絹の聖女は縁を結ぶ

プロローグ

さよなら女子高生

「この度は誠に申し訳ございませんでしたぁぁぁぁっ‼︎」

　上も下も右も左もないかのような無限の真っ白い世界で青年のような見た目をした男は私の前でオーバーアクションな土下座をした。

「…まず何故あなたが謝罪をしているのかそこから説明してください。」
もう痛む筈もない頭がズキズキと痛んだ。

「…実はですね。貴方は死んでしまったのです。」
「それは知ってますよ。あれだけ派手にトラックに突っ込まれて飛ばされたら生きてる訳ないでしょう？」
　そう私はつい数分前に死んでしまったのだ。

　今日はとてもよく晴れた暖かい日だった。それこそ公園のベンチで読書にでも浸ろうかと信号待ちの間に考えていた時だった。
　それは突然だったのだ。

ブウォォォォォォォォンッ‼︎

　大きく低い音が鳴った方を見てみると大型トラックが約数メートルまで近づいており、気がついた時には全身の痛みと青い空が視界一面に広がっていた。

（あーあ…碌な死に方じゃないなぁ）

　そう思った直後、後頭部に今まで感じたことの無いような痛みが走り意識が遠のいた。


　そして気がついたら私はここに居た。
「私は…複数の世界で人の人生を導く存在…いわば“神“と呼ばれている者です。」

　彼…神は申し訳ないと言っているかのように眉を下げ瞳を潤ませ唇を噛み締めていた。

「私は人々の人生の中で【試練】を与えますが…今回貴方を轢いたあの運転手には居眠り運転による事故の恐ろしさを試練として与えていたのです。」

　そして神は堰を切ったように鉄紺の瞳から大粒の涙を次々に溢した。
「私の計算では貴方の手前にあった電柱にぶつかる筈だったのですが、何が狂ってしまったのか貴方にぶつかってしまったのです。」
ごめんなさい…ごめんなさい、とぼろぼろと涙を溢すさまは母親に叱られた子どものようだった。

「……そう。もう過ぎてしまったことだから恨みませんよ。」
　私は腕を伸ばし指先で神の涙を拭った。今思えば不敬に当たる行為ではないかとは思うが本当に私には彼に対し恨みも何もなかったのだ。

　神は一度目を真ん丸くしたかと思うと意を決したかの如く真剣な顔持ちになった。

「今回のことは私の不手際と詰めの甘さが招いたことです。そして貴方には取り返しのつかない…貴方の人生を奪ってしまった。ならば人間たちの例に倣って貴方に慰謝料代わりの施しを与えます。」
　『人間たちの例に倣って』…神の口からこんな言葉が出るとは全く想像できず、今度はこっちが目を丸くしてしまった。

「今から貴方は私の管理している別の世界に転生させます。そして貴方には私の寵愛の証である【聖女】の称号を与えます。」
「え？」

そう言って神は次々と空中に資料を浮かべさせた。
「貴方が転生する世界は剣術も魔法もあります。何にでもなれる世界ではありませんが、貴方には全ての素質を与えましょう。勿論それだけの魔力量もご用意いたします。」
　そう言って資料にはペンで追記や転生についての要点にアンダーラインを引いた。

「え？えっと…あ、あのぉ…ちょっと待って…」
「確かあの世界の最強種がこのくらいだから…このくらいの魔力量で…地域はここら辺にして…」

　神は私の制止を聞いてか聞かずかどんどん《次の私》への設定を盛り込んでいく。

「よし、こんな感じで大丈夫かな。では心の準備はいいですか？」
「うん⁉︎」

ニコッと満面の笑みで神はサッサと転生準備を進めてしまった。
そして…

「では次の人生では新しい貴方の幸せを願っておりますね‼︎」

　さっきの私の返事を『大丈夫な返答』と受け取ったようだった。

（えぇぇぇ⁉︎全然私の話を聞いてないけど⁉︎）


眩しく温かい光に包まれたかと思ったら再び私の意識は遠のいた。