恋人が天使すぎて大変です

喧嘩 ２

「え？優の気持ち？」
　春樹が眉を寄せる。
「優、ちゃんと言ってくれないと分かんないよ。」
　優が顔を上げた。その目には、今まで見たことがないような感情が宿っていた。
「⋯⋯春樹は、彰にばっかり⋯⋯。彰の肩に触って、彰と笑って⋯⋯。」
　優の声が震えている。
「僕のこと、彰に話して⋯⋯楽しそうで⋯⋯。」
「え⋯⋯それって⋯⋯。」
　春樹が言葉に詰まる。
「春樹は⋯⋯僕より、彰といる方が⋯⋯楽しいの？」
　優の声が、いつもより大きい。
「そんなわけないじゃん！俺は優が一番好きだよ！」
「⋯⋯じゃあ、どうして。」
「だって彰は親友だもん。心配するの当たり前じゃん。優だってわかるでしょ？」
　優が首を横に振った。
「⋯⋯わかんない。春樹には、僕の気持ちは一生わからないよ。」
　優の声が教室に響いた。いつもの小さな声じゃない。優にしては大きな声だった。
　教室が静まり返った。何人かの生徒が二人を見ている。
　春樹が何か言おうとして、口を開けたまま固まった。
「⋯⋯もういい。帰る。」
　優がカバンを掴んで教室を出ていく。
「優、待って⋯⋯！」
　春樹が優を追いかけようとしたが、優は振り返らなかった。
　春樹は教室の入り口で立ち止まった。その背中が、どこか小さく見えた。
　俺は溜息をついた。
　まさか、あの二人が本気で喧嘩するなんて。いつもはただのいちゃいちゃのための痴話喧嘩みたいなものだったのに。
　今日のは、違った。本当の喧嘩だった。
　春樹がゆっくりと自分の席に戻ってくる。
「⋯⋯彰、俺⋯⋯。」
「春樹、お前⋯⋯優の気持ち、本当にわかってなかったのか？」
　春樹は答えなかった。ただ、自分の机に突っ伏した。
　俺は何も言えなかった。
　優が嫉妬していたこと。春樹がそれに気づかなかったこと。
　そして、俺がその原因の一部だったこと。
　どうすればいいんだ、これ……。