圏ガク!!

はなッぱち

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圏ガクという環境

貞操の恩人

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 意識を失ったのは、おそらく数分程度だったのだろう。目が覚めると、誰かに背負われながら移動中のようだった。

 体に全く力が入らないという事はなさそうで、ぼやけていた頭もハッキリしていた。かと言って体調が戻ったという訳ではなく、酷い頭痛と自分でも戸惑うくらいの火照りが体に居座っている。誰とも知れない奴の背中に腰を押しつけたくなるくらい、切羽詰まった欲求を押さえ込む為に唇を強く噛む。

 周りの状況を把握して、逃げ出す段取りを考えないと……そう焦る一方で、現状を心地良いなどと思っている自分も居た。眠気を誘う穏やかな揺れと、安定感のある大きくて温かい背中に、自分を丸ごと委ねてしまいたい、そんな誘惑に負けてしまいそうなのだ。

 ついさっき悲惨な目に遭ったというのに、自分の脳天気さが恐ろしい。早く、一刻も早く逃げ出さないと。危機感のなさに焦り無駄に自分を煽ってしまったせいで、思わず足に力を入れてしまった。

 オレの意識が戻った事を気付かれたのか、オレを背負っている奴がふと足を止めた。このままでは相手が警戒して逃げ出しにくくなる。オレはなんとか誤魔化そうと、意識がなかった時と同じように体を再び完全に背中へと預けた。

「セイシュン?」

 突然聞こえた声に体が勝手にビクッと大きく反応する。

「こら、いきなり暴れるな。落っこちるぞ」

「だ、だって、なんで? 先輩が? なんで?」

 背中から離れようとしたオレを先輩は有無を言わさず背負い直した。先輩の背中とオレの体が密着してしまい、ブワッと一気に冷や汗が吹き出す。

「先輩、オレ歩けるから! 一人で歩けるから下ろして……てか、下ろせ!」

 とにかく必死に訴える。こんな状態では先輩に知られてしまう。今、オレの下半身がまともな状態でない事を。

「無理しなくていい。俺の部屋まで我慢しろ」

 別に歩くのは無理じゃない! むしろ、このまま先輩の背中にくっついてるのが無理なんだ! 相手が誰か分からない時ですらヤバイと思ってたのに、先輩だって気付いたら、もう……。

「……先輩、今、その……オレの体おかしいから、なんか知らないけど……バカみたいに興奮してるから。頼むから下ろしてくれ」

 口にするだけでも、恥ずかしくて死にたくなった。でも、これ以上は理性が働きそうにない。先輩の背中使ってマス掻くなんて最低だ。オレが自制出来なくなる前に、先輩の前から消えないと。

「大丈夫だ、ちゃんと分かってる。無理しなくていいから……オレの事は気にせず、セイシュンが楽なようにしてろ、な」

 先輩は少し振り返ってそう言うと、もう一度オレを背負い直し、ゆっくりと歩き出した。

 優しい揺れと、どうしようもなく甘く感じる匂い。オレはそんな心地よさに身を任せながら、さっき遭った事を頭の中で何度も再生した。それでようやく理性は戻って来た。理性というよりなけなしのプライドだな。あんな連中にいいようにされて堪るかという気合いで、目の前にある快楽から必死で目を逸らした。

 先輩に嫌な思いはさせたくない……いや、そんな上等な理由じゃないな。オレはどうしても先輩に嫌われたくなかったんだ。

 拷問のような夢心地は、恐れていた程に長くは続かなかった。階段を上り終え、すぐ手前にある部屋が目的地である先輩の部屋だったからだ。

 廊下に面した扉からは、部屋の灯りが曇りガラス越しに漏れている。一応個室として使っているらしいが、先輩も戸締まりをしない人のようで、鍵を取り出す事なく扉に手を掛けた。

 ずっと来たかった場所に来られたというのに、その幸せを噛みしめる事は叶いそうにない。制御出来ない下半身からの訴えを頭に届く前に、奥歯で噛み潰さなければならないせいだ。

 室内に入ると、先輩はソッとオレを自分の寝床に下ろしてくれる。前に見た寝袋ではなく、それは枕代わりになっており、部屋のど真ん中にオレらが使っている布団と大差ない古い敷き布団の上で、オレは股間を隠すように丸まって蹲った。

 先輩が毎日寝起きしている布団は、先輩の匂いがしっかり残っている。前に借りた服よりも、ずっとずっと濃い匂い。別に先輩の体臭が強いとかではないのに、人の匂いにここまで反応する自分の嗅覚に呆れる。抑えなければならない興奮を加速させてどうする。

「セイシュン、大丈夫か?」

 先輩が心配そうにオレの頭を撫でてくれた。ビクッと腰が跳ねそうになるくらい気持ちいい。痙攣する腹を膝で抑えながら、オレは理性をフル稼働させて先輩の手を払いのけた。

「ごめん、先輩。ちょっとだけ……おさまるまで、ほっといて欲しい。ほんと……ごめん」

 どうして、自分がこんなに興奮しているのかが分からない。分かりたくない。

「お前、けっこう薬とか効きやすいのかもな。ん、あのなセイシュン。多分『ちょっと』じゃあソレおさまらないと思う」

 払いのけた先輩の手が、オレの手首を柔く掴んだ。丸まっていたオレは、ゆっくりと仰向けに開かれてしまう。枕代わりの寝袋を背もたれにし、軽く体を起こして貰うと、心配そうな先輩の顔が目に入った。堪らない気持ちになる。

「俺、暫く部屋から出てるから、一度出しちまえ。そしたら、少しは落ち着くだろうから、な?」

 先輩の提案にオレは首を左右に振って返事した。「恥ずかしがらなくていいんだぞ。俺は部屋から出て行くから」そう言ってくれる先輩に、オレはつい「そうじゃない」と声を荒げてしまった。

 笹倉たちに嬲られた事が、この火照りの原因だなんて思いたくない。でも、状況から考えられる原因はアレしかなかった。あんな不快な状況に興奮する自分なんて、絶対に受け入れたくない。受け入れられるはずがないんだ。

「あいつらに、負けたみたいで癪だから……体が、元に戻るまで、我慢する」

 しっかりと目を見つめオレの覚悟を伝えると、先輩は「そうか」と神妙に頷きながら、オレのスウェットごと下着をズリ下げた。

「ちょっ、いきなり何すんだ! 人の話ちゃんと聞けよ!」

 勃起しているおかげで、そこで止まってくれたが、そのせいで半ケツという情けない格好で先輩と睨み合った。オレの下着ごとスウェットに手をかけたまま、先輩は困ったような顔を見せる。

「セイシュンこそ俺が話した事ちゃんと聞いてたか? 今のままじゃあ辛いから、一度出して落ち着いてから、おさまるのを待てばいいだろ」

「だから! 嫌なんだってば!」

 どうして? と、先輩は不思議そうな顔をした。

「その……さっき遭った事が頭ん中にある状態でオナったら……なんか、あいつらにされた気色悪いのん受け入れるみたいで……と、とにかく嫌なんだよ!」

 精一杯の虚勢で答えると、先輩は呆れたのだろうか、力なくオレの名前を呟いた。ズリ下げられた時、咄嗟に掴んだ先輩の腕から手を離す。

 先輩も離してくれるだろうと思ったのに、そのまま更にグッと引き下ろされ、完全に勃ち上がったちんこが勢い良く飛び出した。窮屈さから突然解放されて、少し声が漏れてしまう。その程度でも声が出てしまうというのに、先輩は容赦なくオレのちんこに手を伸ばし、さっきオレの手首を掴んだくらいの柔らかさで握ってきた。

「あぁっ! うぅ、か、勝手に人のちんこ触んなバカ」

 先輩に見られている。先輩に触れられている。それがこんなに恥ずかしいなんて、考えもしなかった。

 人の急所を掴んだまま、どうしようかと悩むような素振りを見せる先輩の腕を掴んで、離せ離せと必死で抗議する。

 確かに先輩とエロい事して遊びたいとは思ったけど、なんか思ってたのと違う! オレ余裕なさすぎる。すげぇ情けないけど、今の状況を全く楽しめていない。もう、本当に何でもいいから早く萎えてくれ! としか今は考えられない。

「あのな、セイシュン」

 声が聞こえても、先輩の顔がまともに見られない。オレは先輩の腕に縋り付くような体勢で、視線を自分の腹の方、というより先輩の手の中にある自分のちんこを眺めながら、ぶっきらぼうに「何?」と返事をする。

「お前の体がおかしいのは、あいつらのせいじゃないんだ。何か変な薬みたいなの嗅がされなかったか? ここがこうなってるのは、多分それが原因だと思う」

 先輩が『ここ』と言った時に、軽くしこられて思わず声が漏れる所だった。本当に軽く触れているだけなのに、驚くくらい体の芯からゾクゾクと快感が駆け抜けていく。

「薬は時間が経てば自然と抜けるから心配しなくていい……んだけどな。セイシュンはどうも効きすぎるみたいだな。今すごく辛そうだ」

 空いた方の手でオレの頭をポンポンと撫でる先輩は、困ったような笑みを浮かべて、今度は少し強めにちんこをしごいてきた。

「だから、止めろって……嫌だって、いってる、だろ」

 気持ちよすぎてヤバイ。こんなの続けられたらすぐに射精してしまいそうだった。人の話を聞いてくれない先輩を睨み付けたら、珍しく人のよさそうな顔が少し複雑な表情を見せていた。
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