10 / 13
10、あのレストランで
デイビッド様を呼び出した場所は、誕生日の日に行くはずだったあのレストランだ。
「デイビッド様、こちらです!」
他の席には誰も座ってはいないのだけれど、デイビッド様が姿を現した瞬間、笑顔で手を振りながら居場所をアピールした。
この席は、デイビッド様とキルスティン様が食事をしていた席だ。
「エリアーナから誘ってくれるなんて、嬉しいよ! それにしても、この店は客がいないね」
嬉しそうに椅子に座ると、辺りを見渡しながらそう言う。
「そうですね。静かで、いいじゃないですか」
このお店は、貸し切りにしてある。それを、デイビッド様に伝えるつもりはないし、二人きりで過ごすつもりもない。
「そうだな、乾杯しよう」
飲み物を頼んで乾杯をすると、幸せそうな顔でこちらを見ていた。
その時、店の入口のドアが開き、シルバ様とレイモンド様が入って来た。
「デイビッド? 奇遇だな」
シルバ様がそう声をかけると、デイビッド様が不思議そうに首を傾げる。そんなデイビッド様の様子を無視して、シルバ様は私達が座る席の隣の席に座った。
「俺達は、この席でいい」
二人を席へ案内しようとした店員さんは、「かしこまりました」と丁寧に頭を下げて、メニューを置いていった。
「二人の邪魔になるだろ。他の席に移ろう」
レイモンド様が慌てた様子で、シルバ様の腕を掴んで他の席に移動しようとしたところで、
「私達は、構いません。ねえ、デイビッド様?」
「あ、ああ、そうだな」
私達が了承したことで、レイモンド様は渋々隣の席に腰を下ろす。
シルバ様には、今日このレストランに来て欲しいと手紙を出していた。レイモンド様は、そのことを知らない。レイモンド様の様子から、デイビッド様が記憶喪失だと知っているようだ。おじ様は、誰にも知られないようにして来たと言っていた。それなのに、レイモンド様が知っているということは、デイビッド様が話したか手紙をもらったかだろう。それを、シルバ様には話していない。この時点で、答えはもう出ている。
デイビッド様は、記憶喪失などではない。
気まずい空気が流れる中、料理が運ばれて来た。
「わあ! 美味しそうですね! 誕生日に食べ損なったので、今日はたくさん食べてしまいそうです!」
あの誕生日の一件以来、大好きだったこのレストランに来ることが出来なかった。たくさん食べてしまいそうなのは、本心だ。
「今日は、二人だけなのか? 最近、デイビッドといつも一緒にいたうるさい女はどうした?」
レストランの入口のドアが開いたのを確認してから、シルバ様がデイビッド様に話しかけた。
「うるさい女……? ああ、キルスティンのことか。二度と会うつもりはないよ」
おじ様から、絶対に他の人には記憶を失ったことを話すなと言われている。つまり今、デイビッド様は、記憶があるフリをしていることになる。なんだか不思議な状況で、思わず吹き出してしまいそうになるのを必死に堪える。
「あんなに仲が良さそうだったのに、何があったんだ?」
シルバ様は、キルスティン様の悪口を引き出そうとしてくれている。
「あいつは、そもそも義母の娘というだけで、なんの関係もないからな。あの性格悪そうな顔を見ただけで、吐き気がする」
少し聞いただけで、かなりの悪口を言えてしまう彼。私のことも、そんなに風に悪口を言っていたのだろうと想像がつく。
「なんですって!? 私の美しい顔を見て、吐き気がするなんて頭がおかしいんじゃない!?」
先程お店に入って来たのは、キルスティン様だった。彼女がお店に入って来たのを確認来てから、シルバ様はわざとデイビッド様に話をさせていた。キルスティン様にも、このレストランに来るように手紙を出していたのだ。
店員さんは、「困ります……」と、控えめに言いながら全く止めるつもりはない。店員さんにも、協力してもらっている。
「お前……なんで、ここに居るんだ!?」
やっぱり、彼の本心を引き出すためには彼女は必要だ。
あなたにおすすめの小説
さようなら、もと婚約者さん~失踪したあなたと残された私達。私達のことを思うなら死んでくれる?~
うめまつ
恋愛
結婚して三年。今頃、六年前に失踪したもと婚約者が現れた。
※完結です。
※住む世界の価値観が違った男女の話。
※夢を追うって聞こえはいいけど後始末ちゃんとしてってほしいと思う。スカッとな盛り上がりはなく後読感はが良しと言えないですね。でもネクラな空気感を味わいたい時には向いてる作品。
※お気に入り、栞ありがとうございます(*´∀`*)
私と婚約破棄して妹と婚約!? ……そうですか。やって御覧なさい。後悔しても遅いわよ?
百谷シカ
恋愛
地味顔の私じゃなくて、可愛い顔の妹を選んだ伯爵。
だけど私は知っている。妹と結婚したって、不幸になるしかないって事を……
〖完結〗旦那様はどうしようもないですね。
藍川みいな
恋愛
愛人を作り、メイドにまで手を出す旦那様。
我慢の限界を迎えた時、旦那様から離婚だ! 出て行け! と言われました。
この邸はお父様のものですが?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全3話で完結になります。
ミュリエル・ブランシャールはそれでも彼を愛していた
玉菜きゃべつ
恋愛
確かに愛し合っていた筈なのに、彼は学園を卒業してから私に冷たく当たるようになった。
なんでも、学園で私の悪行が噂されているのだという。勿論心当たりなど無い。 噂などを頭から信じ込むような人では無かったのに、何が彼を変えてしまったのだろう。 私を愛さない人なんか、嫌いになれたら良いのに。何度そう思っても、彼を愛することを辞められなかった。 ある時、遂に彼に婚約解消を迫られた私は、愛する彼に強く抵抗することも出来ずに言われるがまま書類に署名してしまう。私は貴方を愛することを辞められない。でも、もうこの苦しみには耐えられない。 なら、貴方が私の世界からいなくなればいい。◆全6話
最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる
椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。
その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。
──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。
全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。
だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。
「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」
その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。
裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。
婚約者の愛した人が聖女ではないと、私は知っています
天宮有
恋愛
私アイラは、3人いる聖女候補の1人だった。
数ヶ月後の儀式を経て聖女が決まるようで、婚約者ルグドは聖女候補のシェムが好きになったと話す。
シェムは間違いなく自分が聖女になると確信して、ルグドも同じ考えのようだ。
そして数日後、儀式の前に私は「アイラ様が聖女です」と報告を受けていた。
妹のように思っているからといって、それは彼女のことを優先する理由にはなりませんよね?
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルリアは、婚約者の行動に辟易としていた。
彼は実の妹がいるにも関わらず、他家のある令嬢を心の妹として、その人物のことばかりを優先していたのだ。
その異常な行動に、アルリアは彼との婚約を破棄することを決めた。
いつでも心の妹を優先する彼と婚約しても、家の利益にならないと考えたのだ。
それを伝えると、婚約者は怒り始めた。あくまでも妹のように思っているだけで、男女の関係ではないというのだ。
「妹のように思っているからといって、それは彼女のことを優先する理由にはなりませんよね?」
アルリアはそう言って、婚約者と別れた。
そしてその後、婚約者はその歪な関係の報いを受けることになった。彼と心の妹との間には、様々な思惑が隠れていたのだ。
※登場人物の名前を途中から間違えていました。メレティアではなく、レメティアが正しい名前です。混乱させてしまい、誠に申し訳ありません。(2024/08/10)
※登場人物の名前を途中から間違えていました。モルダン子爵ではなく、ボルダン子爵が正しい名前です。混乱させてしまい、誠に申し訳ありません。(2024/08/14)