてくる。

紋次郎・・今から言う言葉を・・その剣に向けて言うんだ・・いいね・・

わ・・わかったよニャン太・・なんて言えばいいの・・

意味はわからなかったが、ニャン太の指示通りにその言葉を口にした。
「ハイエスト・プレイバック・ヒーリング」

その言葉を言い終わると、紋次郎の剣が激しく光る。そして紋次郎の体も淡い光に包まれた。

「か・・・体が・・」
紋次郎の傷口がすごいスピードで塞がっていく。それは最高峰の回復魔法であった。

それを見たエミロも驚愕の声を上げる。
「あの人間はあんな上位の回復魔法も使えるのか・・・」

紋次郎・・次はホーリーオーラとアシッド・プロテクションを続けて唱えるんだ・・その後はあの青いブレスもそれほど恐れる必要がないし・・黒い闘気にも攻撃を防がれないよ・・

ニャン太に言われるままに、続けてその二つの言葉を唱える。すると、紋次郎の周りに何重もの光の膜が張られる。それを惚けるように見やると、紋次郎はニャン太の言葉を信じてヴァルバロッサに突撃する。

危険を感じたヴァルバロッサは紋次郎の攻撃を避ける。大きく振りかぶった紋次郎の剣は、それを避けようとしたヴァルバロッサの腕を切り落とした。黒い闘気は、紋次郎が纏っているホーリーオーラによって無効化されていた。

腕を切り落とされたヴァルバロッサは怒り狂い、青いブレスを吹きまくる。それが紋次郎の足にかするが、ニャン太の言った通り、それが紋次郎の体に何かしらのダメージを負わすことはなかった。

ブレスが通用しないと察したヴァルバロッサは、その途轍もない身体能力を解放する。大きな体がさらに膨張すると、ものすごい加速で紋次郎に襲いかかる。

すぐに紋次郎はターボを発動して、それを迎え撃つ。ヴァルバロッサのその超速に、ターボ状態でギリギリ対応できた。鋭い爪が何度も触れそうになるが、なんとか避けきることができた。隙を見て攻撃を試みるが、敵の猛攻の前には反撃は難しく、たまらず後ろへ大きく後退する。

エミロがヴァルバロッサに指示を与える。それは戦いを終わらす為の秘策であった。ヴァルバロッサの体が赤く光り始める。それは爆発寸前の爆弾ようであった。大きな雄叫びをあげたヴァルバロッサは自らの体を爆破させるような勢いで闘気を放出する。そして最終攻撃を放とうとしていた。

その行動を見ていたニャン太は途轍もないその気の放出に危険を感じた。すぐに紋次郎に言葉を伝える。

紋次郎はニャン太に言われるままにその言葉を口にした。
「パーフェクト・フィールド!」
虹色の防御壁が紋次郎の周りに出現する。そこへヴァルバロッサの攻撃が放たれた。それはまさに闘気の波動砲であった。広範囲に放たれたその攻撃は避けることは不可能であったであろう。しかし、今、紋次郎の前には強力な防御壁が出現している。まともに受けていれば、おそらく破片も残さないくらいに粉砕されていたであろうその攻撃を、完全防御の防御壁は激しい稲光と爆音を響かせながら弾き飛ばした。

この攻撃で勝負を決めるはずであったエミロはさすがに言葉を失う。完全防御を無詠唱で発動したあの人間は何者なんだ・・そんな真似はこの私にもできないぞ・・

「紋次郎! 今だ! ヴァルバロッサは気を放出しすぎて行動できない!」

ニャン太のその声を聞いて、すぐに紋次郎は動いた。速足からどんどん加速していき、大きく上に振りかぶった剣を、ヴァルバロッサの頭上に叩き込んだ。

ニャン太の言葉通り、ヴァルバロッサはそれを避けることができず、ゴット級のその剣に、真っ二つに切り裂かれる。

これは戦いの終焉を意味していた、もはやニャン太とシンクロ状態のエミロは身動きができない状態であり、なんの抵抗もできない。紋次郎は静かにエミロへと歩みを進めた。
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