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消灯後の校舎侵入の代償
キャンプと試験
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こんなゆるい感じでいいのか、反省会。そう思い疑問をそのままぶつけてみると、先輩は困ったような笑みを浮かべて見せた。
「俺に聞きたい事があるんじゃないかと思って、今日ここに呼んだ。セイシュンが聞きたいと思っている事に答えるよ」
先輩に聞きたい事……と言うか、聞いておかねばならない事なら、すぐに頭に浮かんだ。
「謹慎させられていた原因って、なんだったの?」
「無許可で敷地内を出た事への処分だよ」
苦笑しながら答えてくれる先輩を見て、サッと血の気が引いた。オレはもう一度しっかりと頭を下げる。
「本当にごめん。三年の大事な時期に謹慎って、ほんと洒落にならないよな。ごめん、先輩。やっぱりオレ、先生にオレのせいだって言って来る。そんで先輩の処分取り消してもらう」
自分の馬鹿さ加減に腹が立つ。何を悠長に先輩が謹慎終えるの待ってんだよ。今後の進路を決める大事な時に謹慎なんて、どう考えても先輩の内申に関わる。焦りに急かされ、オレはすぐにでも学校に戻ろうと立ち上がったが、先輩に思い切り引き戻されてしまった。
「気にするな、セイシュン。別にどうって事ないから」
「そんな訳ないだろ! こんなつまんない事が原因で大学落ちたりしたらどーすんだよ!」
「大学なんて行かないから、大丈夫だ」
「進学じゃなくても、就職でも絶対に不利になるだろ!」
「就職もしないから。セイシュンが気にする必要なんて何もないんだ」
オレを落ち着かせる為の嘘なのではないかと、先輩の目をジッと覗き込むが、真偽など分からずただ穏やかな表情だけが「落ち着け」と言っていた。そんな顔を見つめていると、立ち上がって今すぐ走り出そうという気持ちは萎えてしまった。
「じゃあ、来年からはフリーターやるの?」
体から力が抜けた事で、先輩も手をようやく離してくれた。オレの投げやりな質問に「どうだろうな?」と首を傾げる先輩を見て、その曖昧な答えの正体を電光石火で気付く。それは自分の希望ともピッタリ重なり、オレの声は弾む。
「先輩、もう留年決定してるんだ!」
言い終わった瞬間、額を強烈な一撃が襲った。その反動で後頭部を壁に打ちつけ、オレは頭を抱えて呻く。
「急に何なんだよ。痛いだろ!」
「嬉しそうに『留年決定』とか失礼な事を言うからだ」
ご立腹な表情の先輩に、図星かと確認すると追加でもう一発頂いた。頭がクラクラする。
「こう見えても、結構まじめに授業受けてるんだぞ」
少しだけ怒ったような顔で言うが、すぐに平常運転に戻った先輩は、オレの頭にポンと手を置き、圏ガクには留年という制度がない事を教えてくれた。
山奥の全寮制学校だ。進級に必要な単位を取得する為の補習に追試は完全に強制参加させられる。必要単位が取得出来たと教師が認めるまで、その補習と追試は永遠に続く。その留年回避のコンボは最長で春休みなど余裕で丸々潰れるとか。けれど、どんなに出来が悪かろうが不真面目だろうが、必ず進級卒業をさせる、それが圏ガクという学校だそうだ。
「だからセイシュンに心配されなくても、ちゃんと卒業できるから安心しろ」
そう言って笑う先輩に生返事をする。遠くない未来、絶対にやってくる別れの時を思うと、胸が締め付けられるように苦しくなったのだ。
自分の儚い希望がキレイさっぱり消え去り、そのせいで実感するようになった先輩と過ごせる残り時間を思い、きっとあからさまな落ち込み方をしてしまったのだろう。オレの顔を覗き込んできた暢気な顔をジッと見つめる。
「先輩……もう反省会、終わらせよう」
驚いたような声を漏らす先輩は、オレの提案に困惑の表情を浮かべる。
「あー、そう……だよな。俺の事なんて、そんな興味ないよな、うん、分かった」
本当は先輩が圏ガクへ来るまでの事とか、聞きたくないと言えば嘘になる。それでも、髭の先輩への信頼のような言葉が、小さな好奇心を一つずつ潰してしまうのだ。例え、どんな道を歩いてこようが、先輩は先輩だ。オレの気持ちは変わらない。
「うん、だから反省会はここまでにしよう」
先輩に対する気持ちに自信はある。だから、先輩の過去に何があろうと関係ない、そう言い切れるのに……どうしてか、頭の片隅に引っかかる『何か』があった。
「反省会じゃなくてさ……今から作戦会議したい」
色々な感情がごちゃ混ぜになった先輩のしんどそうな顔は見ていて辛くなる。オレは先輩のいつもの暢気な顔が好きなんだ。
「次に遊ぶ時に何するか、その作戦会議!」
掴めない『何か』を無視して、オレは口端をにっと持ち上げて、小指を先輩の鼻先に突きつけた。
そんなつまらないモノにこだわっている暇はないのだ。
先輩と過ごせる時間は、泣いても笑っても一年もないんだ。
先輩の指がオレの指に絡まる。なんか神妙な顔してる先輩がおかしい。バカみたいな切なさで息苦しい。それでも、笑って欲しくて、オレも自然と笑ってしまうのだ。
それから、オレは先輩の「何かしたい事あるか?」という言葉に「キャンプ」と即答した。寝袋があるならテントやら、キャンプに必要な道具もあるに違いないと説得し、次は日帰りじゃない、朝から晩まで一緒に過ごせる約束をまんまと取り付けた。
放課後と週末の休みをキャンプ用品の発掘に駆けずり回り、ようやく使えそうな道具を一式揃えられる頃には、すっかり雨が多くなっていた。雨天決行とはいかず、運の悪い事に(週末に限って雨が降りやがったのだ)約束のキャンプはズルズルと先延ばしになり、学期末の試験週間になってしまった。
形ばかりの中間試験とは違い、結果がダイレクトに夏休みの日数に関わるとあっては、オレの周りにいるテキトーな奴らの目の色も変わる。今までの課題プリントを睨みながら、分からんと連呼する皆元に付き合い、一学期の復習をしながらも、自分の視線が驚く頻度で窓の外へと向けられるのを止められず、オレはため息を吐いた。
『試験が終わったら、また計画立てような』
試験前の最後の週末、忌々しい雨が去った貴重な晴れの日。ようやくキャンプに行けると、意気揚々先輩の元へと向かったオレは、再度延期を言い渡された。試験勉強をするという先輩に無理も言えず、けれど落胆も隠せず、肩を落としながら自室へと足を向けると、オレを追いかけて来た先輩はそう約束をしてくれた。
「えべっさーん。こっちも見回りに来てよ。全然わっかんないんだよね」
知らず自分の小指を眺めていたオレを教室の端、離れた皆元の席から、スバルと一緒に課題を広げるコウスケが呼ぶ。イラッとしたが、また窓から飽きもせず先輩の姿を探そうとする自分が女々しくて、自制する為に席を立つ。
「なんでオレがわざわざ足を運ばなきゃなんねぇんだ。見て欲しけりゃ、てめぇが来い!」
近くにあった椅子を引き寄せ座り、当然のように人を呼びつける事への抗議として机の足を蹴る。大袈裟に机を押さえるコウスケは、ヘラヘラ笑って妙に落ち着かないスバルへ視線をやった。
「いやぁ、今さ、もっさんが呻ってるじゃん? あれが寝てるみたいに見えるらしくて、バルちん怖がってるんだよねー」
皆元の方を見てみると、確かに頭を抱えて呻いている姿は、居眠りしている姿と重なる。
「普段は別に普通なのにな?」
スバルは野良猫が威嚇するような声を上げ、皆元を警戒しているようだった。オレへの夜這いが失敗に終わった日から、眠る皆元はスバルの天敵となった。本人曰わく眠っている皆元にちんこ折られたそうで、その痛みを思い出すのか、スバルは寝ている皆元にだけ異常な反応を見せる。
今回も例の如く皆元本人は何も記憶にないらしいが、おかげでオレはスバルの阿呆な襲撃に煩わされずに済んでいた。先輩の部屋へ避難する理由もなくなった訳だが、別にそこは残念になど思ってはいない、決して。
「夷川!」
今度は皆元から戻って来いと叫ばれた。その声に驚いたのか、スバルは椅子から飛び上がり、机の下に潜り込みコウスケの足に縋り付くよう隠れた。まあ……ちんこ折られるような経験したら、こうなるのも分からなくもない……気もする。
「こりゃ、もっさんと一緒に試験べんきょーは無理だね」
肩を竦めて苦笑するコウスケは、掘られたショックから立ち直ったようで、かなり意外だがスバルとの関係を修復していた。
目覚めたのかと、オレが事情を話した皆元が冗談のつもりでコウスケにそう聞いたら、本気でキレかけ危うく大事になる所だったので、ホモに目覚めた訳ではなく、キレイさっぱりなかった事にしたいのだろう。
「オレのノート貸してやるよ。あんま役に立たねぇかもしんないけど」
「いいの? 助かるよ~。スバル、場所変えよう。食堂でクララ待ちながらやろうぜ」
コウスケが声をかけると、スバルは机をひっくり返しながら立ち上がり、一度皆元の方を確認してからダッと廊下へと走り去った。
自分の席に戻って、一通りノートを引っぱり出してコウスケに手渡してやる。「また、なんか奢るよ」と拝むような格好をするコウスケを急かすように、廊下でスバルが通行人に絡み出していた。慌てて背中を見せるコウスケを見送り、ため息を吐きながら自分の席に座ると、悲壮な顔をしたスバル除けが虚ろな声を漏らした。
「夷川……カンニングの準備を手伝ってくれ」
皆元の手元を覗き、さっきまで格闘していた課題プリントに目をやる。必死で消しゴムをかけていたらしく、しわくちゃの課題はコピーされていた文字が殆ど消えていた。現実逃避の結晶を無言で回収して、新しい課題に交換してやると、死んだ魚のような目を向けて来る。
「カンニングすら不可能なレベルだ。補習をちゃんと受けて追試でなんとかしろ」
現状を正確に伝えてやると、皆元は机にバタンと倒れ、やけくそ気味に課題をやり始めた。全科目全滅が約束された皆元の必死の抵抗に、無駄な事は止めろとは言えず、試験期間中ズルズルと付き合う事になりそうだった。
「俺に聞きたい事があるんじゃないかと思って、今日ここに呼んだ。セイシュンが聞きたいと思っている事に答えるよ」
先輩に聞きたい事……と言うか、聞いておかねばならない事なら、すぐに頭に浮かんだ。
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苦笑しながら答えてくれる先輩を見て、サッと血の気が引いた。オレはもう一度しっかりと頭を下げる。
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「そんな訳ないだろ! こんなつまんない事が原因で大学落ちたりしたらどーすんだよ!」
「大学なんて行かないから、大丈夫だ」
「進学じゃなくても、就職でも絶対に不利になるだろ!」
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言い終わった瞬間、額を強烈な一撃が襲った。その反動で後頭部を壁に打ちつけ、オレは頭を抱えて呻く。
「急に何なんだよ。痛いだろ!」
「嬉しそうに『留年決定』とか失礼な事を言うからだ」
ご立腹な表情の先輩に、図星かと確認すると追加でもう一発頂いた。頭がクラクラする。
「こう見えても、結構まじめに授業受けてるんだぞ」
少しだけ怒ったような顔で言うが、すぐに平常運転に戻った先輩は、オレの頭にポンと手を置き、圏ガクには留年という制度がない事を教えてくれた。
山奥の全寮制学校だ。進級に必要な単位を取得する為の補習に追試は完全に強制参加させられる。必要単位が取得出来たと教師が認めるまで、その補習と追試は永遠に続く。その留年回避のコンボは最長で春休みなど余裕で丸々潰れるとか。けれど、どんなに出来が悪かろうが不真面目だろうが、必ず進級卒業をさせる、それが圏ガクという学校だそうだ。
「だからセイシュンに心配されなくても、ちゃんと卒業できるから安心しろ」
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自分の儚い希望がキレイさっぱり消え去り、そのせいで実感するようになった先輩と過ごせる残り時間を思い、きっとあからさまな落ち込み方をしてしまったのだろう。オレの顔を覗き込んできた暢気な顔をジッと見つめる。
「先輩……もう反省会、終わらせよう」
驚いたような声を漏らす先輩は、オレの提案に困惑の表情を浮かべる。
「あー、そう……だよな。俺の事なんて、そんな興味ないよな、うん、分かった」
本当は先輩が圏ガクへ来るまでの事とか、聞きたくないと言えば嘘になる。それでも、髭の先輩への信頼のような言葉が、小さな好奇心を一つずつ潰してしまうのだ。例え、どんな道を歩いてこようが、先輩は先輩だ。オレの気持ちは変わらない。
「うん、だから反省会はここまでにしよう」
先輩に対する気持ちに自信はある。だから、先輩の過去に何があろうと関係ない、そう言い切れるのに……どうしてか、頭の片隅に引っかかる『何か』があった。
「反省会じゃなくてさ……今から作戦会議したい」
色々な感情がごちゃ混ぜになった先輩のしんどそうな顔は見ていて辛くなる。オレは先輩のいつもの暢気な顔が好きなんだ。
「次に遊ぶ時に何するか、その作戦会議!」
掴めない『何か』を無視して、オレは口端をにっと持ち上げて、小指を先輩の鼻先に突きつけた。
そんなつまらないモノにこだわっている暇はないのだ。
先輩と過ごせる時間は、泣いても笑っても一年もないんだ。
先輩の指がオレの指に絡まる。なんか神妙な顔してる先輩がおかしい。バカみたいな切なさで息苦しい。それでも、笑って欲しくて、オレも自然と笑ってしまうのだ。
それから、オレは先輩の「何かしたい事あるか?」という言葉に「キャンプ」と即答した。寝袋があるならテントやら、キャンプに必要な道具もあるに違いないと説得し、次は日帰りじゃない、朝から晩まで一緒に過ごせる約束をまんまと取り付けた。
放課後と週末の休みをキャンプ用品の発掘に駆けずり回り、ようやく使えそうな道具を一式揃えられる頃には、すっかり雨が多くなっていた。雨天決行とはいかず、運の悪い事に(週末に限って雨が降りやがったのだ)約束のキャンプはズルズルと先延ばしになり、学期末の試験週間になってしまった。
形ばかりの中間試験とは違い、結果がダイレクトに夏休みの日数に関わるとあっては、オレの周りにいるテキトーな奴らの目の色も変わる。今までの課題プリントを睨みながら、分からんと連呼する皆元に付き合い、一学期の復習をしながらも、自分の視線が驚く頻度で窓の外へと向けられるのを止められず、オレはため息を吐いた。
『試験が終わったら、また計画立てような』
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「夷川!」
今度は皆元から戻って来いと叫ばれた。その声に驚いたのか、スバルは椅子から飛び上がり、机の下に潜り込みコウスケの足に縋り付くよう隠れた。まあ……ちんこ折られるような経験したら、こうなるのも分からなくもない……気もする。
「こりゃ、もっさんと一緒に試験べんきょーは無理だね」
肩を竦めて苦笑するコウスケは、掘られたショックから立ち直ったようで、かなり意外だがスバルとの関係を修復していた。
目覚めたのかと、オレが事情を話した皆元が冗談のつもりでコウスケにそう聞いたら、本気でキレかけ危うく大事になる所だったので、ホモに目覚めた訳ではなく、キレイさっぱりなかった事にしたいのだろう。
「オレのノート貸してやるよ。あんま役に立たねぇかもしんないけど」
「いいの? 助かるよ~。スバル、場所変えよう。食堂でクララ待ちながらやろうぜ」
コウスケが声をかけると、スバルは机をひっくり返しながら立ち上がり、一度皆元の方を確認してからダッと廊下へと走り去った。
自分の席に戻って、一通りノートを引っぱり出してコウスケに手渡してやる。「また、なんか奢るよ」と拝むような格好をするコウスケを急かすように、廊下でスバルが通行人に絡み出していた。慌てて背中を見せるコウスケを見送り、ため息を吐きながら自分の席に座ると、悲壮な顔をしたスバル除けが虚ろな声を漏らした。
「夷川……カンニングの準備を手伝ってくれ」
皆元の手元を覗き、さっきまで格闘していた課題プリントに目をやる。必死で消しゴムをかけていたらしく、しわくちゃの課題はコピーされていた文字が殆ど消えていた。現実逃避の結晶を無言で回収して、新しい課題に交換してやると、死んだ魚のような目を向けて来る。
「カンニングすら不可能なレベルだ。補習をちゃんと受けて追試でなんとかしろ」
現状を正確に伝えてやると、皆元は机にバタンと倒れ、やけくそ気味に課題をやり始めた。全科目全滅が約束された皆元の必死の抵抗に、無駄な事は止めろとは言えず、試験期間中ズルズルと付き合う事になりそうだった。
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