【完結】破滅した聖女は覆水を盆に返す

ぷにぷにさん

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聖女は覆水盆に返せると知る

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 それから20年経ちました。

 それまでの大きな出来事はなんといっても。王国の滅亡でしょうか。

 今から10年以上前に王国はクズ勇者の遺恨が根深く残り、小さな反乱が多発。国力は衰退し、クズに奥さんや恋人を寝取られた王宮関係者達の裏切りが決定的となり、他国にあっさり併合。国王はじめ王族は全員処罰されたのです。クズ勇者と関係ない、まだ小さな子もいたのに・・・。
 併合時にはクズ勇者の家族である私と子供達も断罪せよという意見もありましたが、皮肉にも何もしていない“2度の魔王討伐”の功績が認められ、私たちもまた被害者ということで恩赦。食うに困らない程度の家と資産が与えられ、何とか生き延びることができました。

 その後、みんなの子供たちは成長し、独立しました。
 しかし、何名かは好き勝手に生きていて、あまり良い評判は聞きません。
 親から見捨てられた環境と愛情を持って育てなかった私の責任かもしれませんが、子供も「偽物の母のくせに母親面するな」とか「あんたのせいで悪い噂が立って私達はうまくいかない」と、私を嫌い、わがままで自己中心的で自らを省みない性格に育っていきました。
 ありていに言って私とは全員仲が悪かったです。ですから、悪評を聞いても一切関心がありません。
 それでも育てきったのはいなくなった友人たちへの友情と同情と義理があったからです。でも、もうそれも終わりました。
 その後の私は何をするのでもなく、ただ毎日空虚に過ごしておりました。


 そんなある日、自宅の机の上に見慣れぬ一通の手紙が置いてあるのに気が付きました。不審に思いながらもそれを見た瞬間、目を疑いました。その中身には簡潔に「会いたい」という文章と指定の場所と時間と、出奔して行方不明だった妹ミレイの名前が書かれていました。

 指定の時刻に人気のない場所に行くと一人の女性がいました。
「久しぶりね・・・姉さん」
 私は眼を疑いました。一瞬、目の前の女性がミレイだと認識できませんでした。
 そこには腰が曲がり総白髪となり、顔に深いしわがたくさん刻まれた老婆がおりました。
 すでに小じわもある中年の私ですが、ここまで老けてはいません。でもミレイの面影が残っており、家族で姉である私だからミレイは本物と本能的に信じることができました。

 それは20年ぶりの再会でした。
 呆然とする私に、ミレイは苦笑しながら話しかけてきました。
「驚いたでしょう?この姿。聞きたいことや恨み言もあるでしょうけど、その前に姉さん。私は大事な話をしにきたの」
 一呼吸おいてミレイは爆弾を投げつけてきました。

「過去に戻って、人生をやり直す魔法を開発したわ」

「過去に…戻る?」
 思考が止まりました。そんなことできるわけがない。
「厳密には自分の記憶を昔の自分に移す魔法だけどね。これを使って、あのクズに操られる前に戻って、このくだらない人生をやり直して」
「やり直す?人生を?」
「そうよ。姉さん。やり直すのよ!全てを!」
 眼をぎらつかせるミレイに、正直ミレイは狂ったのかと思いました。
 それほどありえないこと。魔法を少しでも知るならば全否定するであろう魔法を、常識を破壊する魔法をミレイは開発したというのです。でも、私は妹の、ミレイの眼が正気で本気だとわかってしまいました。

「ほ、本当なのね?分かったわ。それが本当なら願ってもないわ。もし万一何かあってももうこの世界に未練はないしね。2人でやり直しましょう」
 ですが、ミレイは悲しげに首を振りました。
「残念だけどそれは無理よ。姉さん」
「え?」

「送れるのは一人分だけなの」

「な、何を言っているの!?一緒に行きましょうよ!」
「見てわかるでしょう?私がこんなに老いたのは、魔力を使い切ったから。この魔法は膨大な魔力を使うの。それを溜めるためにこの20年以上、それでも足りないので生命力も使って魔力を溜め続けたの。それでようやく1人分。私の分は無理。そして今の私はもう抜け殻。生命力も魔力もない、もって1か月足らずよ」

 ミレイは何度私を驚かせるでしょうか。
「そ、そんな嘘でしょう!?」
「本当よ。でも姉さんが過去を変えて幸せになれば、私はそれだけで救われる。だからお願い姉さん。本当の幸せを掴んで!」
「だったら、ミレイ。貴女が行けばいいじゃない!」
「無理よ。姉さんに大魔法を起動させられる?魔力が潤沢なら他に手段はあったかもしれないけど、今の状態だと私は送る役で決定しているの。だから、姉さんしかいないのよ」
「ミレイ・・・」
「私のことはもういいの・・・じゃぁ時間はないから大切なこと伝えるわね。あと、あのクズ勇者の洗脳能力を防ぐ方法も教えるわね。あれは準備さえすれば防ぐことは可能よ」

 その術は過去に戻っても今の物は持って行けない。だから知識こそが最重要になるということで、私は半月の間ミレイから不測の事態に備えて、あらゆる方面の知識のレクチャーを受けました。
 20年ぶりの再会、それもあと少しで離別するというのに、時間が無いミレイのために私は感傷的な会話を一切せず、ひたすらに勉強をして、あらゆる知識を詰め込みました。


 そして運命の時が来ました。
 空き倉庫の床に理解できないほど複雑で巨大な魔法陣に、いくつかの儀式用の魔具が規則的に配置され、その中心に私はいました。

「これから呪文を唱えるわ。姉さんはあの日、勇者と会う前の時のことを、私たちの故郷を強く念じて」
「分かったわ・・・ねぇ、ミレイ。これでお別れなのよね?」
「そうよ。ここで儀式を止めても私は回復することもない。しばらくした後に死ぬ。何をしても死ぬ。それは変わらない。だから、姉さん。戻って昔の私をその分可愛がってね」
 私は無言でミレイを、あの元気で愛らしい姿が微塵も感じられない枯れ木のように細く乾燥し老婆となった妹を抱きしめました。
 私が子育てをして、大変だと口先だけ嘆いていた間にもこの20年ミレイは文字通りわが身を削って何倍も大変な思いをしながらも、ずっとこのためだけに動いていたのです。無為に時間を重ねただけの自分の愚かさに涙が止まりません。
「もう、姉さん。いつまでも泣かないで。時間よ。この時間帯を逃すと成功率が下がってしまうわ」
 その言葉に渋々、魔法陣に戻る私。
 ミレイの詠唱が始まりました。
 不思議な韻の詠唱が流れる度に魔法陣が、魔具が光りはじめます。私は見惚れていましたが、すぐに昔の思い出の場所と時間を思い描きます。

 そして魔法陣がひときわ強く発光し・・・
「成功よ。姉さん昔の私によろしく・・・」
「ミレイー!!!!」 
 全てを成し遂げた満ち足りた・・・だけど空虚なミレイの笑顔に私はたまらず声をかけましたが、魔法陣からの光の奔流にのまれ私の視界は真っ白になって、謎の浮遊感に襲われ意識を失いました。

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