【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

文字の大きさ
68 / 101
新たな日常

【06-09】合宿前日⑥

しおりを挟む
 〈それでは次は簡単な戦闘を行ってもらいます。こちらで適当な仮想敵を出現させるのでそれと戦ってみてください〉

 宮崎さんがそう言い終わると同時に僕の頭には『仮想敵』とは何だろうか、という疑問が生まれ、次の瞬間には疑問が解消した。

 僕たちの周り距離で言えば五十メートル以上は軽く空いているだろう位置に木の人形が現れた。カンフー映画で見るような木人というやつだろうか。それをゴーレムにしたような形をしている。あれが仮想敵か。数は……数えきれない。
 僕が納得していると近くに寄ってきていたイットク先輩から僕らに言った。

「あれが仮想敵だ。今回は俺たちだけであれの相手をしないといけないみたいだな」

 今回は、ということは全会は違ったのだろうか。

「強さ的にはどんな感じなんですか?」

 佐伯先輩がイットク先輩に聞いた。佐伯先輩は知らないみたいだ。

「強さ的には最初の街のゴブリンと同程度だ。連携もしないから一対一であれば負けることはないだろう。あと痛覚の設定がなかったはずだ。怯むようなことはないと思っておいた方がいい」
「他には?」
「そうだな。確か余り複雑な行動はしてこなかったと思う。だが複雑な行動をしないために倒れた味方を乗り越えてくることがあったはずだ。気を付けておいてくれ」

 僕はイットク先輩の説明を聞いて頭を縦に振る。

「どうやって戦いますか?」

 今度は智也がイットク先輩に言った。

「互いの背を守る形で戦えばいいだろう。おまえたちもゴブリン程度であれば対処できるだろう」
「はい」

 智也は頷いていた。だが僕は頷けない。あの仮想敵がゴブリン程度と言ってもあれは木だ。いつも僕がやっている首を食い千切るだけでは止めにならない可能性がある。僕は返事を千図に少し考えていると、その様子に気づいた佐伯先輩が聞いてきた。

「堤。何か気になることでもあるの?」

 僕は少しためらいながらも言った。

「はい。もしかすると僕では対処できないかもしれません」
「対処できない……か」

 一肋先輩が少し驚いたような顔をして僕を見ている。
 まあ、強化選手に選ばれるようなプレイヤーが序盤のゴブリン相当の敵に苦戦するかもしれないとなれば妥当な反応か。

「僕はいつもゴブリンの首を狙うんですが、あの敵にも首でクリティカルが出るんでしょうか?」

 僕は懸念事項について聞いてみる。

「なるほどな。おまえの疑問はもっともだし、言いたいことも大体わかった。それについては大丈夫だったはずだ。あれは見て目の通り木人を元にして作られている。その用途も訓練に的にすることが主だ。人型をしているみたいだから急所も人のものと同じになるはずだ。だが、そうだな。とりあえずは四人で方向を分けて戦うことにしよう。それでもしダメそうであれば俺かサエキでフォローするばいい。佐伯もそれでいいか?」

 イットク先輩が僕の疑問に答えた後、今後の作戦について告げる。そして、最後に佐伯先輩にも一応の確認をしている。やっぱり寮長として活動していたからだろうか。それぞれに目で確認を取っている。

「分かりました。もしもの時はよろしくお願いします」

 僕はしっかりと礼を言っておく。

「ああ、気にするな。逆に自信満々で行動して失敗される方が大変なことになる」
「はい」
「じゃあ、立ち位置的には俺と寮長が真ん中で堤と望月が端って感じですか?」
「そうなるな」

 陣形も決まって僕たちはそれぞれの立ち位置に着いた。
 仮想敵たちはいまだに動いていない。僕は東京駅が右に来るように立っている。四人で半円を描くように立っているからだ。僕の隣にはイットク先輩。その隣に佐伯先輩で、橋が智也となっている。

 〈準備はできたみたいですね。では、始めます。準備はいいですか。では、動かします〉

 宮崎さんが言い終わると遠くに見えていた仮想敵たちが動き始めた動く速度は遅いみたいだ。僕は間合いに仮想敵が入ってくるまで待つことにした。

 

 ザッザッ、と地面のアスファルトと気がすれる音が無数に発生している仮想東京駅前で僕たちは敵を待つ。
 持っている武器から考えれば、智也以外は近接戦闘を得意とするキャラクターだと考えられる。イットク先輩は長い槍。馬上槍だとか突撃槍だとか言われる部類の物だったはず。そして佐伯先輩の大剣。その刀身は佐伯先輩の体の大半を隠すことができるぐらい幅広だ。現に後ろ姿からでは佐伯先輩の体はほとんど見えない。
 両者ともに一般的ではないものを使うみたいなことからも近接戦闘を得意としているだろうと推測ができる。
 そうすると遠距離が主体のプレイヤーは智也だけになる。
 敵がゴブリン相当の実力であるとすれば遠距離からの範囲攻撃が一番効率がいい。それが今回はできないということになる。智也も範囲魔法は使えるだろうけど、今見えるすべての敵を倒すとなるとMPが足りなくなる可能性が濃厚だ。節約したとしても足りないだろう。そうなると、鍵になるのはイットク先輩と佐伯先輩の実力。僕はもちろん二人の実力を知らない。

 僕は二人の顔を横目で見た。二人の顔には悲壮感のような負の印象は漂っていない。それどこらか軽い笑みを浮かべているように見えた。
 どういうことだろう。もしかすると、今の状況は僕が思っているほど悪くはないのかもしれない。
 そんなことを考えていると、仮想東京駅の前に陣取る僕たちに向かってくる仮想敵の姿もくっきりと見える位置ま近づいていることに気づく。
 僕は浮ついた思考をやめて、これから起こる戦闘に思考を向ける。

 智也の魔法が発動した。
 唐突に咲き乱れる焔の華。爆風で飛ばされていく仮想敵である木人が煙を伸ばしていく。見た感じだと威力的にはそれほど高いものではないと思ったのだが思いのほか飛んでいく仮想敵が多い。
 智也が攻撃した次は僕だ。僕は両手を地につける。今回はここから後退するという選択肢が取りづらい。四人で互いに背を向けているからどこか一方が後退すれば他の誰かが後方から攻撃されるかもしれない。だから僕は下がらない前提で戦闘を始める。
 両手を地につけておけば重心について考える必要がなくなるので六本の尻尾をフルに使える。
 まずは様子見でキーとルーで攻撃する。僕の今の射程は五メートルないぐらいだ。僕は射程に入った木人の首めがけて攻撃を始めた。

 

-------

 

 戦闘が始まって三十分以上。正確な時間は分からない。延々と続く木人の群れ。僕たちは気の抜けない戦いを続けていた。
 幸いなことに仮想敵である木人たちの攻撃力は最初に言われたゴブリン相当ではあったが、防御に関してはゴブリン以下だった。というよりも、頭や首、心臓といった急所への攻撃が当たれば確定クリティカルになる設定だったらしく、それを狙えば簡単に倒せたのだ。そのため、いまだにダメージは受けずに戦闘を続けている。

 僕は六本の尻尾で仮想敵の急所を狙いリズムよく倒していく。智也は攻撃力よりも範囲を優先して魔法を使っている。イットク先輩と佐伯先輩は仮想敵を圧倒している。一振りで何体もの木人が両断されたり吹き飛ばされたりしている。その光景は戦闘というよりも作業といった方が適しているかもしれないと思うほどに単調なものになっている。

 今回の戦闘で僕は尻尾のAIに戦闘の一部を任せることに挑戦している。尻尾には攻撃の意思と標的、最後に急所を狙うという考えを伝えようとしながら大まかに攻撃していく。するとん、なんということだろう。尻尾たちは寸分たがわず仮想敵の首を攻撃してくれるのだ。その結果、僕はこの戦闘中、段々と戦闘に割く思考に余裕が出来始め今では他の三人を観察することすらできるようになった。これだけでも合宿に参加した甲斐があったと言える。

 僕が空いた思考でそんなことを考えているうちに仮想敵の木人の数が徐々に減っていき、今、最後の木人たちが智也の魔法で吹き飛んだ。
 それと同時にアナウンスが鳴り響く。

 〈聞こえますか? 戦闘が終わったみたいですけど、全員大丈夫ですか?〉

 僕は立ち上がり、上を見ながら頷く。今もVRルームのモニターで僕を確認しているだろう宮崎さんに向けてだ。

 〈大丈夫そうですね〉

 僕以外も大丈夫だったみたいだ。戦闘に割く思考が減ってから三人を観察している限りでは誰もダメージを受けているようには見えなかったから当然だろう。

 〈では、これで四人の割り当てられた作業は終わりになります。各自ログアウトしてください〉

 僕は先輩たちの方を見る。すると、佐伯先輩の姿はすでにぼやけ始め、次の瞬間には消えてしまった。ログアウトしたのだ。それを見て僕もログアウトの操作を始めた。最終的には数瞬の差で僕が最後にログアウトした。

 

-------

 

 ログアウトが完了して、ヘッドマウントデバイスを頭から外してVRデバイスを回収してデバイスの外に出た僕が次に見た光景は設置型のヘッドマウントデバイスから出てくる僕の他の三人とモニターの前にいるスタッフ達だった。
 そこには、僕でも知っているような有名人がいた。

 

 

 

 彼との出会いが、僕の一プレイヤーから選手になるという選択肢を選ぶ大きな分岐点となることを今この時の僕には知る由もなかった。

 

 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

親がうるさいのでVRMMOでソロ成長します

miigumi
ファンタジー
VRが当たり前になった時代。大学生の瑞希は、親の干渉に息苦しさを感じながらも、特にやりたいことも見つからずにいた。 そんなある日、友人に誘われた話題のVRMMO《ルーンスフィア・オンライン》で目にしたのは――「あなたが求める自由を」という言葉。 軽い気持ちでログインしたはずが、気づけば彼女は“ソロ”で世界を駆けることになる。 誰にも縛られない場所で、瑞希は自分の力で強くなることを選んだ。これは、自由を求める彼女のソロ成長物語。 毎日22時投稿します。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。 スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、 ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。 弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、 満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。 そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは―― 拾ってきた野良の黒猫“クロ”。 だが命の灯が消えかけた夜、 その黒猫は正体を現す。 クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在―― しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。 力を失われ、語ることすら封じられたクロは、 復讐を果たすための契約者を探していた。 クロは瀕死のソラと契約し、 彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。 唯一のスキル《アイテムボックス》。 そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、 弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。 だがその裏で、 クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、 復讐の道を静かに歩み始めていた。 これは―― “最弱”と“最凶”が手を取り合い、 未来をやり直す物語

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

処理中です...