圏ガク!!

はなッぱち

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新学期!!

再スタートはランチから

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 翌朝、少し早めに目が覚めたオレを待っていたのは、もぬけの殻になったベッドだった。『おかえり』どころか『おはよう』すら言わせて貰えず、やり場の無い感情を発散させるべく、隣のベッドにダイブする。部屋に充満する消毒液や薬の独特な臭いのせいで、残り香は殆ど感じず、朝っぱらから狐にでも化かされた気持ちになる。

「……もしかして、避けられてる……のか?」

 不吉な予感を口走ってしまい、咄嗟に両手で口を押さえた。何故という疑問が、起床したばかりのロクに回らない頭を占拠する。先輩に嫌われたかもしれない、そんな不安がグルグルと煮詰まっていく中、医務室の扉が開かれた。先輩が帰って来た! と一気にテンションが上がったが、ズリズリと靴底を擦る独特の足音に、オレは思わず枕に突っ伏してしまう。

「んぁ? 清ボン、そこで寝とったんかいな。あぁ、起きとったんか、おはようさん」

 むくりと起き上がり挨拶を返す。眠たそうにまばたきを繰り返すじいちゃんは、緑色の液体が入ったコップを傾けながら、ゴクゴクと喉を鳴らす。

「っ……不味いッ! 清ボンも飲むかぁ」

 丁重にお断りをして、先輩の行方を尋ねると、じいちゃんはコップを水道で洗いながら「はあはあ」と相槌を打った。

「勝ボンやったら、えらい早よ起きよったみたいでな。じいちゃんが起きたんが四時や、そんで様子を見に来たら、もう起きて待っとったんよ」

 相変わらず朝が早いな、先輩。筋トレみたいな事してるって言ってたが、病み上がりなの分かってるんだろうか。

「熱も下がっとって大丈夫そうやから言うて、自分の部屋に戻るぅ言うとったで」

 自分の部屋か……まあ当然か。学校か新館……先輩が自室だって思っているのは学校の方だな。

「あーそうそう、清ボンに言うとって言うとったんやぁ」

 先輩を追いかけるべく、ベッドから下りると、じいちゃんは何故か再び緑色の液体を作りながらオレを引き止めた。

「お昼休みになぁ、ジュースの自動販売機あるやろ、あそこで待っとって言うとったで。昼飯一緒に食べよ言うてな」

 じいちゃんから手渡される緑色の液体。手元から視線を逸らし、じいちゃんの方を向くと「グイッとなぁ。グイッといったら大丈夫や」逃げ道を塞がれてしまった。

「清ボンえらい心配しとったから、起きるまで待っとったりぃ言うてんけどなぁ。なんや慌てて出て行ってしもたんや」

 嫌われた訳ではないらしい。少し気持ちにゆとりが出来て、早く飲んでしまえというじいちゃんの視線に答える。穏やかな気持ちでコップに口を付けてみると、あまりの青臭さに鼻から吹きそうになったが、アドバイス通りグイッと飲み干した。

 青臭い息を吐きながら、オレも自室へと戻り、普段通りの生活に戻る。期待と不安が入り交じり、ふと時間が空くと先輩の元へ走ってしまいそうになる自分を押さえるのには中々苦労したが、無事に半日をこなし、昼休みが始まるやオレは旧館の食堂に一人走った。

「先輩は、自分の分を新館から持って来るよな」

 自分用の昼飯を確保するべく、積み上げられた弁当をいつも通りの気軽さで手に取り、その予想外の重さで手首を痛める所だった。

「何が入ってんだ!?」

 その場で蓋を開けると、弁当箱いっぱいに缶詰が詰められていた。いつもなら四つに区切られた弁当箱の中に、一個ずつ缶詰が入っている所に二個の缶詰がねじ込まれている。量が倍になっている訳だが、一ミリも嬉しくない。無理に押し込まれた缶詰を取り出すのも一苦労だ。指先を痛くしながら一個を引っこ抜き、この意味不明なサービス(嫌がらせ)の理由を悟る。

「……賞味期限か」

 賞味期限が数日後に迫った缶詰。一応、掃き溜めと言えど、生徒に期限切れの食い物を出す事はしないらしい。

 乾いた笑いが漏れた。非常時に全校生徒分の食事を用意するべく備えられた物だ。一体どれくらいの数があるのか考えたくもない。先輩との約束がなかったら、弁当箱の中身を壁にぶん投げている所だが、今のオレはそんな絶望すらも平然と受け止められた。

 弁当を取りに来た奴らの怨嗟の声を聞きながら、オレは一人冷静に食堂を出た。そして、自販機前のベンチに腰を下ろす。先輩と一緒に食べられるなら、缶詰さえも美味しく……いや、それはないな。不味い物は不味い。でも、苦行すらも待ち遠しい気持ちは本当だった。

「悪い、遅くなった。待たせたな」

 まだかまだかという気持ちが、足をぶらつかせ出した頃、待ちに待った声が聞こえオレは音がしそうな勢いで、そちらに振り返った。

「ッ!? せん、ぱい……? それなに」

 先輩は……オレの弁当に詰め込まれている缶詰のロゴがデカデカと描かれた段ボールを抱えて立っていた。

「ん、今日の昼飯だ。セイシュンの分もあるぞ」

 誇らしげに笑う先輩。あのクソ不味い缶詰を一箱食えと……先輩に嫌われるような何かをしただろうかと、真剣に考えなければならないようだ。先輩と一緒なら逝けるかと、呻きながらも覚悟を決めると、先輩は辺りを見回した。

「ここで広げたら、他の奴の迷惑になるな。セイシュン、お前の部屋で食わないか」

 ベンチで広げる必要はないだろう、食堂がすぐ近くにある。そう答えようとして、妙に食堂の方を意識している先輩に気付いた。何かあるのか? と、気にはなったが「まあ……いいよ」突っ込まず、大人しく承諾する。

 「よし、じゃあ行くぞ。飯にしよう」

 するとオレの返事を聞くや、先輩はパッと顔を輝かせた。そして、オレが立ち上がるのも待たず、部屋へと歩き出した。

 これ以上缶詰を増やしてどうすると思ったが、放置する訳にもいかず、自分の弁当を引っ掴み先輩の後を追う。

「あ……セイシュン、お前らの部屋なんだが、昼休みに誰か戻って来るか?」

 ズンズン前を歩く先輩が唐突に立ち止まると、不安そうな顔でそう聞いてきた。

「いや、昼休みに部屋に戻るとか聞いた事ないけどな」

 他の奴らは知らないが、同室の連中が部屋に戻って何かしている、なんて話はした事がない。

「そうか、ならよかった」

 部屋に誰かいたら困るのか、先輩はまたパッと嬉しそうな顔を見せて、急げ急げと言いたげに、階段を一段飛ばしで上がっていく。

 え、あれ? 誰かいたら困るって、そういう意味か? 昼間からヤルのは始めてだな。予想外に先輩のヤル気がすげぇ。もう缶詰なんぞにかまけてる場合じゃないな。
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