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ぼくはこんなに好きなのにⅣ

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「じゃあ、次の企画はハルさんにリーダーをやってもらおうかな」
 前回の企画の評判が良く、経験を積ませると言う意味も含めて山崎ハルが抜擢された。
「貴重な経験をさせて貰えて嬉しいです」
 会議が終わると抜擢してくれた上司に呼ばれた。
「今度の企画も上手くできる様だったらハルさんにバンバン仕事任せるから頑張ってね」
 この上司から目を掛けられるのには理由があった。
 ハルは入社にあたって学歴フィルターを打破するべく、この上司に直接企画書を見せたのだった。そしてこの上司は快く企画書を見て適切なダメ出しをした。何回も企画書を見せているうちに人事部にまで話は及び、ハルは面接で採用された。
「精一杯やります」
 満面の笑みで答えてから一礼して早速仕事に取り掛かった。今までにないくらい集中して取り組みたかった。肩には力が入り眉間にもしわが寄る。でもそんなことは気にしたくない。周りの雑音を全て集中力で打ち消したかった。
 にもかかわらずスマートフォンには通知が入る。いやになって内容を見ずに通知を切った。
 終業が近づくと例のごとく清水が寄って来る。
「わぉ。凄い集中力、今日だけでこんなにやったの?」
「なんとかね……。ハァ」
 ハルは清水相手だと脱力できた。しかし清水は脱力の中にある溜息を見逃さない。
「何かあった?」
「実はね……」
 ハルは躊躇いながらLINEを見せた。吉田からの連絡は5件ほど溜まっている。
 なぜ自分が暇だと言ってくるのか。なぜ彼氏の有無を聞いてくるのか。なぜこんなに送ってくるのか。
 恐怖でしかない。それがハルの率直な感想だった。
「これは……。たぶんハルの事が好きなんだよ。でもハルはそうじゃなさそうだよね」
 額に手を当てながらハルは首を縦に振った。
「相手はなんでハルのLINE知ってるんだろ?」
「それは……。たぶん大学時代だと思う。課題を出された時、同じグループだったことがあって。それで」
 清水は友人の悩みを解決したい気持ちに駆られた。女性に怖い思いをして欲しくない。彼の善性が彼にそう思わせていた。
「怖いかもしれないけど、ハッキリ言った方が良いと思う。興味が無いからやめてくれって。怖いよって」
 清水は以前、無視するのは可哀想と言ってしまった事を思い出した。
「直接、言おう。俺も付いて行くから」
「うん」
 ハルは吉田がストーカーになるのも怖かった。
 相談の結果、カフェで吉田と会うことに決めた。
 場所を添付し、“会って話がしたいの”と打って吉田に送った。
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