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第二章 まさかのんびり生活からの……地獄!?

三分間の地獄

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 父さんの訓練が始まってから、30分。

 やっと半分が過ぎた頃。

「ふっ!」

「むぅ!」

 俺は父さんと激闘を繰り広げていた。

 驚いたことに、数分ぐらいで俺は縮地を使えるようになった。

 やり方は……まぁ、血液をあぁしてこうしてだ。

 しかも、嬉しいことに俺の内部まではネックレスの力は通らないらしく、防御力が下げられていない。

 なので、どんなに血液が加速しようとも、俺の血管は一切傷つかないということ!

 ん? それよりもなんで使えたのかって?

 俺にも分からん! 才能じゃないの?

 そこから、父さんは驚愕の連続。

 そして、少し縮地の扱い方などを知るために、打ち合っているのだが……

「父さんっ! これ本気でやってないよね?!」

 どう見ても尋常じゃないスピードに、防いだのに痛みが走るパワー。

 そして、何よりもその楽しそうに浮かべる邪悪な笑みが、もう訓練じゃなくなっているのだ。

 なんとか縮地や、体内の血液を全力で加速させ元の身体能力を、大幅強化させて持ち堪えてはいる。

 だが、それでも時間の問題だろう。

 だって、さっきから父さんのスピードとかその他もろもろがどんどん上がってるんだぜ?

「本気? まだまだ5割程度よ! もう少し上げて行くぞぉ!?」

「父さんっ!? 相手は五歳の子供! 子供だよ!?」

「んなもん、知るかぁ! 五歳でも強けりゃ関係ねぇ!」

「あんたキャラ変わりすぎだろ!」

 何とか止めようと話すが、止まる気配は一切ない。

 くっ、そろそろ……最後の足掻きだ!

「うぉぉぉぉ!」

 俺は防御を捨てる。

「む、なにっ!?」

 すると、肩に父さんの重い一撃が当たる。

 ものすごい痛みで、今にも倒れそうだ。

 だが……そうもいかん!

「正気に……戻れぇ!」

「っ!?」

 さすがにこれ以上やったら、俺の方が持たない。

 ここは我に帰らせ、五歳の息子にどんなことをしたのか説明して謝らせて土下座させなければ。

 俺はそのまま父さんの腹にパンチを入れる。

 すると、俺の腕の細さが原因か。

 そのまま父さんの腹筋を貫いた。

 そして、前へと数メートル吹き飛ぶ。

「はぁ…はぁ…もう、無理…」

 俺はそのまま倒れ伏せた父を見て、俺も仰向けになって倒れる。

「ぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁ!」

 ダメだった、叫んでしまった。

「クソっ、クソクソクソ……肩がァ!」

 まるで、肩にダンベルを叩き付けられているかのような痛みを味わう。

 痛い、痛い痛い……!

 ここでネックレスを外すかっ!?

 ダメだ! 外せるほど余裕がねぇ!

 俺は地べたでのたうち回る。

「ちっくしょう……」

 しばらくすると、痛みが少しマシになった。

 歯を食いしばりながらも、俺は涙を流し立ち上がる。

 肩を見ると、血がダラダラと垂れ、それを見てまた痛みが倍増する。

「っ……父さんは?」

 父さんが倒れていたところを見る。

 どうやら、痛みはあるようで……。

「いってぇ……何年ぶりだ、この痛みは…!!」

 フラフラとしながらも、ギリギリ立ち上がって顔を歪めていた。

 俺も顔を歪めているのだろう。

「ユト……すまない、我を忘れていた」

「そうだろうね……こっちも、死ぬ、かと……」

「っ! ユト!」

 さすがの俺でも、その激痛には耐えれなかった。

 そこからの俺の記憶が全くなかった。





 ~???~


 真っ白な部屋。

 もう見慣れてこの後の展開は予想されるであろう、真っ白な部屋。

「やぁ」

「ほら、忘れた頃にやってくる、クソジジィ」

「待て待てい! なんじゃその言い草は!」

 はいはい、口に出さずに心の中で思っておくよ、クソ能無しジジィ。

「もっと酷い言われよう!?」

 ジジィはガーンという表情をする。

 すると、もう一つの声が。

「貴方がバカでカスでゴミでクズで考える力もない変態みたいな脳みそを持っていることなんて、私が貴方に仕える前からの話じゃないですか」

「……ジジィ、変態なのか」

「なっ、ななな……!」

 もうあそこまで言われると、反論しようにもその砂のように脆い精神じゃ無理だろうな。

「……ぐずっ」

 ジジィの泣き姿なんて誰が見たいんだ、一人で泣いとけ。

「お主、老人に対して少しは優しい心は持てんのか!?」

「んなもん、全部ユリと前世の妹に捧げてきたわ。今俺の中のお前の印象は結構酷いぜ? 言ってやろうか?」

「やめて下さい、お願いします、もう精神が持ちません」

 ジジィはそう言いながら、いつの間にか土下座をしていた。

 こんな清々しいほど綺麗な土下座は初めて見たわ。

「まぁ、ユトさんもそこまでにして……」

「まぁ、それはそうと……久しぶりだな、リーリエ」

 俺は完璧美少女天使のリーリエにそう言う。

 この前の夢の世界では、会議中で会えなかったんだったか。

「そうなんですよ、このゴミが溜めに溜めた書類を全て拝見して、会議に出したんですよ? しかも30分も遅刻して…」

「……そうか、やはり役に立たない上司が居ると、苦労するもんな」

 俺はリーリエの肩に手を置き、同情の目を送る。

 俺も前世は役立たずの上司やらにこき使われ……大変だった。

「分かってくれるのですか、この気持ち!」

「当たり前だ、お前の気持ち、よく分かった……今までよくこんなゴミの為に……」

 グサッ!

「うぅ……そんなこと言ってくれるのは貴方ぐらいですよ。あのゴミとは違って」

 グサッ!

「当たり前だ、お前と俺は似ているからな……今までよく頑張ったな」

「……もうワシ死にたい」

 ん? なんだ、神でも死ねるのか?

「いえ、神はそもそもとして生きてるか分からない存在ですから、もう死んでいるようなものです」

 え、何そのホラー。

「そういえば……なんで俺はここに呼ばれたんだ?」

 前の魂交換の件か?

 それとも何か、また新たな問題が?

「まぁ、新たな問題の方ですかね」

「そう、じゃな……」

「はぁ…また問題増えたんかいな」

 ため息と共に関西弁が出た。

 さてはて、今回はどんな驚きの内容を聞かされるのやら。
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