21 / 68
21 湖の主
しおりを挟む
釣れない……。
釣り始めて50分経ったが、ウキがピクリとも動かない。
ここって魚がいないんじゃ、と難癖をつけたくなるが、釣れているひとはちゃんと釣れている。
なんでレオナード皇子だけあんなにたくさん釣れるの? 私って一応、転生前の子どもの頃、父親に結構釣りに連れて行ったもらってたので実はちょっと自信があったんだけどな……。
ちなみにキャムも釣れていない。それはいい気味なのだが、自分だけ釣りしてサラサにボートを漕がせている。アイツのサラサに対する高圧的な態度は許せない。
まあ私はウェイクの好意に甘んじて釣り竿をずっと握っているが、それは置いておく……。ミラノ、エマ班もさっぱり釣れてないので、このままではレオナード皇子、ロニ班の圧勝で終わってしまう。なんとか一匹でもいいから釣りたい。
ピクッ、とここにきて、ようやくウキが水面で波紋を立たせて弾む。私の両目は視線でウキを壊せるんじゃないかというくらい熱い視線でウキを凝視する。
来たっ!? ウキが沈みギュンと竿が曲がる。私はラインと釣り竿が切れたり、折れたりしないように強化魔法をかける。
「おいおいおい、大丈夫かこれ?」
ウェイクのいう通り、カエルのボートが高速艇と見間違うくらいのスピードで湖内をグルグルと引きずられている。
よし、ちょっと本気出す。
(アル、お願い)
(いいですよ)
「始源よ、水の子らの礎となりて、固き岩となれ」
「雷よ、彼を撃て」
ふたりとも二重奏を実行しているので知らない人からみたら〝四重奏〟を行使しているようにみえるだろう。アールグレイの方は魔法陣起動による補助で詠唱文をだいぶ端折って唱えた。
まずアールグレイの雷の魔法で魚を一瞬麻痺させる。続いて私の魔法でカエルボートに接している水面を岩のように固めて、強化したラインと釣り竿を思い切り引き上げる。パワーアップした遠隔操作のサポートもあって巨大な魚影が水面から噴きあがり、アールグレイの風魔法で岸まで吹き飛ばした。
男性陣のほとんどは「え……」と呟き立ち尽くし、エマはあまりのことに思考が停止して氷像のように固まって気を失いかねない。キャムは苦虫を嚙み潰したような顔をしている。唯一、サラサだけはその昔、私の本気を見ているので表情を変えない。
「あれあれ~? 大きなお魚さんが釣れちゃった、てへッ♡」
「「「「イヤイヤイヤ……」」」」
レオナード皇子やロニ、ミラノ、ウェイクが手を横に振っている。
少しやり過ぎたか? ──つい熱くなってしまった。
釣り上げた魚は持ち帰っていいことになっているが、正直、食べきれないし、ちょっと大きすぎて気持ち悪い。
結局、湖の主を湖に返して、レオナード皇子が大量に釣った魚を夕飯にしようという話になった。
ラトエの街入り口にある噴水広場はその周囲が色々なお店が並んでいるので、さっそく夕飯の買い出しを行う。ちなみに別荘滞在中の食費はレオナード皇子が持ってくれることになっている。さすが皇子。
買い出しが終わり別荘へ戻る途中、サラサとエマの3人で並んで歩いている私の隣へ爽やかスポーツマン、ウェイクがやってきた。
「シリカ、俺、お前のことが気に入った」
何人か「ブッ」と変な反応が聞こえたが、私もそれどころではない。
「え、え? どういうこと?」
「俺は強い女が好きだ」
は、はぁ……。なんか、ようわからん。
「あははっ」と笑ってごまかし、「ところでさぁ」とサラサ達の方へ会話を振った。
「エマが昨日話してた怖い場所って本当にあるの?」
「はい、夕食を食べたら皆さんをお誘いしようと思っていました」
え、ヤダ……だってお化けがいるんでしょ?
「お、シリカ。ビビってやがる。怖い系が苦手って草」
キャムが私を煽る。ってか「草」と言ってもみんな分からんと思うぞ?
周囲にバレてしまっているが、私は怖いものが苦手だ。前世ではホラー系のアニメや映画は好きだが、それは怖いものみたさ……実際、心霊スポットに足を運ぶなんて恐ろしくできやしない。
いいいい、いいだろう望むところだ。受けて立ってやる。
こうして余計な意地を張った私は夕食のあと、とても後悔する羽目になった。
釣り始めて50分経ったが、ウキがピクリとも動かない。
ここって魚がいないんじゃ、と難癖をつけたくなるが、釣れているひとはちゃんと釣れている。
なんでレオナード皇子だけあんなにたくさん釣れるの? 私って一応、転生前の子どもの頃、父親に結構釣りに連れて行ったもらってたので実はちょっと自信があったんだけどな……。
ちなみにキャムも釣れていない。それはいい気味なのだが、自分だけ釣りしてサラサにボートを漕がせている。アイツのサラサに対する高圧的な態度は許せない。
まあ私はウェイクの好意に甘んじて釣り竿をずっと握っているが、それは置いておく……。ミラノ、エマ班もさっぱり釣れてないので、このままではレオナード皇子、ロニ班の圧勝で終わってしまう。なんとか一匹でもいいから釣りたい。
ピクッ、とここにきて、ようやくウキが水面で波紋を立たせて弾む。私の両目は視線でウキを壊せるんじゃないかというくらい熱い視線でウキを凝視する。
来たっ!? ウキが沈みギュンと竿が曲がる。私はラインと釣り竿が切れたり、折れたりしないように強化魔法をかける。
「おいおいおい、大丈夫かこれ?」
ウェイクのいう通り、カエルのボートが高速艇と見間違うくらいのスピードで湖内をグルグルと引きずられている。
よし、ちょっと本気出す。
(アル、お願い)
(いいですよ)
「始源よ、水の子らの礎となりて、固き岩となれ」
「雷よ、彼を撃て」
ふたりとも二重奏を実行しているので知らない人からみたら〝四重奏〟を行使しているようにみえるだろう。アールグレイの方は魔法陣起動による補助で詠唱文をだいぶ端折って唱えた。
まずアールグレイの雷の魔法で魚を一瞬麻痺させる。続いて私の魔法でカエルボートに接している水面を岩のように固めて、強化したラインと釣り竿を思い切り引き上げる。パワーアップした遠隔操作のサポートもあって巨大な魚影が水面から噴きあがり、アールグレイの風魔法で岸まで吹き飛ばした。
男性陣のほとんどは「え……」と呟き立ち尽くし、エマはあまりのことに思考が停止して氷像のように固まって気を失いかねない。キャムは苦虫を嚙み潰したような顔をしている。唯一、サラサだけはその昔、私の本気を見ているので表情を変えない。
「あれあれ~? 大きなお魚さんが釣れちゃった、てへッ♡」
「「「「イヤイヤイヤ……」」」」
レオナード皇子やロニ、ミラノ、ウェイクが手を横に振っている。
少しやり過ぎたか? ──つい熱くなってしまった。
釣り上げた魚は持ち帰っていいことになっているが、正直、食べきれないし、ちょっと大きすぎて気持ち悪い。
結局、湖の主を湖に返して、レオナード皇子が大量に釣った魚を夕飯にしようという話になった。
ラトエの街入り口にある噴水広場はその周囲が色々なお店が並んでいるので、さっそく夕飯の買い出しを行う。ちなみに別荘滞在中の食費はレオナード皇子が持ってくれることになっている。さすが皇子。
買い出しが終わり別荘へ戻る途中、サラサとエマの3人で並んで歩いている私の隣へ爽やかスポーツマン、ウェイクがやってきた。
「シリカ、俺、お前のことが気に入った」
何人か「ブッ」と変な反応が聞こえたが、私もそれどころではない。
「え、え? どういうこと?」
「俺は強い女が好きだ」
は、はぁ……。なんか、ようわからん。
「あははっ」と笑ってごまかし、「ところでさぁ」とサラサ達の方へ会話を振った。
「エマが昨日話してた怖い場所って本当にあるの?」
「はい、夕食を食べたら皆さんをお誘いしようと思っていました」
え、ヤダ……だってお化けがいるんでしょ?
「お、シリカ。ビビってやがる。怖い系が苦手って草」
キャムが私を煽る。ってか「草」と言ってもみんな分からんと思うぞ?
周囲にバレてしまっているが、私は怖いものが苦手だ。前世ではホラー系のアニメや映画は好きだが、それは怖いものみたさ……実際、心霊スポットに足を運ぶなんて恐ろしくできやしない。
いいいい、いいだろう望むところだ。受けて立ってやる。
こうして余計な意地を張った私は夕食のあと、とても後悔する羽目になった。
23
あなたにおすすめの小説
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる