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2、会うことの出来ない婚約者
「せっかく来てくれたのに、嫌な思いをさせてすまない」
アレン様は申し訳なさそうに、眉を下げながら深いため息をついた。
「私は平気です。デイビッド様は、義妹が出来たのが嬉しかったのですね。私は大丈夫ですので、あまり喧嘩しないでくださいね。それでは、私も失礼します」
「エリー、送って行くよ」
「お気遣い、感謝いたします。ですが、大丈夫です」
アレン様に笑顔を向けてから、邸をあとにした。
「こんなのおかしいです!」
邸にお邪魔している間ずっと黙っていたジョアンナは、馬車が出発すると怒りをあらわにした。ジョアンナは子爵令嬢だが、今は私の侍女。使用人が口を挟むことは許されないと、我慢していたようだ。
「ごめんね、ジョアンナ。せっかく用意してくれたプレゼントを、あんな風に言われてしまって……」
大好きなジョアンナが、私の為に選んでくれた香水なのに、あんな言い方をされ、怒りが込み上げてくる。
「謝らなければならないのは、私の方です。私が香水を贈ってしまったから、エリアーナ様が酷いことを言われてしまいました」
「謝罪に行くのに、昼にはつけていなかった香水をつけてしまった私の考えが足らなかっただけよ。あなたは悪くない。ジョアンナがくれたこの香水は、私の宝物よ」
私が浅はかだったせいで、ジョアンナにも嫌な思いをさせてしまった。
「エリアーナ様は、何時だって他の誰かのことを考えていらっしゃいます。デイビッド様はエリアーナ様のことを分かっいるはずなのに、どうしてしまわれたのでしょう……」
ジョアンナが褒めるほどの性格ではないけれど、今日のデイビッド様の様子が変だったことは、私も感じている。いくら義妹が出来て嬉しいからといっても、キルスティン様しか見えていないみたいだった。私の誕生日を忘れるような人では、なかったのに……。
邸に戻ると、アレン様のプレゼントが届いていた。プレゼントは、絵本だった。幼い頃に、大好きだった絵本。
アレン様とお会いしたのは久しぶりだったけれど、毎年誕生日にはプレゼントが送られて来た。私の好きな曲のオルゴールや、可愛らしい宝石箱や、リラックス効果のあるお茶など、いつも楽しみにしていた。
デイビッド様のプレゼントは、宝石やドレスや靴で、高価なものばかり。高価なプレゼントしかしてこなかった彼に、あのようなことを言われるとは思わなかった。
その日から、デイビッド様はキルスティン様とばかり過ごすようになった。約束は次々とキャンセルされ、誕生日から一ヶ月が経ったが、あれから一度もお会いできていない。手紙を送っても、返事は返って来ない。彼からの連絡は、約束をキャンセルする時だけで、使用人からの伝言だけだった。
婚約者だというのに、最近の彼のことは噂でしか知らない。
先日、誕生日の日に予約していたレストランで、二人は仲良く食事をしていたそうだ。お肉は苦手だと言っていたのは、何だったのか……。
「ジョアンナ、私はどうしたらいい?」
手紙を出しても無視をされ、会う約束はキャンセルされ、邸に会いに行ってもいつも外出している。他の人から彼の近況を聞かなければ分からないなんて、本当に私は婚約者なのだろうか。
「夜会に出席されてはいかがですか?」
「夜会……ね」
十六歳で社交界デビューしてから、公式な場にはデイビッド様と共に出席したことしかなかった。私はそんなに社交的な性格ではないから、デイビッド様がそばに居てくれると安心した。
このままでは、彼と話すことも会うことも出来ないまま月日だけが過ぎていく。私ももう十八歳、いつかはブラットレイ侯爵家を継がなければならないのだから、夜会くらい一人で出席しようと決めた。
二週間後、ベルーナ伯爵邸で夜会が開かれる。ベルーナ伯爵家の長男である、レイモンド様とデイビッド様は親しい友人だから、彼も出席するだろう。
クローゼットを開けると、並んでいるドレスはシンプルな物と派手な物の差が激しい。私の好みは、シンプルな方だ。
夜会やお茶会の度に、デイビッド様が贈ってくださった物が派手な方。今回は、シンプルなドレスにしようと思う。
夜会までの二週間、相変わらずデイビッド様とは連絡が取れなかったが、噂だけは聞こえてくる。キルスティン様と一緒に居るところを、何度も目撃されているようだ。デイビッド様が婚約者を蔑ろにし、浮気をしているのではという噂も流れ始めていた。
お父様は今、隣国の友人の結婚式に出かけている。このことをお父様が知ったら、シードル侯爵家との関係が悪くなるかもしれない。お父様が帰って来るのは、あと一ヶ月くらい先だろう。それまでには、自分で何とかしなければならない。
「やはり、エリアーナ様にはシンプルなデザインのドレスの方がお似合いです!」
薄いピンク色のドレスに、小さな宝石のネックレス、青みがかった銀色の髪はアップにし、金の髪留めでとめている。
「ジョアンナのメイクが上手いからよ」
鏡越しにジョアンナの顔を見ると、キラキラした目で私のことを見ていた。
「エリアーナ様は、とてもお綺麗です。青く透き通った目は大きく、鼻筋が通っていて、白い肌に形のいい唇。派手なドレスでは、エリアーナ様の美しさが際立ちません」
自分が綺麗だという認識はなかった。正直、私よりもジョアンナの方が可愛いと思っている。なぜ婚約者が見つからないのか、不思議なくらいだった。
「ありがとう、ジョアンナ。ジョアンナのおかげで、勇気が出たわ。最後の仕上げは、ジョアンナからもらった香水ね」
「エリアーナ様、それは……」
「これは、私の宝物だと言ったはずよ。また文句を言われたら、頬をひっぱたいてやるわ!」
香水をつける私を、ジョアンナは困った顔をしながら見つめていたが、これだけは譲れなかった。
夜会が開かれるベルーナ伯爵邸までは、馬車で二時間半程。支度を終えた私達は、馬車に乗り込み出発した。
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