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12 鉄魔法
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「始源よ、百千たる鋭刃の水輪となりて、其を轢断ぜよ」
サラサの陽動魔法で198もあるニオギ・ヒュドラの視線が完全に明滅する光の粒に意識が向いた。その間に私の魔法が完成する。
「〝百車水輪〟」
並の魔法使いでは扱えない高位魔法……私はバロアから高位魔法のなかで相性のよいこの魔法を教わり、実習時間にひたすら練習していた。本来、地走しながら目標物を自動追尾するタイプの魔法だが、首を高く持ち上げているニオギ・ヒュドラの首を刈り取るべく、途中で跳ねあがり首を落としていった。だけど外れたのも結構あって半分くらいの首が残ってしまった。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
どこを狙ってるの? 首の切断部を狙えとさっきバロアに言われていたはずなのにキャムが胴体の部分に魔導書で生成した火球を何発か当てているが、ダメージが通っている様子がない。
「シリカ、よくやった。下がっておれ」
空中に浮遊したバロアがヒュドラにヘイト魔法をかけて私たちに注意がいかないよう視線を集めている。
バロアに向かって大量に放たれるヒュドラの毒液の水弾を熟練の老魔法使いは空中を飛び回りヒラヒラと躱しながら、魔法を完成させた。
「〝焔礫驟雨〟」──オレンジ色の雲から拳大の赤熱した飛礫が土砂降りの大雨のごとくニオギ・ヒュドラに降り注ぐ。切り口のある頸部はことごとくまるで悲鳴を上げるかのようにもだえ苦しみ、やがて根元のところが動かなくなった。
それでもまだ半分くらい元気な頭が残っている。サラサはまだ行けそうだが、キャムがもう魔力の限界が近い。サラサに「おい、向こうの岩場に隠れるぞ、俺を守れ」と命令している。サラサは心配そうに私をみたが、キャムを私たちふたりで守るよりは、サラサ無しになってもキャムを遠ざけた方が有利と判断したので、彼女に「ここは大丈夫だから」と伝えて、避難してもらった。
先ほどは不意を衝きサラサの陽動魔法もあったので当てられたが、今はバロアが私のいるところから少しずつ引き離して結構距離がある。近づいてヒュドラが私に向かってきたら空を飛べない私をバロアが庇い、せっかく有利に進めているのに足手まといになってしまう。だからといって大きな魔法を遠くから当てるのは難しそう。一度、攻撃した私を常に蛇の頭が一匹こちらを監視している。私が次の行動をどうするか悩んでいると、また頭のなかでアールグレイの声が響いた。
(私がこっそりお手伝いましょう……まず、操作系の魔法をシリカにかけます)
誰にもバレないように私を操って、バロアの援護をするとの申し出にすぐ了承した。正直私にはこれ以上打つ手がない。
「鉄よ出でよ」
本来なら数十秒はかかる魔法詠唱を地面に展開した6つの魔法陣が魔法の構築を支援してくれたお陰で超短文詠唱に省略できた。
液体のような金属が地面から滲み出るように現れ、ある程度の容量になった途端、ヒュドラの足元へと這い始めた。
〝鉄騎鳥〟という名の魔法を唱えた。ヒュドラの足元で包囲するように複数に分裂した動く鉄の沼から黒い弾丸のようなものが発射され次々とニオギ・ヒュドラを襲う。すごい……全弾命中した。着弾したそばからヒュドラの首のなかでトゲトゲの鉄球が膨らんだようなカタチに変形・爆発してすべての首を落とした。
(まだです!)
油断するなとアールグレイから注意された。私は再び意識を鉄の沼に集中した。
〝獄縛鎖〟とアールグレイに操作してもらった私が詠唱後に魔法名を叫ぶと鉄の沼から数十からなる鉄の鎖が伸びていく。カラダを透明にして逃亡を図ろうとしているニオギ・ヒュドラを拘束した。ヒュドラは透明になったが、鉄の鎖が体中に巻き付いているので、鎖を引き千切って逃げようとしているヒュドラの本体の位置がバロアには筒抜けだった。
もがいているヒュドラにバロアの3本の炎の竜巻魔法を当ててトドメをさす。ヒュドラは透明になる擬態を解いて姿を現し、沈黙したかと思うと爆発するように黒煙がばら撒かれて消えていった。
サラサの陽動魔法で198もあるニオギ・ヒュドラの視線が完全に明滅する光の粒に意識が向いた。その間に私の魔法が完成する。
「〝百車水輪〟」
並の魔法使いでは扱えない高位魔法……私はバロアから高位魔法のなかで相性のよいこの魔法を教わり、実習時間にひたすら練習していた。本来、地走しながら目標物を自動追尾するタイプの魔法だが、首を高く持ち上げているニオギ・ヒュドラの首を刈り取るべく、途中で跳ねあがり首を落としていった。だけど外れたのも結構あって半分くらいの首が残ってしまった。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
どこを狙ってるの? 首の切断部を狙えとさっきバロアに言われていたはずなのにキャムが胴体の部分に魔導書で生成した火球を何発か当てているが、ダメージが通っている様子がない。
「シリカ、よくやった。下がっておれ」
空中に浮遊したバロアがヒュドラにヘイト魔法をかけて私たちに注意がいかないよう視線を集めている。
バロアに向かって大量に放たれるヒュドラの毒液の水弾を熟練の老魔法使いは空中を飛び回りヒラヒラと躱しながら、魔法を完成させた。
「〝焔礫驟雨〟」──オレンジ色の雲から拳大の赤熱した飛礫が土砂降りの大雨のごとくニオギ・ヒュドラに降り注ぐ。切り口のある頸部はことごとくまるで悲鳴を上げるかのようにもだえ苦しみ、やがて根元のところが動かなくなった。
それでもまだ半分くらい元気な頭が残っている。サラサはまだ行けそうだが、キャムがもう魔力の限界が近い。サラサに「おい、向こうの岩場に隠れるぞ、俺を守れ」と命令している。サラサは心配そうに私をみたが、キャムを私たちふたりで守るよりは、サラサ無しになってもキャムを遠ざけた方が有利と判断したので、彼女に「ここは大丈夫だから」と伝えて、避難してもらった。
先ほどは不意を衝きサラサの陽動魔法もあったので当てられたが、今はバロアが私のいるところから少しずつ引き離して結構距離がある。近づいてヒュドラが私に向かってきたら空を飛べない私をバロアが庇い、せっかく有利に進めているのに足手まといになってしまう。だからといって大きな魔法を遠くから当てるのは難しそう。一度、攻撃した私を常に蛇の頭が一匹こちらを監視している。私が次の行動をどうするか悩んでいると、また頭のなかでアールグレイの声が響いた。
(私がこっそりお手伝いましょう……まず、操作系の魔法をシリカにかけます)
誰にもバレないように私を操って、バロアの援護をするとの申し出にすぐ了承した。正直私にはこれ以上打つ手がない。
「鉄よ出でよ」
本来なら数十秒はかかる魔法詠唱を地面に展開した6つの魔法陣が魔法の構築を支援してくれたお陰で超短文詠唱に省略できた。
液体のような金属が地面から滲み出るように現れ、ある程度の容量になった途端、ヒュドラの足元へと這い始めた。
〝鉄騎鳥〟という名の魔法を唱えた。ヒュドラの足元で包囲するように複数に分裂した動く鉄の沼から黒い弾丸のようなものが発射され次々とニオギ・ヒュドラを襲う。すごい……全弾命中した。着弾したそばからヒュドラの首のなかでトゲトゲの鉄球が膨らんだようなカタチに変形・爆発してすべての首を落とした。
(まだです!)
油断するなとアールグレイから注意された。私は再び意識を鉄の沼に集中した。
〝獄縛鎖〟とアールグレイに操作してもらった私が詠唱後に魔法名を叫ぶと鉄の沼から数十からなる鉄の鎖が伸びていく。カラダを透明にして逃亡を図ろうとしているニオギ・ヒュドラを拘束した。ヒュドラは透明になったが、鉄の鎖が体中に巻き付いているので、鎖を引き千切って逃げようとしているヒュドラの本体の位置がバロアには筒抜けだった。
もがいているヒュドラにバロアの3本の炎の竜巻魔法を当ててトドメをさす。ヒュドラは透明になる擬態を解いて姿を現し、沈黙したかと思うと爆発するように黒煙がばら撒かれて消えていった。
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