男は絵画に興味が無かった。

蓮見 七月

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男は絵画に興味が無かった。下

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彼はこのこじんまりとした個人経営のカフェをなんとなく彼女の見た目とも似ているように思った。

素朴で清純そうな、優しい雰囲気を漂わせるカフェだからだろう。

そしてまた、その見た目に反して内側では外見からは想像しにくいような事柄が会話の大半を占めていた事も彼女と似通っていた。

競馬でのあたりがどうこう。

あの女優の見た目が不味いだの。

どこぞの大統領の娘がかわいいだの何だのと。

非理性的な会話が騒音にならない程度に飛び交っていた。

このカフェの外観なら、より知性的、あるいは品のある、理性的な会話が想像できたが、中に入ってみるまでは分からないものだと彼は思った。

もちろん彼は彼女の事を品の無い女、非理性的で低俗な女だと思ったことはない。

似通っているのは、公共の場で話していれば周りから浮いてしまうような会話をしているところだった。

彼と彼女との会話は、決して公の場では言えないようなセンシティブな箇所を含んでいたからそう思ったのだろう。

彼らの会話はそんな雰囲気から始まる。

「先輩、最近はどんな本を読んでいるんです?」

「相変わらず夏目漱石だよ」

彼らの会話はもっぱら読書や勉学に関することから始まるのが通例だった。

「そっちは最近は何の勉強をしているんだい?」

「唯脳論について自分で本を買って読んでます」

二人はお互いの知識の交換会に多くの時間を費やすことが出来た。

自分の読んだ本について他人に説明できるのは、お互いにとってメリットがある。

自分の考えや発想、あるいは知識そのものをアウトプットすることによってお互いが理解を深められたし、お互いが自分の専門分野以外について知る良い機会になっていた。

そうしているうちに4時間が経過して7時になった。

外は秋空らしく暗闇掛かっている。

けれどもお互いに注文したのは、紅茶とコーヒー一杯ずつだけだった。

からになった二つのカップを見て二人はもう夜が近いことに気が付いた。

そこで彼女は白ワインを男は赤ワインを注文した。

自然、会話も夜に似合う話が出来るようになっていった。

「勉強するときってたまにセックスより気持ちがいいときがあるの」

「それは幸福なことだね。僕はそんな風に思ったことないや」

彼女は性に対して開放的だった。

かえって性に対して閉塞的なことを批判したこともある。

彼女曰く、生理も大人に近づいたようで嬉しかったらしい。

もちろんその感想が普遍的なものではないと思いながら彼は楽しげに聞いた。

会話はより一層、夜に近づいた。

「同性愛についてどう思います?」

「いいんじゃないかな?自由だと思うよ」

「認めるけどセックスはなし。みたいな?」

「いや、僕は別にセックスしてもいいと思ってる」

「へぇ そういう人には始めて会ったな」

会話が性に近づき、お互いの表情もアルコールによってか上気していた。

彼女はワイシャツの一番上のボタンをはずして、胸元に右手をうちわのようにして風を送り込む。

彼女の胸元から流れる雅な、鋭い、しかし良い匂いが彼の鼻を強く刺激した。

「次はいつ会います?」

そう言って彼女はテーブルに前のめりに乗り出した。

その時、彼はこの瞬間を最も美しい状態で保存してしまいたいと思った。

それが出来るのは、おそらく絵画だけだった。

この瞬間から、彼は絵画に興味を持った。恋に落ちた


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