53 / 59
第三章
行動を開始してやりました。
しおりを挟む
静かになったシスターを床に転がし、私はマールマールをごっそり抱えて暖炉へ向かいます。
「シスターフィア。いい加減にしなさい」
いつの間にか暖炉の前に立ちはだかったユリア様は、私に冷ややかな視線を向けておりました。
「そこをどいて下さいまし。この汚物を燃やし尽くさねばなりませんの」
「マールマールはマザーとの絆です。暴言を撤回しなさいシスターフィア」
ユリア様の言葉に私は絶句します。人から正気を奪う毒草をあろう事か『絆』と仰りました。その言葉から連想される事実に私は頭が爆発しそうになります。
「こんなもの……絆ではなく鎖ではありませんか」
「ここはそういう場所なのよ。貴女には理解しろとも染まれとも言わないわ。ただ、大人しくしていなさい」
こんな所にまで来て、こんなモノを見せられるとは思いませんでした。私は俯き歯を噛みしめます。
「出発まで一週間です。彼女たちは貴女と同じ役割を与えられています。仲良く……は出来ないにしても、無駄な衝突は得策ではありません」
俯いた姿が、頷いたように見えたのでしょう。ユリア様は私の肩に手を置き、やれやれと言いたげな溜め息を吐きます。
「旅支度はこちらで済ませておきます。貴女は任務が無事に成功するよう、女神に祈りを捧げ、来たる日を待ちなさい」
私の返事など不要らしく、ユリア様は部屋を出て行きます。けれど、部屋の扉を閉める前に、床に転がるシスターに向かって声を掛けられました。
「シスターレダ、貴女たちの代わりはいくらでもいるのです。戻って来たシスターフィアは少し混乱しているだけ、こちらでの生活を思い出すまで、優しく接してあげて下さいね」
色々と事情がおありのようで、シスターレダと呼ばれた憐れな羊は、ビクッと明らかな動揺を見せました。
扉が閉じられ、私は廊下に響く威圧的な足音が遠ざかっていくのを確認します。邪魔者が去ったようなので、シスターレダの口を塞いだ布を外してやりました。
「あんた一体何者なの?」
私に対するネガティブな感情がありありと浮かぶシスターレダは、元が美しい造りのせいか可愛げというものが一片たりとも見当たりません。
「あら、私は言いましたよ。貴女に教えてさし上げる名前は持ち合わせていませんと」
私は乱雑な床の上を物色し、手入れのされていない錆びた裁ちバサミを手に取ります。自分を拘束した相手が、刃物を手に取ったからでしょうか、シスターレダは小さく悲鳴を上げて床を必死で這い、私から距離を取ろうとしました。
「止めて、やめてよぉ、私が何したって言うのよ。こ、殺さないで」
何を勘違いしているのか、命乞いをし始めたシスターレダを無視して、私は部屋にあったシーツを適当な長さに切り分けます。一体どれほど必要か、正直検討がつきませんが、足らなければ補給すればよろしいでしょう。私は一通り準備が終わったので、錆びた裁ちバサミをショキショキ鳴らしながら、シスターレダに歩み寄ります。
「貴女と同じ『ドール』でしたか……そう呼ばれている方が滞在されているお部屋をおしえて下さいますか?」
「シスターフィア。いい加減にしなさい」
いつの間にか暖炉の前に立ちはだかったユリア様は、私に冷ややかな視線を向けておりました。
「そこをどいて下さいまし。この汚物を燃やし尽くさねばなりませんの」
「マールマールはマザーとの絆です。暴言を撤回しなさいシスターフィア」
ユリア様の言葉に私は絶句します。人から正気を奪う毒草をあろう事か『絆』と仰りました。その言葉から連想される事実に私は頭が爆発しそうになります。
「こんなもの……絆ではなく鎖ではありませんか」
「ここはそういう場所なのよ。貴女には理解しろとも染まれとも言わないわ。ただ、大人しくしていなさい」
こんな所にまで来て、こんなモノを見せられるとは思いませんでした。私は俯き歯を噛みしめます。
「出発まで一週間です。彼女たちは貴女と同じ役割を与えられています。仲良く……は出来ないにしても、無駄な衝突は得策ではありません」
俯いた姿が、頷いたように見えたのでしょう。ユリア様は私の肩に手を置き、やれやれと言いたげな溜め息を吐きます。
「旅支度はこちらで済ませておきます。貴女は任務が無事に成功するよう、女神に祈りを捧げ、来たる日を待ちなさい」
私の返事など不要らしく、ユリア様は部屋を出て行きます。けれど、部屋の扉を閉める前に、床に転がるシスターに向かって声を掛けられました。
「シスターレダ、貴女たちの代わりはいくらでもいるのです。戻って来たシスターフィアは少し混乱しているだけ、こちらでの生活を思い出すまで、優しく接してあげて下さいね」
色々と事情がおありのようで、シスターレダと呼ばれた憐れな羊は、ビクッと明らかな動揺を見せました。
扉が閉じられ、私は廊下に響く威圧的な足音が遠ざかっていくのを確認します。邪魔者が去ったようなので、シスターレダの口を塞いだ布を外してやりました。
「あんた一体何者なの?」
私に対するネガティブな感情がありありと浮かぶシスターレダは、元が美しい造りのせいか可愛げというものが一片たりとも見当たりません。
「あら、私は言いましたよ。貴女に教えてさし上げる名前は持ち合わせていませんと」
私は乱雑な床の上を物色し、手入れのされていない錆びた裁ちバサミを手に取ります。自分を拘束した相手が、刃物を手に取ったからでしょうか、シスターレダは小さく悲鳴を上げて床を必死で這い、私から距離を取ろうとしました。
「止めて、やめてよぉ、私が何したって言うのよ。こ、殺さないで」
何を勘違いしているのか、命乞いをし始めたシスターレダを無視して、私は部屋にあったシーツを適当な長さに切り分けます。一体どれほど必要か、正直検討がつきませんが、足らなければ補給すればよろしいでしょう。私は一通り準備が終わったので、錆びた裁ちバサミをショキショキ鳴らしながら、シスターレダに歩み寄ります。
「貴女と同じ『ドール』でしたか……そう呼ばれている方が滞在されているお部屋をおしえて下さいますか?」
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
【完結】王妃を廃した、その後は……
かずきりり
恋愛
私にはもう何もない。何もかもなくなってしまった。
地位や名誉……権力でさえ。
否、最初からそんなものを欲していたわけではないのに……。
望んだものは、ただ一つ。
――あの人からの愛。
ただ、それだけだったというのに……。
「ラウラ! お前を廃妃とする!」
国王陛下であるホセに、いきなり告げられた言葉。
隣には妹のパウラ。
お腹には子どもが居ると言う。
何一つ持たず王城から追い出された私は……
静かな海へと身を沈める。
唯一愛したパウラを王妃の座に座らせたホセは……
そしてパウラは……
最期に笑うのは……?
それとも……救いは誰の手にもないのか
***************************
こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
甘そうな話は甘くない
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
「君には失望したよ。ミレイ傷つけるなんて酷いことを! 婚約解消の通知は君の両親にさせて貰うから、もう会うこともないだろうな!」
言い捨てるような突然の婚約解消に、困惑しかないアマリリス・クライド公爵令嬢。
「ミレイ様とは、どなたのことでしょうか? 私(わたくし)には分かりかねますわ」
「とぼけるのも程ほどにしろっ。まったくこれだから気位の高い女は好かんのだ」
先程から散々不満を並べ立てるのが、アマリリスの婚約者のデバン・クラッチ侯爵令息だ。煌めく碧眼と艶々の長い金髪を腰まで伸ばした長身の全身筋肉。
彼の家門は武に長けた者が多く輩出され、彼もそれに漏れないのだが脳筋過ぎた。
だけど顔は普通。
10人に1人くらいは見かける顔である。
そして自分とは真逆の、大人しくか弱い女性が好みなのだ。
前述のアマリリス・クライド公爵令嬢は猫目で菫色、銀糸のサラサラ髪を持つ美しい令嬢だ。祖母似の容姿の為、特に父方の祖父母に溺愛されている。
そんな彼女は言葉が通じない婚約者に、些かの疲労感を覚えた。
「ミレイ様のことは覚えがないのですが、お話は両親に伝えますわ。それでは」
彼女(アマリリス)が淑女の礼の最中に、それを見終えることなく歩き出したデバンの足取りは軽やかだった。
(漸くだ。あいつの有責で、やっと婚約解消が出来る。こちらに非がなければ、父上も同意するだろう)
この婚約はデバン・クラッチの父親、グラナス・クラッチ侯爵からの申し込みであった。クライド公爵家はアマリリスの兄が継ぐので、侯爵家を継ぐデバンは嫁入り先として丁度良いと整ったものだった。
カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる