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第5話 甘い思い出②
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「看護師さんが厳しくてのぉ! 甘いものの食べ過ぎはいけません、って病院食だけ食ってたらこの通り!」
「へ……?」
「お姉ちゃんたちに『ダメですよ』って注意されるのはやぶさかでもないが……でも、儂はあんこが食べたいんじゃー!」
まさに杞憂。祖父はすこぶる元気だった。
ずるっと肩を落とす私の隣で、ふふんと和泉さんは胸を張る。
「尭ならそう言うだろうと思って……ほら、今朝焼いたたい焼き持ってきてやったぞ!」
「おぉ! さすが和泉!」
いつもより早起きして何をしているのだろうと思っていたが、まさか祖父のためにたい焼きを焼いていたとは予想外だった。袋の中から取り出したたい焼きを、祖父が嬉しそうに食べ始める。
「あぁ、甘くていいのぉ……生き返る」
「まだ死んでないでしょ」
「そうそう。足の骨もな、だいぶくっついて、もうすぐ退院できるらしい」
「そうなの!? 良かったぁ……じゃあ、今日は何でわざわざ来るように言ってたの?」
そう尋ねると、祖父の顔がわずかに強張る。それまで嬉しそうに頬張っていたたい焼きを急にもそもそとゆっくり噛みしめ始め、やがて重々しく口を開いた。
「あのパフェたい焼きは、結貴の発案か?」
完全に虚を突かれ、ぱちくりと目を見開く。それから、すうっと背筋を冷たいものが落ちていくような感覚があった。
「そうだけど……どうして、パフェたい焼きのこと知ってるの?」
乾きで喉に張り付きそうになる声で尋ねると、祖父は手元のスマホを取り出した。そして、手慣れた様子でSNSのこちょうのアカウントを開く。祖父が眉を顰めたのは、パフェたい焼きの宣伝投稿だった。
「暑い日にも売れるものを、と考えてくれたのは分かる。だが……これだけは、儂は認められん」
祖父に否定されたのは、おそらくそれが初めてだった。今までも、時折言い合いになることはあったけれど、じゃれあいのようなものばかりで本心をぶつけ合うようなことはしたことがない。だからこそ、どんなメニューを出してもきちんと成果さえ出せば、こちょうのメニューとして認められるのでは、とどこか家族としての甘えがあった。
そんな自分の甘さが急に恥ずかしく思えてきて、口を引き結んだまま俯いた顔を上げられない。
「なんでだよ、こんなに面白い見た目してんのに」
隣から不思議そうに声を上げた和泉さんにはっとする。
「味もさ、あんことくりぃむが一緒に食べるとうめーんだよ。尭も一回食べてみろって」
不覚にも、鼻の奥がつんと染みた。ただ見た目を面白がってるだけかと思っていたが、和泉さんはちゃんと商品として認めてくれていたらしい。それが、ただの甘えではないと背中を支えてもらえたようで、少しだけ顔を上げることができた。
しかし、和泉さんの言葉におじいちゃんはますます渋い顔を浮かべる。
「なんでダメなのか聞いてもいい? そしたら、私ももっと改良点を考えてみるから」
改良、という言葉に少しだけ祖父の顔が悩まし気に翳る。
和泉さんと二人でお店を切り盛りしてきた祖父だ。これからの季節、普通のたい焼きだけでは乗り切れないと分かっているはず。だから、ソフトクリームの機械もあったのだし、何かこちょうらしい冷たいスイーツがあった方がいいとも薄々気付いているかもしれない。
「美味しいというのは知っとる。SNSでも客が呟いてるのを見たし、何より和泉はまずいものはまずい、って言うからのぉ」
たい焼きを上手く焼くために練習している時も、和泉さんはなかなかに厳しかった。神様というだけあって、やはり舌は肥えている。知らずうちに、そんな和泉さんのお墨付きももらえていたことに、わずかに胸が弾んだ。
「じゃあ、何が悪いんだよ」
和泉さんが首を傾げると、身体も一緒にぐいんと横に折れた。
おじいちゃんは手の中に残っていたたい焼きの頭を見下ろしながら、ぼそりと呟く。
「見た目がちょっと……苦しそうじゃろ?」
「へ……?」
「お姉ちゃんたちに『ダメですよ』って注意されるのはやぶさかでもないが……でも、儂はあんこが食べたいんじゃー!」
まさに杞憂。祖父はすこぶる元気だった。
ずるっと肩を落とす私の隣で、ふふんと和泉さんは胸を張る。
「尭ならそう言うだろうと思って……ほら、今朝焼いたたい焼き持ってきてやったぞ!」
「おぉ! さすが和泉!」
いつもより早起きして何をしているのだろうと思っていたが、まさか祖父のためにたい焼きを焼いていたとは予想外だった。袋の中から取り出したたい焼きを、祖父が嬉しそうに食べ始める。
「あぁ、甘くていいのぉ……生き返る」
「まだ死んでないでしょ」
「そうそう。足の骨もな、だいぶくっついて、もうすぐ退院できるらしい」
「そうなの!? 良かったぁ……じゃあ、今日は何でわざわざ来るように言ってたの?」
そう尋ねると、祖父の顔がわずかに強張る。それまで嬉しそうに頬張っていたたい焼きを急にもそもそとゆっくり噛みしめ始め、やがて重々しく口を開いた。
「あのパフェたい焼きは、結貴の発案か?」
完全に虚を突かれ、ぱちくりと目を見開く。それから、すうっと背筋を冷たいものが落ちていくような感覚があった。
「そうだけど……どうして、パフェたい焼きのこと知ってるの?」
乾きで喉に張り付きそうになる声で尋ねると、祖父は手元のスマホを取り出した。そして、手慣れた様子でSNSのこちょうのアカウントを開く。祖父が眉を顰めたのは、パフェたい焼きの宣伝投稿だった。
「暑い日にも売れるものを、と考えてくれたのは分かる。だが……これだけは、儂は認められん」
祖父に否定されたのは、おそらくそれが初めてだった。今までも、時折言い合いになることはあったけれど、じゃれあいのようなものばかりで本心をぶつけ合うようなことはしたことがない。だからこそ、どんなメニューを出してもきちんと成果さえ出せば、こちょうのメニューとして認められるのでは、とどこか家族としての甘えがあった。
そんな自分の甘さが急に恥ずかしく思えてきて、口を引き結んだまま俯いた顔を上げられない。
「なんでだよ、こんなに面白い見た目してんのに」
隣から不思議そうに声を上げた和泉さんにはっとする。
「味もさ、あんことくりぃむが一緒に食べるとうめーんだよ。尭も一回食べてみろって」
不覚にも、鼻の奥がつんと染みた。ただ見た目を面白がってるだけかと思っていたが、和泉さんはちゃんと商品として認めてくれていたらしい。それが、ただの甘えではないと背中を支えてもらえたようで、少しだけ顔を上げることができた。
しかし、和泉さんの言葉におじいちゃんはますます渋い顔を浮かべる。
「なんでダメなのか聞いてもいい? そしたら、私ももっと改良点を考えてみるから」
改良、という言葉に少しだけ祖父の顔が悩まし気に翳る。
和泉さんと二人でお店を切り盛りしてきた祖父だ。これからの季節、普通のたい焼きだけでは乗り切れないと分かっているはず。だから、ソフトクリームの機械もあったのだし、何かこちょうらしい冷たいスイーツがあった方がいいとも薄々気付いているかもしれない。
「美味しいというのは知っとる。SNSでも客が呟いてるのを見たし、何より和泉はまずいものはまずい、って言うからのぉ」
たい焼きを上手く焼くために練習している時も、和泉さんはなかなかに厳しかった。神様というだけあって、やはり舌は肥えている。知らずうちに、そんな和泉さんのお墨付きももらえていたことに、わずかに胸が弾んだ。
「じゃあ、何が悪いんだよ」
和泉さんが首を傾げると、身体も一緒にぐいんと横に折れた。
おじいちゃんは手の中に残っていたたい焼きの頭を見下ろしながら、ぼそりと呟く。
「見た目がちょっと……苦しそうじゃろ?」
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