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世界で一番バカな生き物
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圭吾の提案を桜子先生は快諾してくれた。物置くらいの広さの空き部屋。中央には木製の机が四つ並んでいる。
そこで俺たち四人は勉強することになった。
いつもの三人にレイが加わる。ちょっと前では考えられなかった。特にシュンが抵抗を示さなかったのが大きい。席に着くや否や、シュンが言い放つ。
「ねぇ、悪かったよ。タイミングが悪くって……。いや、俺が悪い」
「……うん。気持ち悪くない?」
「ないよ。ほんと。キモイのは俺だった」
シュンとレイは向き合って座っている。これでもう大丈夫だろう。男の世界は単純だ。
それにしても俺がレイと居る間、シュンは随分と圭吾に諭されたらしい。圭吾は同級生の癖に父親みたいな男だ。
「じゃあ、勉強するか」
その圭吾が仕切る。俺たちはそれぞれテスト用紙を取り出した。とりあえず英語の小テストの解答を見直すところからだ。
「俺から発表しようかな。20点満点の小テストで、18点だ」
1位は俺じゃなかったか。圭吾も安定していい点数を取る。
「同じだ。俺も18点」
本題はこれからだ。問題は二人の点数。
「せーの。で言わねぇ? 大平……くん」
「いいよ。そうしよう。大場くん」
「「せーの」」
掛け声と同時、机に用紙が投げ出される。20問しかない小さな紙。ほとんど手で隠れているが二人とも潔く、すぐに手を離した。
「あっ」
情けない声をあげたのはレイだ。シュンは逆に口をOの形に開いている。
「2点!? 大平くん……」
「あー。大場くん意外とできるんだ」
視線を右に逸らして俺の方を見るレイ。しかし、出来ると言ってもシュンだって10点だ。赤点は避けられたが、50%しか取れていない。大学生は6割取らないと単位を落とすと聞いたことがある。二人とも落第点だ。
「レイ……。シェークスピアはどうしたんだよ。『ローマの休日』は? 本がぎっちり詰まった本棚も」
要するにテスト対策をしていないのだろう。あれだけ読んだり見たりする能力があるなら、2点なんてことは無いはずだ。
「ごめんなさい」
少し上から頭を下げてくる。
「二人って仲がいいんだな。呼び方とか、部屋とか。空気って言うの?」
シュンの表情は悪くない。不快に思っているわけではなさそうだ。
「うん。Good atmosphere ってやつだ」
「「なにそれ」」
圭吾の英語に二人して同じ聞き方。この二人はそんなに遠い存在ではない気がする。
「雰囲気がいいってさ。今の俺たちだ」
そう言ってやると4人とも笑顔になった。会話には流れがある。仲良くなれそうな流れ。こうなればほとんど友達だ。
それから何とか英語の勉強に持って行った。とにかく単語。これを知らないと文章で何を言われているのか分からない。逆にできれば単語を問われた時、正解できるから2点以上は取れるはずだ。
静かな勉強の最中、レイが唐突に呟く。
「ティッシュってさぁ。日本が一番消費しているんだよね」
テスト用紙を見返すとEnvironmental issues 環境問題という単語があった。そこから連想したのだろうか。
「えー。大平くん。下ネタ?」
何をどうしたらそう取れるのか。シュンがテスト用紙に書き込みながら唸るように言う。
「分かる? 大場くん」
「分かる。じゃあ年間でセックスの回数が世界一位の国、どこだか知ってる?」
何の話だ。ティッシュは環境から連想できるかもしれない。でも回数の話はどこから来たんだ。
「うーん。うーん。どこだろ?」
「英語の勉強より考えてるんじゃないか? レイ」
皮肉を言ってもレイは考えるのを止めない。逆にシュンは楽しそうだ。
「圭吾。なんとか言ってやってくれ」
こういう時、頼りになるのは圭吾だ。小テストの復習もとっくに終わって、タブレットで英語の記事を読んでいた。さすが圭吾。
「あぁ。ギリシャだろ? Greece」
「さすがケイ! 正解」
「えー。圭吾くん凄い!」
思わず自分の額を自分で叩いた。男子高校生は世界で一番バカな生物だ。レイが下ネタを言うとなぜだか俺が恥ずかしい。
「ねぇ。凄いねハヤト」
レイが俺の左肩に手を当てて言う。そんなに感動する話だったのか。
「なんか俺が恥ずかしいよ」
三人が声をあげて笑う。レイはさらに俺の肩を叩く。シュンと圭吾はハイタッチだ。俺もレイの肩を押してみる。服の上から、丸みが分かった。
「ちょっとぉ? ノックしてるんだけど」
声と同時にノックの連打音が聞こえた。ガラス窓から見えるのはアオイちゃんだ。圭吾がすぐに扉を開ける。
「これ、桜子先生が終わったら鍵かけて出てきてって。その後職員室に返して欲しいってさ」
机の中心に古びた鍵が置かれた。そしてアオイちゃんと目が合った。俺の左手はレイの肩の上にある。
「ごめん」
「いいよ。もう」
アオイちゃんにはなんとなくバレてそうだ。レイだけが不思議そうな目でこちらを見ている。
彼女が出て行った後も俺たちは暫く勉強を続けた。勉強が楽しいと思ったのはいつ以来だろうか。
高校生活が楽しい。そう感じるのも初めてかもしれなかった。
そこで俺たち四人は勉強することになった。
いつもの三人にレイが加わる。ちょっと前では考えられなかった。特にシュンが抵抗を示さなかったのが大きい。席に着くや否や、シュンが言い放つ。
「ねぇ、悪かったよ。タイミングが悪くって……。いや、俺が悪い」
「……うん。気持ち悪くない?」
「ないよ。ほんと。キモイのは俺だった」
シュンとレイは向き合って座っている。これでもう大丈夫だろう。男の世界は単純だ。
それにしても俺がレイと居る間、シュンは随分と圭吾に諭されたらしい。圭吾は同級生の癖に父親みたいな男だ。
「じゃあ、勉強するか」
その圭吾が仕切る。俺たちはそれぞれテスト用紙を取り出した。とりあえず英語の小テストの解答を見直すところからだ。
「俺から発表しようかな。20点満点の小テストで、18点だ」
1位は俺じゃなかったか。圭吾も安定していい点数を取る。
「同じだ。俺も18点」
本題はこれからだ。問題は二人の点数。
「せーの。で言わねぇ? 大平……くん」
「いいよ。そうしよう。大場くん」
「「せーの」」
掛け声と同時、机に用紙が投げ出される。20問しかない小さな紙。ほとんど手で隠れているが二人とも潔く、すぐに手を離した。
「あっ」
情けない声をあげたのはレイだ。シュンは逆に口をOの形に開いている。
「2点!? 大平くん……」
「あー。大場くん意外とできるんだ」
視線を右に逸らして俺の方を見るレイ。しかし、出来ると言ってもシュンだって10点だ。赤点は避けられたが、50%しか取れていない。大学生は6割取らないと単位を落とすと聞いたことがある。二人とも落第点だ。
「レイ……。シェークスピアはどうしたんだよ。『ローマの休日』は? 本がぎっちり詰まった本棚も」
要するにテスト対策をしていないのだろう。あれだけ読んだり見たりする能力があるなら、2点なんてことは無いはずだ。
「ごめんなさい」
少し上から頭を下げてくる。
「二人って仲がいいんだな。呼び方とか、部屋とか。空気って言うの?」
シュンの表情は悪くない。不快に思っているわけではなさそうだ。
「うん。Good atmosphere ってやつだ」
「「なにそれ」」
圭吾の英語に二人して同じ聞き方。この二人はそんなに遠い存在ではない気がする。
「雰囲気がいいってさ。今の俺たちだ」
そう言ってやると4人とも笑顔になった。会話には流れがある。仲良くなれそうな流れ。こうなればほとんど友達だ。
それから何とか英語の勉強に持って行った。とにかく単語。これを知らないと文章で何を言われているのか分からない。逆にできれば単語を問われた時、正解できるから2点以上は取れるはずだ。
静かな勉強の最中、レイが唐突に呟く。
「ティッシュってさぁ。日本が一番消費しているんだよね」
テスト用紙を見返すとEnvironmental issues 環境問題という単語があった。そこから連想したのだろうか。
「えー。大平くん。下ネタ?」
何をどうしたらそう取れるのか。シュンがテスト用紙に書き込みながら唸るように言う。
「分かる? 大場くん」
「分かる。じゃあ年間でセックスの回数が世界一位の国、どこだか知ってる?」
何の話だ。ティッシュは環境から連想できるかもしれない。でも回数の話はどこから来たんだ。
「うーん。うーん。どこだろ?」
「英語の勉強より考えてるんじゃないか? レイ」
皮肉を言ってもレイは考えるのを止めない。逆にシュンは楽しそうだ。
「圭吾。なんとか言ってやってくれ」
こういう時、頼りになるのは圭吾だ。小テストの復習もとっくに終わって、タブレットで英語の記事を読んでいた。さすが圭吾。
「あぁ。ギリシャだろ? Greece」
「さすがケイ! 正解」
「えー。圭吾くん凄い!」
思わず自分の額を自分で叩いた。男子高校生は世界で一番バカな生物だ。レイが下ネタを言うとなぜだか俺が恥ずかしい。
「ねぇ。凄いねハヤト」
レイが俺の左肩に手を当てて言う。そんなに感動する話だったのか。
「なんか俺が恥ずかしいよ」
三人が声をあげて笑う。レイはさらに俺の肩を叩く。シュンと圭吾はハイタッチだ。俺もレイの肩を押してみる。服の上から、丸みが分かった。
「ちょっとぉ? ノックしてるんだけど」
声と同時にノックの連打音が聞こえた。ガラス窓から見えるのはアオイちゃんだ。圭吾がすぐに扉を開ける。
「これ、桜子先生が終わったら鍵かけて出てきてって。その後職員室に返して欲しいってさ」
机の中心に古びた鍵が置かれた。そしてアオイちゃんと目が合った。俺の左手はレイの肩の上にある。
「ごめん」
「いいよ。もう」
アオイちゃんにはなんとなくバレてそうだ。レイだけが不思議そうな目でこちらを見ている。
彼女が出て行った後も俺たちは暫く勉強を続けた。勉強が楽しいと思ったのはいつ以来だろうか。
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