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喧騒 3
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海翔はスッキリしない気持ちを抱えたまま自転車にまたがると勢いをつけて地面を蹴った
八代という得体の知れない存在に対する苛立ちを、冷静に諭されたようでカッとなってしまった自分にため息をつく
海翔の言葉に慌てたように立ち上がった犬飼の戸惑った眼差しが頭から離れない
なんなんだよ
ペダルを漕ぐ足に更に力を入れながら体を倒すようにして大きなカーブを曲がる
犬飼から思わぬ告白をされて以来、ずっと考えていた
海翔が朋に抱く感情は常に熱を帯びている。抱きしめて抱きしめて、それでもまだ足りない
犬飼に好きだと言われたあの時、確かに海翔の胸は高鳴った
自分にとって犬飼は特別な存在なんだと感じた
でもそれは、朋に対する想いとは全く違う熱を持っていて、海翔はその想いに名前をつけられずにいた
犬飼の前ではありのままの自分でいられる。我儘を言ったり、さっきのように八つ当たりをしても、必ず許されるという安心感がある
だけど・・・
海翔がどんな風に朋の事を想っているのか一番分かっているはずの犬飼が、何故突然「好き」という言葉を投げつけてきたのか
投げつけても返って来ない事は分かっているとでも言いたげに『それでいいんです』と俯きながら、何故あんなに強く手を握り締めていたのか
どうしたらいいんだよ
学校の校門に入りながら自転車のスピードを落として駐輪場で自転車を下りると、乱暴にスタンドを立てて校舎へ向かった
昇降口で何人かのクラスメイトにおはよう、と声をかけられて軽く片手を上げて応えながら上履きに履き替えていると、パタパタと廊下を走ってくる足音が聞こえた
朋だ
海翔が顔を上げて廊下を見ると、走ってきた朋が満面の笑みを見せながらドンっと海翔に抱きついた
「なっ・・・いてーよ」
抱きつかれた衝動で数歩後ろによろめいた海翔が朋の頭を叩くと、朋が笑いながら海翔を見上げる
「2階から海翔が見えたから、走ってきた」
「朝から元気だな、お前」
海翔は朋の肩を押して体から離すと呆れ顔で朋を見つめた
「何か嬉しかったんだもん」
少し照れたように首を傾けた朋の笑顔に、海翔の体が一瞬で熱に満たされていく
「・・・朋・・・」
いまここで、朋を抱きしめてぐちゃぐちゃにしたい衝動に駆られながら、その思いを抑えるように海翔がフッと目を細めた
「海翔?」
「ん?」
「あの後、犬飼さんと何かあった?」
海翔の様子を見て急に真顔になった朋に、海翔はやれやれ・・・と心の中でため息をついた
お見通しかよ
「お前と八代の事を説明した」
「それで?」
「犬飼さんがあっさり『大丈夫』って言うから、ムカついて八つ当たりしてそのまま出てきた」
「・・・海翔・・・」
キョトンとした顔でその言葉を聞いていた朋が、クスクスと笑いながら今度は海翔の首に両手を回す
「海翔、大好き」
耳元で小声で囁かれ、海翔の体が脈打つ
「・・・やめろ、ばか」
唸るような低い声でそう言うと、海翔は朋の腕を解きながら顔を逸らし、いくぞ、と廊下を歩きだした
「海翔、照れてる?」
海翔の横に並んだ朋が海翔の顔を覗き込む
「うるせー」
まっすぐ前を向いたまま海翔が言うと、また朋が小さく笑った
「お前今日も放課後生徒会あんの?」
「ないよ」
「そうか・・・じゃ、一緒に帰るぞ」
「え?だって海翔自転車じゃん」
階段の踊り場で、海翔は立ち止まり一瞬周りに視線を走らせて誰もいない事を確認すると
強く朋の腰を抱き自分に引き寄せて、その頬に唇を当てた
「海翔?」
驚いた朋の声に素早く体を離すと、海翔はニヤリといたずらに笑いながら「お返し」と言った後、また階段を上っていった
「なんだよー」
不満気な朋の声に、海翔は背中を向けて片手を上げると
「帰り、教室で待ってろよ。じゃあな」と廊下を左に曲がって行ってしまった
「へんなの・・・」
階段に取り残された朋はボソッとそう言った後、さっき海翔の唇が触れた頬に手を当てた
でも、嬉しかった・・・
食堂に犬飼と海翔を残し登校したが、残された2人が一体何を話したのか気が気ではなかった
自転車で登校するはずの海翔の姿を2階の生徒会室の窓からずっと見ていた
今日は一緒に帰れる
2人で一緒に下校するのは久しぶりだ
夜になれば、陸たちが帰ってきて、海翔と犬飼が2人きりになる時間も少なくなる
早く下校時間にならないかな・・・
予鈴が鳴り響く階段の踊り場で朋は顔をほころばせると、階段を一段飛ばしで上りながら自分の教室へと向かった
八代という得体の知れない存在に対する苛立ちを、冷静に諭されたようでカッとなってしまった自分にため息をつく
海翔の言葉に慌てたように立ち上がった犬飼の戸惑った眼差しが頭から離れない
なんなんだよ
ペダルを漕ぐ足に更に力を入れながら体を倒すようにして大きなカーブを曲がる
犬飼から思わぬ告白をされて以来、ずっと考えていた
海翔が朋に抱く感情は常に熱を帯びている。抱きしめて抱きしめて、それでもまだ足りない
犬飼に好きだと言われたあの時、確かに海翔の胸は高鳴った
自分にとって犬飼は特別な存在なんだと感じた
でもそれは、朋に対する想いとは全く違う熱を持っていて、海翔はその想いに名前をつけられずにいた
犬飼の前ではありのままの自分でいられる。我儘を言ったり、さっきのように八つ当たりをしても、必ず許されるという安心感がある
だけど・・・
海翔がどんな風に朋の事を想っているのか一番分かっているはずの犬飼が、何故突然「好き」という言葉を投げつけてきたのか
投げつけても返って来ない事は分かっているとでも言いたげに『それでいいんです』と俯きながら、何故あんなに強く手を握り締めていたのか
どうしたらいいんだよ
学校の校門に入りながら自転車のスピードを落として駐輪場で自転車を下りると、乱暴にスタンドを立てて校舎へ向かった
昇降口で何人かのクラスメイトにおはよう、と声をかけられて軽く片手を上げて応えながら上履きに履き替えていると、パタパタと廊下を走ってくる足音が聞こえた
朋だ
海翔が顔を上げて廊下を見ると、走ってきた朋が満面の笑みを見せながらドンっと海翔に抱きついた
「なっ・・・いてーよ」
抱きつかれた衝動で数歩後ろによろめいた海翔が朋の頭を叩くと、朋が笑いながら海翔を見上げる
「2階から海翔が見えたから、走ってきた」
「朝から元気だな、お前」
海翔は朋の肩を押して体から離すと呆れ顔で朋を見つめた
「何か嬉しかったんだもん」
少し照れたように首を傾けた朋の笑顔に、海翔の体が一瞬で熱に満たされていく
「・・・朋・・・」
いまここで、朋を抱きしめてぐちゃぐちゃにしたい衝動に駆られながら、その思いを抑えるように海翔がフッと目を細めた
「海翔?」
「ん?」
「あの後、犬飼さんと何かあった?」
海翔の様子を見て急に真顔になった朋に、海翔はやれやれ・・・と心の中でため息をついた
お見通しかよ
「お前と八代の事を説明した」
「それで?」
「犬飼さんがあっさり『大丈夫』って言うから、ムカついて八つ当たりしてそのまま出てきた」
「・・・海翔・・・」
キョトンとした顔でその言葉を聞いていた朋が、クスクスと笑いながら今度は海翔の首に両手を回す
「海翔、大好き」
耳元で小声で囁かれ、海翔の体が脈打つ
「・・・やめろ、ばか」
唸るような低い声でそう言うと、海翔は朋の腕を解きながら顔を逸らし、いくぞ、と廊下を歩きだした
「海翔、照れてる?」
海翔の横に並んだ朋が海翔の顔を覗き込む
「うるせー」
まっすぐ前を向いたまま海翔が言うと、また朋が小さく笑った
「お前今日も放課後生徒会あんの?」
「ないよ」
「そうか・・・じゃ、一緒に帰るぞ」
「え?だって海翔自転車じゃん」
階段の踊り場で、海翔は立ち止まり一瞬周りに視線を走らせて誰もいない事を確認すると
強く朋の腰を抱き自分に引き寄せて、その頬に唇を当てた
「海翔?」
驚いた朋の声に素早く体を離すと、海翔はニヤリといたずらに笑いながら「お返し」と言った後、また階段を上っていった
「なんだよー」
不満気な朋の声に、海翔は背中を向けて片手を上げると
「帰り、教室で待ってろよ。じゃあな」と廊下を左に曲がって行ってしまった
「へんなの・・・」
階段に取り残された朋はボソッとそう言った後、さっき海翔の唇が触れた頬に手を当てた
でも、嬉しかった・・・
食堂に犬飼と海翔を残し登校したが、残された2人が一体何を話したのか気が気ではなかった
自転車で登校するはずの海翔の姿を2階の生徒会室の窓からずっと見ていた
今日は一緒に帰れる
2人で一緒に下校するのは久しぶりだ
夜になれば、陸たちが帰ってきて、海翔と犬飼が2人きりになる時間も少なくなる
早く下校時間にならないかな・・・
予鈴が鳴り響く階段の踊り場で朋は顔をほころばせると、階段を一段飛ばしで上りながら自分の教室へと向かった
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