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第一章 いざ、異世界へ!

いざ、転生のときへ!

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「おい、爺さん」

「……ん? 君は誰じゃ?」

 俺はまだ踏みつけられている爺さんに話しかける。

 踏みつけられながら目だけを動かして俺を見るとか、めっちゃ気色悪いな。

「俺は、お前とそこの……君、名前なに?」

「私は最高天使長の『リーリエ』です」

「そう、リーリエとお前のせいで俺は昇天しちゃったんだよ。どうしてくれんの?」

 俺は主に爺さんを睨みつける。

「はて……ワシ何かした?」

「はい、元の原因は最高神様、貴方です。まぁ、その先は私もやりすぎちゃったってのもありますけど」

「ん~、それはわるかっ……」

「だから、謝罪はいいのよ。さっさと生き返らせろ」

 リーリエが足を退けたのを狙い、次は俺が爺さんの頭の上へと足を乗せる。

 ガンガンと顔面を踏みつける。

 罪悪感? んなもん感じない。

「痛い、痛い!? やめるのじゃぁあ!」

「じゃあ、俺の願いを叶えろや」

「無理じゃよ! 同じ世界に二度も同じ魂を蘇生はできん!」

「あ? じゃあ俺はどうなるんだ」

「そりゃあ、そのまま儚く散って……いだだだだだ!」

 その言葉を最後まで聞くことなく、俺は爺さんの頭を先程よりも強く踏み付ける。

 スピードも上げ、殺す勢いで。

「話を着けぇ! 他にも方法はあるんじゃ!!」

「ん? 儚く散って終われってか?」

「違うわい! いいから話を聞けぃ!」

 俺は舌打ちをかまして、仕方なく足を退ける。

 爺さんは頭を抑えながら「年寄りになんという……」とか言いながら話をする。

「転生じゃよ、転生」

 ほう! 転生か!

 あの神様からチート能力貰って、異世界に行って、仲間作ったり、ハーレムしたり、姫さん助けたり、学園行ったり、あと成り行きで魔王討伐……とか?

「お、お主……なかなか想像豊かじゃのう」

「おい、だからプライベート侵害だぜ」

「まぁ、お主が想像している通りの異世界に行くことになる」

 あ、二人揃って無視ですかいな。

 というか、想像通り……ファンタジーな世界か。

 同じ世界でもないから転生ができると。

「蘇生と言うより誕生じゃからな」

「ちょいとその世界の説明を」

「うむ。
 その世界は『オルディナ』と言う。
 魔法や剣、モンスターや魔族、色々なファンタジー種族が存在しておる。
 一応大陸は一つとしてまとめられておるが、海があまりなくての。
 大陸が7割を占めているほどじゃ」

 地球とはだいぶ違うらしいな。

「文化とかは?」

「文化は……テンプレの中世ヨーロッパ風じゃな」

「うへぇ、電子機器がないのは覚悟してたが、それだと結構不便だな」

「まぁ、それを魔法が補っておる感じじゃ」

 ふむ、魔法ってのはやっぱ便利だな。

 このぐらいでいいかな。

 あとは……アレを貰うだけだな。

「アレ、というのはなんじゃ?」

「おいおい、こんなテンプレ的ファンタジーな世界なら……あれだろ、『チート能力』だ!」

 こんなテンプレで貰えないはずがない!

「嫌……ひでぶっ!?」

「ん? ごめんなんて言ったか聞こえなかったわ」

 俺は思いっきり爺さんの腹に向かって飛び蹴りをする。

 爺さんは数メートル吹っ飛んでいき、仰向けでぶっ倒れる。

 このジジィ、俺を殺した上に俺の要求を拒否するか。

「おいおい、てめぇに拒否権あると思う? ねぇ、思う?」

「だ、だって! ここまで初対面で痛めつけられた奴にそんなチート能力……ギャァァァァ!!」

 そのまま最後まで言わさず、ジジィの上へとダイブをかます。

「あ、貴方……今、ものすんごい顔してますよ」

 少し引き気味にリーリエはそう言い、ジジィに同情の目を向けている。

 コイツにそんな目を向けてどうするんだよ。

 俺は最高の笑みを向けて、ジジィの顔面を掴む。

「で、俺に力……くれるよな?」

「は……はい」

 もう半泣き状態のジジィは、悔しそうに俺を見て起き上がる。

 そんなジジィにリーリエはというと。

「……ど、ドンマイですね」

「リ、リーリエぇぇぇぇぇぇ!」

 爺さんはそのままリーリエに抱きつこうとする。

 だが、リーリエは……

「やめてください。近づくな。臭いが移る。死ね。自分でなんとかしてください」

「……うぐっ……ひぐっ……ワシ最高神なのに……最高神なのに……」

 リーリエによる罵声により、最高神は完全に心が折れてしまった。

 リーリエ程の美少女にそこまで言われると……なぁ。

「び、美少女……」

 リーリエは俺の考えていることを読んだのか、頬を赤くしながら下を俯く。

 あれ、なんだあの可愛い生き物。

「それで、どんな能力が欲しいのじゃ……不老不死はさすがに授けられんぞ?」

「そこまで要求しねぇよ。異世界楽しめねぇじゃん」

 そうだな、どんな能力が良いか……。

「……よし、決めた」

「おう、なんじゃい」

「身体能力と魔力を……そうだな、アンタが出来る最大値まで上げてくれ。
 あとは創造魔法だな」

「うむ、創造魔法は少し制限が掛かるが良いか?」

「制限によるな」

「例えば、自分自身を神にするとか、死んだ者を生き返らせることはできん」

「そのぐらいなら問題は無い」

「ふむ、わかった……ほれ」

 爺さんは左手に瞬間的に作った何かを俺へと投げつけてきた。

 なんだ、カプセルか?

「真っ黒なカプセルとか、薬物か?」

「んなわけあるか、それを飲めば、お主の今言った能力が授かる。その時、少し魂の変化が起こるが、大して問題ない。身体能力に関しては、成長と共に限界を超えて育つ」

「ふーん、まぁいいや」

 俺はひょいと口の中に入れ、即座に飲む込む。

 水ぐらい渡してくれりゃ、嬉しかったのによ。

「……ッ!?」

 すると、俺の体に変化が起きる。

 いや、細かく言うと魂なのだろうな。

 魔力に関する扱い方や、なにか熱いものが体の中に流れ込んできた。

 ……数秒すると、それは収まる。

「……あぁ、なるほど」

「どうじゃ、分かったか?」

「まぁ、大丈夫だ」

 こうやって……魔力を手に集中させて集めて。

 まずは……創造魔法の使い方だな。

「魔力はイメージ……なんかそんなこと誰かが言ってたな」

 イメージ……イメージ。

 すると、俺の手のひらが徐々に温かく感じてきて、俺のイメージ像が完璧になると、それは俺の手のひらに現れた。

 これは……創れたってことか。

「これは……猫耳?」

 そう、俺が作ったのは猫耳のカチューシャだ。

 しかも付けた人の思い通りに耳を変化させたりできる、まさに魔法によって作られたって感じだ。

「ほれ、リーリエにやるよ」

「へ、私ですか!?」

「んなもんそこのジジィや俺が着けたって、気持ち悪いだけだ」

「うっ……事実じゃが言われるとキツいのぉ」

「でも……あ、ありがとうございます」

 リーリエは可愛らしくそう言う。

「さてと……それじゃあ、そろそろその異世界に行きたいな」

「ほれ、後ろに魔法陣を設置してある。そこに乗れば、数秒後には転生完了じゃ」

 後ろを見ると、本当にあった。

 なかなか有能なところを見せてくれるじゃねぇか。

「じゃあ……面倒事作ったらまた来るわな」

「もう来んな」

「はい、何時でもいらしても良いですが……そう簡単には来れませんよ、ここ」

 それが……来れるんだよなぁ、これが。

「まぁ、楽しみにしておいてくれ」

「はぁ……お待ちしております」

「もう二度と来んな、ワシが死んでしまうわい」

 俺は最後にその言葉を聞き、視界が暗黒へと包まれる。

 だが、最後に爺さんから思わぬ言葉が聞こえた。

「あ、一応、そういうチート能力は5歳になってから使えるようにしておるからのぉ。最初から使えたら、お主の母親が死んでしまうわい」

 爺さんがそう言ってきた。

 なんだ、結構気遣いができるジジィじゃねぇか。

「ワシ、最高神なのにジジィって……」

 そんなしょぼくれた声を聞きながら、俺は意識をなくす。
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