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「沈黙」という話/「東アジアの思想」という話
「東アジアの思想」という話-15
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「東アジアの思想」という話-15
【中国人の名前】
中国人の名前は、姓(氏)・諱(名)・字からなります。姓はファミリーネームです。諱(いみな)はファーストネームで、日本でいうところの真名(まな、本名)です。諱で読んで良いのは親や君主だけです。他人が本名を口にするのはかなり失礼にあたります。
そこで、男子は成人後に、実名とは別に字(あざな)をつけます。たとえば、諸葛孔明の姓は「諸葛」、諱は「亮」、字は「孔明」です。「亮」は「あきらか」ですから、似たような意味の字をつけています。
反対の意味の字をつける場合もありました。孔明は「孔陰」も使っています。
文献によるものもあります。魏の武帝曹操の諱は「孟徳」ですが、「徳」は『荀子』「勧学」の「生乎由是、死乎由是、夫是之謂徳操」――「生くるも是に由り、死するも是に由る。夫是を之れ徳操と謂う」からつけています。
孟徳の「孟」は長男という意味です。順に孟・仲・季となります。伯・仲・叔・季となることもあります。司馬懿(しばい)の字は「仲達(ちゅうたつ)」ですから、次男です。なお、伯父・伯母が父母の兄・姉で、叔父・叔母が父母の弟・妹です。
姓諱字を並べることはありません。必ず、姓諱か姓字です。複数の人を書くときも、姓諱・姓字を一緒にしてはいけません。「曹操・諸葛孔明・司馬仲達」ではなく、「曹操・諸葛亮・司馬懿」か「曹孟徳・諸葛孔明・司馬仲達」と書きます。
その他に、文人であれば号(ごう)をつけます。たとえば、蘇軾(そしょく)の号が東坡(居士)なので、蘇東坡(そとうば)とも呼ばれます。蘇軾の代表作に「赤壁賦(せきへきのふ)」があります。『三国志』好きならば、赤壁の戦いを知らない人はいないでしょう。
東坡肉(トンポーロウ)――中国の豚の角煮は、蘇東坡からとか……。美味です。
そういえば、月岡芳年の『月百姿』に「赤壁月」がありますね。
――国立国会図書館デジタルコレクション【無料!】
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1306372
亡くなってからつける諡(おくりな)――贈られる名前もあります。周を開いた武王の父の文王の姓は「姫」、諱は「昌」です。結果を知っている私たち後人は姫昌とは呼ばずに、文王と言っているだけで、生前に自分から名乗ることも、またそう呼ばれることもありませんでした。
【『老子』の思想的世界-2】
〈老子〉
儒家の始祖孔子の『論語』に対するのが、道家の始祖老子の『老子』です。
孔子が実在していたのは間違いないでしょう。しかし、老子が実在していたかは疑問があります。
前漢の歴史家司馬遷の『史記』には、老耼(ろうたん)・老萊子(ろうらいし)・太史儋(たいしたん)三人の名があげられています。紀元前100年ごろの司馬遷の時代には、もはや伝説になっていました。
司馬遷はそのうちの老耼について詳細に述べています。老耼は、春秋十二列国・戦国七雄の楚の出身で、姓は「李(り)」・名は「耳(り)」・字は「耼(たん)」(または伯陽(はくよう)です。「耼」は「耳が長い」という意味なので、実際に耳が長かったのでしょう。
「周王朝の守蔵室の史(し)、今でいう国会公文書館の書記官のような仕事をしていました」
――蜂屋邦夫『老子』(NHK出版、2013年)
老耼は道徳を修め、その名が知られることを避けてきました。けれど、長く周にあって、その衰えを知った老耼は去ることにします。仕事を辞めて、都の洛陽から牛の背に乗って西に旅立ちました。
とある関所で、尹喜(いんき)という長官に「『道』について語ってほしい」と頼まれます。で、仕方なく書いたのが上下二篇五千字あまりの『老子』です。その後、老耼がどこで亡くなったかは分かりません。
「下人の行方は、誰も知らない」
――芥川龍之介『羅生門』
老耼の他にも、老萊子や太史儋といった人が、老子の可能性がありますが、決定打はありません。
司馬遷は老子を「隠君子(いんくんし)」だと述べています。隠れた有徳の人という意味です。時は戦乱の世の中です。表舞台に出ずに静かに暮らしたいと思うのは誰しもでしょう。
『老子』には矛盾した内容もあり、老子は一人ではなく、複数の人間が『老子』を書いたとも考えられています。ともあれ、書として『老子』があるのですから、その作者は老子としておきましょう。
【中国人の名前】
中国人の名前は、姓(氏)・諱(名)・字からなります。姓はファミリーネームです。諱(いみな)はファーストネームで、日本でいうところの真名(まな、本名)です。諱で読んで良いのは親や君主だけです。他人が本名を口にするのはかなり失礼にあたります。
そこで、男子は成人後に、実名とは別に字(あざな)をつけます。たとえば、諸葛孔明の姓は「諸葛」、諱は「亮」、字は「孔明」です。「亮」は「あきらか」ですから、似たような意味の字をつけています。
反対の意味の字をつける場合もありました。孔明は「孔陰」も使っています。
文献によるものもあります。魏の武帝曹操の諱は「孟徳」ですが、「徳」は『荀子』「勧学」の「生乎由是、死乎由是、夫是之謂徳操」――「生くるも是に由り、死するも是に由る。夫是を之れ徳操と謂う」からつけています。
孟徳の「孟」は長男という意味です。順に孟・仲・季となります。伯・仲・叔・季となることもあります。司馬懿(しばい)の字は「仲達(ちゅうたつ)」ですから、次男です。なお、伯父・伯母が父母の兄・姉で、叔父・叔母が父母の弟・妹です。
姓諱字を並べることはありません。必ず、姓諱か姓字です。複数の人を書くときも、姓諱・姓字を一緒にしてはいけません。「曹操・諸葛孔明・司馬仲達」ではなく、「曹操・諸葛亮・司馬懿」か「曹孟徳・諸葛孔明・司馬仲達」と書きます。
その他に、文人であれば号(ごう)をつけます。たとえば、蘇軾(そしょく)の号が東坡(居士)なので、蘇東坡(そとうば)とも呼ばれます。蘇軾の代表作に「赤壁賦(せきへきのふ)」があります。『三国志』好きならば、赤壁の戦いを知らない人はいないでしょう。
東坡肉(トンポーロウ)――中国の豚の角煮は、蘇東坡からとか……。美味です。
そういえば、月岡芳年の『月百姿』に「赤壁月」がありますね。
――国立国会図書館デジタルコレクション【無料!】
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1306372
亡くなってからつける諡(おくりな)――贈られる名前もあります。周を開いた武王の父の文王の姓は「姫」、諱は「昌」です。結果を知っている私たち後人は姫昌とは呼ばずに、文王と言っているだけで、生前に自分から名乗ることも、またそう呼ばれることもありませんでした。
【『老子』の思想的世界-2】
〈老子〉
儒家の始祖孔子の『論語』に対するのが、道家の始祖老子の『老子』です。
孔子が実在していたのは間違いないでしょう。しかし、老子が実在していたかは疑問があります。
前漢の歴史家司馬遷の『史記』には、老耼(ろうたん)・老萊子(ろうらいし)・太史儋(たいしたん)三人の名があげられています。紀元前100年ごろの司馬遷の時代には、もはや伝説になっていました。
司馬遷はそのうちの老耼について詳細に述べています。老耼は、春秋十二列国・戦国七雄の楚の出身で、姓は「李(り)」・名は「耳(り)」・字は「耼(たん)」(または伯陽(はくよう)です。「耼」は「耳が長い」という意味なので、実際に耳が長かったのでしょう。
「周王朝の守蔵室の史(し)、今でいう国会公文書館の書記官のような仕事をしていました」
――蜂屋邦夫『老子』(NHK出版、2013年)
老耼は道徳を修め、その名が知られることを避けてきました。けれど、長く周にあって、その衰えを知った老耼は去ることにします。仕事を辞めて、都の洛陽から牛の背に乗って西に旅立ちました。
とある関所で、尹喜(いんき)という長官に「『道』について語ってほしい」と頼まれます。で、仕方なく書いたのが上下二篇五千字あまりの『老子』です。その後、老耼がどこで亡くなったかは分かりません。
「下人の行方は、誰も知らない」
――芥川龍之介『羅生門』
老耼の他にも、老萊子や太史儋といった人が、老子の可能性がありますが、決定打はありません。
司馬遷は老子を「隠君子(いんくんし)」だと述べています。隠れた有徳の人という意味です。時は戦乱の世の中です。表舞台に出ずに静かに暮らしたいと思うのは誰しもでしょう。
『老子』には矛盾した内容もあり、老子は一人ではなく、複数の人間が『老子』を書いたとも考えられています。ともあれ、書として『老子』があるのですから、その作者は老子としておきましょう。
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