圏ガク!!

はなッぱち

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圏ガクの夏休み!!

暗雲

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 闇市の密輸の現場を押さえ、口止め料として品物を横取りするというオレの提案は却下され、どれだけ信用がないのか、その日は先輩に終始見張られ過ごした。

 結果的に先輩と一緒に過ごせて、オレとしてはラッキーだったのだが、闇市の正体を暴けず心底残念だった。恐らく次の仕入れは冬休みだろう。リベンジを誓って、慌ただしく祭りの準備に邁進していると、あっと言う間に日は過ぎて、その日はやって来た。

 夏祭り当日は、早朝からの奉仕作業はなく、少し遅めの出勤だった。遅いと言っても、午前九時には公民館に集合だったりするのだが、のんびりしたスタートには違いない。全員に用意された朝食のパンを部屋に持ち帰り頬張りつつ、オレらは出掛ける準備をした。

 普段の奉仕作業の時は、身一つで出掛けるのだが、今日は祭りを楽しめる自由時間があるので、財布やらスマホを持って行こうという事になったのだ。

 前日に村主さんから配布された、圏ガク生専用の食券がプリントされた紙をきちんとハサミで切り分け、普段は用をなさない財布のカード入れに挟む。焼きそば、たこ焼き、フランクフルト、イカ焼きにカレーライス、かき氷にドリンク(アルコール不可)など、腹の膨れそうなメニューは一通りタダで食べる事が出来るようだ。

 だが、祭りのパンフレットを見れば、まだまだ屋台は豊富にある。小吉さんの焼きとうもろこしも食券にはない。なので、オレは仕送りの中から一万円を一枚抜き取り、空っぽの財布に入れ、少し悩んでまた取り出した。

「…………いい、よな。よし、使おう! 小吉さんのとうもろこし、食べたいし……別に、小遣いとして使ってもいいよな。全部使う訳じゃないし……うん」

 札を出したり入れたりしながら、ウジウジと悩んだ末、結局オレはしっかり一万を入れた財布をポケットにねじ込んだ。すると不思議なもので、さっきまであった敗北感や罪悪感が消え、夏祭りの高揚だけが自分の中を満たしていた。

「先輩はケータイ自体持ってないって言ってたよな」

 一応充電しておいたスマホを手の中で弄りつつ「なら、必要ないか」と思ったのだが、邪魔にはならないだろうと言い訳しながら、財布と同じようにポケットに忍ばせる事にした。

「先輩と写真とか撮ろう。おぉいいじゃん、思いで作りとかさ、楽しそうだしな。教師に見つからなきゃ平気だよな、うん」

 何かを誤魔化すように口に出したアイデアは、言い訳にしては悪くなかったがちょっと恥ずかしくなる。浮かれている自分に気付いて、気まずくなり後ろ頭を掻く。

 わざわざ電話するのは面倒だけど、生存報告ってか仕送り受け取った事くらいはメール入れとくか。余裕があるから寄越したのだとは思うが、先輩の言うように十万は大金だしな、一応……礼の一つも形だけでも言っといて損はないだろう。

「また、冬休みにも懲りずに金送って来るかもしれねぇし。そうなったら、配給ともおさらばだ」

 別に送って来なくても問題ないけどな。残飯かと思うような悲惨な日もあったけど、金がなくても飯は食える。由々式のおばさんの美味しい食事に慣らされた感覚が鈍るまでは辛そうだが……とにかく一言だけでもメールを入れよう、そう決心して、オレは夏祭りに向かうバスに乗車した。

 今日は全員が強制参加なので、下山に使うバスは二台用意されている。もちろん先輩の隣の席をキープして、小吉さんや山センたちと駄弁りながら、激しく揺れるバスを満喫した。本当に慣れとは恐ろしい。

 山センのハーレム拡張計画を聞きながら、頭の片隅ではメールの文面を組み立てた。とっとと送って祭りに集中したいからだが、何故かソワソワして、教師が近くにいるというのに、何度かスマホを取り出しそうになって焦る。その度、先輩が困った顔で体をズラし、教師の視界からオレの手元を隠してくれたので助かったが、この余計な仕事を早く片付けて、先輩との夏祭りを全力で楽しもうと気合いを入れた。

 バスが公民館に到着すると、祭りの会場となる正面の広場では、地元の人たちが既に準備を始めていた。町内会の会長だと名乗る爺さんが、現在の圏ガク最年長教師である中島に色々と指示を出している間、オレは便所に行きたいと担任に申告して「来る前に行っとけ」と舌打ちされながらも建物の中に駆け込んだ。

 普段のガランとした静けさが消え、慌ただしい人の気配が広がる館内で、人気のない便所を探して飛び込む。そして、個室に入りスマホを取り出した。

『金は受け取った。次は冬に送れ』

 スマホに打ち込んだ文章を見てビビる。なんだこれは、身代金の受け渡しでもあったのか? いやコレはないな。さすが激しく揺れるバスの中で、常人の域を超えた山センの下半身事情を聞きながら考えた文章だ。全く使えない。

 焦る気持ちを抑えて、蓋をした便器の上に腰を下ろす。さっきの文章を消して、今度はゆっくりと頭に浮かぶ言葉を打ち込む。上手く考えが纏まらず、書きたい事が山ほど溢れるのを極力無視して、簡潔に文面を作っていく。

『連絡するの遅くなってごめん。仕送りと着替え受け取りました。すごく助かる。ありがとう』

 短い文を何度も読み返していると、もう何もかもが可笑しいような気がして、顔が熱くなった。それが恥ずかしさなのだと気付き、付き合いきれるかと自分に呆れ、やけくそ気味に送信した。

「あれ……送信エラー、か? なんで」

 何度か試みるも全く送信出来ない。「どうして」と呟こうとして、やっとその理由に気が付く。

「圏外だ」

 校内では一度も消えなかった忌々しい文字が、当然のように居座っていた。コンビニ一つまともにない場所とは言え、圏外なんてありえるのか。

「……古い、建物だから……電波が入らないのかもな」

 スマホを持つ手が自然と震える。色々な考えが頭の中を飛び交っているが、結論を出す前に外に出て確かめようと、スマホをしまい便所を出た。

 学校の奴らもきっと準備に参加しているはずだ。人気のない場所を探さないと、そう考えたオレは公民館の裏口を思い出す。あそこなら誰もいないはずだと、何故かふらつく足に気合いを入れ、人気の失せた廊下の突き当たり、勝手口の扉を開いた途端、聞き覚えのある声が耳に飛び込んで来た。

「だから何度言わせるの! タカノ君は受験生なのよ、あんたが行ったって邪魔になるだけでしょ! いい加減にしなさい!」

 扉の先には村主さんがいた。手に持ったスマホと激しく口論しており、オレに気付くと気まずそうに笑い、入れ代わるように館内に戻って行った。口論は続いているようで、廊下に響く村主さんの声を聞きながら、オレは自分のスマホを取り出し、すぐにポケットに突っ込んだ。

 別に不思議でもなんでもない。校則ではしっかり携帯電話の校内持ち込みは禁止されているし、第一電波のない所では使いようがないんだから、無駄に金を払う理由なんてない。だから、解約するのが一番理に適っている。当たり前の事だ、考えればすぐに答えは出る。

「……別に、いらねぇけど……連絡取りたい奴なんていなかったし……クソッ」

 祭りで浮かれていた自分に悪態を吐く。村主さんの声も聞こえなくなった静かな廊下で、立ち尽くし奥歯が軋むほど噛みしめた。腹の中で何かが渦巻いているが、それが何に由来するのかが分からず気持ちが悪くなる。

 叫んだら少しは落ち着くのか、何かを壊せば満足するのか、グルグルと巡る思考は出口を見つけられず、内側だけをガリガリと傷付けた。それは酷く懐かしい感覚で、オレは体から力を抜き、自然と笑っていた。

「戻ろう。先輩、心配、してるかもしれないし」

 先輩と口に出すと、体に活力が戻るみたいだった。単純だなと思うと、ポケットの重さが足を鈍らせたので、無理矢理に楽しい事を考えて、鬱陶しい気持ちを振り切るよう、全力でその場から逃げ出した。

 バスの元へ戻ると、誰もいなかった。代わりに夏祭りの会場となる広場の方から、むさ苦しい声が聞こえてくる。ちょっと公民館の中を走っただけだと言うのに、どうしてかドッと疲れてしまい、急いで合流しようという気になれず、ぼんやり蝉の声を聞きながら立ち尽くす。

「セイシュン、大丈夫か?」

 待っていてくれると思ってた。並んで駐車しているバスの影から、先輩の心配そうな顔が覗く。

「うん、大丈夫。オレ何をしたらいい?」

 先輩の優しい声は、オレの見えない所を傷口を消毒するみたいに酷く沁みさせて痛かった。朝まであったテンションを思い出せず、本当だったら言っていたであろう自分の言葉を必死で探して吐き出す。

「……体調悪かったら、休んでてもいいんだぞ」

 やっぱり今のオレは変に見えるらしい。オレを気遣う先輩の声が、触れて欲しくない所に当たりまくってる気がして嫌だ。何も答えないオレに焦れたのか、背中に伸ばしてくる先輩の手を払いのけた。

「大丈夫だって言ってんじゃん。向こうだろ、行こうよ」

 オレの行動が予想外だったのだろう、先輩の驚いた表情が一瞬見えた。先輩を置いて先に広場へ足を向けながら、笑い出したい気持ちになった。もちろん、朝まであった楽しい気持ちが戻ったのではなく、期待を裏切られた奴の顔を見て心が躍ったのだ。

 あぁ……クソッ、こんなのただの八つ当たりだ。分かっているのに、どうしてこんなに情けない事になってんだ。先輩は、こんなオレを心配してくれているのに、本当に何を考えてんだ、オレ!

「セイシュン、本当に無理はするなよ」

「…………わかった」

 何も疑わず、純粋に心配してくれる先輩に、オレは頷く事しか出来なかった。

「じゃあ、行こう。俺らはテントの設営からスタートだ」

 肩をポンと叩かれると、自分の中で何かがざわめく。さっき腹の中にあったソレは、もう全身に毒のように回っているようだ。先輩の優しさは、叫びたいような暴れたいような、形にならない欲求を刺激する。

 先輩と一緒にいたくない。一緒にいたら、きっと取り返しのつかない失態を晒してしまう。

「先輩、オレ、小吉さんを手伝って来る」

 戸惑う先輩の呟きを耳にして、理由を聞かれる前にその場を走り出した。望んで走り出したのに、先輩から離れる程に心が苦しくなり、空気を求めるみたいに先輩を欲している自分がいた。

「どうしたいんだよ、オレ……ごめん、せんぱい」

 自己満足の謝罪を口にして、喉元まで上がって来ていた何かを飲み下す。先輩から離れたせいか、平常心を取り戻せたオレは、担任の姿を探して広場に向かった。
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