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6、記憶を失ったデイビッド様
シードル侯爵邸へと、急いでデイビッド様を運び、医者に診てもらった。その間、ジョアンナが私の手を手当てしてくれた。
「湖から落ちた時に、桟橋で頭を打ったようです。記憶がないのは、頭を打ったことが原因だと考えられます。幸い、頭の傷は大したことがないようですが、記憶の方がいつ戻るかは……」
一度は呼吸が止まってしまったのだから、命が助かっただけでも感謝すべきなのかもしれない。
「どうして、デイビッドがこんなことに……」
顔を両手で覆いながら、悲しむフリをするローレル夫人。夫人を見ていたら、キルスティン様にそっくりだと思った。涙なんて、一滴も流していないところを見ると、キルスティン様の方が演技派かもしれない。
「本当に、何も覚えていないのか? 私は、お前の父だ。お前の兄であるグレイとアレン、お前の婚約者のエリアーナ。何か、覚えていることはないのか?」
シードル侯爵が、何か覚えていることはないのか尋ねても、デイビッド様は首を横に振る。父親のことも、兄弟のことも忘れてしまっただけでなく、自分の名前さえ覚えていないようだ。
「エリアーナ様のせいです!! エリアーナ様が、私とデイビッド様を湖に落として殺そうとしたのです!!」
キルスティンは、どうしても私のせいにしたいようだ。デイビッド様が記憶を失った今、あの男性が叫んでいた内容を知っているのは私だけだった。
アレン様は、私がシードル侯爵と会う約束をしていることを知り、邸に会いに来てくれたそうだ。使用人に、私があの湖に居ることを聞いて後を追って来てくれた。その時、私達が襲われているところを見て、助けようと駆け付けてくれた。ジョアンナとトロイは、アレン様の私の呼ぶ声を聞いて、何かあったのではと駆け付けてくれたそうだ。つまり、アレン様もジョアンナもトロイも、あの男性の言っていたことを聞いていないのだ。
「いい加減にしろ。あの状況で、なぜエリーが男の一番近くに居たのだ? 桟橋は、二メートル程の幅があった。それなのに、横に広がるならまだしも、縦に並んでいた。エリーが二人を庇ったのか、もしくはエリーを盾にしたかのどちらかだ」
静かに話してはいるけれど、アレン様の声は怒りに震えている。あんな一瞬で、そこまで理解してくれたことに感謝しかない。あの時、私は死ぬのだと諦めていた。アレン様の声が聞こえて、死にたくないと心の底から思えた。
「わ、私のことを、デイビッドお義兄様が庇ってくださって……」
援護して欲しいのか、ローレル夫人をちらちらと見ながら話す。ローレル夫人は、我関せずでただ傍観しているだけだった。
「もういい、皆出なさい。デイビッドを、休ませてやろう」
シードル侯爵は、デイビッド様を心配そうに見つめた後、部屋を出た。私達も、侯爵に続いて部屋を出ると、リビングに向かった。
こんなことになってしまったけれど、私はデイビッド様と婚約を解消したいとおじ様に話すつもりだ。タイミングがよくないのは分かっているけれど、覚えていなくてもデイビッド様にはハッキリ告げてあるのだから、早い方がいいと思った。
「おじ様、お話があります」
ソファーに座り、頭を抱えたまま、おじ様は「何だ?」と返事をした。向かいのソファーに腰を下ろし、深呼吸をして心を落ち着かせてから口を開いた。
「襲われる前、私はデイビッド様に、お別れしましょうと伝えました。明日、おじ様にお会いしてお話したかったのは、婚約を解消したいというお話です。私は、デイビッド様とは結婚出来ません」
おじ様はスっと立ち上がり、私の目の前まで来ると、私の手を握りしめて跪いた。
「おじ様!?」
驚いて立ち上がろうとしたけれど、怪我をしていない方の手をおじ様がをギュッと掴んで立ち上がることを許してくれない。
「エリアーナ……すまない! 頼むからもう少しだけ、もう少しだけ待ってくれないか!? デイビッドは、君を愛している! あいつが、記憶を取り戻す為には、君が必要なんだ!! 頼む!!」
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