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日誌・23 祖たる鬼(R15)
しおりを挟むほとんどの者は、それに違和感なく従う。
違和感を覚えるのは、相応に意志が強い者だ。
たとえば。
結城家の尚嗣。
今は御子柴家に入った、雪虎の幼馴染のさやか。
昔から顔なじみの刑事。
それでも、秀が本気で従わせようとすれば、完全に跳ねのけられる者はいない。
雪虎も、秀の声が持つ力に気付かない類の人間だ。ただし、それは。
彼一人しか持たない理由による。
雪虎は。―――――彼だけは、昔から。
秀の言葉に、自身の意思を失ってまで従うことがなかった。
要するに。
雪虎だけは、秀の声に、これっぽっちも影響を受けないのだ。
おそらくは、おとぎ話の娘もそうだったのだ。だからこそ。
秀の父は、密かに雪虎を可愛がったのだ。
最初は、意味が分からず、子供心に嫉妬も覚えた。だが、理解はすぐだった。
―――――この子なのだ、と。
雪虎には絶対、かなわない。その事実の、なんという心地よさか。
秀にも、父の気持ちがよく分かる。今では、骨身にしみて。
秀と、彼の父がそうだったのだ。秀の息子もまた、雪虎と会えば感応することだろう。
秀は、かつての、鬼の気持ちも理解できた。
鬼は、娘が追われる姿を見て、ほの暗い喜びを抱いたのではないだろうか。
彼女のうつくしさは、自身だけが知っていればいい。
他人が見れば、醜いカエルに見えればいいのだ。
そして、囲いこんだ。
独り占めした。
なんて。
―――――浅ましい。
鬼の身勝手さは責めるべきなのに、そう思う以上に、妬ましく、羨ましかった。
(…方策は)
雪虎の体質を、消し去る方法は、おそらく、…あるのだ。
すべての記述には、遠回しにしか語られていないが。
この、古い記録をもっと読み解けば、解答にたどり着ける気がする。
祟りがもたらす醜さと言う現象から、雪虎を開放する方法に。
かつて、月杜家の祖たる鬼は、知っていたようなのだ。
古い文書の片隅に、記述があった。
娘を、祟りから解放する方策がある、と告げた記述が。
しかし、それを、…なぜか。
娘は柔らかな笑みで拒絶した、とある。
理由は。
娘が解放されたなら、祟りもまた解放されるということ。
この地は今度こそ、災害のただなかで沈むだろう、と。
ならば、月杜の直系としては、許すわけにはいかない…いかない、が。
―――――雪虎が望むならば、なんでもしよう、という相反する気持ちがあるのも事実。
きっかけは、雪虎が秀の力をその身と心に通さない、という力だ。
だが、今ではそれ以上に。
幼い頃から見守り続けた、あの激しくも自由な気性に、秀は魅了されていた。
むしろあの、祟りから生じる現象がなくなれば、秀は雪虎を自由にできるのではないかと思えば、目の前が歪むような強い欲を覚えて、正気をなくしそうになる。
同時に、こうも思うのだ。
あの体質が雪虎に生じたのは、雪虎自身に、そもそも、そういった現象に対する抵抗力が備わっているからではないのかと。
力不足ならば、たちまち死んでしまうのではないだろうか。
そもそも、記録によれば、祟りの血をその身にあらわした一族は、揃って短命であり、二十歳までしか生きていない。
しかし、雪虎はどうだ。
この冬、無事に28歳の誕生日を迎え、未だ何の病も得ず、健康そのものだ。
だからこそ、祟りの血が雪虎に現れたとも考えられる。
なんにしろ。
今。
ここに。
―――――…雪虎がいる。
この、扉の向こうに。
…彼は先ほど、浴衣を着ていた。おそらく、脱衣所に用意されていたのは浴衣だけだ。下は何も身に着けていないだろう。
だめだ、そんなことを考えるなと思えば思うほど、あの日のことが思い出された。
雪虎と身体をつなげたあの日。
宝を磨くように愛撫すれば、聞く者の身体の芯を蕩かすような啼泣を上げ、雪虎は悶えた。
淫らな仕草さえ見惚れるほどきれいで、―――――ただ、ただ、夢中になった。
他に対しては、本当に、何ひとつ感じないのに。
雪虎のことを思うだけで、もう駄目だった。
眠っていようが何だろうが、今すぐ部屋へ押し入って、浴衣の帯を解き、裾を引き上げ、雪虎の中へねじ込みたい。
以前触らせてもらえなかったあそこもここも、強引にすべて舐め回して―――――…。
そこまで思うなり、秀は強い意志を持って、踵を返した。足の間が熱を持ち、兆している。
急く気持ちのまま、浴室に入り、―――――失敗を悟った。
先ほどまで、そこに雪虎がいたのだ。
彼の匂いがたちこめた脱衣所で、洗面台の縁に両手をかければ、悶えるように腰がくねる。
雪虎の中をこね回すときのように。
もがくような動きで、秀の腰が前後に揺れた。
この、麻薬めいた快楽を、世の人は秀のように制約なく受け入れているのだから、とんでもないと秀は頭の片隅で思う。
それとも、秀の場合は、対象が雪虎に限るからなおのこと、激しい快楽が生じるのだろうか。
丹田のあたりが、ひどく心地よくとろけはじめ、性器が、ズキズキと充血を始めた。
苦悶と動揺から気を逸らすべく、視線を動かせば。
足元の籠に気付いた。
中には、雪虎が身に着けていた衣服がある。
目を逸らそうとしたが、もう遅い。
見下ろすなり、たまらず、秀は自身を着物の合間から取り出す。
窮屈だったと言わんばかりに顔を出したソレは、もう涎をふきこぼしていた。
男だろうが女だろうが、他の誰に対しても、秀はこんな風になりはしない。
…なのに、雪虎に対してだけ。
これこそ呪いのようだ、と自嘲しながら。
堪えることなどできずに、強く扱いた。
達すれば達するほど、逆に足りない心地が強くなり、飢えは酷くなる。
それを少しでも満たすために、放った熱をすべて、雪虎の服に吸わせた後。
溺れそうな快楽の渦からどうにか戻ってきながら、秀はまだ半分熱に浮かされた頭を緩く横に振った。
「…ウメさんに、トラの夜食を頼んでおくか…」
口にすれば、気持ちもまともになっていく。
ウメとは、古株のメイドだ。屋敷の使用人たちの差配を行っている。
雪虎は、食事はいい、と言ったが、空腹でないわけはないはずだ。
秀の言葉ならばともかく、ウメが言ったなら、素直に聞くだろう。
気怠いながらも、珍しく秀は微笑み、秀は本人が聞けば嫌がりそうなことを思った。
(トラはおばあちゃん子だから)
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