圏ガク!!

はなッぱち

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圏ガクの夏休み

先輩と小吉さん

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「別に内緒にしてた訳じゃないんだ。ただ、おれも一応、お前の先輩だしさ! あんまりかっこ悪い話はしたくなかったんだ。金城先輩に気にかけて貰ってた一年の頃の話しなかったのは、それが理由」

 顔を上げると、眉をハの字にした小吉さんが、恥ずかしそうに笑っていた。

「おれ、こんなだから、一年の時はずっと一人だったんだ。まあ、ここに入学する前から、色んな奴らにいじられてきたけどさ、やっぱり圏ガクは冗談ですまなくて、本当に死ぬような目に何度も遭ったんだ」

 圏ガクの冗談で済まない部分は、オレも何度も体験している。それでも簡単に相槌を打つ事は出来なかった。小吉さんと違って、オレの側にはどうしようもない奴らだけどスバルたちが居たし(こいつらのせいとも言えるけど)それに皆元や由々式、狭間が居てくれるおかげで一人とは無縁の生活を送れていたからだ。

「小吉さんの同室の奴らは?」

 圏ガクの生活基盤とも言うべき共同体、一年で同室になった奴らは特別。先輩たちが『身内』と呼ぶ理由を少なくともオレは実感している。

「あぁ、身内な。おれ、そう呼べる奴らもいないんだ。おれらの時はプレハブの寮で、一つ一つが今より大きくて一部屋を五人で使ってたんだけど、初日の夜に他の四人が合体してるの見ちゃって……それから、恐くて帰れなくなった」

 辛そうに合体してた奴らの事を思い出し、少し話してくれたのだが、恐らく、あの生徒会で見た化け物の一人と同室になってしまったようだ。悲惨としか言いようがなく、黙って続きに耳を傾ける。

「寝るとこ探して一人でウロウロしてたら、三年生に見つかって、ボコボコにされてさ。何度も死にかけた」

 こんな人畜無害が服着て歩いてるような小吉さんが、ケンカ慣れしている訳がない。一方的に殴る蹴るされていたのだろう。本人は笑いながら話してくれるが、オレは腹の底が煮えたぎるような熱さに奥歯を噛む。

「去年はさ、毎日のように二年と三年の間でバチバチやってて、番長の、あっ今の番長な、番長の連日連勝。ゲコクジョウって言うのかな? そんな感じで三年は追いやられてたから、ストレスが溜まってたんだろうな」

 殺気立つオレに小吉さんがビクッと震える。

「そ、そそんなとっき、そんな時にな、金城先輩が助けてくれたんだ。ボロボロになって一人で歩けないおれを背負って医務室に連れて行ってくれた」

 先輩の名前を聞いて、少し気持ちが落ち着いたオレに、小吉さんはトマトを一つ手渡してくれた。

「最初は誰か分かんなくって、先生かなって思ってたんだけどな。その後で、また三年に呼び出された時に、金城先輩がやって来てそいつら追っ払ってくれたんだ」

 採れたてのトマトをジュルジュルやりながら、何故か興奮して荒くなり出した鼻息を誤魔化す。

「先輩がそいつらやっつけたの?」

 先輩の武勇伝を聞きたくて、トマトを飲み込み尋ねたが、小吉さんはブンブンと首を左右に振って見せた。

「何もしなかった。たった一言だけ『こいつに何か用事か?』って聞いただけで、その場にいた三年全員が顔色変えて逃げてった」

 ちょっと残念に思ったが、既視感のある話だったので、容易にその場面を思い浮かべる事が出来た。先輩は去年も変わりなく先輩だったのだ。

「おれ、学校で話する奴いなかったから、金城先輩の噂とかも知らなくて、でも三年が逃げ出すくらい恐い人なんだって思って、その時はおれも逃げちゃったんだ」

 申し訳なさそうな顔をする小吉さんは『それから』も、一生懸命に思い出しながら全て話してくれた。

 その後、三年に報復とばかりに追い立てられ、絶体絶命の所をまた助けられて、小吉さんは先輩が自分を探してまで助けに来てくれた事を知り、ようやくちゃんと話をしたそうだ。

 三年に目を付けられる原因となった就寝後の徘徊は、自室で居場所がなく寝床を探し回っての事だってだけでなく、誰にも頼れない所か、まともに話せる相手すらいない事もぶちまけてしまったらしい。

「あんな真剣におれの話を聞いてくれる人って、今までいなかったから……なんか、情けないのに嬉しくて、ぜんぶ出ちまった」

 照れ臭そうに笑う小吉さんは、ハッと緩んだ顔を強ばらせ「今は違うぞ。今は、おれと話してくれる人いっぱいだからな! ぜんぜん寂しくないんだぞ」言い訳するみたいに早口で捲し立てる。自分と話してくれる人を指折り数え始め、その中にオレの名前も入っていたので、こっちまで照れ臭くなってしまった。

「そしたらな、次の日の晩に金城先輩が『寝床見つけたぞ』って、旧館に連れて行ってくれたんだ」

 旧館は二三年が寝起きしていた建物で、一年にとっては今の新館同様に踏み込んだら何が起こるか分からない場所だ。小吉さんは必死で遠慮したが、先輩も自分の部屋に戻れないと聞き、覚悟を決めて旧館に忍び込み、一階の物置になっている部屋で寝起きする事になったらしい。

「……先輩とずっと一緒だったんだ」

 羨ましすぎて、気が遠くなりかけた。白目を剥いていたかもしれないが、小吉さんを睨み付けるような真似はしなかったので、オレも多少は進歩していると前向きに考えておく。

「金城先輩が一緒だったのは、初日と、あとは数えるほどだったぞ」

 オレを復活させる呪文を唱えた小吉さんは、後輩の心労を知ってか知らずか、詳しく色々と補足してくれた。

 気にかけてくれる先輩に迷惑をかけないよう、小吉さんは必死で自立しようと、この圏ガクで一人で生活出来るよう努力を重ねた。園芸部での活動はその最たるものだ。

 誰にも見つからない場所を探して、小吉さんは一年寮を見つけた。そこで担任に見つかり「暇なら手伝え」と、廃墟と化した一年寮の片付けを手伝う事になったそうだ。

 片付けの最中、担任が農家の次男坊だという話になり、一年寮が使われなくなって無駄に余っているスペースに畑を作れるか試してみようと、園芸部は発足したらしい。

「先生の目の届く場所だったら、三年もちょっかいかけて来ないしな。まあ、谷垣先生の指導も厳しかったけどさ」

 条件反射で嫉妬してしまう自分が情けなくて、カゴからトマトを強奪して貪り食う事で、顔を隠さなければ居られないくらい、小吉さんはすごい奴だった。オレなんか先輩に意図して迷惑をかけようとした訳じゃあないが、結果的に迷惑になるであろう接触を必死で探し回っていたのだから。

「二年になってからは、稲っちと同じ部屋になって、山センや矢野がおれも一緒させてくれるから、金城先輩に迷惑かけたりしてないんだ。学校ですれ違う時に挨拶するくらいなんだぞ。夷川みたいに仲がいいってのとは違うだろ」

 安心しろと言いたげな表情の小吉さんに、今更な羞恥心が言い訳を押し出す。

「べ、別に! オレだって先輩と仲がいい訳じゃないし……小吉さんより迷惑かけてるだけだよ」

 自分で言ってりゃ世話無いような事なんだけど、改めて現実を噛みしめると肩がガクンと落ちた。

「小吉さんは先輩の事、好きじゃないの?」

 テンションが下がりすぎて、やけくそ気味な質問を口にしてしまった。ギョッとされるかと思ったが、オレのどんより低い声のせいか、冗談とも思われなかったらしく、小吉さんは当たり前のように答えてくれる。

「金城先輩か? 嫌いなはずないだろ、もちろん好きだぞ」

「うん……オレも。オレも好きだよ」

 変な奴と笑う小吉さんにつられ、オレも少し笑った。同じ好きでも、違う好きだ。小吉さんの『当たり前』な気持ちを聞いて、ホッとしたのも束の間、自分の異常性を見せつけられた気がして少しゾッとした。

 小吉さんに足下を確認して貰いながら寮へと戻る。一人の時は、脇目も振らず走り抜けた道が、意外に現在の生活圏と距離がある事に驚いた。よからぬ企み事の温床となったのも、その辺が理由だろうな。隠れて何かするには、持ってこいのロケーションだ。くすぐられた好奇心は、昼間にちゃんと見てみたいと、小吉さんに案内を頼む事で落ち着かせた。

 本当に少しだけだが、心配していた香月たちの奇襲もなく、蛇とも遭遇せず寮に戻り、ここ数日と同じく反省室の方へ足を向けると

「用事は終わったか?」

自販機のある辺りから先輩の声が聞こえてきた。オレの事を待っていてくれたんだと思うと、またタックルを決めそうになったが自重し、そしてそこでようやく気が付いてしまった。

 今日から先輩と一つの布団……ではなく、一つの部屋で寝起き出来ると、下心満載の心積もりをしていたのだが、もしかしなくとも当分はお預けになるのではないかと。

 反省室に入らなければいけない原因を作った数日前の自分を呪いながら、せっかく帰って来てくれた先輩を見送るのが嫌で、謹慎を食らっているのだと言い出せず、小吉さんがくれたトマトの立ち食いを強要し廊下で引き止めていると、タイミング良く霧夜氏が通りかかった。

「反省文は提出されていますから、反省室で寝起きする必要はありませんよ。ただ、図書室の片付けは明日以降も引き続き、よろしくお願いしますね」

 女神の恩師だけあって、霧夜氏もやはり神だった……! 駄目元で部屋に戻ってもいいか聞いてみたら、あっさりと快諾して下さった。

 そうと分かれば、こんな場所に長居は無用。霧夜氏に挨拶を済ませ、オレは先輩の手を引っ張り「早く部屋に帰ろう」と急かす。

「分かった分かった、部屋に戻ろうな……と、その前にちょっといいか?」

 手を繋ぐのはアレでも腕を掴むくらい平気だろうと、先輩の腕を掴んで引っ張っていたのだが、やんわりと外されてしまう。

「一緒に運んで欲しい物があるんだ。だから、そんな顔するな」

 困った顔をしながら、先輩はオレの頭を撫でてくれた。自分がどんな顔をしているのか、恐くて聞けなかったが、間違いなく正視に堪えない有様だろう。自覚はあるので意図的に表情をグッと引き締め「分かった」と神妙に頷く。

 オレの返事を聞くと、先輩は反省室の方へと歩いて行った。帰省時の荷物をどこかに置いたままなのかもしれない。本の詰め込まれた段ボールを三つ抱えて運ぶ先輩が、一緒に運んで欲しいと言うような代物だ。

 かなりのデカブツっぽいが、先輩の期待には応えたい。気合いを入れてグッと拳を握りしめたオレに、先輩は「廊下で少し待っていてくれ」と言い残し、何に使われているのか分からない部屋の一つへふらりと入ってしまった。
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