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5.のろわれ剣士の力と生産者の塊
しおりを挟む街道の周りは背の高い草叢と深い木々に覆われており、容易に人の姿を垣間見ることはできない。
オレの【索敵】スキルも、それほどレベルが上がってる訳じゃないので、何となくいるかな程度で、、何人いるかは分かってない。もしくは相手が【隠蔽】スキルを使ってるか。
フィアーナの表情が先程までのそれとガラリと変わる。周囲をくまなく警戒する。
「まぁ、お礼参りってやつ?ある意味短絡的で分かり易いよな」
左と右から時間差で矢がオレに向かって飛んでくる。俺はその都度飛んでくる矢を叩き折っていく。【鷹の目】はダテじゃない。ふふん。
「行きますっ!」
蛇が絡まった柄に手をかけ剣をスラリと抜くと、剣身が炎を纏い赤く燃え上がる。
「おお~~っ」
俺は思わず感嘆の声を上げる。ふむ、これが炎蛇の剣か。
矢が射られた場所へ向かって疾風のごとく走り出す。はっや。
おっと、その前に録画しとかんとな。メニュ-を出して録画用のキューブを出して記録開始。
っと別のウィンドウが現れプレイヤーからの攻撃あり、反撃を許可しますとのアナウンス。
このゲームでPKは可能だ。ただリスクが半端ない。PKが相手に逆に倒された場合、所持してるアイテム、持ち金が“全部”相手に獲られ、さらにデスペナルティーに+αされる。
低レベルプレイヤー相手ならそんな事も無いだろうが、ある程度のプレイヤーだとリスクが高くなって来る。
PKは割に合わないものなのだ。それでもやる奴はいるけどな。
「やめろっ!お前にはっっ、ぎゃああっっっ!!」
叫び声とともにガラスが砕けるような甲高い音。………やばかったな。………反撃許可の前にキルしてたらこっちがPKになるとこだった。
フィアーナとはパーティーを組んでるから、攻撃対象になるので問題はないけど次は注意しとかんと。
1人が倒されたからか、草叢から3人のPCがのそりと出て来た。
先程怒鳴っていた鎧男と同じ鎧を纏った大剣持ちPCと、灰色のローブを纏った杖持ちPC。そして軽鎧を纏った短剣持ちのPC。
タグのマーカーは緑を示しているのでPCに違いない。だがその頭部は黒一色のマネキンのような造形をしていた。
おそらく認識阻害のスキルか、あるいは顔部分を変更できるマジックアイテムか。
ギルドの性質を考えると、後者の方だろうか。
相手との距離は7、8mほどか。オレは腰のウエストバックからアイテムを取り出し、地面へ投げつける。
「死ねやっ!ゴラあっっ!!っっうわっ!げほっっ!」
大剣を振り上げこっちに向かってくる鎧男が(顔を擬装してる意味がないな)アイテムが発する光と煙に驚き声を上げる。
オレは素早く装備を変える。のろい盾戦士に。
光と煙が晴れ、その場に立ち尽くしていたPK達は驚きを露わにする。
「虚仮威しがっ!おらあぁああっっ!!」
▽PK3の攻撃
振り下ろされた大剣を右手のナックルガードで事も無げに弾き返す。
「このっっ!てめぇぇっっ!!」
2撃、3撃と剣筋を逸らす様に弾いていく。
その間、残りのPK達は呪文を唱えて放って来た。
▽PK1、PK2の魔法攻撃
「“パラライザ”」
「“ポイズクラウドッ”」
麻痺と毒の状態異常の魔法攻撃がオレ目掛けてやって来る。
確実な上、やり口があざとい攻撃にオレは思わず苦笑する。
もちろん2つとも失敗する。この鎧の状態異常無効の特性は半端無いのだ。
▽PK3の攻撃
「このくそっ!しねぇっっ!!“ディヴァイン・スライス”!!」
鎧男が大剣のアーツを放って来る。
奴等の狙いは状態異常で動きを阻害して物理アーツで潰す予定だったみたいだが、時すでに遅くオレは大盾を斜めに傾けて待ち構えていた。
「ぐべへっっ!!」
どがしゃああぁぁぁんっっ!!
▽ピロキシの攻撃
奴のアーツをオレのシールドカウンターで撥ね返してから、盾のアーツ“シールドバッシュ”で吹き飛ばす。
鎧男は為す術も無くゴロゴロ転がって行く。
「ちっ、もう1度負付与かけるぞっ!」
「おうっ!」
「ぎゃああっっ!」
その間にローブPKと軽鎧PKが状態異常魔法をかけようと呪文を唱え、ちくちくオレに攻撃していた弓使いPKを回り込んだフィアーナが始末していく。
弓使いPKの断末魔が響く。
「ちっ!」
「うわっ!」
道へ戻って来たフィアーナが炎を舞い上げる炎蛇の剣を振り上げ軽鎧PKへと攻撃をする。
軽鎧PKは身を捩り辛うじてそれをかわしてフィアーナと対峙する。
▽PK2の攻撃
▽PK2の攻撃が弾かれた
▽フィアーナの攻撃
しかしそれも寸の間の事だった。軽鎧PKの2連撃をフィアーナの炎の剣がその短剣を弾き、その胸をスルと貫く。
瞬間、炎が蛇の様に軽鎧の身体にとぐろの様に纏わりつき全身を紅蓮へと変えていく。
「ぎゃああああああっっっっ―――――――っっ!!」
軽鎧PKが叫び声を上げる。痛そうだなあれ………。
このゲームでは痛みはある程度緩和されているが、こういう攻撃時のダメージは少しばかり痛みを感じる様になっている。と言っても一瞬針でチクリとされる位だが、防衛本能対策の一環らしい。
痛みを感じない状態というのはそれはそれで危険らしい。
ただ、あれはかなり痛そうだ。一瞬とは言え、全身がチクチクチクーッと痛みに見舞われる事を考えるとゾッとする。
軽鎧PKが光となって掻き消え、フィアーナはローブPKと対峙する。
▽PK1の魔法攻撃
「くっ、“フレイムランス”!」
ローブPKが構築した魔方陣から炎の槍がいくつも飛び出てフィアーナへと襲い掛かる。
こいつも考え無しに火魔法使ったけど、火系の武器持ってる奴にそれはねぇだろとつい突っ込みそうになる。
フィアーナは炎蛇の剣をブルンブル振り回し迫り来る魔法へぶつけていく。
「なっバカなっっ!!」
ローブPKは己の魔法が消されることに驚き目をむく。
さて、俺も鎧男にと止めを刺すとしますか。
転がっている鎧男に近寄り右手で頭を掴み持ち上げる。
「どこの誰かは知らないけど、バイバイな」
だって顔が黒マネキンじゃ誰だか分からないからな。(しらっ)
「ぐわっ,てめっっ!何をっっっ!!」
頭を掴まれた鎧男が気づいて何か吠えようとする前に、オレは右手に力を込める。ぎゅっとね。
▽ピロキシの攻撃
「「ぎぃっやああああああっっっっ!!!」」
ローブ男がフィアーナが突き刺した5m程の長さになった炎の剣に貫かれ火達磨になる。
鎧男はオレが握力を加えると、リンゴがぐしゃりとなるように頭を潰され叫びながら光となって消えていった。
▽反撃終了しました
プレイヤーキラーの所持金と所持品を手に入れました
120EXPを手に入れました
おー、あの話は本当の事だったんだ。PKK出来るとこんなご褒美があるわけだ。でもまぁ、このゲームでPKなんて今のところオレ自身は噂でそう言うシステムがあるとしか聞いたことがなかった。
よもや自分が会う目になるとは思いもよらず(たしかに煽ったけどな)、あるいはオレが知らないところでやってるかもだな。興味ないし。
いや、でも初めてだな。PKに会うって。どっちにメリットを持ってくかでやるやらないは決まるのだろうが、いくら嫌な奴でも殺してやるとまでにはゲームの中では思わないなオレは。(反撃してから言うのも何だが)
などと益体ないことをつらつら考えてるとフィアーナがこちらに対峙してくる。
そして剣を構える。あれ?
「テ………キ……タオ………ス」
瞳からハイライトが消えて赤く、紅く剣と同様に染まっている。
呪いの影響?なんかやば気な感じが………。とりあえず声を掛けてみる。
「オレだオレ。ビロキシだよ。分かるか?フィアーナ」
ブフンと剣をひと振りすると、火の粉が散らばる。あ、ダメダコリャ。ん?そういやネタアイテムがあったよな。
▽フィアーナの攻撃
フィアーナが剣を大きく振り上げオレに襲い掛かってくる。よく見ると動きが何ともぎこちない。何ともぶきっちょ感が否めない。よくこんな動きであいつ等倒せたな。
オレは距離を見計らい1、2歩ちょろっと後ろに下がり剣を躱す動きをしながら、メニューから目当てのアイテムを取り出す。
振り下ろされた剣は炎の弧を描き軌跡を残す。されにオレは左へ2歩移動。フィアーナは再度剣を振り上げ攻撃しようとする。
▽ピロキシの攻撃?
オレは手に持ったアイテムをフィアーナの顔目掛けて放り投げる。
「ぎゃっ」
女子の叫び声じゃねぇな。そのアイテムは彼女の顔に当たると弾けてびしょ濡れにしていく。続けざまに3コ放り投げる。
「ぎゃっ、むぎゃぅ、ひゃあっっ!!」
アイテム:水風船
ソリッドスラム―の外殻に水を詰めたもの
用途は不明
顔を水浸しにされて、思わずペタリとしゃがみ込むフィアーナ。オレはその隙に装備を戻す。
そして顔を拭っているフィアーナに声を掛ける。
「おーい、大丈夫か?」
自分でやっといて何だかなーとは思いつつ聞いて見る。
「っ………はっ、はい。大丈夫です。あれ?大っきな鎧の人は………」
きょろきょろ周囲を見渡すフィアーナににオレは簡単に説明する。
「あれオレなんだよ。突然だったから分からなかったと思うが、次からは気を付けてくれると助かる」
それを聞いてフィアーナがスミマセンとペコペコ謝って来る。
ほんとは先に説明しなきゃいけなかったのはオレだが、そこ等へんはスルーということにしオレは気にすんなと手を差し出しフィアーナを立ち上がらせる。
「でだ、さっきの奴等を倒していろいろ手に入ったと思うんだが、ちょっと見てくれないか?」
「あ、はいっ!これは…………っ!」
オレにそう言われフィアーナがメニューを開くと口をあんぐりと開けてフリーズする。
「あの………これっていいんでしょうか?……」
そう言ってアイテムが表示されたホロウィンドウをこちらに見せてくる。
ほほ~~ぅ、あるわあるわ。どこで掻き集めたのかは分からんけど、そのほとんどが呪い付きの武具や防具、アクセサリーの類だった。
しっかし、あいつ等こんなもの入れとくとか何考えてんだ?
ギルドホームに預けていりゃこんな目に会ってもそれ程の損害にはならない筈なのに………。いや、検証の為に常に持ち歩いてたのかもしれない。
何にせよ濡れてに粟状態でウハウハ気分だ。
もちろん、Hの方もたんまり持っていた様で、かなりの金額が表示されている。
フィアーナが困惑するのも無理もない話だ。
「いんじゃねぇの?そういう仕組みになってんだし。あ、よかったらアイテムあとで調べさせてくれないか?」
「あ、はい。っ!それじゃパンとおむすび売って下さい!!」
………ぶれねぇな、フィアーナ。
「後でな。fillゲージは減ってねぇだろ。ほいじゃ、行くぞ」
「はいっ!で、どこ行くんでしたっけ?」
目的をすっかり忘れて右人差し指を頬に当てて首を傾げるフィアーナ。ほんとに天然かっ!
………ふう。この手の天然の扱いは感情的にならないことだ。
こっちばっかり頭に血が上って、向こうはのほほ~んとしたままなんてよくある話なのだ。?あれ、そんな事あったっけか………。いや、きっと誰かの経験談を聞いて憶えてた?だろう。
まぁいいや。オレは再度簡単にフィアーナに説明する。
「オレの用事があるんで、一旦ギルドの拠点に行くことにしたんだよ」
「ああ、そうでした。すっかり忘れてました。えへっ☆」
右手で作った拳を手の平にポンと当ててそんな事をフィアーナがのたまう。PKが襲って来たこともあるし、そんなこともあるかとオレは自分に無理やり納得をさせる。
「で、どこにあるんですか?そこ」
「ま、行けば分かるって事で」
「はい!」
こうしてオレ達は目的地へ向けて道なりに進んでいく。
しばらく道を進みながら、時折現れるモンスターを倒して歩いていると、左に小さな脇道のあるところへ辿り着く。その遥か先には山々が連なっているのが見える。
その脇道へ入り、さらに進んでいくと登り坂へとなっていく。
「山に登るんですか?」
「その途中までだな。そういや時間は大丈夫か?」
「明日は休日なので問題ないです。大丈夫です」
そんな会話をしながら勾配のきつくなってきた道を特に苦もなく進む。
そういや、時間の事を聞くのすっかり忘れてたわ。オレらしくもない。ま、大丈夫そうなので安堵の息を小さく吐く。
しばらく登ると中腹のかなり手前、そこだけ山の中とは思えないほど空間が広がっている。学校の教室2個分くらいか。
地面は綺麗に整地され、周りの木々は伐採されここだけぽっかり空間が空いてる感じだ。
オレは切り立った壁を背にフィアーナに向かって言う。
「ようこそ!生産者の塊へ!」
応援ありがとうございます!
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