レモンが好きだと言いたくて

蓮見 七月

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スカートと太もも

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 クローゼットの中で一番魅力を感じたのは緑のロングスカートだった。冬にしては短めの白いスカートやジーンズのスカートも目に付くが、気に入ったのはこれだった。

「これが好きだな。緑のスカート」
「いいね。ちょうどフリーサイズなんだ。ウエストの所がゴムになってて」
 服の事を話すときのレイは楽しそうだ。
 スカートが掛かっているハンガーにレイが手を伸ばす。お互いクローゼットを覗いているから距離が近い。レイの右腕が自分の左肩を通過する。

「履いてみていい?」
「いいよ」
 手渡されたスカートはやっぱりいい匂いがした。クローゼットの中の匂いだ。
 すぐに着てみよう。ホックを外してズボンを下ろす。上は制服のままだが、今はいい。まずはスカートを履いてみる事。レイの気持ちがきっと分かる。

「ちょ、ちょっと待ってよ! ここで脱ぐの?」
「えっ? 恥ずかしい?」
「恥ずかしいに決まってるよ。ぼくは外に出てるから」
 顔を赤くしてドアをバタリと閉められた。デリカシーが無かったらしい。

「履いたよ。レイ、入って来なよ」
 自分の部屋じゃないのにそう言ったのが面白かった。
「ハイハイ。ちょっと待っててよ」
 声は嫌がっては居なかった。むしろ楽し気な、冗談を言い合う時の感覚だった。
 
 ゆっくり開くドアとレイの顔。顔はまだ少し赤かった。手には木製のお盆があって、ガラス製のコップが二つ乗っていた。

「と、とりあえずオレンジジュースね」
 ガラステーブルの上に盆が置かれる。ガラスと木が小さくぶつかってカチンと音を立てる。
「どう? 似合ってる?」
 
 レイがするようにスカートを揺らしてみた。ズボンと違ってかなり風を通す。裾が揺れるたびに生足が外気に触れる。ズボンを履いている時より無防備な感覚が新鮮で面白い。
「うぅん。似合ってるかって言うとビミョーだよ。上は詰襟だしね」
「えっ。うそ」
 
 自分の感覚では似合っていた。なにか自分の体まで可愛くなったような気がしたのに。
「今度はハヤトが外に行ってよ」
 そう言ってレイが左肩に触れてきた。細長い、楕円みたいな手のひらが一瞬だけ肩を包んだ。

「女装する気になったんだ?」
 口を結んで手だけで追い払われる。スカートのまま外で待った。
 待っている間もスカートのおかげで暇をしない。
 意味もなくヒラヒラ動かした。空気が足の間に入る不思議。いつも締め付けられている両足が、解放感を感じていた。

「どうぞ」
 
 レイはソファに座っていた。黒のプリーツスカートに赤いセーター。トップスはスカートに入れている。黒いスカートのさらに下、足の部分の白さが際立つ。
 服は女性的、顔は男性。口紅や顔の化粧が無いからそう見える。しかし、アンバランスだとは感じない。これが本当のレイなんだ。

「似合ってるよ。色合いが大人っぽいのかな」
 俺もソファに腰かける。今更ながら、距離が近い。曖昧なレイがハッキリ見える。
「なんだか今日はハッキリ言うね。何が好きとか何が良いとか」
 言われてみればそうだった。緑のスカートを自分で選んでレイのコーディネートをいいねと褒めた。

「ほんとだ。レイの事が好きだから言えたんだろうな」
「あっ」
 次の瞬間、レイがオレンジジュースをこぼしてしまった。黒いスカートがさらに黒くなる。膝上にぶちまけたらしい。

「大丈夫?」
 詰襟の内ポケットにハンカチがあった。すぐに取り出してオレンジジュースを拭きにかかる。
 
 拭うのは太もものあたり。ハンカチを当てると柔らかさが手に伝わった。手を開いて太ももを持つ。指が肉に食い込んだ。スカート越しにカラダを感じる。しっかり拭くと、筋肉があるのもすぐに分かった。

「あ」
 声にならない一言でレイと目が合う。顔が近い。心臓が一気に膨らんだ。
「ご、ごめん。余計な事したかな」
 
 そう言ってから手を離した。レイは顔を背けている。自分の顔も熱かった。とてつもなく恥ずかしい。
 でも本当は、もっと触っていたかった。
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