『拳銃』

篠崎俊樹

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第1話。

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 二〇二二年八月中旬過ぎ、福岡県警朝倉署の生活安全課に、一件の電話が掛かってきた。掛けてきたのは、香田と名乗る男だ。香田が、
「そちらの拳銃保管庫にある拳銃を、二丁預かった。取り返したかったら、現金を一億円、アタッシェケースに詰めて、明日の午後一時に、福銀朝倉支店の正面出入り口に来い。以上だ」
 と言って、電話が切れた。電話を受けた、朝倉署の東山巡査部長が、
「何言ってんだ!気は確かか?」
 と言い返すが、電話はすでに切れていて、香田という男には聞こえていなかったらしい。すぐに、わきにいた小川巡査に、
「小川君、一億円の現金が要求された。拳銃保管庫の拳銃二丁と引き換えに、だ。どう思う?」
 と訊くと、小川が、
「用意したほうがいいんじゃないですか?拳銃取られてるんですよ。確か、弾は、フルに装填してありましたから、危険ですよ。暴発でもして、市民が巻き込まれたら、責任取れますか?」
 と言ってきた。
「そうだな。俺が、上に掛け合ってみる」
 東山が椅子から立ち上がり、生活安全課のちょうど真上にある、署長室へと行った。署長の今口に駆け寄るためだ。今口は、在室しているだろう。ちょうど、午前十一時三十二分で、署内は慌ただしい。警察官たちが動き出すころだった。刑事たちは、外勤組も含めて、朝倉市内をパトロールし始める。主に、コンビニや銀行などに立ち寄って、犯罪等を抑止するのが、警察の仕事だ。(以下次号)
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