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第三章 10年後の世界へ、さぁ行くぞ!

まさかの……初めてのなかーま!

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 これじゃ埒があかん。 

「……りり」

「……え?」

 俺はいきなり発言した少女に、少し呆気をとられる。

 リリ?

「それが君の名前?」

「ん……」

 リリはこくんと頷く。

 可愛いなぁ……。

「んぅ……」

 おっと、可愛すぎて無意識に撫でてしまった。

 でも……気持ち良さそうにしてるし、が嬉しそうに……ん?

 リリって獣人か。

 だが……少し違和感があった。

「リリ、お前って……」

「……?」

 俺はリリの目を見る。

「……!」

 リリは何故か驚いて俺からばっと離れる。

 すると、リリは両目を隠すようにして俺を見て体を震えさせる。

 ……あぁ、思い出した。

「憎子……か」

 憎子とは、名前の通り……誰からも嫌われ、人としての扱いを受けない道具のようなもの。

 種族に関係なく、魔力が体に宿っていなければ、それは憎子となる。

 だが、魔力が宿ってない者ってのは、この世界ではごく僅かな存在。

 見分けるのは簡単、その目の色だ。

 この世界の人達ってのは、両目の目の色が必ず統一されている。

 だが、憎子は片方が必ず赤、そしてもう片方が……紫色だ。

 俺も初めて目にするが……これは重症か?

 親も憎子と分かった瞬間、自分の子でも殺すと聞いたことがある。

 この子の親は……捨てたんだろうな。

「リリ……」

「……やぁ」

 どうやら、自分の正体がバレ、怯えている。

 ……ここまで人に怯えるとは、獣人族がこの人間国の中へと入ってきているのは、何となく察しがつく。

 捕らえられたんだ、人間族に。

「大丈夫だ……俺はお前を傷つけない」

「……」

 だが、それでもまだ怯えた目で震えている。

 やっぱり、人が怖くなっているのか。

 対人恐怖症ってやつか。

 性的な行為はまだされてないとは思うが……よく見ると、身体中に痣がある。

 暴行は当たり前のように行われていたらしい。

「……怖かったな」

「……!」

 別に助ける義理はない。

 それでも、子供がこんな風に扱われてんだ。

 少しは、勇者気取りをしたくなってしまう。

「苦しかったよな、泣きたかったよな……ほら」

「……ぁ…」

 俺はリリの目の前で座り、そのままリリを抱きしめる。

「家族に捨てられ、一人ぼっちで捕まえられて痛い思いをして……辛かったよな」

「ぁ……ぁぁ……」

 抱きしめ、頭を撫で、俺はリリの顔を見る。

 今にも泣きそうで、俺の方を見てくる。

 そんなリリに、笑顔を向ける。

「大丈夫……俺は、お前の味方だ」

 そして、リリの限界は……迎えてしまった。

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁ!」

 俺の首に抱き着き、リリは周り構わず泣き叫ぶ。

 本当に辛かったのだろう。

 家族もいない、心を許して話せる相手もいない。

 いるのは自分を傷つける悪魔人間

 そんな中、逃げだしてきたリリは……勇者だ。

「ホント、日本人にはキツすぎる場面だぜ……」

 俺は乾いた笑みを浮かべ、息をつく。

 さて、これからどうするのやら……。








 しばらく経つと、リリは泣き止む。

 すると、リリは俺の上へと登り、肩車へと移行する。

 えぇ、中々やばいぞ絵面。

「リリ、そこが気に入ったのか?」

「……ん」

 俺の髪の毛をぐじゃぐじゃと触りながら、笑顔で答えるリリ。

 今は気分が良いらしい。

 ん? なんで分かるかって?

 簡単だ、俺に触れた奴の情報は、全て俺の脳内へと運ばれる、便利な自動魔法を作った。

 だから、リリの記憶も今の体の容態も……感情さえも分かる。

 プライバシー侵害? お黙り、この異世界に常識は通じねぇよ!

「『自然回復スリートピュア』」

 俺はリリに自然治癒魔法を掛ける。

 これは、体のどんな異常も全て治し、体力を回復させる、チート能力だ!

 一応、回復魔法の上級になる。

「……ふわぁ」

「どうだ、気持ちいいだろ?」

 俺は肩車しているリリの頭を撫でる。

 ぁ……やっべ、髪の毛もサラサラになっている。

 その為、さっきよりも……もんすっごい気持ちいい。

「ハァハァ……マジで最高かよ」

 あ、理性が出るとこだった。

「……パ、パ」

 ぴたァ、俺はまるで時間が止められたかのようにピタッとその場で止まる。

 俺の後ろから、とんでもない一言が出た。

「パ、パパ……?」

「……や?」

 俺の顔を見て、『いや?』と言ったのだろう。

 ぐはぁ!

「……今から俺はリリのパバだ」

「……パ、パ!」

 心底嬉しそうな顔をして、リリは俺の頭を抱き着く。

 俺はというと……

 目、口、鼻から出た大量の血という血を拭き取っている。

 だ、ダメだ……リリの天使のような顔を見てると、俺の中にある血が持たねぇ。

「……『血液維持』を生成」

 ここで、創造魔法を使い、『血液維持』という技能を生み出す。

 言っていたと思うが、この世界にはスキルってのがない。

 代わりに技能というものがある。

 まぁ、大して変わらない。

「これで、リリの顔を見ても気にしないでいいな」

「……?」

「ぐぼはっ!?」

「!?」

 純粋そうな顔して首を傾げるのは、反則です。

 こうして、初めての仲間幼女が増えましたとさ。
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