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本編
絹の少女、初めての友人
しおりを挟むこてんと首を傾げるベガに対し少年はすすり泣くような声で喋り出した。
「…ぼくは……シュテルンツェルト…。」
「しゅて…るん…つぇると……」
気が抜けていたせいで少年の名前を鸚鵡返しのように呼んでしまった。
「うん…まだ洗礼式をしてないからシュテルンツェルト・ターゲスアンブルフって名前…。」
泣き止んだのか鼻をすんすん鳴らしながらシュテルンツェルトは中庭のベンチに腰掛けた。
「しぇんれいしき…?」
聞き馴染みのない単語にベガは首を傾げ、シュテルンツェルトは目を開いてあっと口から溢れた。
「そっか君がステラーナ子爵令嬢なんだね…。」
少しびっくりしたようにシュテルンツェルトはベガをまじまじと見た。
「洗礼式っていうのは初代聖女様が取り決めした【儀式】なんだ。」
「ぎしき?」
まじまじと見つめながら話を聞くベガにシュテルンツェルトは泣き腫らした目尻をきゅっと下げて頷いた。
「初代聖女様は幼い子どもは大人に比べて繊細でか弱く儚いと考えておられていたんだよ。」
シュテルンツェルトは不思議そうに自身の顔を眺めるベガの頭を優しく撫でた。
「だから初代聖女様は身分に構わず子どもは三歳、五歳、七歳になる年に神々に庇護の感謝を込めて神殿に子どもの作ったお札を納めるという風習を作られたんだ。」
シュテルンツェルトから聞かされた風習にベガは驚き目を見開いた。
「そして七歳の年に神々からの庇護をお返しする代わりに洗礼名を神々からいただく…っていうのが【儀式】かな。」
わかった?とシュテルンツェルトは笑いかけるとベガはぱくぱくと口を開いた。
「しょ…しょれって…。」
「うん。とっても大変だよね。」
困ったように笑うシュテルンツェルトとは逆にベガの顔色は一気に変わった。
その【儀式】の風習はベガからすればとても聞き覚えがあり、とても懐かしく感じられるものだった。
(それって…前世の日本の七五三じゃない‼︎)
ベガの脳裏には笑顔で事を進めるあの【存在】がよぎっていった。
ベガの魂をこの世界に送り込んだ張本人であるあの【存在】が…。
「初代聖女様は本当に御立派な御方だったんだよ。」
「しょ…しょうでしゅわにぇ…。」
目を輝かせながら初代聖女を話すシュテルンツェルトとは対照にベガは目を泳がせながら答えた。
その顔を見たシュテルンツェルトはベガの顔を見逃さなかった。
「…ステラーナ子爵令嬢?」
シュテルンツェルトはベガの顔を覗くように見た。
「…えぇっと…しゅてるんちゅえるとしゃま…?」
上手く回らない滑舌でシュテルンツェルトの名を呼ぶベガに黒紅の髪を靡かせ、柔らかい笑みを見せた。
「ステラーナ子爵令嬢にはまだ僕の名前は言い難いね。」
シューでいいよ、と白魚のような指を持つ手でベガの頭を撫でた。
「しゅーにいしゃま…じゃぁ、わたくちはベガとおよびくだちゎいましぇ‼︎」
韓紅花色の瞳をぱぁっと輝かせてベガはシュテルンツェルトに笑いかけた。
「…これはステラーナ子爵がパーティ以外に連れ出さないわけだ…。」
愛想笑いではないベガの無垢な笑顔を見たシュテルンツェルトは思わず顔を覆い天を仰いだ。
「しゅーにいしゃま?」
首をこてんと傾げ不思議そうに見つめるベガを指の隙間から見つめてシュテルンツェルトはふと笑った。
「なんでもないよベガ。」
会場に戻ろうか…とシュテルンツェルトはベガに手を差し出した。
「はい!」
ベガは嬉しそうにシュテルンツェルトにエスコートしてもらった。
「そういえば…ベガはさっき何に対してあんなに不安そうな顔をしていたんだい?」
隣でベガの歩幅に合わせているシュテルンツェルトは思い出したかのようにベガに質問した。
「…うーん」
(そういえばさっきの私は何に顔を青ざめてしまったのかしら…。)
「うーん…しゃっぱりおぼえておりましぇんわ…。」
頭を捻っても思い出せないのだから仕方ないとベガは早々に諦めて答えた。
「そっか…また思い出せるといいね。」
「はい‼︎」
楽しそうにそして勢いよくベガはシュテルンツェルトに笑顔で答えた。
「うぐぅ…っ‼︎」
(か…可愛い‼︎)
こうしてベガはシュテルンツェルトまでもを虜にしてしまったのだ。
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