浮気

蓮見 七月

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浮気 Ⅲ

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 激しかった。先週の月曜日よりも、もっと激しかった。それに何より充足感がある。
「答えてくれてありがとう」
 上半身を起こして言うから白洲くんの腹筋が一層たくましく見える。
「うん。一週間考えたけど、結局白洲くんのことが好きだった」
 前に会ったときの美並みなみさんは? という問いに対してやっとはっきり答えることができた。
 彼に合わせて上半身を起こすとお互いの汗がライトに照らされてはっきり見えた。
「今だから言うけど、これから浮気の関係になるかもしれないのに“美並みなみさんは?”なんて聞いて私に判断を委ねるのは、ちょっと卑怯なんじゃない?」
 普通、浮気をするときにはっきりと浮気します!なんて宣言したりしない。恥ずかしいし、罪悪感もある。でも彼は私にそうさせたのだからチクリと言ってみたかった。
「ごめん。悩ませることにはなると思ったけど君の意思を尊重したかったんだ」
 浮気をするのに意思の尊重なんて必要なんだろうか。浮気でなくとも、女性側の意思を無視する男性なんてたくさんいるのに。そんなことを気にするのはある意味で繊細なのかもしれない。
「講義の後、あなたなんて嫌い。無理やりするなんて最低! って言われたらどうするつもりだったの?」
 そうはならなかったけど、あったかもしれない世界を想像するのが楽しくて聞いてみた。私は彼の答えを聞くのが好きなんだ。
「事と次第によっては強制性交等罪で逮捕されてたかも」
 あまりに真面目な顔で答えるものだからつい口元が緩んでしまった。すぐに彼も微笑み返してくれる。お互いに笑ったけど、たぶん本気でそう思ってたんだろうな。
 ミネラルウォーターを口に含むと思いのほかたくさん喉に流れ込んできた。砂漠みたいに体が乾いてた。
「爪を噛むのが好みなの?」
自然とそうしてきたけど、常識的に考えればそういうことはしないと思う。彼の変わった性嗜好なんだろうか。
「ううん。相手の爪を噛むなんて初めてだった。ただ爪が、キミの一番きれいなところだと思ったから」
 彼がちょっとだけ心配そうな顔をしたように見えた。嫌がってなんていないのに。それどころか、今日は私が上だったから、まるで彼が私に傅いているみたいで興奮した。それに爪を噛むなんて、変質的なやり取りを自然に取り交わせることが嬉しかった。支配と、被支配が交じり合う感覚がとても気持ちがいい。きっと彼とは相性が良いんだと思う。だから自信をもって、彼の心配に笑顔を返すことができる。
「彼氏はどうするの?」
「翔太には何も言ってない」
つまり浮気だ。先週も確かに浮気だったけど、今回は明確な違いがある。私は私の意思で浮気をした。白洲くんは私にそう言われても快活に笑うだけだ。
「なんで浮気について肯定的なの?」
 私は浮気をしたけども、世間や一般常識が浮気について否定的なのはわかる。そんなことも分からない男じゃないだろうから聞いてみたい。
「うん。僕は個人の恋愛関係や性的な関係について、世間の常識が干渉するのはおかしいと思うんだ」
 彼にはどうも世間や一般常識を疑う癖がある。そこが他の人には持ちえない彼独特の魅力だ。
「世間の多くの人は浮気をした人間に対して悪魔か魔女のように扱う。言葉を使って火あぶりにする。これは私刑だと思う。自分たちが正義だと思い込んで私刑を執行しているだけで、実際は法治国家のなかでとてもアナーキーなことをしていると思うんだ。裁くのは僕たちの仕事じゃないはずなのに。その矛盾が気に入らないんだ」
 確かに最近の報道やSNSでの批判は目に余るものがある。あれだけの暴言を面と向かって言える人間がいるだろうか。それに言われてみれば人の性関係や恋愛関係に見も知らぬ他人が口を出すのもおかしなことだ。私だって友達のアヤに昨日は誰とセックスしたの? なんて聞いたりしない。ましてやそれが良いこと、悪いことだなんて言える立場じゃない。世間にはおかしなところがある。
「じゃあこの浮気は世間に対する革命なのね」
「僕たちは恋と革命のために生まれてきたのかもしれないね」
 有名な小説から引用して答えてくれた。その小説を知っているのを目で確認し合って笑った。
「そろそろ寝よう。もう火曜日だ」
 彼がそう言ってシーツをかぶせてくれたから、私がライトを消した。

 替えの洋服を持ってきてなかった。それなのに堂々と大学に行けるのはなぜだろう。
 そういえば白洲くんの家から直接大学へ向かうのは初めてだな。私の家から通うのと変わらないくらいの時間がかかるのだけど、新しい景色を見るのが楽しい。清々しいというのはこういう気持ちのことを言うのだろうか。
 一週間前の電車の中で、私は本を読む人を寂しいと思ってた。今は逆に私も本を読みたいと思う。都合がいいと思われるかもしれないけど、本が繋がりを強固にしてくれることを体験したから。私が『斜陽』を読んだのはずいぶん前の事だったと思う。それでも昨日は活躍してくれた。
それに、出発の前に見た彼の部屋には本が沢山あった。付き合った彼氏がタバコを吸っていたから、自分も吸うようになったという話は聞くけれど、私の場合は煙草の代わりに本なのかもしれない。
そう思うと視界の端に映る読書中の高校生を愛おしく思える。カップルを見ても不安に思わない。
ただよく見ると男女カップルの男の方の髪型が翔太に似ている。なんで男子大学生は似たような髪型が多いんだろう。その方が安心するのだろうか。
 そういえば翔太の家には本なんて無いな。スマートフォンばかり見て何をしてるんだろう。聞いたこともなかった。
 そうこう考えている間に目的の駅に着いてしまった。
大学の最寄り駅までくると見知った顔がいくつもある。しばらく歩くとまたあの髪型が目に入る。今度は本人だ。
「おはよう。翔太」
 後ろから肩を叩いたからか、少し驚かれた。
「おはよう。美並みなみ
 彼は今日も右手にスマートフォン。何をそんなに見ていたいんだろう。
「なに見てたの?翔太はよくスマホ見てるけど、何してるのか聞いたことなかったよね」
 答えに期待している自分がいる。もしかしたら、私の彼氏は知らないところで何か立派なことをしているのかもしれない。私に言わないだけで本当は向上心があってニュースを見たり、電子書籍を読んでいたりするのかも。
「ゲームしてた」
 どうしても白洲くんと比べてしまう。彼の部屋には多くの本があって、良く読書をしているのが分かる。でも翔太の部屋には積み重なったものは無かった。もちろん最近のゲームは面白くて完成度も高いのだろうけど、私の期待した答えとは違っていた。
 ただこの落胆を表情に出しちゃいけない。
「へぇ。何のゲーム?面白そうならやってみようかな」
 それから大学までゲームの話をして一緒に歩いた。私はよくその話を聞いたと思う。キャンパスに入ったから、もうそれぞれの講義へ向かわないといけない。今日の別れ際だ。
「なんか今日、いつもよりテンション高いね」
「そうかな。朝から彼氏に会えたからかも」
 今日は気分が高揚してたんだ。もっと注意して過ごさないと。でもそのおかげか今日はいつもより翔太の話をよく聞けたと思う。火曜日の発見はそれくらいで頭が冴えてるから寝付くまでに時間がかかった。

 中だるみの水曜日。そういうけど今日も私は冴えてる。
しっかり4限まで講義を受けて、帰り際に大学の図書館へ寄るとアヤを見つけた。報告したら喜ぶかもしれない。
「また彼のところに行ったの?」
 席に着くなりそう言われた。しかも昨日、白洲くんの家に行ったことは両親と白洲くん本人以外は知らないはずなのにはっきり“また”という手話を使って。彼女にはお見通しなんだ。
 服?手話でそう聞くと、彼女はそうそうと返す。
「それに月曜日は私の事なんて眼中になかったみたいだし」
 アヤの表情筋は本当に柔らかい。嫌味に見せた冗談だとすぐに分かる。
「浮気ってどんな感じ?」
「ドキドキする。あと興奮するせいか頭が冴えてるみたい」
 それから今朝の翔太とのやり取りを報告がてら振り返ってみると、今日の私はいつもと違ってハイになってる。興奮して気分はいいけど、隠し事をするのに適した気分とは言えない。
「でも、いつもよりちゃんと話を聞けたんでしょ?浮気を隠すためとはいえ彼氏は嬉しかったんじゃない?」
 そう言われると確かにそう思う。今朝は翔太も楽しく話せたんじゃないだろうか。そうだとすると彼氏にとっても悪いことばかりではない気もする。
「今日もこれから白洲くんの方へ行くの?」
「帰りに寄るだけだよ」

 今日は寄るだけ。そう言ったのに結局、私の指に不自然な凹みができた。これで三つ目だ。彼の家に寄ってから1時間、右手の人さし指を差し出した。
 爪を噛まれた跡が増えるたびにドキドキする。このドキドキは気持ちがいいけど、そう耽ってばかりもいられない。一応私は悪いことをしているんだから気を付けないと。明日は翔太の方と一緒にいるだろうから。

 そういえば先週の木曜日はやたらと翔太は鋭かったな。いつもより私を気にかけてるような。今思えばそれも生理明けを狙うためだったんだろうけど。
 ご褒美のための待てができるんだから、彼はそんなに馬鹿でもないのかもしれない。
「おはよう美並みなみ
「翔太おはよう」
 先週と同じように電車から降りてきた彼氏と挨拶する。ただ今日は翔太から挨拶してくれた。それにいつもより笑顔な気がする。
「そういえば昨日の講義どうだった?難しいって言ってたけど」
 そんなこと言ったっけ。確かに昨日の講義は難しいけど翔太に言ったこと自体忘れていた。
「難しいけど何とかなりそう。それより良く私が言ったこと覚えてたね」
「一応、彼氏だからね」
 お互い茶化し合うように笑った。けれど内心ドキッとした。なんでわざわざ一応なんてつけたんだろう。もしかして浮気したのがバレていてそれについて皮肉を言ったのだろうか。
 いや、翔太が浮気を察知していたら笑顔で挨拶なんてしてこない。それに皮肉を言って私をいたぶるような趣味は無いはずだ。きっと真っ当に私を糾弾すると思う。ドラマなんかで見る様なよくある言い方で。
「あれ? もしかして彼が白洲くん?」
 またドキッとした。翔太の目線をたどると確かに雑踏の中に白洲くんがいる。でも何で翔太は彼のことを知ってるんだろう。見たこともないはずなのに。
「なんで彼が白洲くんだって分かったの?」
 私が訊いたはずなのに、翔太は何で訊いてくるのか不思議だと言わんばかりの表情だ。
「同じ学部だし入学の時に撮った写真を見ればすぐわかるよ」
 考えてみれば簡単なことだ。だけど私が話した白洲くんのことを覚えていて、しかも調べてるなんて。
 変に質問し過ぎてる。先手を打って言った方がいい。
「話してみる?」
「いいじゃん」
 なんでそんなに自信があるんだ。正直、翔太と白洲くんとでは会話が通じる気がしない。
「白洲くんおはよう」
「おはよう。美並みなみさん」
 二人のときは呼び捨てだったりキミって呼んでくれるけど、外だからかさん付けだ。大っぴらに呼び捨てにされないのが歯痒い感じもするけれど、今はその配慮がありがたい。
「俺の彼女が白洲くんが気になるって言うから挨拶しようと思って」
 俺の彼女の部分を強調して言ったように聞こえる。もしかしたら翔太は単純に嫉妬しているだけかもしれない。
「政経演習で一緒なんだ。美並みなみさんの意見も面白かったよ。行政が学問に関係する人事に口を挟むのは良くないんじゃないかって」
 政経演習で以前盛り上がった話題だ。確かに私はそういうようなことを言った。しかも最近まで問題は続いていてニュースで取り上げられない日はない。
 でもたぶん、翔太は知らない。
「あぁ。それなら俺も美並みなみと話したよ。先週あたりにカフェで」
 そんな事実は無い。そんなことで見栄を張るなんて情けない。知らないなら堂々と知らないでいいのに。どうせなら知らないから教えてほしい。くらいのことを言ってほしかった。
「うん。そうだった。でも翔太はそもそも任命権が行政の長にあるのが良くないんじゃないかって言ってたね」
 これも出まかせだけれど、彼氏のことが可愛そうになって言ってしまった。それに浮気してるっていう負い目もある。これくらいはしてあげたい。
「なるほど。確かに」
 白洲くんはそう返してくれたけど、たぶん私の意見だって分かってる。もし私が白洲くんと浮気してないで、翔太の彼氏ってだけだったら情けなくて泣いてしまうかもしれない。
「そうだ。土曜日はまた一緒にどこかに行こう」
 二人の時に言うならデートのお誘いだけど、今は三人。これはきっと翔太の負け惜しみだ。
「いいよ」
話していたらキャンパスが近づいていた。講義の関係上、三人ともこれから別々になるはずだ。
浮気がバレるかどうか心配だったけど、かえって翔太の方が可愛そうな終わり方になってしまった。
私は白洲くんが好きだけど、翔太に必要とされてる。それと私はこの状況が嫌いじゃない。今日はそれだけ理解した。
  広い額とつまらなそうな目。先週と同じ。講義の終わりまでずっと学生を見下しているような話しぶり。
頭は良くてもあれじゃとても、賛同してくれる人は少ないだろうな。恋人とかいるんだろうか。
美並みなみ。ちょっと話を聞かせてくれ」
 先週は私から質問に言ったけど、まさか呼ばれるとは思ってもみなかった。気まぐれに他人に興味でも持ったんだろうか
「深く訊くつもりはない。変化があった。服装が少し派手になり、講義も以前よりは集中して聴く様に。講義の開始前には読書。先週私に訊いた事と関係があるのかな」
 鋭い意見で思わず声を上げてしまいそうな質問だ。でも非難するような言い方じゃない。なにより、この人はそれぞれの事象に興味があるだけで私本人に興味は無さそう。そんな印象を受ける。だからかえって答えやすい。
「はい」
 推理を当てたからか、教授の顔に笑顔が見えた。
「最後に一つ。読み始めたのは何の本?」
「強い女性についての本です」
さすがに『痴人の愛』ですとは言いづらい。
 教授は満足そうに大きく息を吸って立ち去ってしまった。自分の中で何かが完結したんだろうな。もう私への興味は失せているんだろう。
 あの教授にも興味を惹かれる事柄があったんだ。印象と実際は違うんだな。そういえば私もたぶん、浮気をするだなんて印象を持たれてないな。
そう思うとちょっと面白い。明後日、白洲くんと会うのにいい土産話になりそう。

「本、読み始めたんだ。何読んでるの?」
痴人の愛。教授にはそう伝えるのは恥ずかしかったけど、彼に対してすんなり言えた。
「今のキミに似合うよ」
 今日も私が指を差し出して、彼が爪を噛む。
 今日は右手の中指にした。
 車中に差し込む月の光に興奮を煽られる。それに木、金、土曜日と会ってなかったからか、一層気持ちいい。
 この車は白洲くんのお父さんのものらしい。借りた本人は借りたことを一切気にしないような運転をしてまた私を驚かせてくれた。
 ミーハーかもしれないが、男が外車で自宅まで迎えに来てくれるとやっぱり嬉しい。
 右ハンドルのようだけど、車に詳しくない私でも外車と分かるような見た目をしているからたぶんイギリスの車だと思う。
 私もそうだけど、世の中の女性はこういうのに乗ってくる男が好きだと思う。私はそんな男と浮気してる。
「爪って噛んだ後、どうしてるの?」
 今まで流れでそうしてきたから知らなかった。口に含んでから後で捨てたりしているのだろうか。
「最初は噛んだ後、食べちゃった。その次からは流石にキミが嫌がるかと思って後で捨てるようにした」
 同意が欲しいとか言ってたくせに彼はやっぱり繊細だ。
「食べていいよ」
 白洲くんがさっき噛み千切った爪をどこからか取り出してもう一度口に含んだ。
 少し、もごもごしてから喉を通ったのをみると私まで気持ちがよくて鳥肌が立った。
「そういえば、昨日のデートはどうだった?荒れてなかった?翔太君」
 なんとなく自信ありげに聞こえる。たぶん白洲くんはデートするにしても翔太には負けるようなことはしたくないという気持ちがある。今、負けてないことを半ば確認したからそう尋ねてきたんだ。
「だいぶ甘えてきたよ。翔太」
 結果から言うと白洲くんの思う通りで、翔太が私をリードするような展開は無くて、主に私が彼を励ましてあげる様な一日だった。お昼も夜も彼を甘やかした。
「でも、それも嫌じゃなかったな。必要とされるのは気持ちがいいよ」
 白洲くんが笑った。ニヤニヤといやらしく口角を上げるのではなくて、はっきり口を大きく開けて快活に笑った。
 私は一人の男には求められてる。そうしながらもう一人の男を求めてる。浮気が気持ちいいのは、まず私は一人からは好かれているという安心が先立つからだろうな。その安心が壊れるかもしれない行為が浮気で、その不安に興奮する。安心と不安を行ったり来たりするのが普通、感じることのできない気分で楽しいんだ。
「私ね。翔太に浮気がバレたら、そうです。浮気です。って言ってやるつもり」
「いいね。警察に捕まるわけでもないし、責任は僕たちそれぞれが取ろう。もし門外漢が何か騒ぎ立てるようなら僕が一言、言ってやる」
 このたぶん異常な宣言を正面から捉えてくれる彼が好き。それから随分くっついて遊んでお互いの家に帰ることにした。

 月曜日は誰にとっても、いつもより気合がいる曜日だと毎回思う。
 この曜日が上手くいくかどうかでこれからが充実するか決まるから。
 最初に差し出した右手薬指の爪が自然な程度には整った。毎日、特に白洲くんと浮気するようになってからは一層綺麗に手入れをしてる。
 彼氏の方の翔太は気付くだろうか。浮気までされてるんだから気付いてもよさそうだけど。
 8時半。いつもの出発時間だ。大学の最寄り駅で翔太と待ち合わせ。
 本を読みながら電車に揺られて1時間半。サラリーマンやキャリアウーマン、カップル。いずれも気にならなくなった。たまに気になるのは真剣な表情で本を読む人。いったい何を読んでるのか気になるようになった。浮気してから随分モノの見方が変わったな。
 10時ちょうどに駅に着いた。5分前に到着しないくなったのは心の余裕が生まれたからかもしれない。
 本を読んで字を追ってると視界の端に茶髪が見える。彼氏は相変わらずスマートフォンを見ながら歩いてる。
「おはよう美並みなみ
 彼から挨拶してくれるようになった。それに笑顔だ。
「土曜日は俺ばかり甘えてごめん。今度美並みなみが好きなとこ行こう」
 二週間前よりはるかに良いカップルだと思う。
「あれ? また爪、割れちゃったの?」
 生えてきた右手の薬指の他は絆創膏で巻いてある。絆創膏だらけでちょっと不自然だったかな。
 指摘されると痛いはずの所なのに、不思議と慌てたり緊張したりはしなかった。
「爪は生え変わり続けるから」
                                                 (了)
 
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