【完結】破滅した聖女は覆水を盆に返す

ぷにぷにさん

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聖女は汚れた覆水を盆に返す

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 山を越えたところにある岩だらけの荒れ果てた荒野。
 
 そここそがかつての記憶にある魔王の対決の場所である。そして、記憶通りの魔王が現れ戦いが始まった。

 以前は魅了された私たちが過剰に勇者を守るような動きをして、連携が取れてなかったが、今はそんなことはなく、ナイルのみに負担をかけず一致団結した動きをとることで以前よりも楽に魔王を追い詰め、とどめを刺した。当然、ナイルも多少の負傷はあれど、かつてほどの重症ではない。

 当然、この時点で魔王がまだ死んだふりであることも承知の上、私は何気なく気が付いた風を装い、「魔王の気配を感じる!まだ滅んでいないわ。あれは眠っているだけよ!」とさりげなく指摘。慌てて飛び出た魔王だが手遅れ。皆で復活しないように念入りに魔王を仕留めた。これで、未来における魔王の脅威は完全になくなった。

 そこでようやく、千載一遇のチャンスが回ってきた。
「勇者様!」
 最後の大技で精根尽き果てた勇者に私は駆けより・・・抱き着いたふりをして隠し持っていた小刀で勇者の脇腹を抉った。死角での行為だから誰にも見えてはいないはずだ。
「いぎ!?」
 勇者が激痛に身体を硬直させた瞬間、小刀を抜き、回復魔法で瞬間治療し、全体の怪我も癒した。

「これで全身けがを治しましたね。ど、どうかしましたか?」
「いや、今脇腹に何か激痛が。刺されたような・・・」
「ど、どれですか!?特に何もないようですが・・・」
「え?でも」
「もしかすると何か破片が刺さっていたのかもしれません。そこに私が抱き着いて・・・申し訳ありません!怪我はないとはいえ私なんてことを・・・!」
「え・・・まぁ・・・そうか。ありがとうな!マリー!後でたっぷり可愛がってあげるからな」
「わぁ!嬉しいですぅ!」
 甘ったるい声を上げ、媚びる私。これをもって準備は終了。馬鹿はまんまと騙された。


 翌日。

 私達は帰路の途中、とある村の小屋に立ち寄り、宿泊をした。
 私は皆に飲み物を差し入れ、調子が悪そうな勇者にまとわりついていた。魔王討伐は終わったのに演技をし続ける私を訝しげな眼でみんなは見ていた。
 それからしばらく後、皆はふかーい眠りについた。皆に入れた睡眠薬の効果である。

 さて、それでは始めましょうか?

 この村は夜全くと言っていいほど、人気が無い。まさに好条件である。
 回復魔法の亜種である筋力強化の魔法を使い、勇者を担ぎ、少し離れた場所、死角に近い場所に勇者を放り投げ、小刀で勇者を刺した。
「いぎぃぃ!?な、何だ・・・体が動かな・・・ね、ねぇ、マリーどうしたんだい?怖い顔をして?ここは一体?」
 痛みで悲鳴と共に飛び起きる勇者。この状況下でまだ現状がわかっていない様子。本当に馬鹿。分っていてもまぁ、何もできないでしょうけど。

 勇者に仕込んだのはミレイ直伝の“勇者殺し”の毒である。
 遅行性の猛毒デスベラドンナを感染させ1日かけ全身に巡らせた後、即効性のある毒を合わせることで、半日以上魔力回路を麻痺させ、全身の自由を奪い、一時的にスキルや加護を失わせる効能がある合成毒。毒を混ぜて一度に、では意味がない。1日かけて感染させた後でないと効果が無いのだ。
 そう、魔王を倒したとき私はデスベラドンナをたっぷり塗った刀で勇者を刺し感染させ、1日たって馴染んだ今即効性の毒“トリスパラライズ”を感染させ、合成毒を完成させた。
 これに感染すれば半日程、人である以上勇者であっても指一本満足に動かせず、一切の加護を失った一般人と化す。故にこの合成毒の名は“勇者殺し”と言われている。

「むぐぅぅぅぅっぅ!?」
 まずは大声を出さないように勇者の口に布をおしこんで声を封じる。

 私はみんなに嘘をついた。
 国王陛下に勇者を強制送還できる力があると。
 実際にあるかもしれないが、私は知らない。ただ、皆が信じてくれるような嘘をついただけ。


 初めから私は勇者を穏当に済ませるつもりなどなかった。

 絶望し、自ら死した明るく元気なモモ。

 諦観し、全てを捨てた優しく温和なメルンさん。

 抵抗し、全てを絞り切った愛する妹のミレイ。

 失望し、無理やり真っ当な人生の道を外された恋人のナイル。

 罪もないのに歪んだ人生を歩まされた子供達。

 幸せに暮らすはずだった大勢の女性。その伴侶。
 大勢の幸福と希望を奪い人生を狂わせたこの男は私の手で方をつけるつもりだったのだ。

 まだ、クズ勇者はこの時代では何もしていない。だから復讐というのは筋違いと言われたらそのとおりだろう。
 でも、あの数十年を生き、多くの物を奪われ、失ったものを見続けた私にとっては「そうですね」と二つ返事で許せるものではない。だからこれは私の我儘。私だけの罰。
 だからこそ、皆をこの私的な復讐だけには巻き込むつもりはなかった。クズとはいえ殺人という片棒を背負わせたくなかった・・・って笑っちゃうわね。皆に一切本当のことを告げず、あんな色情狂みたいな真似させて苦しめて、みんなのためだなんて。

「だけどまぁ、最短で成功してよかったわ」
 そう、皆に秘密の勇者暗殺プランはすでにいくつも練っていた。今回はこれがうまくいったものの、うまくいかなくても他のプランで勇者を始末するつもりだった。

 まず、私は勇者の指の骨を折る。
 私は折る折る折る折る。十指を折ったら回復魔法で治す。そして繰り返す。
「むぐぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉぉっぉぉぉ!!」
 くぐもった悲鳴をあげる勇者。まだこの程度で音を上げないでくださいな。

 泣いて首を振る勇者。私は無視して次にナイフを使う。
 私は斬る削ぐ刺す抉る剥ぐ。そして回復魔法で治す。そして繰り返す。
「ぎぃぃぃぃっぃぅぅぅぅぅぉぉぉぉぉぉ!!」
 くぐもった悲鳴をあげる勇者。まだまだこの程度で音を上げないでくださいな。

 涙目で訴える勇者。私は無視して次に鈍器を使う。
 私は潰す砕く壊す破壊する。そして回復魔法で治す。そして繰り返す。
「むぉぉぉぉぉぉぉうぉっぉぉぉっいぉぉぉ!!」
 くぐもった悲鳴をあげる勇者。まだまだまだこの程度で音を上げないでくださいな。

 勇者は気絶した。私は無視して痛みで起こす。
 そして回復魔法で治す。そして破壊と再生をまた繰り返す。
「あぁぁあ・・・・・ヴァヴェデェェェェ」
 くぐもった悲鳴をあげる勇者。まだです。この程度で音を上げないでくださいな。私は魔力ポーションをグイッと飲み干した。



・・
・・・
・・・・
・・・・・・

 夜が明けるころ。気が付いたら死んだ目で全身から体液を垂れ流し壊れた勇者がいた。身体は一見無事だが、限界まで苦痛を味わい、すでに心身の衰弱は回復できないところまで来ていた。
 もう十分かな。何枚目になるか唾液でべっちょりな口の布をとると、目に少し光が戻り、あうあうと麻痺した口で哀願と命乞いと何でこんなことをするのかかすれ声で問う勇者。
「今の貴方に言っても意味ないことだけど・・・未来の貴方を恨みなさい」
「ふわぁぁぁぁ?」
 最後にそういうと、ナイフをきょとんとした勇者の胸に刺しこんだ。致命傷だけどすぐには死なない。つまりあと数分は苦しむ場所に刺した。万一生き延びてもナイフの塗ってある毒で数分後には死ぬ。衰弱した勇者は必死に何度も何度も助けを求め、訴え・・・こと切れた。

「ははは・・・やったわ・・・みんな・・・やったわ!やったのよ!」
 あははははは、そう!やったわ!私は復讐を成し遂げたのよ!
 勇者が完全に沈黙した後、私は即興の喜びの歌を歌いながら勇者の骸を放って、適当な草むらに行くと、大の字になって寝転んだ。何気に思っている以上に魔力も体力ももう限界だったが、長年の重荷が消えた感覚と、例えようもない解放感が私を包む。

 さて、これからどうしようかなぁ?
 ミレイの必死の覚悟と命がつなげてくれた第二の人生。きっとミレイは恋人のナイルと共に仲睦まじく歩むこと、もしくは人並みの幸せな暮らしを望んでいただろう。
 だが、今の私は仲間に殺人という重荷だけは背負わせたくないという自己弁護をする反面、私的な復讐のために、仲間を信用せず、一言の相談も告白もなく、利用し、復讐の舞台をつくらせ、“まだ”何もしていない男を“未来でひどい目にも合わせたからと”嬉々として拷問し、殺した身勝手な女なのだ。
 つまり、妹の命を賭けて作った幸せになれる機会を無視して、仲間を利用し、騙し、実質何もしていない男を憂さ晴らしで喜んで痛め付けて、殺人という大罪を犯しても罪悪感を覚えず、みんなのためでしたとぬけぬけと責任転嫁な言い訳をする女。それが今の私である。
 いつからこんな女になったのか?きっと、あの時、洗脳から目が覚めた時の狂乱時から私はもう歪んでいたのかもしれない。
 
 しかし、復讐を成し遂げれば全てがなんというか「うまく元に戻る」かと思っていたが、そんなことはなかった。他の人は知らないが、私に限っては、復讐を終えた後は一時の満足とその後の空虚な気分。そして元通りにならず、なんだろう魂?運命?心?ナニカが歪んで、汚れたなという自覚だけがあった。
 少なくとも、かつてナイルが愛した「癒しの力で困った人々のために尽くしたい」と純情な夢を抱いていた、あの時のマリアンヌという女にはもう戻れないことは確かだ。
 まぁ、私はもうこんなだが、他のみんなはこれから正しい真っ当な人生を歩む。歩んで行ける!うん、少なくともそれがわかるだけでも問題はない。こんな私のこれからの人生はゆっくり考えよう。

 だから、今は少しばかり休憩してもいい・・ですよね?
 私はかつてない睡魔を感じて、意識を急速におとしていきました。
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