刃に縋りて弾丸を喰む

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Episode〈6〉漣波 ⑶

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 高速道路から下りて数十分、車は目的地へと到着した。
 広々として、アスファルトの痛んだ駐車場に東京ナンバーの外国車は少々浮いて見えた。
 「ふうん、駐車料金要らないんだ」
 それは車から降りたカタナも同様で、すらりとした長身と白銀の髪は、通りすがる人の目を否応なしに引いていた。
 こうして外でカタナを見ると、綺麗な人だと感心する。「身につけるものは身につける人によってその価値が決まる」とはよく言ったもので、カタナが着ている服も履いている靴も、すべてが一級品に見える。
 ───いや、実際に“一級品”なのではあろうが。
 「……ねえ、ちょっと」
 周りから感じる視線の居心地の悪さに、無意識に彼ととっていた距離を詰められる。
 「どうして離れるの」
 私の肩を抱きながらカタナが不満を漏らすも、それどころではない。
 「カタナさん、その、外ですから、みんな見てますから」
 慌てて肩に回された腕をほどくと、彼はますます不服そうな顔をした。
 「見られて困ることなんてないでしょう。夫婦なんだから」
 「そういうことじゃなくって。その、恥ずかしいんです。他人から見られることそのものが……」
 カタナが「そういうものか」という顔をする。普段から、人の視線を浴び慣れているのであろう彼には分からない感覚なのか。
 「……じゃあ、手ならいい?」
 差し出された大きな手に、一瞬戸惑って、それからおそるおそる握り返した。
 満足したらしいカタナが、私の手を引いてエレベーターへと向かう。
 エレベーターを待ちながら、私の顔をのぞき込んだ彼が一瞬驚いた顔をした。それからくつくつと喉の奥で笑って、私の耳元にささやいた。

 「セックスしてるときより、恥ずかしいって顔してる」

 ポン、と電子音がした。開いたエレベーターの扉の中へ、彼に体を引き込まれる。
 ちゅ、と唇が重なる音がした。いたずらっぽくほほ笑んだカタナの、愉しそうな声が耳を打つ。

 「せっかくだから、今夜は外でしてみる?」

 エレベーターの扉が開く。顔を上げられない私の手を引きながら、カタナは笑って言った。

 「あんたのそんな可愛い顔、他の男に見せたくないからそのまま伏せててね」
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