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魔王城、駅から徒歩3分。勇者パーティの襲撃を受けました

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 かつて似ポーン国の一部であった彩タマと呼ばれる地域は現在、最タマと名を改めた独立国となっている。
 物語の舞台はこの最タマの首都・大ミャーと呼ばれる大都市。駅から徒歩3分、南向きで日当たりのいい駅前の高層ビルの三階――そこに存在する魔王城だ。
 魔王はパソコンに向かい仕事をしていると見せかけておいて、MMORPGで遊んでいるところであった。部下が開発したゲーミングチェアの座り心地チェックの名目でのサボりである。

 そして今日の魔王城には久しぶりに顧客や取引先ではない来客があった。勇者パーティである。
 左から順に魔導士タマ(ハチワレ)、勇者ミケ(キジトラ)、そして格闘家のポチ(サビ)だ。三匹が付けている首輪に付属していた迷子札に書いてあったので間違いない。今は何処から来たのかを確認するために魔王自らが迷子札の電話番号に連絡しているところだ。

「いつもお世話になっております。魔王です。本日は勇者パーティの件でお電話させていただきましたが、お時間よろしいでしょうか? はい。……はい。……そうですか。はい。ありがとうございます。……はい。わかりました。恐れ入りますが、お戻りになるお時間を教えて頂けますか? はい、……はい。失礼いたします」

 今時では珍しい黒電話という骨董品で連絡を入れた先はどこだろうと、側近であるブッチョは魔王の手元に置いてあるメモ帳を覗きみる。
 ニャンだふぉう王国――かつては似ポーン国を名乗っていた人間の国だ。現在では世界有数のモフモフ国家である。数年前にヌ=コという種族が占領した人間の国で、名産品は黄金のマタタビ茶だ。冬になると『ナベ』という変わった形状のベッドで眠るニャンモナイトという生物を見ることができる。

「今回の勇者パーティはヌ=コですか。数多の人間が殺されたと伝えられる、とても危険な相手ですね」
「うむ。意思の疎通が出来ぬから本当に勇者なのか判らなかったが、間違いなく勇者なら手加減はしない。いくぞー!」

 挨拶がわりに魔王はお得意の鞭攻撃を仕掛ける。これは当たると凄く痛い。しかもひゅんひゅんという音が怖い。そして当たると痛い。

 しかし勇者パーティは軽やかに魔王の攻撃をかわすと、小さな体で勢いよく飛び掛かる。魔王のわりかしフツメンな顔に格闘家ポチの攻撃による見事な引っ掻き傷がつく。
 格闘家に逃げられた魔王は弱そうな魔導士タマを捕まえようとするが、タマは魔法『抱っこ嫌です引っ掻くぞブレイジングネコパンチ』を発動させたようだ。頭上に技名がテロップで出ているので魔王にもよく解る。ものすごい勢いで繰り出されるネコパンチが魔王を襲う。

 そして勇者タマは窓辺で日向ぼっこを開始した。今日は天気が良いので絶好の昼寝日和なのである。窓辺には魔王城の看板商品である『魔王を駄目にするソファー』を置いてあるのだが、勇者ミケは当たり前のようにそれを占領した。

「我の玉座をかえせ~!」

 勇者に占領されてしまった魔王を駄目にするソファー改め魔王の玉座は既に毛だらけだ。カバーが黒っぽい色なので抜け毛が良く見える。勇者の横暴に気が付いた魔王の側近であるブッチョは納戸に粘着カーペットクリーナーを探しに行った。

 魔王は勇者を玉座から追い払おうとするが、触ろうとすると牙をむき出しにして威嚇してくるので恐ろしくて手が出せずじまいである。

「おのれヌ=コ。何と恐ろしい!」

 魔王は昔からヌ=コが恐ろしくて仕方がなかった。
 大きな目を持っているくせに口は小さく、身体に比べて頭が大きい。このサイズ感で人間を惑わし、腰抜けにさせたと伝承には残っている。今や人間たちはヌ=コに奉仕するためだけに生きている。
 そこへ追い打ちをかけるかのように『にゃー』という殺人級の鳴き声による洗脳攻撃が加わると成すすべがない。人間たちの国は度重なるこの卑劣な攻撃によってヌ=コに支配されてしまったのだ。
 最終奥義と言い伝えられる伝説の必殺技『ゴロゴロ』なんて食らえば、流石の魔王でも耐えきれないだろう。

「ぐおおぉぉぉぉぉ! 我はイッ=ヌ派だあぁぁぁぁっ!」

 魔王は持ち前の精神力で勇者の『にゃー』攻撃を耐えた。耐えようとした。

「にゃ~ん?」

 勇者ミケは自分の外見に余程自信があるのか良い感じの角度で小首をかしげると、ぱっちりと開いた眼で上目遣いに魔王に攻撃を仕掛けてくる。

「ぐふっ……!」

 さすがの魔王も『にゃー』や『ごろごろ』は知っていたので警戒していた。それなりに耐性もあったはずだ。しかし『にゃ~ん』などと言う魅了チャームの術を持っているなど知りもしなかった。結果は防御する暇さえなく陥落することとなった。

 こうして一つの商業ビルに入るテナントがヌ=コの手に堕ちた。今までは魔王城を名乗っていた家具店は業態を変えることになるのであった。


*あとがき*
お前撫でるの下手くそかトルネードネコキック』とかも使いたかった。
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