【仮題】VRMMOが世界的競技になった世界 -僕のVR競技専門高校生生活-

星井扇子

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はじめまして。

【01-03】食堂

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 先生たちが教室を出たあと、クラスメートたちも教室を出ていく。二人一組が多いのでルームメイトと一緒に行動しているのだろう。

 「食堂の場所わかるか?」

 拓郎が聞いてきた。答えは決まっている。

 「わかるわけないだろう。教室の場所も分からなかったんだから」
 「それもそうか。じゃあ、さっきと同じように流れに身をゆだねるか」
 「そうしようか」
 「食堂ってどんな感じなんだろうな」

 僕はよくマイペースだといわれるが、拓郎もかなりのマイペースなのかもしれない。
 とりあえず、場所を知ってそうな人を探す。
 すると、最後に教室に入ってきた。女の子がスッと立つのが視界に入った。彼女はそのままスッと動いて、スッと教室を出て行った。姿勢が良いのかとても絵になる人だ。
 迷いなく教室を出ていたから、食堂の場所を知っているのかもしれない。

 「彼女について行ってみるか」

 どうやら拓郎も気づいていたみたいだ。

 「うん。そうしようか」

 拓郎に同意してから移動を開始する。

 「こういうのってなんか緊張するな」

 彼女の後ろを少し間を開けて歩いている。彼女以外にも同じ方向に向かっている人が多いため方向としてはあっているのだろう。拓郎がなんか言ってきたがどういういみだろう。

 「こういうのって?」
 「いや、なんか尾行しているみたいだろ?」

 なるほど。わからなくはない。しかし、拓郎はやっぱり子供っぽい。その容姿からして、イケメン好青年なのに。いや、僕と同い年なはずだから、大人びた容姿をしているという方が正しいのだろうか。

 「わからなくもないけど」
 「おいおい。もっと楽しもうぜ」

 そんなに、食堂が楽しみなのだろうか。気のせいだろうか、テンションが高い。

 「テンション高いね。そんなに食堂がたのしみなの?」
 「ん?知らないのか?この学校の食堂はうまいことで有名なんだぞ」

 初耳である。この学校についてはいろいろ調べたけど、そんな情報なかった気がする。

 「初めて知ったよ。そんなに有名なの?」
 「ああ。生徒の健康管理に必要だからって理由で、凄腕のシェフが何にも働いているらしい。料理好きの中では有名だぞ」
 「へぇー。そう聞くと楽しみになってくるね」
 「だろう。食堂の料理は情報統制の範囲外だから、在校生のSNSから徐々にうわさが広がったらしい」

 この学校は、情報の流出に関して厳しい部分がある。AWに関することを外に漏らすのは特にだ。ちょっとした攻略情報ならまだしも、最新の情報はまず漏らせない。ネットに検閲がかかっているそうだ。これについては仕方ないだろうと思っている。特に決まった罰則はないが、場合によっては退学もあるらしい。入学前の教師陣との面談で言われたことだ。

 そのまま、料理の話が続く。なんでも幻の裏メニューがあるらしい、だとか。和食担当の板前さんの一人が作ったプリンが超絶おいしい、だとか。
 そんな話をしているうちに、大きな扉が見えてきた。みんながそこに入っていく様子からしてそこが食堂なのだろう。僕は拓郎に言う。

 「見えてきたよ」
 「ああ、やっとだな」

 気分は、魔王討伐を前にした勇者である。拓郎につられて上がったテンションのまま言い放つ。

 「いざ行かん。食欲の旅へ」
 「瑠太。おまえそんなキャラだったか?」

 あれ。

 「ゴ、ゴホン。気を取り直して。いざ行かん!」
 「無理やりだな。まあ、いいか」

 僕と拓郎の立ち位置が逆になっている気がするが、まあいい。

 「拓郎の話聞いてたら、お腹空いてきちゃったんだよ」
 「そうだな。俺も腹減った」

 こうして、僕たちは、広い廊下を抜け、目的の場所へとたどり着いたのだった。


-------


 たどり着いた食堂はとても広かった。もう一度言おう。とても広かった。

 「聞いてた通り、広いな」
 「広いね。二階があるよ。食堂に」

 改めて、食堂の中を見渡す。
 広々とした空間で入って右側で料理の提供がされていて、正面と左側はガラス張りになっている。
 一階はフードコートのような椅子とテーブルが置かれているだけといった感じだ。テーブルは四人掛けの四角いテーブル。他のテーブルとつなげれば大人数でも一緒に食べることができるだろう。椅子も背もたれのない丸椅子だ。そのセットが、すごい数が置かれている。五十は超えてると思う。
 二階は、見える範囲には、ソファーと丸テーブルがある。ラウンジといえばいいのだろうか。お茶するのにはいいのかもしれないが、別に一階でもいいのでは、と思ってしまう。

 「基本的には一階で食べるらしい」
 「そうなの?」
 「ああ、二階は静かに食べたい人が使うぐらいで、主にお茶しながら、話し合いをするときに使うそうだ」

 話し合いに使うのか。

 「俺たちは、一階でいいよな?」
 「うん。外はまだ少し寒そうだし」
 「それもそうだな」

 どうやら。外でも食べられるようだ。左側の窓の向こうで楽しそうにおしゃべりしている女の子たちが見える。
 
 「このままだと、席がなくなりそうだけどどうする?」
 「はじめてだし、どんな料理があるかもわからないから一緒に見に行こう」
 
 僕たちは、料理が提供されているカウンターに近づいていく。どういうシステムなんだろう。

 「どういうシステムか知ってる?」
 「いや、知らない。とりあえず並んでみようぜ」

 列は二つになっていた。よく見ると、カウンターの上にAと書かれた方の列を並び終えてからもう一つの列、上にBと書かれたカウンターに並んでいる。

 「こっちだな」

 拓郎は、そう言ってAの列に並び始めた。僕もそれについていく。
 長い列だったけど思いのほか早く進み、あと少しで僕たちの番だ。

 「いらっしゃい!今日のメニューは一つだけだよ!」

 受付のおばちゃんの声が聞こえた。

 「今日は、メニューが一つらしいな」

 拓郎は残念そうに言った。楽しみにしてたからな。

 僕たちの番になった。

 「いらっしゃい!今日のメニューは一つだけだよ!これが整理券。あとこの紙にこの食堂の使い方が書いてあるから、ちゃんと読むんだよ!」
 
 元気なおばちゃんが言う。

 「わかりました。ありがとうございます」

 拓郎はそういって、微笑むともう一つの列に向かった。
 僕も、元気なおばちゃんに、同じことを言われ、整理券と一枚の紙をもらう。
 おばちゃんにお礼を言って、列を並びなおす。

 すでに並んでいる拓郎の後ろに並ぶと同時に声をかける。

 「今日はカレーらしいね」
 「ああ、一気に作るのが楽だからだろうな。それより、読んだか」

 拓郎は整理券とは別の紙に目を向けながらそう言った。

 「まだだけど、どんなこと書いてあるの?」
 「注文の仕方とか書いてあるぞ」

 なになに。
 どうやら、注文は、VRデバイス上で行うようだ。
 この紙によると、VRデバイスに入っているアプリを使うらしい。食堂内にいる状態でのみ、注文ができるらしい。
 毎朝十時にその日のメニューが更新され、その中から選ぶらしい。メインのおかずから、汁物、ご飯の種類と、日によって選べる数が違うらしい。また、VRデバイスに登録された内容によって、その人が選べるものの数が変わるらしい。アレルギーがあったり、体調を壊していたりすると、食べてはいけないものを選択肢から除外してくれるらしい。地味に便利である。
 
 紙を読んでいるうちに、うちに自分たちの番になった。
 前にいる拓郎が、トレーを受け取って列を外れる。
 
 「これが、今日のご飯だよ」

 さっきのおばちゃんとは違うおばちゃんがカレーライスの乗ったトレーを渡してくる。

 「ありがとうございます」

 お礼を言って、トレーを受け取って列を外れると、近くにあるテーブルに拓郎が座っているのを、見つけた。
 拓郎の確保したテーブルに近づいていく。

 「確保しといたぜ」

 拓郎はそういって椅子に座る。
 
 「ありがとう」

 礼を言って僕も座る。
 テーブルの上には醤油や塩、酢といった調味料と割りばしが置いてあった。

 「いただこうぜ」

 すでに拓郎は、トレーに乗っていたスプーンをもって手を合わせていた。
 僕も手を合わせた。

 「いただきます」

 二人で声を合わせてから、食べ始める。

 見た感じ一般的なビーフカレーのようだ。肉はブロック状に切られていて、野菜もジャガイモ、ニンジン、玉ねぎと形がしっかりと残っている。
 まず、ルーだけ食べてみる。
 
 「おいしい」

 自然と口に出た。学食でこんなにおいしいカレーが食べれるなんて。
 少しピリッとした辛さがあってそのあと甘みが来る。肉も柔らかく脂っこくない。野菜もほくほくだ。
 気が付いたら、なくなっていた。

 「予想以上にうまかったな」

 拓郎は、テーブルに置いてあったナプキンで口を拭きながらそう言った。
 
 「うん。噂は本当だったみたいだね」
 「ああ、こんなにおいしい料理が毎日食べられるのはうれしいな」
 「僕も、そう思ったよ。夜ごはんは寮で出るんだっけ」
 「そうらしい。夜もおいしいといいな」
 「たのしみだね」

 そのまま、少しだけ口の中の余韻を楽しんだ後と、トレーを入り口の近くにある返却口に返してから食堂を出る。

 「どうする?まだ時間があるみたいだがどこか見て回るか?」
 
 拓郎が言う。

 「いや、教室に戻ろうよ。誰か戻ってるかもしれないし、友達作らないと」
 「それもそうだな」

 拓郎は、すこし笑ってうなずいた。
 

-------

 
 教室に戻った僕たちは、さっき座っていた席に座る。
 教室には僕たちのほかに二人ほどいたが、どちらも本を読んでいて声はかけられない。
 仕方ないと、二人で話していると、例のクールな女の子が戻ってきた。彼女は、教室に入ると、席に着き、カバンからノートとペンを取り出した。そして、こちらに向かってきた。
 拓郎も気づいたようで、二人で、彼女を見る。
 近くに来た彼女は、僕たちに話しかけてきた。

 「少しいいでしょうか?」
 「いいよ。な?瑠太」
 「うん。当然」

 拓郎が答える。拒否する理由がない。
 僕たちの答えに安堵したのか、少し息を長く吐いたあと、ノートを開きながら聞いてきた。
 
 「実は、私、効率組志望だったんですけど、先生方との面談で実験組になると言われてしまって。自分では、特に変わったキャラを作る気はなかったんです。なのでなぜ、実験組なのか気になってしまって。できたら、ほかの人がどんなキャラを作るのか教えて欲しいな、と思いまして。その、よかったら教えていただけませんか?」
 「なるほど。俺は全然かまわないぜ」
 「僕も問題ないよ。どうせ何日かしたらみんな知ることになるだろうし」
 
 僕たちの答え聞いて、また少し息を長く吐く。緊張に弱いのかな。最初は、落ち着いた印象だったんだけど。
 そんなことを考えていると、拓郎が話し始める。

 「俺は、AW内隅々まで見て回ることを目標にして、キャラのビルドを決めたんだ。種族はキメラ種。翼を生やして渡り鳥みたく世界を回るつもりだ」

 へぇー。空の旅か。それもおもしろそうだな。
 ちなみに、キメラ種の人に、どのモンスターのどの部位を使ったか聞くのは基本的にマナー違反だ。キメラ種は、モンスターの部分の持つ力がそのまま武器にも弱点にもなる種族だからだ。

 「こんな感じでいいか?」

 拓郎は、彼女にそう聞いた。
 彼女は、ノートに書きながらうなずいた。

 「ありがとうごさいます。選手は目指さないんですか?」

 彼女の意見はもっともだろう。僕も拓郎の言葉を聞く限り選手向きのビルドではないように思った。
 だが、そんなことはないようだ。

 「いや、スピードランの出場を目指す予定だ。まあ、うまくいったらの話だけどな」
 「なるほど。参考になります」

 彼女は、うなずきながらノートに何やら書き込んでいる。
 次は僕の番かな。

 「よければ、あなたのビルドも聞かせていただけませんか?」
 「いいよ。僕のテーマ手足を使わないでの戦闘。具体的には、尻尾で戦うつもりなんだ」
 「昨日聞いた時も思ったけど、なんでそんな発想になったんだ?」

 僕が彼女に答えると、今度は拓郎が聞いてきた。

 「漫画だよ。たまたま読んだ漫画の主人公たちが尻尾みたいので戦ってたんだ。それ読んでおもしろそうだと思ってね。」
 「漫画か。それにしても、元々人間が持っていない部位の操作は難しいらしいが大丈夫なのか?」
 「それを言ったら羽根も同じじゃない?」
 「いや、俺は腕を羽根にするつもりだから大丈夫だ」

 拓郎が言った通り、人間が持っていない部分の操作は難しいといわれている。AW公開初期には腕を増やして武器をいくつも持とうとした人が結構いたらしいんだけど、そのほとんどが自分の腕以外を動かすことすらできなかったそうだ。
 だが、僕も覚悟はしている。

 「僕はそれでも尻尾で戦いたいんだよ」
 「なるほど。俺も応援してるぞ。なにか協力できることがあったら言ってくれ」
 「ありがと。拓郎。こんな感じだけど大丈夫かな?」

 拓郎の協力に喜びながら、彼女にそう言った。

 「はい。ありがとうございます。なぜ実験組になったのかも分かりました」

 彼女はそう言うと、

 「私、栗栖クリス 美幸ミユキと言います。よかったら友達になっていただけませんか?今後もいろいろ教えて下さい」
 「もちろん。俺は米田拓郎。よろしくな」
 「僕は堤瑠太。よろしくね」

 僕たちの返答を聞いて彼女は、ノート閉じ、顔を上げて微笑んだ。


 
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