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第五話 魔王の依頼
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「お願い……?」
予想外の言葉に、リュースが眉を寄せる。それだけで、アレフィオスは「ひっ」と悲鳴を上げるが、それでもなんとかぼそぼそと言葉を続けた。
「その……ですね。お願いというのは……リュースさんにもう一度、城へ来ていただきたいなと思いまして……」
「は?」
今度は三者が、それぞれ頓狂な声を上げる。リュースは思いきり顔をしかめ、「なんだそりゃ」と頭を掻いた。
「城に来いって、どういうことだよ。一度は逃げたくせに。罠でも仕掛けてんのか?」
「ち、違います! そうじゃなくて……きちんとお話をした上で、お招きしたいなって思いまして……」
なお、言葉を探すように宙へ視線をさ迷わせ、アレフィオスは小さく唸った。
「えーっと……つまり、お客様です。客人として、しばらく城に滞在して欲しいんです」
「はぁ?」
あまりに訳が分からず、リュースは険しい顔も忘れ、ただ口元を引きつらせた。
「なんで俺が、そんな」
「もちろん、お食事などは充分に用意させていただきますし、不便のないようにおもてなしさせていただくつもりですが……」
もじもじと、視線は合わせないままアレフィオスが話し続ける。リュースは思いきり顔をしかめ、「だからっ」と声を荒げた。
「なんで俺が客になんてならなきゃなんねぇんだよ! おまえらぶっ倒しさえすりゃ賞金だってガッポガッポなんだ。わざわざあんなとこに滞在する意味なんて」
「そもそも、なんでリュースをお客さんにしたいの?」
リュースの言葉を遮るように、エリシアが疑問を投げた。怒りも呆れもなく、ただただ不思議そうに。
「だいたい、リュースはあなたを倒しに行ったんでしょ? なんでそんな相手を、自分のお城にいさせたいの?」
エリシアは他の二人に比べれば恐ろしさもないのか、アレフィオスは心もち顔を上げた。ただし首をすくめ、言葉を探すように視線を巡らせつつ。
「そのぉ……リュースさん、すごく強かったんですよね。普通の方は、まず村から森を抜けてくるだけでも難しいですし、なんとか城についた時点でフラフラしちゃってるものなんです」
「瘴気の森は、文字通り瘴気に満ちているからね。人間にとっては、いるだけで辛い場所だし。魔物たちにとっては、天然の防護壁みたいなものだよね」
アーティエが確認を投げかけると、アレフィオスは視線を合わせずにこくりと頷く。
「でも、そこを越えてきたリュースさんはそのまま城に乗り込んできて、更に城の中の警護を破り、玉座の間までやってきました。これって、私たちにとっては大問題なわけです」
「そうよねぇ……王様護ってるひとたちが、みーんなやられちゃったわけだもんね」
呑気な口調でエリシアがうんうんと頷くと、当の「王様」は「そうなんです」と力一杯頷いた。
「警護長が、僕の逃げる時間を作ってくれましたが……手紙を書いて逃げるとき、思ったんです。これだけ強い方なら、仲間になっていただけたら、こんなに心強いことはないって」
外していた視線を、ちらりとだけリュースに向け。目が合いかけると慌ててまた明後日にそらしながら、アレフィオスは続ける。
「そもそも……城までやってくる人間って、ほんとに少ないんです。ですから、城の警護をしてるみんなも、実戦には疎くて。だから、あれだけ強いリュースさんが訓練をしてくれたら、すごくありがたいなーって」
「ふざけんな」
間髪入れず、リュースが憮然と呟く。
「さっきも言ったがな。おまえら倒せば賞金が出るんだよ。そしたら俺は、一気に大金持ちだ。おまえなんて相手にすんのも馬鹿馬鹿しいと思ってたが、更にそんなアホみたいな提案すんならさっさと始末して縁切るぞ」
ずいっと迫るリュースに「きゃっ!」と一見可愛らしい悲鳴を上げ、アレフィオスは自分よりも小さなエリシアの背後に、完全に収まってみせた。
「おっ、お金が欲しいんですか?」
姿は見せないまま、アレフィオスが言う。その盾となっているエリシアも、つられるようにリュースを見つめてきた。それに眉を寄せつつ、「そーだよ」と乱暴に頷く。
「でなけりゃ、仮にも命がけの仕事なんざしてるかよ」
「あの……そういうこと、なら」
もぞもぞと、エリシアの背後に動きがあった。手だけをそっと差し出してきたかと思うと、白く長い指先には、碧く輝く大きな石がはめこまれたネックレスが引っかかっていた。
「うわぁ綺麗!」
差し出されるままにリュースが受けとると、一瞬、静電気のような、バチリとした軽い衝撃を指先に覚えた。エリシアは大きな目を更に広げ、瞳に碧の輝きを映している。
「私が、その。……むかーし、身内から、譲り受けたものなのですが」
リュースはそれをほとんど聞き流しながら、まじまじとネックレスを見つめた。持つ手にかかる重みが、その石の価値を言外に告げている。
「人間が手に入れることはめったにない、稀少な石です。どれくらいの価値になるかは分かりませんが……引き受けてくだされば、それを差し上げますし。もし足りないのであれば、追加で報酬をお渡しします」
そう言いながら、エリシアの顔の横からひょこりと、アレフィオスが顔を出す。上目遣いに、リュースの顔色をうかがいながら。
「いかがですか……?」
リュースはきゅっと、口元を引き締めた。アレフィオスをじろっと睨み、次いで手に持ったネックレスの石をにぎにぎとして、その感触を確かめる。
「――仕方ねぇなぁ」
ネックレスを自分の首に下げながらふっと息を吐き、リュースは天井を仰いだ。仰いだところで、低い天井についたシミを見つけただけではあったが。
「そこまで言うなら、引き受けてやらんこともない」
胸を張るリュースに、「すっかり買収されたねぇ」とアーティエがにこにこ呟いた。
「引き受けてくださるんですか」
頼み込んでいた割りには、相変わらずエリシアに隠れたまま、アレフィオスはほぅと息をついた。
それを、じろっと睨みやり。
「やるからには、おまえもだからな」
「は……?」
かけられた言葉の意味を、全く理解できなかったのか。隠れるのも忘れて、きょとんとした表情でアレフィオスが首を傾げる。
「どういうこと、ですか?」
「どういうこともこういうことも、そのまんまだよ」
言うなり、アレフィオスの首根っこをつかむ。エリシアが「あっ」と責めるような声を上げるが、それは無視した。
不意をつかれたのであろうアレフィオスは、完全に表情を固まらせ、目をそらすこともできずに口だけぱくぱくさせている。そんな魔王に、リュースは舌打ちした。
「城のヤツらが強くなったって、おまえがそんなんじゃどーしようもないままじゃねぇか。――どこに出しても恥ずかしくない魔王にしてやるから、覚悟しとけ」
「ひ……っ」
震えるアレフィオスとは対照的に、呑気な声でアーティエが呟く。
「基本的に、面倒見がいいんだねぇ」
「パッと見はゴロツキみたいなもんだけど、根は良い子だから」
外野の声は敢えて無視し。リュースはアレフィオスを解放すると、怒鳴りすぎた喉と
この数時間でささくれた心を癒すために、酒を求めて部屋を出て行った。
※※※
「――ったく。魔王が水差しなんて持ってくんなよ」
ぬるい水で乾ききった口内を潤しながら、リュースが呻くように呟く。だがお陰で、気持ち頭痛と吐き気が和らぐような気がした。
「でも、昨晩アーティエさんに連れられて、一階から戻ってきたリュースさん、すごく酔ってらっしゃいましたしぃ……きっとお辛いだろうなって」
「だから、そういう小市民的な善行を働いてるんじゃねぇよ魔王。魔王なんて、恐怖振り撒いてなんぼだろうが」
「そんなぁ……偏見ですよぉ」
悲しげな声で弱々しく抗議するアレフィオスを無視し、空になったコップをテーブルに置くと、「それより」とリュースは切り出した。
「仕度したら、さっさと出発するぞ。村を出る前に、消耗品も補充しておきてぇし」
「僕も同行しても?」
気軽な調子で訊ねてくるアーティエに、リュースは眉を上げた。
「そりゃ、依頼人次第だけどよ。なんだよ急に」
「そんなの、面白そうだからに決まってるじゃないか。人間が……しかも、仮にも勇者が魔王を訓練するなんて、聞いたことないしね」
そう言ってアーティエがちらりと視線を向けると、アレフィオスは思いきり首をすくめながらこくこくと頷いた。
「わ、分かりましたぁ……」
「――じゃ、あたしも行く」
急に話しに加わってきたのは、エリシアだった。寝起きのリュースとは対照的に身仕度は整っており、やけに目を輝かせている。
「おまえ、いつの間に」
「さっき、リュースが水飲みながらアレフさんに絡んでたとき。ちゃんとノックはしたのよ?」
「返事もなしに入ってきたら、ノックの意味ねぇだろうが。おふくろみたいな真似しやがって」
そこまで言ったところで、はたと気がつく。
「それより。おまえまでついてくるって、それこそどういうつもりだよ。ここまで来たのだって危なっかしいのに、さっさと家に帰れ」
リュースの言葉に、エリシアはいやいやと思いきり首を横に振った。口など尖らせながら、わざと拗ねた表情を作り、リュースを見上げる。
「父さんに、フラフラ出歩いたままちっとも帰ってこないリュースのことを一度連れて帰ってこい、って言われてるんだもん。あたしだけ帰ったら、今度は父さんが魔王城まで追いかけてくるわよ?」
「あのジジィ……」
リュースが顔を引きつらせながら唸ると、エリシアはけろりとした表情で「そんな呼び方ダメよ」と嗜めてきた。
「父さん、最近ほんとに年とってきたこと悩んでるんだから。最近も、朝やたら早く起きるようになっちゃったんだって」
「知るか」
痛む頭を抑えながら、リュースはどこまでも深く、溜め息をついた。
「足手まといになるなよ」
「分かってるわよ。――アレフさんとアーティエさんも、よろしくね?」
やたらはしゃいだ声で、エリシアが二人に声をかける。ちらっと見やると、ハイタッチを強制されたアレフィオスは戸惑いつつ、アーティエはにこにことしながら、それに応えてやっていた。
「まーったく……しゃあねぇなぁ」
胸元の碧い輝きを指先で弄び、リュースはアルコールの残滓を肺から追い出すように、深く息を吐いた。
再びの魔王城への道中は、にぎやかなことになりそうだった。
予想外の言葉に、リュースが眉を寄せる。それだけで、アレフィオスは「ひっ」と悲鳴を上げるが、それでもなんとかぼそぼそと言葉を続けた。
「その……ですね。お願いというのは……リュースさんにもう一度、城へ来ていただきたいなと思いまして……」
「は?」
今度は三者が、それぞれ頓狂な声を上げる。リュースは思いきり顔をしかめ、「なんだそりゃ」と頭を掻いた。
「城に来いって、どういうことだよ。一度は逃げたくせに。罠でも仕掛けてんのか?」
「ち、違います! そうじゃなくて……きちんとお話をした上で、お招きしたいなって思いまして……」
なお、言葉を探すように宙へ視線をさ迷わせ、アレフィオスは小さく唸った。
「えーっと……つまり、お客様です。客人として、しばらく城に滞在して欲しいんです」
「はぁ?」
あまりに訳が分からず、リュースは険しい顔も忘れ、ただ口元を引きつらせた。
「なんで俺が、そんな」
「もちろん、お食事などは充分に用意させていただきますし、不便のないようにおもてなしさせていただくつもりですが……」
もじもじと、視線は合わせないままアレフィオスが話し続ける。リュースは思いきり顔をしかめ、「だからっ」と声を荒げた。
「なんで俺が客になんてならなきゃなんねぇんだよ! おまえらぶっ倒しさえすりゃ賞金だってガッポガッポなんだ。わざわざあんなとこに滞在する意味なんて」
「そもそも、なんでリュースをお客さんにしたいの?」
リュースの言葉を遮るように、エリシアが疑問を投げた。怒りも呆れもなく、ただただ不思議そうに。
「だいたい、リュースはあなたを倒しに行ったんでしょ? なんでそんな相手を、自分のお城にいさせたいの?」
エリシアは他の二人に比べれば恐ろしさもないのか、アレフィオスは心もち顔を上げた。ただし首をすくめ、言葉を探すように視線を巡らせつつ。
「そのぉ……リュースさん、すごく強かったんですよね。普通の方は、まず村から森を抜けてくるだけでも難しいですし、なんとか城についた時点でフラフラしちゃってるものなんです」
「瘴気の森は、文字通り瘴気に満ちているからね。人間にとっては、いるだけで辛い場所だし。魔物たちにとっては、天然の防護壁みたいなものだよね」
アーティエが確認を投げかけると、アレフィオスは視線を合わせずにこくりと頷く。
「でも、そこを越えてきたリュースさんはそのまま城に乗り込んできて、更に城の中の警護を破り、玉座の間までやってきました。これって、私たちにとっては大問題なわけです」
「そうよねぇ……王様護ってるひとたちが、みーんなやられちゃったわけだもんね」
呑気な口調でエリシアがうんうんと頷くと、当の「王様」は「そうなんです」と力一杯頷いた。
「警護長が、僕の逃げる時間を作ってくれましたが……手紙を書いて逃げるとき、思ったんです。これだけ強い方なら、仲間になっていただけたら、こんなに心強いことはないって」
外していた視線を、ちらりとだけリュースに向け。目が合いかけると慌ててまた明後日にそらしながら、アレフィオスは続ける。
「そもそも……城までやってくる人間って、ほんとに少ないんです。ですから、城の警護をしてるみんなも、実戦には疎くて。だから、あれだけ強いリュースさんが訓練をしてくれたら、すごくありがたいなーって」
「ふざけんな」
間髪入れず、リュースが憮然と呟く。
「さっきも言ったがな。おまえら倒せば賞金が出るんだよ。そしたら俺は、一気に大金持ちだ。おまえなんて相手にすんのも馬鹿馬鹿しいと思ってたが、更にそんなアホみたいな提案すんならさっさと始末して縁切るぞ」
ずいっと迫るリュースに「きゃっ!」と一見可愛らしい悲鳴を上げ、アレフィオスは自分よりも小さなエリシアの背後に、完全に収まってみせた。
「おっ、お金が欲しいんですか?」
姿は見せないまま、アレフィオスが言う。その盾となっているエリシアも、つられるようにリュースを見つめてきた。それに眉を寄せつつ、「そーだよ」と乱暴に頷く。
「でなけりゃ、仮にも命がけの仕事なんざしてるかよ」
「あの……そういうこと、なら」
もぞもぞと、エリシアの背後に動きがあった。手だけをそっと差し出してきたかと思うと、白く長い指先には、碧く輝く大きな石がはめこまれたネックレスが引っかかっていた。
「うわぁ綺麗!」
差し出されるままにリュースが受けとると、一瞬、静電気のような、バチリとした軽い衝撃を指先に覚えた。エリシアは大きな目を更に広げ、瞳に碧の輝きを映している。
「私が、その。……むかーし、身内から、譲り受けたものなのですが」
リュースはそれをほとんど聞き流しながら、まじまじとネックレスを見つめた。持つ手にかかる重みが、その石の価値を言外に告げている。
「人間が手に入れることはめったにない、稀少な石です。どれくらいの価値になるかは分かりませんが……引き受けてくだされば、それを差し上げますし。もし足りないのであれば、追加で報酬をお渡しします」
そう言いながら、エリシアの顔の横からひょこりと、アレフィオスが顔を出す。上目遣いに、リュースの顔色をうかがいながら。
「いかがですか……?」
リュースはきゅっと、口元を引き締めた。アレフィオスをじろっと睨み、次いで手に持ったネックレスの石をにぎにぎとして、その感触を確かめる。
「――仕方ねぇなぁ」
ネックレスを自分の首に下げながらふっと息を吐き、リュースは天井を仰いだ。仰いだところで、低い天井についたシミを見つけただけではあったが。
「そこまで言うなら、引き受けてやらんこともない」
胸を張るリュースに、「すっかり買収されたねぇ」とアーティエがにこにこ呟いた。
「引き受けてくださるんですか」
頼み込んでいた割りには、相変わらずエリシアに隠れたまま、アレフィオスはほぅと息をついた。
それを、じろっと睨みやり。
「やるからには、おまえもだからな」
「は……?」
かけられた言葉の意味を、全く理解できなかったのか。隠れるのも忘れて、きょとんとした表情でアレフィオスが首を傾げる。
「どういうこと、ですか?」
「どういうこともこういうことも、そのまんまだよ」
言うなり、アレフィオスの首根っこをつかむ。エリシアが「あっ」と責めるような声を上げるが、それは無視した。
不意をつかれたのであろうアレフィオスは、完全に表情を固まらせ、目をそらすこともできずに口だけぱくぱくさせている。そんな魔王に、リュースは舌打ちした。
「城のヤツらが強くなったって、おまえがそんなんじゃどーしようもないままじゃねぇか。――どこに出しても恥ずかしくない魔王にしてやるから、覚悟しとけ」
「ひ……っ」
震えるアレフィオスとは対照的に、呑気な声でアーティエが呟く。
「基本的に、面倒見がいいんだねぇ」
「パッと見はゴロツキみたいなもんだけど、根は良い子だから」
外野の声は敢えて無視し。リュースはアレフィオスを解放すると、怒鳴りすぎた喉と
この数時間でささくれた心を癒すために、酒を求めて部屋を出て行った。
※※※
「――ったく。魔王が水差しなんて持ってくんなよ」
ぬるい水で乾ききった口内を潤しながら、リュースが呻くように呟く。だがお陰で、気持ち頭痛と吐き気が和らぐような気がした。
「でも、昨晩アーティエさんに連れられて、一階から戻ってきたリュースさん、すごく酔ってらっしゃいましたしぃ……きっとお辛いだろうなって」
「だから、そういう小市民的な善行を働いてるんじゃねぇよ魔王。魔王なんて、恐怖振り撒いてなんぼだろうが」
「そんなぁ……偏見ですよぉ」
悲しげな声で弱々しく抗議するアレフィオスを無視し、空になったコップをテーブルに置くと、「それより」とリュースは切り出した。
「仕度したら、さっさと出発するぞ。村を出る前に、消耗品も補充しておきてぇし」
「僕も同行しても?」
気軽な調子で訊ねてくるアーティエに、リュースは眉を上げた。
「そりゃ、依頼人次第だけどよ。なんだよ急に」
「そんなの、面白そうだからに決まってるじゃないか。人間が……しかも、仮にも勇者が魔王を訓練するなんて、聞いたことないしね」
そう言ってアーティエがちらりと視線を向けると、アレフィオスは思いきり首をすくめながらこくこくと頷いた。
「わ、分かりましたぁ……」
「――じゃ、あたしも行く」
急に話しに加わってきたのは、エリシアだった。寝起きのリュースとは対照的に身仕度は整っており、やけに目を輝かせている。
「おまえ、いつの間に」
「さっき、リュースが水飲みながらアレフさんに絡んでたとき。ちゃんとノックはしたのよ?」
「返事もなしに入ってきたら、ノックの意味ねぇだろうが。おふくろみたいな真似しやがって」
そこまで言ったところで、はたと気がつく。
「それより。おまえまでついてくるって、それこそどういうつもりだよ。ここまで来たのだって危なっかしいのに、さっさと家に帰れ」
リュースの言葉に、エリシアはいやいやと思いきり首を横に振った。口など尖らせながら、わざと拗ねた表情を作り、リュースを見上げる。
「父さんに、フラフラ出歩いたままちっとも帰ってこないリュースのことを一度連れて帰ってこい、って言われてるんだもん。あたしだけ帰ったら、今度は父さんが魔王城まで追いかけてくるわよ?」
「あのジジィ……」
リュースが顔を引きつらせながら唸ると、エリシアはけろりとした表情で「そんな呼び方ダメよ」と嗜めてきた。
「父さん、最近ほんとに年とってきたこと悩んでるんだから。最近も、朝やたら早く起きるようになっちゃったんだって」
「知るか」
痛む頭を抑えながら、リュースはどこまでも深く、溜め息をついた。
「足手まといになるなよ」
「分かってるわよ。――アレフさんとアーティエさんも、よろしくね?」
やたらはしゃいだ声で、エリシアが二人に声をかける。ちらっと見やると、ハイタッチを強制されたアレフィオスは戸惑いつつ、アーティエはにこにことしながら、それに応えてやっていた。
「まーったく……しゃあねぇなぁ」
胸元の碧い輝きを指先で弄び、リュースはアルコールの残滓を肺から追い出すように、深く息を吐いた。
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