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第二章 まさかのんびり生活からの……地獄!?

朝の悲劇と日常会話

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「……んぁぁ?」

 俺は眩しい朝の光に目を覚ます。

 どうやら、俺はベッドの上に居るようで、昨日のを味わった後、そのままベッドにダイブして寝たらしい。

 上半身を起こそうとする。

 ボキボキ……バキッ!

「が……いってぇ!」

 俺は絶対体からなってはいけない音を聞きながら、ひしひしと痛む体を耐えながらなんとか立つ。

 もう立つだけで五分は掛かったと思う。

「おいおい、まだ五歳の子供だってのに……ここまでやるかあの二人は」

 粘着質すぎるだろ、恐怖感じるわ。

 昨日の夜、俺は父さんと母さんに追いかけ回された。

 父さんは剣で地面を叩き割ったり。

 母さんは魔法を使って俺を追いかけ回した。

 結果、屋敷の近くにある森は崩壊。

 改めてあの二人の強さと恐怖を味わった。

 尚、母さんは事前に、屋敷全体に防音魔法を掛けて、崩壊した森などは治したらしい。

 ホント、魔法って便利だよな。

 まだ少し震えている足を動かし、扉の前へと止まる。

 さて、ここからどうしたものか。

「セバスが来るのを待つか……ユリ…ぶべらっ!?」

「兄さま~!」

 俺が頭を悩ましていた時。

 俺の顔面に硬い木の扉が勢いよくぶつかる。

 その衝撃により、俺は後ろのベッドにへと吹き飛ばされ、そのままベッドにダイブする。

 痛みは激痛へ、そして超激痛へと変貌を遂げた。

「~~~~っ!」

 俺は声にもならない声を出して、涙を堪える。

 だ、ダメだ……今開けたのが誰が何となく察してしまう。

「あれ、兄さま~、まだ寝てるの?」

 まさかのユリが入ってきた。

 ユリの足音がどんどん近づいてくる。

 そして……ぴとっと、俺の手を握る。

「……あ、兄さま起きてるー!」

 そして、ユリはそのまま……俺に強く抱き着いた。

 これが、いつも通りなのだが、俺はもう我慢に耐えきれなかった。


「っ……ぎぃやぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!」

「ひゃっ!? あ、兄さま!?」






 そして場所は変わってリビング。

「……で、セバスがその声を聞いて駆けつけたと」

 父さんは朝食を食べながら、そう言う。

 どうやら、セバスや他の使用人たちには、訓練のことはもう伝えてあるらしい。

 元々、訓練というのはやる気だったらしいが、いつの時期に始めるかは未定だったらしい。

 そして、今回の旅の件についての条件として、三年間の訓練を受けることを言い渡された。

 まったく、俺にはとんだ地獄だ。

「ぷッ、ふふふ……ダメ、笑っちゃう」

「……」

 母さんに関してはもう爆笑している。

 あの大人しくておしとやかの母さんが珍しい。

 だが、そんな悲鳴をあげるような原因を作ったのは……作ったのは……あれ、俺?

 え、自業自得ってやつ?

 いや、違う、母さんと父さんだ。

 ユリを泣かせなかったら、俺も根に持たれなかったし、こんなに体中筋肉痛にもならなかった。

「あ、兄さま……ごめんなさい」

 ユリが泣きそうな顔で俯いて謝る。

 別にユリが謝る必要は一切ない。

 俺があそこで我慢してポーカーフェイスをしておいたら、バレなかった。

 それを我慢できずに叫ぶとは……情けない。

「ユリが謝ることじゃないよ」

 俺はユリの頭を優しく撫でる。

「……んぅ」

 どうやら、俺の手が心地良いのか、気持ち良さそうな顔をしている。

 あ、可愛い。

「それで……ユト」

    そして、父さんが話を切り替える。

「これから毎日のように訓練をするのだが、その日その日の私とマリアとの訓練時間を分けようと思う」

「分ける……どんな感じ?」

 分けると言われても、よく分からない。

「昼食を終えてから二時間後、私の剣術訓練を一時間ほど、その後少し休憩してからマリアの魔法訓練を受けてもらう」

「ふぅん……そういう感じね」

 なるほど、だいたい分かってきた。

 昼食食べてから三時間、それは腹の中にある食べ物を全て消化させるのに必要の時間。

 この世界でも、そういうのは常識として分かってるのか。

 剣術はともかくとして、魔法に関しては正直一日でも早くコツとやらを掴んで使ってみたい。

 魔法は詠唱が必要、なんか厨二病くさいことを言わなければならないらしい。

 本に書いてある通りに詠唱しても、やはり頭の中でイメージをしなければならない。

 だが、そのイメージがどのような感じなのかが分からない。

「……分かった」

「……なら良し、私は少し体を温めてこよう」

 朝食を食べ終わり、父さんは立ち上がってどこかへ行ってしまった。

 体を温めるって、まだ朝だぞ。

「あの人、あぁ見えて元だけど『最強』って言われてるのよ?」

「最強……父さんはそんなに強いのか」

 本にも載ってないから、多分数年前ぐらいの話なのだろう。

「そんな人に指導してもらえるのよ、成長スピードは私たちの息子だから早いと思うけど……多分地獄を見るわよ」

「昨日のアレより地獄を見ることなんて、この先数十年はないと断言できるよ」

 昨日のはまさに鬼と人間の死の鬼ごっこだった。

 危うくネックレス引きちぎって地平線の彼方まで走り去るところだった。

「私は、別に普通だからそんなに苦しくないと思うわよ」

「昨日の魔法を見た俺に、そんな冗談が通用するとでも?」

 昨日の母さんの魔法。

 怒りに任せて特殊属性『破壊魔法』を使ってきたのだ。

 世界に数人しか使えない魔法を、あんな容易く使うとか、普通じゃないわ。

 しかも、それをまだ五歳の息子に向かって放ったんだぜ?

 脅しのつもりで撃ったらしいが、俺が少し右にズレていなければ、即死だった。

 本当に俺の親かと疑ったぐらいだ。

「さぁて、私も少し魔力調整してこよっと」

 まるで話を逸らすかのように、ルンルン気分でリビングから出ていく。

 使用人たちも、食器やらを持っていき、俺とユリとセバスだけとなるリビング。

「……セバス」

「はい」

「……俺が生き残れる確率はどのくらいだと思う?」

「……昨日の夜からの計測なら、確実に50%はきります」

 あ、マジで生き残れる気がしないわ。

 セバスに少しだけ体の状態を良くしてもらったが、それでも全快ではない。

 微妙に痛む部分もある。

「兄さま、何がするの?」

「ん、いや……少し母さんたちと追いかけっこ訓練というなの拷問をするだけだよ」

「追いかけっこ……兄さま、私もやりたい!」

「ごめんね、ユリはできないんだよ」

 やったらまず俺が暴走しちゃう。

 それに、絶対ユリ怪我する。

「えぇ~、やりたい!」

「ダメなものはダメなんだ、追いかけっこはまた今度にしよ?」

 俺はユリの頭を撫でながら言う。

 ここで駄々をこねられて泣かれてしまうのは俺の心も傷んでしまう。

「むぅ……じゃあ、今日一緒に寝てくれる?」

「っ……良いよ、一緒に寝てあげる」

 うるうるとした目で見てくるその姿は、まさに天使そのもの。

 そっちの方の理性も崩壊しそうだわ。

「えへへー」

 可愛いなぁ……でもなんでだろ。

 なんで俺が上を向いてユリと話してんだろ。

 あれ、俺ってまた身長縮んだ?

「ユト様、身長が伸びないからと言って、現実逃避はお止め下さい」

「セバス、お前ってホント人の痛いとこ付いてくるね」

 ユキナよりも酷いんじゃないか?
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