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第二章 まさかのんびり生活からの……地獄!?

五歳にして……家出!?

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 初めは、この力を隠しながら家族を守ろうと思っていた。

 そうすれば、皆から避けられずに仲良くして暮らせると思っていた。

 そして、俺が記憶が戻って数ヶ月。

 母さんや父さん、執事たちは俺に優しく接してくれる。

 五歳ではありえない身体能力、頭脳、理解力を持っていても、みんなは俺のことを避けずに喜んで受け入れてくれた。

 嬉しかった、化け物のような目で見る人達が居なくて。

 だが……それは、この過程がおかしかったからに過ぎない。

 世界最強の剣士と言われた父、ガイヤ。

 高位を魔法を容易く扱う天才魔法使い、マリア。

 そして、それを昔から見てきた、執事のセバス。

 もうこの時点で普通の生活は送れない。

 だから、多少力を見せたって、そこまで驚くことではなかったし、世界最強と天才の間に生まれたのなら、このぐらいできて当然、という偏見もあった。

 だから、みんなは俺を見てもすごいとだけしか言ってなかった。

 だが、やはり化け物は化け物。

「……ごめん、ね」

 木に寄りかかって眠る父に、俺は言う。

 世界最強の渾身の一撃を粉砕し、殺しかけた相手を、軽く殺した世界最強の息子。

 父のプライドはもうボロボロ。

 自分よりも強くなっていた息子を見て、無意識に拒絶したのだろう。

 まだ、自分が世界で一番強いと思いたかったのだろう。

 分かってる。

 だけど、それでも心ってのは傷つく。

 ましてや、俺も人間。

 精神が強い人でも、親に拒絶され、『化け物』と言われたら……

「っ……うぅ……」

 誰だって、泣いてしまう。

 前世の記憶を持っていても、やはり今の自分の本当の親に嫌われたら。

 愛していた、愛されていた親に嫌われたら。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 俺だって号泣する。

 化け物と言った時、瞬間的に父さんを気絶させてしまった馬鹿な自分は。

 感情的になり、今も泣く時分は。

 これは夢だと思いたいのだ。

 数分間、俺は無邪気の子供のように泣いた。

「……」

 俺は父さんを抱え、そのまま家の方角へと向かう。

 ちゃんと傷はすべて完治して、服も修正した。

 このまま記憶ごと封印して、他の記憶にすり替えても良かった。

 だが、そうして母さんと話し合いになると、話がごちゃごちゃになる。

 だから……という存在が、ユトというこの存在が消えれば、問題ないと思った。

 そして、新たな記憶……という、デタラメながらも、内容としては良いと思った。

 俺の自己満足……でもないか。

「……この家の玄関を通るのも、これで最後か」

 俺は倒産を抱えながら、玄関の扉を開ける。

 すると……

「ユト様……!」

 セバスがこちらを振り向き、俺の方へと走ってくる。

 そして……俺に抱き着く。

「ご無事で、本当にご無事で……!」

 抱き着く力から、本当に心配をしてくれてたんだなと、俺は涙が出そうになる。

 だが……それでも、もうやることは決まってる。

「セバス……

「え……」

 俺はセバスの額に指をつけ、眠らせる。

 もう、屋敷に向かう途中、とうさんの記憶変換は完了していた為、もう済んだ。

 眠る二人を壁に寄りかからせ、母さん達のいる部屋へと向かう。

 その途中、メイド達と遭遇するが、眠らせて記憶変換を繰り返す。

 そして……母さん達の気配がする部屋へと入る。

「母さん……」

「!」

 ばっと、顔を上げる母さん。

 そのまま俺を見た瞬間、母さんは強く抱きしめる。

 この、母親の温もり……本当に、俺を愛していると無意識に感じるくらいの愛。

 だが……これもお別れ、か。

「ユト、生きてて本当に良かった……良かったよぉ」

「母さん……心配させてごめんね」

「本当よォ……それと、あの人は!?」

「父さんなら、下で……怪我をしたから、セバスに手当てをしてもらってるよ」

 心が、痛む。

「そう……」

 すると、他の……三人が俺へと突っ込んでくる。

 まだまだ小さい俺の体に、飛び込んでくる光景は悪夢そっくりだ。

「あにさまぁぁ! ふぇぇぇ!」

 ユリは、もう言葉にならずに泣き喚いている。

「この、ユト様のバカぁ! どれだけ心配したと思いですか!?」

 ユキナは、流石にいつものクールな感じは一切無く、少女らしく泣いている。

「ふにゃぁぁぁぁぁ!」

 ミゥに関しては、もう猫の言葉で泣いている。

「ごめんね、心配させて……」

 母さんが、状況を知らせたのだろう。

 みんながみんな、泣いていた。

「ユト、本当に大丈夫だった?」

「ん、あぁ……もう魔族は父さんが倒してくれたよ……だから」

 俺は、目から涙を流しながら……を発動させる。

 これ以上、自分の身を自分で傷つけないように。

 母さんたちを早く楽にさせてあげるために。

「ユ、ト……!?」

 瞬間、ここにいる皆が、全員眠ってしまう。

「……へ?」

 否、一人だけ。

 一人だけ、眠ってはいなかった。

「兄、さま?」

 ユリだった。

 魔法の不発? いや……魔法に対する適性を持っていたのか?

 どういうことだ?

「ユリ……兄様はね、今から兄様じゃなく他人なるんだよ」

 俺はユリの頭を撫で、最高の……俺の心からの笑顔を見せる。

 まだ、誰にも見せてなかった、最高の笑顔を。

「へ……あ、兄さまは、ユリの兄さまだよ!? なんでそんなこと……ぁ」

 涙を流しながら叫ぶユリに、俺は再度魔法を掛ける。

 すると、すんなりと魔法を受け、眠ってしまうユリ。

「……ごめんね、自分勝手な馬鹿野郎で」

 記憶変換をして、皆の記憶をすり替える。

 ちゃんと、絶対に本当の記憶が解けないように、頑丈に、小さく、薄くして……封印をかける。

 例えどんなに俺の姿を見て、匂いをかいでも分からないように。

「……母さん、父さん、ユキナ、ユリ、セバス」

 俺は全員の家族の名前を呼ぶ。

 そして、ユリの唇にキスをする。

 元々ファーストキスは俺なんだ、問題ない……よな?

「俺は……お前たちのことを忘れず、死ぬまで愛している」

 どんなに世代が変わろうと、俺はこの五人の名前だけは、忘れないように誓う。

「ここまでしなくても……良かったのかな」

 目から溢れ出る大量の涙をみる。

 やっぱり、俺。

「ひぐっ……うぅぅぅ!」

 悲しいよ。

 そして、俺はこの家を……五歳にして旅立った。









 ~神の間~

「……これで、良かったのかのぉ」

 最高神が、言う。

「さぁ……ですが、これでこの家族は助かり、五大貴族が欠けることなく、人間国の均衡は保たれます」

 天使が、言う。

「……やはり、人間の心というものは、深いのぉ」

「貴方の心は変態キモすぎカスゴミ以下ですがね」

「君ね、今シリアス的な展開でしょ? それをぶち壊すのはどうかと思うぞ?」

 だが、この神たちも、他の神たちも知らなかった。





 この先の展開が、まさか神々にも影響することとなるのは。
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