【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

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変わり始めた日常

【05-05】カーチェイス

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 部屋を出た僕は今、訓練場に到着した。
 さっきも通った長い道のりを歩くのは精神的に疲れた。なぜこんなに長くしたのかと抗議したいと心底思ったほどだ。
 歩いている途中に外来者専用のゴルフカートのような車が僕の横を通っていた。入学以来何度かだけ見たことがあるけど生徒だけでなく先生が乗っていることすら見たこともない。理由があるのだろうか。僕はそんなことを考えながら道を歩く。
 しばらく歩いたが肉体的にも疲れてきた。校舎を出た時と比べれば歩く速度も格段に落ちているだろう。僕は時間を確認する。
 
 「黒川、今何時?」
 
 僕が呟くとポケットから返答がある。
 
 「十五時三十四分です」
 
 ポケットに入ったままでも返答が来た。こんな高性能なAIを使っていればAIがあった方がいいと思うようになるのだろう。時間的には微妙な時間だ。いつもなら反応速度訓練が終わっていてもおかしくはない時間だ。今日の集会はいつも通りの七時開始。内容は何だろうか。間に合うように訓練を終わらせないとな。僕は歩いた。
 
 
 
-------
 
 
 
 ようやく反応速度訓練用施設い着いた。中に入り迷わずエレベーターで四階を目指す。僕が使うことが許されている訓練室の認証器にVRデバイスを当てて認証をする。ドアのロックが外れた。
 中は変わり映えのない訓練室だ。僕が使っていない間に誰かが使うこともあるだろうから、ここに物を置いて行かないようにしているし、使ったものは最初にあった場所に戻すようにしている。なので、最初は言った時と全く同じになっている。
 
 僕は時間がないので、カーディガンを脱ぎパソコン型インターフェイスを操作しようとして、昨日の説明を思い出す。パソコン型インターフェイスの横にある認証器にVRデバイスを認証させる。すると、黒川が音声を出す。
 
 「若様、これより反応速度向上訓練を開始します」
 
 その音声の後、訓練用ステージが動き出し訓練用の機械が設置されていく。こうなるのか。昨日はコーチが操作していたからVRデバイスを認証したのは初めてのことだ。一々設定しなくていいのは楽だ。
 いつものディスプレイが設置されたのを見て、僕はそのディスプレイの前に行き、息を整えた僕は言う。これでいいはずだ。
 
 「始めてくれ」
 「かしこまりました」
 
 僕の予想通り黒川が答え、訓練開始のブザー音が聞こえてくる。
 
 「黄色」
 
 聞こえてきた音に合わせて腕を動かす。二週間続けた訓練だ。最初よりは少しだけ早くなっているはず。僕は続けて発せられる音声に従って次々とディスプレイ型タッチパネルをタッチしていく。
 
 数十回続けられた後、再びブザー音が鳴り、一セットが終了する。
 
 「お疲れ様です。三十秒の休憩の後、次のセットが開始されます」
 
 腕を下して一息ついた僕の耳に、黒川の容赦ない音声が聞こえてきた。いつもは自分のペースで機会を操作できていたのでセット間のインターバルなんて決めてなかった。自分の気分で開始を決めっていただけに黒川の知らせに生越戸惑ったが、すぐに理解する。別に問題があるわけではないので訂正させる必要もない。ここで僕がもっと時間が欲しいと言えば時間が増えるかもしれないが、供しないといけない事ではない。とりあえずやってみることにした。
 
 十セットが終わったところで黒川が訓練の終了を告げる。
 僕は息を吐き、ステージからソファーの方に行って座る。
 
 「次の訓練の準備をします。よろしいでしょうか」
 
 黒川が許可を求めてきた。僕は許可を出す。
 
 「お願い」
 「かしこまりました」
 
 ステージ上の機材が動く。僕はソファに座りながらそれを眺めていた。ここ二週間の訓練よりも反応訓練の時間が減っているみたいだ。以前は長すぎて飽きてしまっていたけど今日は飽きず終わりそうだ。
 
 「準備が終わりました。次の訓練を開始しますか?」
 
 黒川の渋い音声を聞いて僕はソファーから立ち、訓練用ステージに向かう。
 
 ディスプレイの前に立ち、言う。
 
 「始めて」
 「かしこまりました。訓練を開始します」
 
 僕の声を認識したことで訓練が開始される。
 ディスプレイに表示された光点をタッチするだけの訓練。簡単な様に見えるが、集中力を必要とする訓練だ。少しでも気を抜くとそれがタイムに現れるので気を抜くことができない。タイムが余りにも酷いとやり直しになることもある。僕も一度だけだがやり直しになっている。
 
 僕は集中力を切らさないように、現れた光点へと最速の動きでタッチする。途中で現れる複数の光点もできるだけ早く時間のロスがない手順を考えて動く。黙々と手を動かして数十分、終了のブザーが聞こえてきた。
 
 「終了です。若様」
 
 僕は手を下ろしソファーに座りに行く。ソファに座った僕は腕を伸ばして体を崩す。
 
 「疲れた」
 
 いつものやってることだけど疲れる。筋肉トレーニングみたいに徐々に楽になっていくなんてことがないのでいつも同じぐらい疲れるのだ。
 
 「ふぇー」
 
 つい気の抜けた声まで出てしまった。
 
 「お疲れ様です。若様。今日の反応速度訓練は終了です。次の訓練はマルチタスク訓練用施設で行われます。移動しましょう」
 
 黒川に促される。僕はVRデバイスをパソコン型インターフェイスから外してパソコン型インターフェイスの電源を落とした。
 訓練場を出てから反応速度訓練用訓練施設を出る。次の訓練はマルチタスク訓練用施設だ。僕は歩き始めた。
 
 
 
-------
 
 
 
 反応速度訓練用施設よりは小さいマルチタスク訓練用施設についた僕はさっきと同じように訓練室に向かう。スケジュールど通りであれば今日の訓練は昨日と同じ訓練だ。
 さっきと同じようにVRデバイスをパソコン型インターフェイスの認証器に当てる。そのまま黒川の指示に従って訓練を開始する。
 昨日の最初にやっていた運転訓練はしない。最初からカーチェイスだ。運転の仕方の確認とか昨日の感じを思い出すまでの時間のうちに十回以上大破させられた。車の炎上はもちろん助手席に座る仲間が撃たれるのもすでに慣れてしまった。
 
 今も僕は車を運転している。入り組んだ住宅街で敵を置き座ろうとするが全くうまくいかない。今回の敵は三台。未だについてきている。もうすぐ住宅街が終わって橋に出てしまう。橋に出れば直線だ。そうなれば苦戦は必至。僕は橋手前の曲がり角で待ち伏せをすることにする。一台でも動けなくなってくれれば御の字だ。
 
 「ヘイ! 相棒! なに止まってんだ! 敵にランチャーを持っている奴がいる! はやく動け!」 
 僕が曲がり角で曲がってきた敵を狙える絶好のポジションに止まった瞬間に助手席に座る見方が僕に言ってきた。
 
 「あァ!? 最初から言えよ!」
 
 聞こえないのはわかっているが僕はついそう言い放ってからすぐに半クラッチをしてアクセルを吹かす。音が出てしまうが仕方ない。今のところ確認できていない情報だが仲間が言っていることに偽りはないだろう。バッグのまま橋の方に移動し、住宅地を橋の間の空いた空間で反転して一気に橋を進む。その間にも敵の車両は銃弾をばら撒きながら僕たちの車へと突撃を敢行してくる。
 それにしても本当にランチャーなんて持ってるのだろうか。今、敵が使っているのはサブマシンだと思われる。三台とも助手席と後ろの席の窓から三人が体を乗り出してバラバラと撃ってくる。対してこっちは助手席に座る仲間だけ。持っているのはハンドガン。戦力の差が大きすぎる。せめてフルオートの武器にしてほしい。まあ、逃げ続ける訓練で敵を倒すのはよくないということだろうか。
 直線の橋をアクセル全開で走り抜ける。橋の真ん中辺りを通過したところで助手席に座る男が声を荒げる。
 
 「ヘイ! ランチャーが来るぞ!」
 
 僕はバッグミラーとサイドミラーから敵の車両を確認しようとする。三台とも車の天板あたりから人の上半身が生えている。その上半身は長い筒のようなものを持っていた。ランチャーだ。まずい。これまでの経験で車の上に人が出たと同時に敵の攻撃の勢いが増す。
 
 「来たぞ! 避けろ!」
 
 助手席から声が聞こえてくるがせめてどっちから攻撃が来るのか行ってほしい。僕はハンドルを左右に切ってジグザグ走行をする。敵の照準を逸らすためだ。だが、しぐ座具に走行するということは直進するよりもロスが生まれてしまう。次第に後続との差が縮まっている。
 
 ――ドンッ!!!
 
 後方で発射音が聞こえてきた後、数秒後に破裂音が聞こえてくる。全部後方の何かに当たったみたいだ。今の僕にそれを確認するほどの余裕はない。ランチャーの砲撃は回避することには成功したけど飛んでくる銃弾の嵐も止んではいない。
 橋を渡り終えるまでに僕の車は、数度の攻撃によって背面の窓ガラスが割れている。さらにそこを通り抜けた銃弾が前面の窓もすでに割っている。
 橋を渡り切ればオフィス街だ。住宅街よりと比べると微妙だが橋のような直線よりはマシだ。なんとか橋を渡り切りたい。
 
 「次が来るぞ!」
 
 隣からの警告を聞いて僕はバックミラを-見る。長い筒を構えた人型が三人見える。またか。あと少しなのに。
 僕はジグザグに動く。
 
 「来た! 避けろ!」
 
 隣から同じセリフで警告がされる。僕は当たらないことを祈ってハンドルを切る。直線なので隠れる場所がないのは非常に痛い。さっきよりも僕の車と敵の車の車間が近づいているためさっきよりも大きくジグザグする。
 
 「クソ! 当たるぞ!」
 
 耳を貫くような不快音と座席が激しく揺れる。当たったみたいだ。僕は頭を振って周囲の状況を確認しようとするが煙と炎でよく見渡せない。なんとか見る事が出来た計器メーターでは速度が下がってきている。僕はアクセルを全開で踏むが速度は上がらない。僕はハンドルを左右に切るが動いていなければ意味がない。後ろを振り向けば赤い炎がゆらゆらと揺らいでいて敵の姿が確認できない。出火しているみたいだ。ここまでかな。僕の耳にランチャーの発射音が聞こえてきた。風を切る音の後に爆発音が聞こえてディスプレイは暗転した。
 暗転したディスプレイには訓練終了の文字と今回の訓練のスコアが出た。僕はヘッドマウントディスプレイを外して座席の背もたれに寄り掛かった。この訓練は毎回終わった後にすごい疲れる本当に疲れた。
 
 「お疲れ様です。今の訓練で今日の分は終了しました」
 
 黒川の声で今日の訓練の終了を知る。
 
 僕は大きく息を吐いた。疲れた。僕はゆっくり目を閉じる。このまま寝てしまいたい。しかし、黒川の声が邪魔をする。
 
 「六時三十分を過ぎています。若様、急いだほうがよいのでは?」
 
 僕は七時に食堂に行かないといけないのを思い出した。僕は疲れた体を動かしてVRデバイスを回収して訓練室を出た。
 
 
 
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