【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

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新たな日常

【06-07】合宿前日④

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 作業を開始してから二時間ぐらいたっただろうか。
 僕たちは只管機材の確認を行っていた。その最中にも智也とイットク先輩は何度もこの部屋に来て次々と機材を運んでいった。
 
 「あと少しですね」
 
 宮崎さんがそう言った。
 
 「そうですね」
 
 佐伯先輩が同意し、僕も頷いて同意した。
 
 「あと少しだけ頑張りましょう」
 
 宮崎さんの掛け声と主に最後のスパートをかける。
 
 することは二つ。
 宮崎さんの持つ備品リストと実際にあるものを照らし合わせる事。今見ているのはなにかのコードだ。リストには予備と書かれている。このコードに貼られているシールにある管理用の番号をリストと照らし合わせる。その後、コード事態の破損がないかの確認をする。実際に繋げてみる事は出来ないので目視でのチェックだ。この二つが終わると、宮崎さんが備品リストの確認済みの欄をチェックする。
 これが一連の作業だ。
 今のコードは予備の物だったので部屋の奥に置いておく。これが予備の物でなければリストにあるコードを必要とする設置場所をイットク先輩か智也に伝えて持って行ってもらうことになる。
 
 単調な作業を続ける事さらに一時間。僕たちはようやく確認作業を終えることができた。
 あと少しだと思って作業をしていたが、思いのほか小物が多く確認作業に手間取ってしまったのだ。
 
 「終わりましたね。お疲れ様です」
 「お疲れ様です」
 「お疲れ様です」
 
 僕たちは労いの言葉を掛け合う。
 
 「去年は運ぶ方だったんですけど、こっちは大変ですね」
 
 佐伯先輩が着けていた軍手を外しながら床に腰を下ろした。
 
 「運ぶ方も大変だったでしょ」
 
 宮崎さんは軍手を外してポケットに入れ、腰に手を当てていた。
 
 「でも、運ぶだけの方が楽でしたよ。エレベーターも荷台も使えますから」
 
 荷台も使えるのか。この部屋に入ってくるイットク先輩たちは手ぶらで来るから、てっきり手で持ち上げていくのかと思ってた。
 確かに、荷台とエレベーターがあれば運ぶのも楽だろうけど、少なからず力を使うわけで、僕からすれば確認作業の方が楽そうに思えた。
 
 「堤君はどうですか? 大丈夫ですか?」
 
 僕が外した軍手を丸めていると宮崎さんが声を掛けてきた。
 
 「はい。それほど疲れていません」
 「じゃあ、次の仕事も張り切ってできますね」
 
 既に次の仕事が決まっているみたいだ。三鴨さんはVR接続の設定と確認だとか言っていたけど。
 僕が両省の返事をしようとすると、僕のお腹が空腹の意を示した。
 
 「そう言えばお腹空いたな」
 
 佐伯先輩は両腕を後ろに伸ばしてくつろぎながらそう言った。
 
 「そう言えば、もう一時を過ぎてますね。先にお昼にしましょうか。この下の部屋になってるのでお昼を食べてから次の仕事に行きましょうか」
 
 宮崎さんがそう言って部屋の中を片付け始めた。備品の整理は終わっているが確認のために使うのであろう道具が出しっぱなしになっていたのでそれを片付け始めたのだ。僕もそれを手伝う。
 巻き尺だとかコードをまとめるためのビニールタイだとかは分かるのだが、検電用のテスターなんかは使うのだろうか。結局使わなかったが。
 僕が浮かんだ疑問を無視しながら片づけをしていると丁度部屋のドアが愛ってイットク先輩たちが入ってきた。
 
 「終わりました。次はどれですか?」
 
 イットク先輩が言った。
 
 「あ、終わりましたよ」
 
 答えたのは佐伯先輩だ。先輩も道具の片づけをしていた。
 
 「この片づけが終わったら昼食を食べることにしたから待っていてくれる?」
 
 片付けの手を止め、イットク先輩の方を向いた宮崎さんがそう言った。
 
 「分かりました。じゃあ、使ってた荷台を片してきますね」
 「はーい」
 
 宮崎さんの指示にイットク先輩が答えて、宮崎さんは緩い口調で了承した。
 
 それから数分としないうちに片づけが終わり、イットク先輩と智也が戻ってきたので、五人で昼食を食べに移動を始めた。
 
 
 
-------
 
 
 
 食堂は僕たちが作業していた部屋の下。一階エントランスをエレベーターから見て右にある通路の先だ。
 僕たちはエレベーターに乗って下に降り、食堂を目指した。
 
 食堂は一般的なものと変わらず、料理を受け取るカウンターと食べる場所がある部屋だった。
 ただ、校舎や寮にある食堂とは違っていた。一番の違いは椅子とテーブルの質。丸椅子と丸テーブルではない。
 背もたれのあるしっかりとした椅子に白いテーブルクロスの掛かった木製のテーブルが置かれている。テーブルクロスも汚れがなくきれいな白に見える。他にも奥の方に、校舎の食堂の二階にあるようなソファも置かれていて、一人でお茶を楽しむこともできるみたいだ。
 というかなんか一人ケーキを食べている人がいる。誰だろう。
 
 「今日は前日なんで簡単な物しか用意されていませんが、量はあるはずですからお腹いっぱい食べてくださいね」
 
 食堂の入り口で中の観察を知っていた僕は、宮崎さんの声を聞いて思考をやめる。宮崎さんはすでにカウンターの方に歩き始めていた。その後ろを付いて行くイットク先輩たちの後を僕も付いて行く。
 
 「佳子さん!」
 「おお、浩子ちゃん! お疲れさん。後ろはー……、田村君と佐伯君だね。他二人は知らない子だね。一年生かい?」
 
 前を歩いていた宮崎さんがカウンターの奥にいる女性に大き目な声を掛けるとその女性が大きな声で返してきた。優しそうな外見をしていながらもその声には力には張りを感じる。
 宮崎さんに『佳子さん』と呼ばれていた女性は、桶に入ったご飯を手で丸めていたみたいだ。おにぎりかな。女性は手に持っていた出来立てのおにぎりに海苔を巻くと長方形の箱に並べるように入れた。箱にはおにぎりが一列に並んでいて、箱の三分の二程が埋まっていた。手にはめていたビニール手袋を外しながら僕たちの方に歩いてきた。
 
 「そうなんですよ。この二人が実験組の一年生です。こっちが望月君で、こっちが堤君」
 
 宮崎さんは『佳子さん』に僕たちの名前を教えていく。とりあえず僕の名前が言われたの似合わせて軽く会釈しておいた。
 
 「そうかい。私は奥田《オクダ》佳子《ケイコ》。主に選手たちの食事を管理してるよ。二人とも一通り調べてあるけど、食べちゃダメなものがあるなら言っといてね」
 
 宮崎さんから僕たちの紹介をされた奥田さんは僕たちの方を向いて、そう言ってきた。スタッフには食事を管理する人までいるのか。今まで考えたことがなかったけど必要なんだろうか。
 
 「佳子さんは管理栄養士の資格も持ってるし、ある程度の我がままは聞いてくれるから、思ったことがあったら言っとくといいよ」
 「わかりました」
 
 宮崎さんが僕たちに補足する。それに僕と智也は頷づきながら返事をした。といっても、僕は基本アレルギーもないので、食べられないものがない。だから、僕は了承の返事をしただけで何か言うことはしなかった。
 
 「宮崎さん。時間もないんで昼食にしましょう」
 
 僕たちが返事をして話が一段落したと判断したのか、佐伯先輩が宮崎さんに軽い口調で言った。
 それを聞いて、奥田さんが僕たちに笑いながら話す。
 
 「まだお昼食べてないんだね! みんな普通でいいかい?」
 
 奥田さんが僕たちに聞くが、何を基準にしての普通が分からなかった僕はそのまま肯定の返事をしておいた。
 
 「あ、俺は多めでお願いします」
 「私は少な目でー」
 
 食事の量を聞いていたみたいだ。イットク先輩が多めを頼み、宮崎さんが少な目を頼んだ。二人の要望を聞いた奥田さんがカウンターの奥のさっきまでおにぎりを握っていた場所まで歩いていく。
 
 「はいよ! 今日は合宿前日のお昼だからね。おにぎりと味噌汁に漬物だけだよ!」
 
 奥田さんはそう言って、今日の献立を言った後、続けて聞いてくる。
 
 「おにぎりの具はどうする? あるのはおかか、梅、昆布の三つだけどどれにする」
 
 僕たちはその問いに一人ひとり答えていく。僕は昆布を府たちにしてもらった。おにぎりはデフォルトで二つになっているみたいだ。
 
 「はいよ。これが浩子ちゃんで、田村君、堤君、佐伯君で、最後が望月君ね」
 
 僕たちは言われた順にカウンターに乗せられた昼食の乗ったトレーを受け取っていく。僕も味噌汁がこぼれないように慎重に受け取った。
 
 「じゃあ、味わって食べてね。後、今日の夜は少し豪華になってるから期待してて」
 
 僕たちは奥田さんにお礼を言って、空いた机を探して座った。といっても、食堂にはほとんど人がいないので僕たちはカウンターからすぐのテーブルを五人で囲うことになった。
 
 「じゃあ、いただきましょうか。いただきまーす」
 
 全員が座ったのを確認した宮崎さんが食事の挨拶をする。それに合わせて僕たちも挨拶をしてから食べ始めた。
 素手で握られたおにぎりは程よい暖かさをしていてぬくもりを感じるおいしさだった。まばらに振られた塩と昆布の味もマッチしていてとてもおいしかった。味噌汁も合わせると『ザ・日本食』といった感じである。これが昼食として成り立つのも僕が日本人である証拠だろう。
 余りのおいしさに僕の思考が彼方へ飛んでいきそうになっていると宮崎さんが僕たちのこの後のことを話す。
 
 「聞いてるかはわからないけど、この後は四人にVR接続をしてもらいます。主に、接続の確認と専用のサーバーの状態確認ですね。それが終われば四人の今日の仕事は終わりになります。田村君と佐伯君は去年もやったからわかってるよね」
 「はい」
 「大丈夫です」
 
 専用のサーバーの確認か。確か、二階にサーバーが置かれているって言ってたっけ。先輩たちが肯定していく。僕も頷いておいた。
 
 「じゃあ、さっさと食べちゃいましょう。もちろんちゃんと味わいながらね」
 
 宮崎さんはそう言って手に持ったおにぎりに齧り付いた。
 それを見ながら僕は味噌汁に手を付けた。舌を軽く火傷した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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