という話

門松一里

文字の大きさ
53 / 66
「沈黙」という話/「東アジアの思想」という話

「東アジアの思想」という話-23

しおりを挟む
「東アジアの思想」という話-23

【『荘子』の思想的世界-2】
《荘子が目指したもの》
『荘子』は、今でこそ老荘思想の一つと考えられていますが、荘子自身がそう考えていたのかは疑問です。

『史記』では、荘子は「あらゆる学問に通じていた」と述べられています。ですが、その後に、「然(しか)るに其の要は老子の言に本を帰す」とあります。「荘子の思想は老子の言が基本になっている」というのです。

いや確かにそれはそうです。老子の思想が基本になっています。しかし、です。きちんと老子の思想のみを継承しているかと言うと、それは違います。荘子には老子と異なる思想があります。

ぼんやりとしたとらえようもない思想の二つをどう区別するのか、私たちには理解しにくいです……。まるで霞(かすみ)と霧(きり)を区別しろと問われているようなものです。
cf.
春が霞で、秋が霧です。夏霧・冬霧も季語にありますので、春だけ霞でしょうか……。

さて、『史記』が書かれたのは、前漢の武帝の時代です。

紀元前136年に、武帝は五経博士を置き、儒学(儒教)を国教化しました。

儒学(儒教)が国教になるにあたって、思想統一がなされました。

『易経』の正統が孔子の『論語』です。

・『易経』→『論語』→『孟子』→『荀子』

道家の老子は、儒家の孔子によって「易」の解釈が歪(ゆが)められたと告発しました。

『易経』のもう一つの流れが老子の『老子』です。

・『易経』→『老子』→『荘子』

この流れですと、当然『荘子』は『老子』の後継です。

ですが、儒学から『易経』から『老子』までの「易」の解釈の流れを考えてみましょう。

・『易経』→「歪んだ易」の『論語』→「三義」の『老子』

儒学では『易経』に『老子』を内包してしまいましたから、広い解釈では道家の玄学も儒学の一部です。しかし、明らかに異端です。

相手の思想を取り入れ、自身の思想を広め深め、その上で相手の思想を否定する――いつものやり方です。

たとえば、ヒンドゥー教のシヴァの化身のマハーカーラは、仏教に取り込まれて大黒天になりました。海を渡った日本では、仏教の大黒天は神道の大国主神と習合して、神道の大黒天として七福神の一柱になっています。「破壊と再生」の神も台所に祀られるとは思わなかったでしょう。

さて、「荘子の思想は老子の言が基本になっている」ために、『荘子』は異端に所属してしまいます。

しかし、荘子は孔子を認めています。それ以外の儒者は否定していますが……。

「蘇軾(そしょく)(蘇東坡(そとうば))は、『荘子』を読み、荘子は孔子を助けようとした人だと言っています。確かにそういう見方もできるくらい、荘子は孔子その人に対してはある種の敬意を払っています」――玄侑宗久『荘子』(NHK出版、2015年)P12
とするならば、荘子は『論語』を基本として、『老子』のレイヤーによって歪みを解消して、「易」を述べていると言ったほうが正解かもしれません。#joke

・『易経』→「歪んだ易」の『論語』→(「三義」の『老子』)→「易」の『荘子』

荘子は老子の後継者ではなく、むしろ孔子の後継者であるといった流れを考えるのは楽しいものです。
※私見です。

こうした「妄言」が許せるのも『荘子』の魅力です。荘子は言葉を信用していません。「言葉は風や波のようだ」(「人間世篇」)と語っています。そして、「妄言するので、妄聴してね」(「斉物論篇」)です。

老子の憂いが現実となり、孔子の語る「易」の歪みを如実に感じていた荘子は、それだけ傷ついたのかもしれません。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

自習室の机の下で。

カゲ
恋愛
とある自習室の机の下での話。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アルファポリスであなたの良作を1000人に読んでもらうための25の技

MJ
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスは書いた小説を簡単に投稿でき、世間に公開できる素晴らしいサイトです。しかしながら、アルファポリスに小説を公開すれば必ずしも沢山の人に読んでいただけるとは限りません。 私はアルファポリスで公開されている小説を読んでいて気づいたのが、面白いのに埋もれている小説が沢山あるということです。 すごく丁寧に真面目にいい文章で、面白い作品を書かれているのに評価が低くて心折れてしまっている方が沢山いらっしゃいます。 そんな方に言いたいです。 アルファポリスで評価低いからと言って心折れちゃいけません。 あなたが良い作品をちゃんと書き続けていればきっとこの世界を潤す良いものが出来上がるでしょう。 アルファポリスは本とは違う媒体ですから、みんなに読んでもらうためには普通の本とは違った戦略があります。 書いたまま放ったらかしではいけません。 自分が良いものを書いている自信のある方はぜひここに書いてあることを試してみてください。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...