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2033年4月 脈動する生命(下)
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ふと、目を覚めると俺は真っ白な景色にいた。
地面がない。そう自覚したのは景色を認識して間もない時間だろう。
「俺は何をしていたんだ…」
記憶を思い出す。しかし、今まで何をしていたのか思い出せない。俺はゆっくり考えていたが、そんな猶予はなかった。光はやがて花畑に代わり、その先に巨大な河川が見える。
ふと、その先に進んではいけないと感じつつも俺は歩みを進む。河川が美しい。そう感じただけだが、何故か魅了されたように俺の意思とは関係なしに進んでいく。
もう少しで到着するそう思った矢先、何者かが俺の手を掴んだ。振り返るとそこには懐かしい顔がそこに立っていた。
「お前は…アスクレピオス?」
「父さん!しっかりして!なんでここにいるのかわからないけど、まだ早いよ!
父さんにはやることがあるでしょ!」
その言葉を聞き、俺の記憶が徐々に蘇る。これまで過ごしてきた仲間との時間、そして何のためにここまで来たのかを。
瞬間、周囲の景色が変わり、徐々に光が強くなる。
「アスクレピオス!俺はお前にまだ伝えていないことが!」
「…その必要はないよ父さん。きっと、また会えるから」
アスクレピオスは切なく言ったが、その表情は悲しそうな表情で見つめていた。しかし、その瞳は喜んでいるように見えた。直後、俺の存在はこの場から消え、現実へと帰還する。
「アスクレピオス!!」
「うお!?びっくりしたね。
弁田君大丈夫かい?」
目覚めると近くにいたのは突然俺が起き上がったことで驚いている聖先輩と遠くに座っているアカネの二人だけだった。
俺は周囲を見渡し、状況を整理する。ぼんやりとだが、河川の近くにいたような気がする。それともう一人。名前は思い出せないが、大事な人だったと思う。
しばらく考えていると、距離をとっていたアカネが近づき、頭を下げた。
「その…ごめん。
ついかっとなって口より先に手をだした」
「…ああ、そうだった。確かに俺はアカネに蹴られたな。
いや、気にしなくていい…と言いたいところだが、ちょっと頭を出せ」
アカネは頭を出すと俺は思いっきり拳をぶつける。正直、俺の拳の方が痛かったが、こうでもしなければやってられなかった。
「すぐに手を出すのはやめろ。それと、手を出すなら加減をしろ。
今後は俺に対して二度と暴力は振るうなよ」
後、堀田は例外な。と付け足す。こうなった全ての元凶は堀田はである。ならばこれくらいの八つ当たりは受けて然るべきだ。
「本当になんともないのかね?
流石に、河川を見たとか、花畑を見たとかそういう光景が見えなかったなら多分大丈夫だね」
「そういえば、河川?らしきものはあったな。その先が気になって渡ろうとしたが、誰かに必死に止められたんだよな。
それからその誰かと話していたんだが…あれは誰だったんだ?」
すると、アカネは若干顔を青ざめていた。何故と重い聖先輩に尋ねようとしたが、聖先輩も同様に顔を青くしていた。
「弁田君…。本当に大丈夫かね?
その発言だと、三途の川をうっかりわたりそうになったように聞こえたね。
病院、行くかね?」
「あれが三途の川だったのか…。
まあ、体調はなんともないと言いたいところだが、一度病院に行って検査するのもありか。
アカネ。早速初仕事だ。俺と一緒に病院に来てくれ」
するとアカネは若干嫌そうな表情だったが、流石に責任を感じたらしく、同意した。
俺は体を起こし、蹴られた場所に触れる。すると思った以上に酷い鈍痛を感じる。やはり病院に行くべきだなと決断した俺はアカネの介護を頼りに皆がいる地下一階へ向かう。
「弁田君!?体起こして大丈夫なの!?」
「ああ、まあよくないよな。今から病院に行ってくるっていくことを伝えようと思ったが、既に解散した後か」
「そうね。弁田君の言葉を借りるなら、全く仕方ないってところかしら」
一階で作業している白橋は俺の姿が目に入ったのか、すぐに声をかけてきた。精神的にありがたみを感じつつも俺は速く病院に行くべきだなと節々と感じる。
「救急車呼ぶ?」
「いや、幸いなことにここから病院までかなり近い。
だからアカネと一緒に行くことにするさ」
「そう…。ああそうだった。嘉祥寺帰る前にこれを弁田君に渡しておいてって」
俺は白橋からその封筒を受け取ると同時に嫌な予感を感じた。もしかしてFRに関する情報なのかと思い、すぐに封筒を開ける。だが、封筒の中身は俺が予想に反したものだった。
「札束と手紙?一体何故?」
封筒の中に入っていた手紙を開ける。その手紙には大きく一言「今すぐ病院に行け」と書いてあり、俺の保健所も貼りつけてあった。その手紙で俺と白橋は全てを察した。
その後、無言のまま俺は病院に向かった。診断の結果、本来なら激痛を感じてもおかしくないとのことだったそうだ。しかし、俺の首の骨は綺麗に砕かれており、神経を圧迫することがないとのことだ。
それでも全治六か月内二か月は入院である。新たなニューマンの誕生と同時に手痛い代償を払ってしまった。
余談だが、嘉祥寺が封筒に入れた大金は入院費も含めて丁度足りたと同時にこの事態を想定していたなら早めに言ってほしかったと俺は嘆くしかなかった。
「さて、我が戦友ベクターよ。
かの地による安らぎはいかがだろうか?」
「…飯は美味しくないわ、首は辛いわで現在進行形で最悪だ。
全く仕方ないが、病院だからそれくらいは想定内だ」
入院から一週間。未だに首のギプスが取れないでいた俺は見舞いに来た嘉祥寺と軽く話していた。入院費を賄ってくれたのはありがたいが、そうなることを見越していたのならばせめて一言警告してほしかったと今更ながら思う。
「だが、いい安らぎにはなっただろう。
ここ最近我らはかの組織とニューマンについて調べすぎている。
故に、二号機が完成した暁には戦友には強制的に休暇をと考えていたが、こうなるとはな」
「いや、知っていただろ。なんで言わなかった。
そうすればこんなことにならずに済んだだろう」
「だから言っただろう。
強制的にと。
我ながら手荒な手段だったが、いい休暇だろう」
「…はあ、むかつく。
まあ、素直に休めって言われて休まないがな」
全てを納得したわけではないが、俺は大きく溜息をつく。嘉祥寺の推測ではこうでもしない限り、俺は休まないだろうと踏んでのこの結果だろう。
最も、本当に死にかけたことはきっと想定外だろうが。
「それで、雑談するためだけにここに来たんじゃないだろう」
「流石我が戦友。
察しが素晴らしいな。
…弁田が書いたレポートを全て読ませてもらった。多少時間がかかったが、結果を伝える時が来たということだ」
真面目モードの嘉祥寺は先ほどの雰囲気と一変し、近くに置いてあった果物を持ち、嘉祥寺はこれからの未来について考察を述べる。
「結論から言うと、弁田が体験した未来は全て変化している。最も、薄々と感じているだろうがな」
「まあ、それくらいは。
PSの開発部に飛ばされたことや今の会社のメンバーが当初より増えたこと。情けない話だが、会社を辞めた頃に確信を持ったよ。
でも、それが最大の変化じゃないんだろう」
「その通りだ
最大の変化の要因はニューマンを開発した時期だ。本来なら一年後に開発されている技術を数か月前に開発してしまった。その結果、何が起こったのか。
調べるのに苦労したさ。まず、これを見てくれ」
嘉祥寺から渡された新聞記事を手に取り、俺はそれを見る。元は英国新聞で殆どが英語であったが、嘉祥寺が丁寧に翻訳してくれたおかげで読むことができる。
新聞に載せられたとある一面を見て俺は驚愕する他なかった。
「馬鹿な!?あり得ない。
もうテレポーターが開発されただと!?何故だ…」
「これは俺の考察だが、ニューマンが開発されると同時にテレポーターも開発したのだろう。
そしてその二つの開発は同時に完成するという因果として繋がっているのではないか」
「そんなこと…あり得るのか?」
「無論、確証はない。だが、テレポーターの設計図は白橋が書き、その後開発したのは俺たちじゃない。であるなら、設計図さえあれば誰がか作る可能性もありうるということにもなる」
「ならニューマンも誰かが開発して世間に発表されているのか!?」
もし、それが現実になっているならば今までの長い計画が全て無駄になってしまう。あの地獄のような未来が確定してしまう。そうなってしまうのではないかと頭の中で考えがよぎったがすぐに嘉祥寺はそれを否定する。
「いや、ニューマンに関する情報はなかった。正確には存在するはずがないとでも言っておこう。
テレポーターの開発者は俺たちが知らない誰かだが、前の世界では俺たちの三人なんだろう。
ならばそれは一からニューマンを造る技術は弁田聡という人物にしか作れず、そして作れる人間は他にないということだ」
それを聞いて安心する。しかし、そんなものはひと時だけだ。テレポーターが先に開発されてしまったことは非常に残念だが、それは一度心の隅に置いておく。
そして同時に嘉祥寺が言いたいことが理解できた。
「ここまでの出来事を推理すると、俺が体験している未来よりも一年早く全ての出来事が起こっていると考えていいのか」
「いや、一年ではない。一年と半年だ。ニューマンを開発したのはその頃だろう」
「細かいな。いや、それぐらいの正確さがなければ安心できないか。
となると、アスクレピオスが未来から送ってきたあのアプリもその影響で?」
「…すまないがその現象に関してはまだ確証がない。
だが、間違いなく言えるのは未来が変わったことだ。最も、これが吉と出るか凶となるかわからないがな」
嘉祥寺はいつものブドウ糖飴を懐から取り出し、三つ口に放り投げる。嘉祥寺の体力的にも限界なのだろう。
「ありがとうな嘉祥寺。
またわかったことがあったら連絡を頼む」
「任せよ戦友!
我にできぬことはない!
では、さらばだ!」
フハハハハハと大声で病室を後にする。途中まで大声が響き渡ったが、途端に声が途切れる。耳を澄ませるとどうやらすれ違った看護婦から注意を受けているようだ。
俺は首に注意しながらベットに背を預ける。数日後にはリハビリが始まり、本格的にあの部屋に戻るのは一週間後だそうだ。
「さてと、どうするかな」
正直、退屈で仕方なかった。せめて本の一冊でもお願いすればよかったかと思う。
思い立ったが吉日という言葉に沿って俺はスマホからアダムに連絡して自宅から何冊かの本を持ってくるように伝える。
アダムが来るまでざっと三十分程度だろう。その間俺は仮眠でもしようかと思い瞼を閉じた。
「おや?もう寝るのか弁田君。
風の噂で君が入院したと聴いて駆けつけたが、思いのほか元気そうじゃないか」
「あん誰…だ!?」
「おお、いいねぇ~その表情。
驚かすつもりはなかったが、こう、ゾクゾクするよ」
瞼を開くとそこには忘れもしない奴がいた。
金髪にカジュアルスーツ。そして飄々としたその立ち回り。目元はサングラスをしていたが、決して忘れもしない奴がここにいた。
「ノア…何故ここに来た?まさかまた攫いに来たのか?」
「とんでもない。せっかちな男は嫌われるぜ?仕事でも、ベットの上でも。
俺としてはもっとおしゃべりをしたいが、君はそうでもないようだね」
「当り前だ。てめぇに何されたのかわかっているのか?」
「それを言われるとちょっと弱いな。まあ、そんなことはどうでもいい。
俺は弁田君とオハナシをしに来たんだ」
「話なんてない。とっとと帰りやがれ」
「言っただろう?せっかちな男は嫌われるって。
言っておくが、これは俺なりの誠意なんだぜ?話を聞かないなら、それはそれで俺がおいしいものを見ることになるが…どうする?」
胡散臭い言葉だが、ノアは俺を試していることだけは理解できた。
正直、真偽にまみれている奴の言葉を信用するかどうかは別として聞いて損はないだろう。
「気は乗らないが、話だけは聞いてやる」
「アリガトウ。なら、手短に話すとしよう。
改めて聞くが、俺が何者なのかは理解しているな?」
「FBI。そしてFRを追うものだろ。信じられないが、絶対立場が逆だろ」
「俺自身もそう思うよ。でだ、弁田君が関わっていたあの事件以来、改革派は虫の息に対して保守派はより勢力を拡大した。
そこで彼らは次の計画に移ろうとしている。その計画とは世界中のマフィアと契約し、いざとなったら盾にする。身も蓋もないことを言えば保身を固める計画だ。
だが、俺たちは流石にそれをされちゃあまずいと感じてる。
その計画が実っちまうと厄介だからな。
そこで今はその妨害対策として現在色々工作を練っている」
「それで、その出来事と俺とどういう関係があるんだ?」
「お?興味を持ってくれたのか?ウレシイね」
「戯言はよせ。さっさと続きを話せ」
「…全く、人間はなんて短気なんだ。まあいい、希望通り続きを話そう。
その過程で情報屋を通じてとある情報を入手したんだ。
その内容が、『日本の小林一家という任侠一家でFRの会議が行われる』というものだ」
ノアは面白そうに俺の表情を見ていた。それもそのはず、俺の表情はきっとノアの望む驚愕した表情になっていたからだ。
地面がない。そう自覚したのは景色を認識して間もない時間だろう。
「俺は何をしていたんだ…」
記憶を思い出す。しかし、今まで何をしていたのか思い出せない。俺はゆっくり考えていたが、そんな猶予はなかった。光はやがて花畑に代わり、その先に巨大な河川が見える。
ふと、その先に進んではいけないと感じつつも俺は歩みを進む。河川が美しい。そう感じただけだが、何故か魅了されたように俺の意思とは関係なしに進んでいく。
もう少しで到着するそう思った矢先、何者かが俺の手を掴んだ。振り返るとそこには懐かしい顔がそこに立っていた。
「お前は…アスクレピオス?」
「父さん!しっかりして!なんでここにいるのかわからないけど、まだ早いよ!
父さんにはやることがあるでしょ!」
その言葉を聞き、俺の記憶が徐々に蘇る。これまで過ごしてきた仲間との時間、そして何のためにここまで来たのかを。
瞬間、周囲の景色が変わり、徐々に光が強くなる。
「アスクレピオス!俺はお前にまだ伝えていないことが!」
「…その必要はないよ父さん。きっと、また会えるから」
アスクレピオスは切なく言ったが、その表情は悲しそうな表情で見つめていた。しかし、その瞳は喜んでいるように見えた。直後、俺の存在はこの場から消え、現実へと帰還する。
「アスクレピオス!!」
「うお!?びっくりしたね。
弁田君大丈夫かい?」
目覚めると近くにいたのは突然俺が起き上がったことで驚いている聖先輩と遠くに座っているアカネの二人だけだった。
俺は周囲を見渡し、状況を整理する。ぼんやりとだが、河川の近くにいたような気がする。それともう一人。名前は思い出せないが、大事な人だったと思う。
しばらく考えていると、距離をとっていたアカネが近づき、頭を下げた。
「その…ごめん。
ついかっとなって口より先に手をだした」
「…ああ、そうだった。確かに俺はアカネに蹴られたな。
いや、気にしなくていい…と言いたいところだが、ちょっと頭を出せ」
アカネは頭を出すと俺は思いっきり拳をぶつける。正直、俺の拳の方が痛かったが、こうでもしなければやってられなかった。
「すぐに手を出すのはやめろ。それと、手を出すなら加減をしろ。
今後は俺に対して二度と暴力は振るうなよ」
後、堀田は例外な。と付け足す。こうなった全ての元凶は堀田はである。ならばこれくらいの八つ当たりは受けて然るべきだ。
「本当になんともないのかね?
流石に、河川を見たとか、花畑を見たとかそういう光景が見えなかったなら多分大丈夫だね」
「そういえば、河川?らしきものはあったな。その先が気になって渡ろうとしたが、誰かに必死に止められたんだよな。
それからその誰かと話していたんだが…あれは誰だったんだ?」
すると、アカネは若干顔を青ざめていた。何故と重い聖先輩に尋ねようとしたが、聖先輩も同様に顔を青くしていた。
「弁田君…。本当に大丈夫かね?
その発言だと、三途の川をうっかりわたりそうになったように聞こえたね。
病院、行くかね?」
「あれが三途の川だったのか…。
まあ、体調はなんともないと言いたいところだが、一度病院に行って検査するのもありか。
アカネ。早速初仕事だ。俺と一緒に病院に来てくれ」
するとアカネは若干嫌そうな表情だったが、流石に責任を感じたらしく、同意した。
俺は体を起こし、蹴られた場所に触れる。すると思った以上に酷い鈍痛を感じる。やはり病院に行くべきだなと決断した俺はアカネの介護を頼りに皆がいる地下一階へ向かう。
「弁田君!?体起こして大丈夫なの!?」
「ああ、まあよくないよな。今から病院に行ってくるっていくことを伝えようと思ったが、既に解散した後か」
「そうね。弁田君の言葉を借りるなら、全く仕方ないってところかしら」
一階で作業している白橋は俺の姿が目に入ったのか、すぐに声をかけてきた。精神的にありがたみを感じつつも俺は速く病院に行くべきだなと節々と感じる。
「救急車呼ぶ?」
「いや、幸いなことにここから病院までかなり近い。
だからアカネと一緒に行くことにするさ」
「そう…。ああそうだった。嘉祥寺帰る前にこれを弁田君に渡しておいてって」
俺は白橋からその封筒を受け取ると同時に嫌な予感を感じた。もしかしてFRに関する情報なのかと思い、すぐに封筒を開ける。だが、封筒の中身は俺が予想に反したものだった。
「札束と手紙?一体何故?」
封筒の中に入っていた手紙を開ける。その手紙には大きく一言「今すぐ病院に行け」と書いてあり、俺の保健所も貼りつけてあった。その手紙で俺と白橋は全てを察した。
その後、無言のまま俺は病院に向かった。診断の結果、本来なら激痛を感じてもおかしくないとのことだったそうだ。しかし、俺の首の骨は綺麗に砕かれており、神経を圧迫することがないとのことだ。
それでも全治六か月内二か月は入院である。新たなニューマンの誕生と同時に手痛い代償を払ってしまった。
余談だが、嘉祥寺が封筒に入れた大金は入院費も含めて丁度足りたと同時にこの事態を想定していたなら早めに言ってほしかったと俺は嘆くしかなかった。
「さて、我が戦友ベクターよ。
かの地による安らぎはいかがだろうか?」
「…飯は美味しくないわ、首は辛いわで現在進行形で最悪だ。
全く仕方ないが、病院だからそれくらいは想定内だ」
入院から一週間。未だに首のギプスが取れないでいた俺は見舞いに来た嘉祥寺と軽く話していた。入院費を賄ってくれたのはありがたいが、そうなることを見越していたのならばせめて一言警告してほしかったと今更ながら思う。
「だが、いい安らぎにはなっただろう。
ここ最近我らはかの組織とニューマンについて調べすぎている。
故に、二号機が完成した暁には戦友には強制的に休暇をと考えていたが、こうなるとはな」
「いや、知っていただろ。なんで言わなかった。
そうすればこんなことにならずに済んだだろう」
「だから言っただろう。
強制的にと。
我ながら手荒な手段だったが、いい休暇だろう」
「…はあ、むかつく。
まあ、素直に休めって言われて休まないがな」
全てを納得したわけではないが、俺は大きく溜息をつく。嘉祥寺の推測ではこうでもしない限り、俺は休まないだろうと踏んでのこの結果だろう。
最も、本当に死にかけたことはきっと想定外だろうが。
「それで、雑談するためだけにここに来たんじゃないだろう」
「流石我が戦友。
察しが素晴らしいな。
…弁田が書いたレポートを全て読ませてもらった。多少時間がかかったが、結果を伝える時が来たということだ」
真面目モードの嘉祥寺は先ほどの雰囲気と一変し、近くに置いてあった果物を持ち、嘉祥寺はこれからの未来について考察を述べる。
「結論から言うと、弁田が体験した未来は全て変化している。最も、薄々と感じているだろうがな」
「まあ、それくらいは。
PSの開発部に飛ばされたことや今の会社のメンバーが当初より増えたこと。情けない話だが、会社を辞めた頃に確信を持ったよ。
でも、それが最大の変化じゃないんだろう」
「その通りだ
最大の変化の要因はニューマンを開発した時期だ。本来なら一年後に開発されている技術を数か月前に開発してしまった。その結果、何が起こったのか。
調べるのに苦労したさ。まず、これを見てくれ」
嘉祥寺から渡された新聞記事を手に取り、俺はそれを見る。元は英国新聞で殆どが英語であったが、嘉祥寺が丁寧に翻訳してくれたおかげで読むことができる。
新聞に載せられたとある一面を見て俺は驚愕する他なかった。
「馬鹿な!?あり得ない。
もうテレポーターが開発されただと!?何故だ…」
「これは俺の考察だが、ニューマンが開発されると同時にテレポーターも開発したのだろう。
そしてその二つの開発は同時に完成するという因果として繋がっているのではないか」
「そんなこと…あり得るのか?」
「無論、確証はない。だが、テレポーターの設計図は白橋が書き、その後開発したのは俺たちじゃない。であるなら、設計図さえあれば誰がか作る可能性もありうるということにもなる」
「ならニューマンも誰かが開発して世間に発表されているのか!?」
もし、それが現実になっているならば今までの長い計画が全て無駄になってしまう。あの地獄のような未来が確定してしまう。そうなってしまうのではないかと頭の中で考えがよぎったがすぐに嘉祥寺はそれを否定する。
「いや、ニューマンに関する情報はなかった。正確には存在するはずがないとでも言っておこう。
テレポーターの開発者は俺たちが知らない誰かだが、前の世界では俺たちの三人なんだろう。
ならばそれは一からニューマンを造る技術は弁田聡という人物にしか作れず、そして作れる人間は他にないということだ」
それを聞いて安心する。しかし、そんなものはひと時だけだ。テレポーターが先に開発されてしまったことは非常に残念だが、それは一度心の隅に置いておく。
そして同時に嘉祥寺が言いたいことが理解できた。
「ここまでの出来事を推理すると、俺が体験している未来よりも一年早く全ての出来事が起こっていると考えていいのか」
「いや、一年ではない。一年と半年だ。ニューマンを開発したのはその頃だろう」
「細かいな。いや、それぐらいの正確さがなければ安心できないか。
となると、アスクレピオスが未来から送ってきたあのアプリもその影響で?」
「…すまないがその現象に関してはまだ確証がない。
だが、間違いなく言えるのは未来が変わったことだ。最も、これが吉と出るか凶となるかわからないがな」
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「ありがとうな嘉祥寺。
またわかったことがあったら連絡を頼む」
「任せよ戦友!
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では、さらばだ!」
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俺としてはもっとおしゃべりをしたいが、君はそうでもないようだね」
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「それを言われるとちょっと弱いな。まあ、そんなことはどうでもいい。
俺は弁田君とオハナシをしに来たんだ」
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言っておくが、これは俺なりの誠意なんだぜ?話を聞かないなら、それはそれで俺がおいしいものを見ることになるが…どうする?」
胡散臭い言葉だが、ノアは俺を試していることだけは理解できた。
正直、真偽にまみれている奴の言葉を信用するかどうかは別として聞いて損はないだろう。
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半道海豚
SF
地球温暖化が進んだ近未来のお話しです。世界は食糧難に陥っていますが、日本はどうにか食糧の確保に成功しています。しかし、その裏で、食糧マフィアが暗躍。誰もが食費の高騰に悩み、危機に陥っています。
そんな世界で自給自足で乗り越えようとした男性がいました。彼は農地を作るため、祖先が残した管理されていない荒れた山に戻ります。そして、異世界への通路を発見するのです。異常気象の元世界ではなく、気候が安定した異世界での農業に活路を見出そうとしますが、異世界は理不尽な封建制社会でした。
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